心身症とは、「ストレスで生じる身体の病気」のことです。
・ストレスで生じた胃潰瘍
・ストレスで生じた頭痛
・ストレスで生じた下痢・腹痛
・ストレスで生じた喘息の悪化
など、これらは全て心身症に該当します。
心身症は、その原因は「こころ」にありますが、症状は「身体」に出ます。そのため、こころと身体の両方に対して治療をする必要があります。
症状だけにとらわれ、身体の治療しかしなければすぐに再発してしまいます。反対にこころの治療しかしなければ、すぐに治療効果が出ないため、患者さんに長期間の苦痛を強いることになり、不安増悪につながってしまいます。
そのため心身症の治療は、身体とこころのどちらも診ることができる医師が行うか、精神科医と内科医が共同で治療することが理想的です。
心身症を治すためには、どのような治療法があるのでしょうか。今日は心身症の治療について紹介します。
目次
心身症治療その1.まずはストレスを減らすこと
心身症は、「ストレスで生じる身体の病気」です。
症状は身体に出ますが、それはあくまで表面的なものであり、原因は「こころ」にあることを忘れてはいけません。表面的な症状だけにとらわれるのではなく、ストレスに焦点を当て、その軽減をはかるのが一番大切な治療となります。
明らかに過度なストレスがかかっている場合は、まずはそのストレスをどうにかしないといけません。ストレスが発症の原因なのに、それを放置して治そうと言うのは無理があります。心身症は、ストレスを対処しなければ改善するはずがありません。
しかし、「ストレスを何とかして減らしましょう」とアドバイスすると、
「仕事量の多さが原因なのは分かってますが、減らすことは無理です」
「親との関係が原因ですが、どうすることもできません」
と、ストレスの原因について「変えることは不可能だ」という回答を頂くことがあります。確かにストレス因子は簡単に除去することはできません。できないからこそ、心身症を発症してしまっているのです。
仕事は生活がかかってますから簡単に辞めることはできません、親などの人間関係も相手あってのことですから、自分の努力だけではどうもならないことが多々あります。しかし、そうだとしても少しでも楽になるようにストレス軽減を試みるのはとても大事なことです。
ここで誤解してはいけないのが、ストレスを0にするのが目的ではないということです。
目的はストレスを「減らす」ことです。
ストレスは生きていれば必ずあります。これを0にすることは生きている限り不可能です。そうではなくて、症状が出なくなる程度までストレスを減らすことができればそれで良いのです。
例えば仕事の忙しさが原因なのであれば、仕事を辞めるのではなく、職場の上司や産業医に相談して少しでも負荷軽減できないか相談してみることです。少しでも業務量が減れば、ストレスは多少でも減ります。また、相談することで職場に今の自分の状態を理解してもらえたという安心感が得られ、それで症状が改善することだってあります。
親との関係などは、症状が落ち着くまでは一時的に距離を取ってみるのも有効な方法です。絶縁状態にしてしまうとかえって険悪になる可能性もあるため、最低限の接触にとどめるなどでも良いでしょう。これだけでもストレスは減るはずです。コミュニケーション手段も口論にならないように口頭や電話で話すのではなく、手紙やメールでやり取りをするなども有効でしょう。
ストレスをどう減らせばいいのか思いつかない場合は、家族や上司や同僚、主治医など、第三者の意見を聞いてみることも大事です。周りの人の方が、「あなたはもっとこうしたら楽になるのに」ということに気づいている場合があります。
過度な仕事量で心身症を発症してしまった患者さんがいました。プライドが高い方で、「仕事量を減らしてなんて、そんな情けないこと絶対に言えませんよ・・・」と自分で決めつけていたのですが、「これだけの仕事を押し付けられればストレスなのは当然。職場に相談すべき」と説得を続け、何とか了承してもらったことがあります。
