睡眠薬の強さはランキング付けできる?医師が教える睡眠薬の強さの考え方

不眠で悩む方は多く、睡眠薬は精神科・心療内科のみならず内科や整形外科・婦人科など様々な科で処方されているお薬です。

多くの製薬会社から様々な睡眠薬が出ていますが、それぞれの特徴や強さ・効き方について正しく理解できているでしょうか。

診察で患者さんと睡眠薬について相談すると、

「自分が飲んでる睡眠薬は、どのくらい強いんですか?」
「睡眠薬に頼りたくないので、一番弱いものでお願いします。」

このように睡眠薬の「強さ」を気にされる方はとても多いと感じます。

しかし睡眠薬は「強さ」だけで選ぶものではありません。

どのような睡眠薬にも良い面もあれば悪い面もあります。その両方を理解し、総合的に考えてもっとも自分に適した睡眠薬を使用すべきで、「強い」「弱い」だけで選んではいけません。

睡眠薬は不眠症で苦しんでいる方にとって非常に役立つものですが、一方で乱用や過量服薬、依存などの問題点もあります。正しい知識を持って適切に使用しなければ、苦しみを軽減するどころか、かえって苦しみが悪化する事にもなりかねないのです

ここでは睡眠薬についての正しい知識の1つとして、睡眠薬の「強さ」、そして睡眠薬の正しい選び方についてお話させていただきます。

1.睡眠薬の種類とそれぞれの強さ

睡眠薬は大きく分けると、

  • バルビツール酸系
  • (非バルビツール酸系)
  • ベンゾジアゼピン系
  • 非ベンゾシアゼピン系
  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬

の6種類があり、上段の睡眠薬ほど古く、下段に行くほど新しいお薬になります(ただし非バルビツール酸系は現在処方できるお薬が発売されていないため、実質は5種類です)。

非常にざっくりといえば、

  • 古いお薬は眠らせる力は強力だが、副作用も多い
  • 新しいお薬は眠らせる力は穏やかだが、安全性に優れる

と言えます。

それぞれの睡眠薬について、その特徴をより詳しく見ていきましょう。

Ⅰ.バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系睡眠薬は、1950年代から使われるようになった睡眠薬で、もっとも古い睡眠薬になります。

眠らせる力が非常に強い事が特徴で、手術時の麻酔としても使われていました。

しかし、効果が強すぎるという事は身体への負担も大きいという事です。バルビツール酸系は副作用にも注意が必要な睡眠薬になります。

頻度は多くはないものの、

  • 呼吸抑制(=睡眠中に呼吸が浅くなってしまう、止まってしまう)
  • 重篤な不整脈

といった命にかかわるような重篤な副作用が生じる可能性もあります。

また

  • 耐性
  • 依存性

も強く、長期・大量に服用を続けていると、すぐにお薬の効きが悪くなったり、お薬を手放せなくなってしまうというリスクもあります。

【耐性】
その物質の摂取を続けていると、次第に身体がそのお薬に慣れてきてしまい、効きにくくなってくる事。

【依存性】
その物質の摂取を続けていると、次第にその物質なしではいられなくなってしまう事。その物質がないと落ち着かなくなったりイライラしたり、発汗やふるえなどの離脱症状が出現するようになる。

簡単に言えばバルビツール酸系は「効果は強いけどリスクも大きいお薬」なのです。

現在では不眠症にバルビツール酸系が使われることはほとんどありません。日本睡眠学会のガイドラインをみてもバルビツール酸系について記載はなく、処方は全く推奨されていません。

臨床現場でも、どうしても眠れない難治性の不眠に限って使用されることもありますが、極力処方すべきではないという位置づけのお薬になります。

具体的なバルビツール酸系睡眠薬としては、

  • ベゲタミン
  • ラボナ(一般名:ペントバルビタールカルシウム)
  • イソミタール(一般名:アモバルビタール)

などがあります。

なおベゲタミンは、その危険性から平成28年で販売終了となりました。今後、他のバルビツール酸系もベゲタミンと同じく販売中止となっていくと考えられます。

Ⅱ.非バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系睡眠薬が使われるようになってしばらく経つと、呼吸抑制や不整脈による死亡例が認められたり、耐性や依存性で苦しむ方が出てき始め、「もう少し安全な睡眠薬を」という経緯で開発されたお薬です。

バルビツール酸系に少し遅れて、1950年代後半から使われるようになりました。

しかし、バルビツール酸系と比べれば多少は安全なものの、その効果の強さから乱用されることも多く、また催奇形性(妊婦さんが服用すると奇形児が生まれるリスクが高くなる)などの問題があり、やはり徐々に使われなくなっていきました。

  • メプロバメート(一般名)
  • サリドマイド(一般名)

などがありました(いずれも現在は使われていません)。

Ⅲ.ベンゾジアゼピン系睡眠薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、1960年頃から使われるようになった睡眠薬です。バルビツール酸系睡眠薬の危険性が指摘されるようになり、「もっと安全な睡眠薬を」という要望から開発されました。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ほどほどの強さを持っていて安全性も高いという、バランスの取れた睡眠薬になります。

