トリプタノールの効果【医師が教える抗うつ剤の全て】

トリプタノールは1961年に発売された抗うつ剤で、三環系という古いタイプの抗うつ剤です。

現在、うつ病治療の主役はSSRI/SNRI、Nassaなど安全性の高い抗うつ剤に変わり、三環系の出番は徐々に少なくなっています。

しかし三環系は、強力な抗うつ効果があるため、難治性のうつ病などへの「切り札」として使われることがあります。

副作用が多いため、もちろん投与は慎重にすべきですが、使い方さえ間違えなければ、大きな効果が期待できるおくすりなのです。

ここでは三環系抗うつ剤トリプタノールの効果や特徴について詳しくみてみましょう。

1.トリプタノールの特徴

まずは、トリプタノールの特徴をざっくりとですが紹介します。

【良い特徴】

  • 強力な抗うつ効果(三環系の中でも最強クラス)
  • 三環系の中でセロトニン・ノルアドレナリンをバランスよく増やす
  • 薬価が安い

【悪い特徴】

  • 副作用が多い
  • 眠気・ふらつきなどの鎮静系の副作用が特に多い

効果も強いけど副作用も強いのが三環系抗うつ剤なのですが、
トリプタノールは、三環系の中でも最強と呼び声高い抗うつ剤です。

抗うつ効果が非常に強いということは、ありがたいことなのですが、
効果が強いという事は、副作用も最強クラスだという事を忘れてはいけません。

三環系の中でも特に、強力な抗うつ効果があり、強力な副作用がある。
それがトリプタノ-ルです。

 

また、トリプタノールは他の三環系と比べると、
「セロトニンとノルアドレナリンをバランスよく増やしてくれる」特徴があります。

三環系はノルアドレナリンを優位に増やすものが多いのですが、
トリプタノールはかたよりなく両方を増やしてくれます。

それぞれの三環系抗うつ剤のセロトニン・ノルアドレナリンを増やす割合については
次項でより詳しく説明します。

 

デメリットは、副作用が多いことです。
これはトリプタノールに限らず三環系全般に言えることですが、
トリプタノールは三環系の中でも、特に副作用が強いおくすりです。

副作用が多く、時に重篤な副作用も起こり得るのは三環系の大きなデメリットです。

2.トリプタノールの作用機序

トリプタノールは、三環系と呼ばれるタイプの抗うつ剤です。

三環系の作用機序は、脳のモノアミンを増やすことです。
具体的には、脳の神経細胞から分泌されたモノアミンを吸収・分解させにくくする事(=再取り込み阻害)で
モノアミンの濃度を高く保てるようにするのです。

モノアミンとはセロトニン、ノルアドレナリンなどの気分に関係する物質の総称で、
理論的には、セロトニンは落ち込みや不安を改善させ、
ノルアドレナリンは意欲を改善させると考えられています。

三環系抗うつ剤はノルアドレナリンを優位に増やすものが多く、
例えばノリトレンやトフラニールなどはセロトニンよりもノルアドレナリンを優位に増やします。

反対にアナフラニールはセロトニンを優位に増やします。

トリプタノールはというと、セロトニンとノルアドレナリンの両方を同じくらいの割合で
増やしてくれます。

具体的にセロトニンとノルアドレナリンを増やす比率を表にしたものを示します。

三環系再取込比
                       (参考文献:アナフラニール添付文書)

表をみると、アナフラニールはノルアドレナリンに比べてセロトニンを7-8倍多く増やすことが分かります。
反対にノリトレンはセロトニンよりもノルアドレナリンを2倍近く増やし、
トフラニールもセロトニンと比べてノルアドレナリンを3-4倍ほど多く増やします。

トリプタノールはセロトニンとノルアドレナリンを同じくらいの割合で増やしてくれることが分かります。

これはあくまでも実験値のため、実際にはこの通りにはいかないかもしれませんが、
このように同じ三環系でも、増やす物質の比率が違うのです。

このような再取り込み比率も考えながら、精神科医は処方するおくすりを決めていきます。

3.トリプタノールの適応疾患

トリプタノールの添付文書を読むと、

うつ病、うつ状態
夜尿症

に適応があると書かれています。

実際の現場では、うつ病、うつ状態に使用する事が多いのはもちろんですが、
不安障害圏(パニック障害や社交不安障害など)や強迫性障害の患者さんにも効果が期待できます。

パニック障害、社交不安障害や強迫性障害などの疾患は、原因のひとつとして
セロトニンの低下が指摘されているため、セロトニンを増やす作用に優れる
トリプタノールやアナフラニールなどの三環系は、心強い武器になります。

しかし現在では、最初からトリプタノールを使うことはほとんどありません。

SSRIやSNRIなどの新規抗うつ剤を試してみても効果が不十分な難治例に限り、
第2選択として使われます。

副作用の多い三環系は、新規抗うつ剤と比べると安全性で劣るため、
最初からは使いにくいのです。

夜尿症とは、俗にいう「おねしょ」がひどくなったものです。
小さい子であれば、たまにおねしょをすることは別に異常ではありません。

しかし、だいたい6歳を過ぎても、頻繁におねしょを繰り返しているようだと
夜尿症と診断されます。

三環系抗うつ剤は抗コリン作用という作用で、尿を出にくくするため、
夜尿症に少量だけ投与されることがあるのです。

また、適応外ですが、「痛み」を軽減する作用があるため、
他の鎮痛剤で効果不十分である「痛み」に使われることがあります。

実はノルアドレナリンには痛みを抑えるはたらきがあります。
そのため、トリプタノールに限らずノルアドレナリンを増やす作用に優れる抗うつ剤は
「痛み」に対して効果が期待できるのです。