主治医から産業医に相談し、産業医から上司に言ってみるとすんなり業務量を減らせました。後日、「君がこんなに仕事を抱え込んでいたなんて気付かなかった。言ってくれて助かった」と上司からも感謝され、「先生に指摘してもらって良かった」と患者さんからも感謝されたケースもありました。
ストレスが過度にかかっている時はただでさえ正しい判断がしにくくなっているものです。「ストレスを減らす方法なんて無いよ」と決めつけず、周囲の意見にも耳を傾けてみましょう。
また、自分では何がストレスなのかが分からないけど、医師から心身症と診断されるというケースもあります。心身症になりやすい患者さんはアレキシサイミア(失感情症)といって、自分の感情に気づくのが苦手な方が多いため、ストレスを受けていてもそれに気づきにくい傾向があるのです。
この場合は、自分はどんなことにストレスを感じやすいのかを知ることも重要です。症状が出やすい状況や場所があれば、それは自分では感じていなかったとしてもストレス因子だということですので、「自分にとってこれはストレスなんだ」と学んでいく必要があります。
心身症治療その2.薬も有効。しかし薬だけでは不十分
心身症の特効薬というものはありません。
心身症の治療において薬は絶対に必要なものではなく、補助的なものに過ぎません。実際は、薬も併用することが多いのが現状ですか、薬を使わないで治療するケースもあります。
薬を使うかどうかは、ストレス軽減の見通しや身体症状の程度、症状の種類などによって主治医が判断します。
使う治療薬は様々ですが、大きく分けると、
- 身体症状に対しての内科薬
- 自律神経を保護するための向精神薬
の2種類があります。
心身症では頭痛、腹痛、胃痛、喘息、じんましんなどなど、様々な身体症状が生じます。その身体症状に応じて、必要があれば内科薬を用いることがあります。
内科薬の一例を挙げると、
- 喘息であれば気管支拡張薬
- 緊張性頭痛であれば筋弛緩薬
- 片頭痛であればトリプタン製剤
- 下痢であれば整腸剤
- 便秘であれば下剤
- 胃潰瘍であれば胃薬
などで、症状に応じた薬を選択します。
例えば、ストレスで胃潰瘍ができてしまった場合、あまりに胃潰瘍がひどいようであれば内科薬として、胃酸の分泌を調整するおくすり(H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬など)や胃粘膜を保護するおくすりを併用します。
これらは確かに胃潰瘍を治してくれます。しかし根本のストレスを解決していないと、またすぐに再発してしまいますので、内科薬でまずは身体症状を治し、続いて原因であるストレスへのアプローチも必要になります。身体症状の改善だけで治療が終わってしまうことがありますが、それでは片手落ちの治療になってしまいます。
また、心身症の症状は自律神経の乱れが原因だと考えられていますので、自律神経の乱れを和らげる目的で抗不安薬などの向精神薬(精神科の薬)を治療に使用することもあります。ただしこれも内科薬と同じで、根本のストレスを解決しないと薬を止めたらすぐに再発してしまいます。
どうしてもストレスの軽減がうまくいかず、長期的に内科薬あるいは向精神薬を服薬するケースもあるのが現状ですが、積極的に推奨される治療法ではありません。
心身症治療その3.精神療法
心身症の原因はストレスですが、ストレスを少なくするには次の二つの方法があります。
- 受けるストレス自体を減らす(例:仕事量を減らす、など)
- ストレスを受け流す、上手に処理できるようにする(例:考え方を変える)
Ⅰ.では「ストレスを減らす」、という治療を紹介しましたが、それと同じくらい「ストレス耐性を身に付ける」「ストレスをうまく処理する考え方を身に付ける」ということも重要です。
特に、元々ストレスに弱い方やちょっとしたストレスですぐに症状が出てしまう方は、Ⅰ.よりもこちらの治療の方が重要です。
ストレスの上手な扱い方を学ぶには、自分で本などを読んでストレス耐性を学んでいくのも一つの方法ですが、やはり医師や臨床心理士などの専門家から精神療法(カウンセリング)を受けた方がよいでしょう。
