うつ病の原因のひとつに「ストレス」があります。長い間ストレスを受け続けてうつ病を発症してしまった、というケースは多く経験します。
でも、ストレスでうつ病になるのはどうしてでしょう?
ストレスを浴び続ければ、やる気もなくなるし気持ちも暗くなる。これは経験的には理解できます。でも実際に身体の中ではどのような変化が起こって、うつ病になってしまうのでしょうか。
今日はストレスでうつ病になってしまう仕組みについて、考えてみたいと思います。
1.視床下部ー下垂体ー副腎皮質(HPA)系仮説
ストレスでうつ病に至る機序は明確には解明されていません。
しかし、一つの仮説として「視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系仮説」が提唱されています。
脳の視床下部(Hypothalamus)、同じく脳の下垂体(Pituitary)、そして腎臓の上にある副腎(Adrenal gland)の3つは互いに深く関連しており、「HPA系」と呼ばれています。
ストレスを受けると、視床下部(Hypothalamus)からホルモン(CRHなど)が分泌され、それが下垂体(Pituitary)を刺激します。すると刺激された下垂体からもホルモン(ACTHなど)が出て、副腎(Adrenal gland)を刺激します。刺激された副腎は、コルチゾール、ノルアドレナリンなどの様々なホルモンを分泌し、これらが身体に作用します。
コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれており、血糖・血圧を上げたり、免疫力を低下させたり炎症を抑える働きがあることが知られています。
適度なストレス負荷がかかった時に私たちが頑張れるのは、実はこのストレスホルモンのおかげなのです。
血糖が上がれば脳へ糖分(栄養分)が届きやすくなるし、血圧が上がれば全身へ酸素を送りやすくなります。炎症を抑えてくれることで身体の痛みやつらさを感じにくくなります。
しかし、ストレスが過剰に続いてコルチゾールの分泌量が多くなりすぎると、糖尿病や高血圧になってしまったり、免疫力の低下から感染症などの病気にかかりやすくなってしまいます。
また、HPA系には「フィードバック機構」というものが備わっており、それぞれのホルモンが分泌されすぎないようにお互いがお互いを監視しています。例えばコルチゾールが出すぎるようであれば、視床下部がそれを感知しCRHの分泌を弱めることで、コルチゾールの分泌を減らしてくれます。
正常のHPA系はこのようなはたらきをするのですが、ストレスが過剰にかかった場合、このHPA系のフィードバック機構が壊れてしまうことがあります。
そうなるとフィードバックがかからなくなり、どんどんコルチゾールが分泌されてしまいます。コルチゾールが増えすぎると、先ほど説明した糖尿病、高血圧、感染に弱くなるなどの危険もあるのですが、実はそれ以外にも害があることが指摘されています。
それは中枢神経に対する毒性です。過剰なコルチゾールは脳の神経を破壊してしまうと考えられています。具体的には、脳の海馬という部分の細胞や神経の減少、海馬におけるBDNF(神経由来成長因子)の減少、神経新生の抑制が起きると言われており、これを「海馬神経毒性」と言います。
実際にうつ病患者さんの脳をMRIなどで画像撮影してみると、健常人と比べて有意に海馬が萎縮していることが報告されています。
これがHPA系仮説です。
ストレスでうつ病になってしまうのは、過剰なストレスによってHPA系が破壊されてしまい、ストレスホルモン(コルチゾール)が大量に分泌されることで海馬神経毒性が起こるためではないか、という仮説です。
あくまでも仮説に過ぎませんが、ストレスによるうつ病発症の一因ではあるでしょう。