ちなみにノルアドレナリンを増やすことに優れる抗うつ剤には、

SNRI(サインバルタ、トレドミン)
一部の三環系抗うつ剤(ノリトレン、トフラニール、トリプタノール)
一部の四環系抗うつ剤(ルジオミール)

などがあります。

 

4.トリプタノールの強さ

トリプタノールをはじめとした三環系は副作用も大きいお薬ですが、
その強力な効果には定評があり、これが未だ三環系が使用され続けている大きな理由です。

SSRIやSNRIだけではどうしても治らない患者さんもいるのです。
そういう方にとって、三環系は大きな助けとなります。

実際、SSRI/SNRIが効かなかったけど、三環系に変えたら改善してきた、
というケースはしばしば経験します。

トリプタノールの効果はSSRI、SNRI、Nassaといった新規抗うつ剤より強い、
と考えておおむね間違いがないでしょう。

三環系間での強さの比較は評価が医師によって多少分かれるところですが、
総合的に見ると、トリプタノールが最強だと言う意見をよく聞きます。

個人差はあるものの、一般的には効果も副作用も一番強いのがトリプタノールです。

その他の三環系であるトフラニール、アナフラニール、アモキサンはだいたい同じくらいの効果です。

しかし前述したようにセロトニンとノルアドレナリンを増やす比率が異なるため、
それぞれの患者さんの状態に応じて使い分けます。

かんたんに言えば、セロトニンを増やしたいならアナフラニール、
ノルアドレナリンを増やしたいならトフラニールやノリトレンといったところでしょうか。

5.トリプタノールが向いている人は?

現在はSSRI/SNRIやNassaといった新規抗うつ剤が薬物治療の第一選択となっていますので、
まずはこれらを使います。

新規抗うつ剤で治療をしたけれど、どうしても十分な効果を得られない場合、
新規抗うつ剤よりも抗うつ効果が強い三環系が次の選択肢になります。

最初からトリプタノールを使うケースは現代においてはきわめて少なく、
第一選択で効果が得られなかった時の第二選択で使われるお薬になります。

時々、年配の先生が「昔から使い慣れている薬だから」という理由で、
三環系を最初から出すこともあるようですが、こういうケースは今後は少なくなっていくでしょう。

三環系の中でも、セロトニンとノルアドレナリンをバランスよく増やすトリプタノールは
落ち込み、不安、意欲低下、無気力など、うつ症状が多岐に渡っている場合に
向いていると考えられます。

しかし一方で、三環系の中でも特に強力な副作用があるため、
副作用が心配な方は、違う三環系の方がいいかもしれません。
トリプタノールを内服するときは「副作用が強いかもしれない」という覚悟は必要です。

トリプタノールの副作用については、

トリプタノールの副作用【医師が教える抗うつ剤の全て】

に詳しく書いてます。
副作用は全体的に多めなのですが、特に眠気・体重増加が他の三環系よりも強いと言われています。

新規抗うつ剤では効果不十分だったから、もう一段階強い抗うつ剤を試したい。
落ち込み、不安、意欲低下、無気力などの様々な症状を改善させたい。
副作用が起こりやすいリスクがあることも了承できる。

こういった場合はトリプタノールが候補に挙がるでしょう。

6.トリプタノールの導入例

トリプタノールは添付文書には

30mg~75mgを初期用量として、1日150mgまで徐々に増やしていく。
1日数回に分けて内服する。
まれに1日300mgまで使うこともある。

と記載されています。

副作用が心配な方は10mgや25mgなどの症状から開始しましょう。
少ない量で始めた方が、副作用が強力に出ることを防げますから、
可能な限り少量から開始するに越したことはありません。

1-2週間の間隔を上げて少量ずつ(10~25mg程度)増やしていきます。
効果を感じればその量で維持しますが、効果不十分であれば少しずつ増やしていきます。

三環系は副作用が多く、特に高容量になると危険な副作用の可能性も多くなってきます。
75mg以上は慎重に増やしていき、外来ではせいぜい150mg程度が限度です。

300mgまで使う事は法的に認められていますが、
三環系は過量服薬してしまうと致命的になりますので、
高用量を使うことは慎重に判断しないといけません。

例えば、1日300mgの28日分を患者さんが一気に飲んでしまったら
命に関わる大問題となります。

効果を感じるのに個人差はありますが、早くても2週間、
遅い場合は1か月ほどかかることもあります。

副作用として多いものは、抗コリン作用です。
これは口渇、便秘や尿閉などの症状として現れます。

便秘はひどければ下剤を使って対応します。
口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。

ある程度の量を投与して1~2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、
トリプタノールが効いていないと判断されますので、別の抗うつ剤に切り替えます。

トリプタノールの効果が十分に出て、気分が十分安定したと感じられたら(=寛解(remission))、
そこから6-12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。

良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。
この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。

6-12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、
「回復(Recovery)」したと考えます。

治療終了に向けて、2-3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。
問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。

(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のトリプタノール錠とは異なることをご了承下さい)