精神療法では、どうしてストレスに対して弱いのか、どうすればストレスを上手に扱えるようになるのかを治療者との対話の中で考えていきます。考今までの自分を修正していく作業になるため、一朝一夕にはいかず、時間がかかる(3か月~数年ほど)のが難点ですが、考え方を変えれば再発防止になるため長期的に考えるととても有効な治療法です。
人の性格や考え方は短期間では変わりません。人は無意識下で変化を怖がる性質がありますので、考え方や性格を修正しようとしても、上手くやらないとすぐに元の考え方に戻ってしまいます。そのため、自分一人でやると失敗することも非常に多く、専門家の力を借りて、少しずつ地道にやっていくことが成功のポイントです。
心身症治療その4.筋弛緩法(リラクゼーション)
筋弛緩法(リラクゼーション)は自律神経のはたらきを調整し、身体の緊張を取ってくれます。
そのめ、心身症には有効な治療法です。
筋弛緩法、正確には「漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation)」という名称ですが、これは特別な器具も必要なく、10-20分ほどでかんたんに行えるリラックス法です。身体を動かして緊張を取る「運動」になるため、副作用などの心配もありません。
正確なやり方は、専門家の指導を一度受けるべきですが、簡単に説明すると、
- 8割ほどの力で5-10秒ほど力を入れて、
- その後スーッと力を抜き、10秒ほど脱力する
ということ顔、手、足・・・と全身の筋肉に対して順々に行っていく方法です。
力を入れたあとストンと力を抜くことが一番のポイントで、脱力を意識することで筋肉の緊張が取れやすくなります。これを行うと、全身の筋肉の緊張が取れ、自律神経が落ち着きます。
筋弛緩法はやり方を指導してくれる病院・クリニックもありますので、興味のある方は問い合わせてみてください。
心身症治療その5.バイオフィードバック
バイオフィードバックとは、無意識下で行われている生体活動を「意識」することによって、制御できるようにする訓練法です。心身症の頭痛に対して主に用いられている治療法ですが、理論的には全ての心身症の治療に用いることが可能です。
「バイオフィードバック」という専門用語だけではちょっと分かりにくいので、頭痛を例にとって具体的な治療法を説明します。
心身症による頭痛で多いのが筋緊張性頭痛と呼ばれる頭痛で、これはストレスによる自律神経の乱れから、頭部の筋肉が過剰に収縮しまい、頭痛を引き起こしてしまいます。
この頭部の筋肉の収縮は、私たちが意識的に行っているものではなく、自律神経が無意識に行っている現象です。これを筋電図などを用いることて可視化し、頭部の筋収縮を意識できるように訓練します。
他にも例えばストレスで動悸が出る、という方であれば、心電図や脈拍計を用いて心拍を可視化し、心拍数を制御できるように訓練します。
このように無意識下で行われている身体活動を、医療器具等を用いて意識化することで、これらを意識的に制御できるように訓練するのがバイオフィードバックです。もちろん、100%完全にコントロールできるようになるわけではありません。例えば意識的に心拍動を止めれるようになったら大変なことですよね。
しかし、ある程度制御できるようになることは研究で確認されています。ある程度制御できるようになるだけでも症状を軽減させることができますから、これは有効な治療です。
バイオフィードバックは専門的知識・技術を持った治療者の元で行う必要があり、医療器具なども必要になってくるため、治療を行える機関が限られていることが難点です。
まとめ
心身症はストレスが原因であるため、
- 過度にかかっているストレスを軽減すること
- ストレスに対して上手に対処する考え方を身に付けること(精神療法)
が治療の主軸になります。
これらが達成されるまでの間は補助的に内科薬や向精神薬を併用することもあります。
また、
- 自律神経を穏やかにする筋弛緩法(リラクゼーション)
- 無意識の身体活動を制御できるようにするバイオフィードバック
なども有効な治療です。