ワイパックスの副作用【医師が教える抗不安薬のすべて】

ワイパックスは1978年に発売された抗不安薬です。抗不安薬は文字通り、不安感を取るおくすりで、「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれます。

ワイパックスは強い抗不安作用を持ち、患者さんからの評判も良いおくすりです。

その効きの良さから、処方する精神科医も多く、私自身も使う頻度は少なくありません。

不安感に対して強く効いてくれるのは良い事なのですが、効きが良いぶん、若干「クセになりやすい」「依存しやすい」という面もあります。ワイパックスは副作用に気を付けて使用しなければいけません。

ここでは、ワイパックスに認められる副作用やその対処法について紹介していきます。

1.ワイパックスの副作用

ワイパックスは特別に副作用が多いというお薬ではありません。しかし効きがしっかりしているために、つい頼ってしまいやすいお薬であり、依存形成を起こさないように注意が必要です。

ワイパックスはベンゾジアゼピン系というタイプに属するお薬です。ベンゾジアゼピン系はすべて、医師の指示を守らずに長期・大量に服薬を続けていると「耐性形成」「依存性形成」が生じる可能性があります。

耐性とは、そのお薬に徐々n慣れてきてしまい、お薬の効きがだんだんと悪くなってきてしまう事です。依存性とは、そのお薬をを手放せなくなってしまう。飲まないといても立ってもいられなくなってしまう、という状態です。

ベンゾジアゼピン系はどれも耐性・依存形成を起こす可能性がありますが、ワイパックスは特に注意する必要があります。必ず医師の指示を守って、決められた量の内服をしてください。

また、ベンゾジアゼピン系は、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 催眠作用(眠くする)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

という4つのはたらきがあり、ワイパックスにもこれらのはたらきがあります。

これらそれぞれの強さはお薬によって異なり、ワイパックスはと言うと、

  • 抗不安作用は強い
  • 催眠作用は弱め~中くらい
  • 筋弛緩作用は中くらい
  • 抗けいれん作用は弱め

といった強さをそれぞれ有します。

そして、これらの作用に関連した副作用が時に生じます。

具体的には、

  • 催眠作用で眠気やふらつきが生じる
  • 筋弛緩作用で、ふらつき、転倒が起こりやすくなる

などです。

では、それぞれの副作用やその対処法を詳しくみていきましょう。

Ⅰ.耐性・依存性形成

多くの抗不安薬に言える事ですが、長期的に見ると「耐性」「依存性」は一番の問題です。

ベンゾジアゼピン系は、無茶な使い方を続けると耐性・依存性を起こす可能性があります。

耐性というのは、身体が徐々に薬に慣れてしまう事。最初は1錠飲めば十分効いていたのに、だんだんと身体が慣れてしまい、1錠飲んでも全然効かなくなってしまう、という状態です。

依存性というのは、次第にその物質なしではいられなくなる状態をいいます。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。

アルコールにも強い耐性と依存性があります。

アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、
次第に飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。

また、飲酒量が多くなると、飲酒せずにはいられなくなり、常にアルコールを求めるようになります、
これは依存性が形成されているという事です。

抗不安薬には耐性と依存性がありますが、アルコールと比べて特段強くというわけではなく、医師の指示通りに内服していれば問題になる事は多くはありません。お酒だって節度を持った摂取であれば、耐性・依存性が問題となることはありませんよね。それと同じです。

耐性・依存を形成しないためには、まず「必ず医師の指示通りに服用する」ことが鉄則です。アルコールも抗不安薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。

医師は、耐性・依存性を起こさないような量を考えながら処方しています。それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、急速に耐性・依存性が形成されてしまいます。

アルコールとの併用も危険です。アルコールと抗不安薬を一緒に使うと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。

また、「漫然と飲み続けない」ことも大切です。基本的に抗不安薬というのは、「一時的なお薬」です。

ずっと飲み続けるものではなく、不安の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです(長期的に不安を取りたい場合は、抗不安薬ではなくSSRIなどが用いられます)。

定期的に「量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう必要ない状態なのに漫然と長期間内服を続けてはいけません。

服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がります。

Ⅱ.眠気、倦怠感、ふらつき

ベンゾジアゼピン系は、催眠効果、筋弛緩効果があるため、これが強く出すぎると、眠気やだるさを感じます。ふらつきが出てしまうケースもあります。

ワイパックスにも筋弛緩作用や催眠作用があります。もしこれらの症状が起こってしまったら、どうすればいいでしょうか。

もし内服して間もないのであれば、「様子をみてみる」のも手です。というのも、おくすりは「慣れてくる」ことがあるからです。様子を見れる程度の眠気やだるさなのであれば、1~2週間様子をみて下さい。自然と副作用が改善してくるというケースは少なくありません。

それでも眠気が改善しないという場合、次の対処法は「服薬量を減らすこと」になります。

一般的に量を減らせば作用も副作用も弱まります。抗不安効果も弱まってしまうというデメリットはありますが、副作用がつらすぎる場合は仕方ありません。

例えば、ワイパックスを1日3mg内服していて眠気がつらいのであれば、1日量を1.5mgなどにしてみましょう。

また、「お薬の種類を変える」という方法もあります。より筋弛緩作用や催眠作用が少ない抗不安薬に変更すると、副作用の改善が得られることがあります。

Ⅲ.物忘れ(健忘)

ワイパックスに限らず、ベンゾジアゼピン系のお薬は心身をリラックスさせるはたらきがあるため、頭がボーッとしてしまい物忘れが出現することがあります。

実際、ベンゾジアゼピン系を長く使っている高齢者は認知症を発症しやすくなる、という報告もあります(詳しくは「高齢者にベンゾジアゼピン系を長期投与すると認知症になりやすくなる【研究報告】」をご覧ください)。

適度に心身がリラックスし、緊張がほぐれるのは良いことですが、日常生活に支障が出るほどの物忘れが出現している場合は、お薬を減薬あるいは変薬する必要があるでしょう。