副作用がないわけではありませんが、バルビツール酸系のように命に関わるような重篤な副作用を起こすことはほとんどなく、強さもある程度しっかりしています。

ただし耐性や依存性は生じる可能性があります。その強さはバルビツール酸系ほどではないにせよ、漫然と使い続けないように注意は必要です。

このようにベンゾジアゼピン系睡眠薬はバランスが良いため使い勝手も良く、発売以降飛躍的に処方されるようになりました。

現在でもよく処方される睡眠薬の1つで、非常に多くの種類が発売されています。

同じベンゾジアゼピン系睡眠薬でも、効果発現時間(服用してから効果が発現するまでの時間)や作用の持続時間などがそれぞれ異なりますので、自分に合った睡眠薬を選択することが大切です。

代表的なベンゾジアゼピン系睡眠薬には次のようなものがあります。

<超短時間型・・・即効性はあるが効果は2~4時間で切れてしまう>
ハルシオン(一般名トリアゾラム)

<短時間型・・・即効性にまずまず優れ、6~10時間くらい効く>
レンドルミン(一般名ブロチゾラム)
リスミー(一般名リルマザホン)
エバミールロラメット(一般名ロルメタゼパム)
デパス(一般名エチゾラム)

<中時間型・・・即効性は少なく、12~24時間ほど効く>
サイレースロヒプノール(一般名フルニトラゼパム)
ベンザリンネルボン(一般名ニトラゼパム)
ユーロジン(一般名エスタゾラム)
エリミン(一般名ニメタゼパム)

<長時間型・・・即効性はほとんどなく、24時間以上効く>
ドラール(一般名クアゼパム)
・ソメリン(一般名ハロキサゾラム)
・ベジノール/ダルメート(一般名フルラゼパム)

Ⅳ.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬をさらに改良した睡眠薬で、1980年頃から使われるようになったお薬です。

ベンゾジアゼピン系は催眠作用(眠らせる作用)の他に筋弛緩作用(筋肉を緩めてしまう作用)があり、これによってふらつきや転倒が生じてしまうことがあります。特に高齢者はふらつきによって転倒してしまうと骨折してしまうリスクが大きくなります。

この筋弛緩作用を少なくしてふらつきや転倒などの副作用を減らしたものが、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬です。

このようにベンゾジアゼピン系睡眠薬よりも安全性に優れます。耐性や依存性は生じますが、ベンゾジアゼピン系と同程度か、ベンゾジアゼピン系よりも若干少ないと言われています。

ただし欠点としては非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、作用時間の短いものしかありません。現時点で発売されているものは全て超短時間型になります。そのため、非ベンゾジアゼピン系は主に寝つきが悪いタイプの不眠(入眠障害)に用いられ、夜中に何度も起きてしまうタイプ(中途覚醒)にはあまり向きません。

代表的な非ベンゾジアゼピン系睡眠薬には次のようなものがあります。

アモバン(一般名ゾピクロン)
マイスリー(一般名ゾルピデム)
ルネスタ(一般名エスゾピクロン)

Ⅴ.メラトニン受容体作動薬

私たちの脳は夜になると、視床下部という部位からメラトニンというホルモンを分泌します。これが脳の視交叉上核にあるメラトニン受容体に作用すると私たちは自然な眠気を感じ、眠りにつきやすくなります。

「だったら、メラトニン受容体を人工的に刺激すれば、眠くなるはずだ」という発想で生まれたのが、このメラトニン受容体作動薬です。

他の睡眠薬は「薬の力で強制的に眠らせる」ものですが、メラトニン受容体作動薬は「自然に近い機序で眠りにつかせる」ことができるのが最大の特徴です。

自然な眠気を後押ししてくれるお薬なので 大きな副作用はなく、安全性が高いのがメリットです。耐性や依存性もありません。しかしその分、作用も強くはなく、「お薬の力でストンと眠りに入れる」といった効果を期待できるお薬ではありません。

安全性ないいお薬ですが、発売以降今一つ普及していません。その理由はやはり効果の弱さにあるのではないかと感じます。穏やかに不眠を改善させたい方にとても向いているでしょう。

メラトニン受容体作動薬には次のようなものがあります。

ロゼレム(一般名ラメルテオン)

Ⅵ.オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンは覚醒に関係している物質です。そのためオレキシンが欠乏すると脳は覚醒を保持できなくなり、眠くなってしまいます。

実際、ナルコレプシーという疾患があります。ナルコレプシーは別名「眠り病」とも呼ばれていますが、その原因はオレキシンの欠乏だと言われています。

オレキシン受容体拮抗薬はオレキシンのはたらきをブロックすることで脳の覚醒レベルを落とし、眠りに導くお薬になります。

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系と比べると効果はやや劣りますが、効く人にはしっかり効きます。耐性・依存性もほとんどなく、日中の眠気の持ち越しが少ないというメリットもあります。

デメリットとしては、副作用で「悪夢」が生じる率が他の睡眠薬よりも多いという点があります。また、まだ発売されて浅いため、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系と比べると薬価が高いという点もデメリットです。

個人的な印象では、オレキシン受容体拮抗薬は「合う人」と「合わない人」が割とハッキリと別れる印象があります。

オレキシン受容体拮抗薬には次のようなものがあります。

ベルソムラ(一般名:スボレキサント)

以上、睡眠薬にはこれら6種類があります。

2.睡眠薬の強さランキング

ではこれらの睡眠薬の強さをランキングすると、どうなるでしょうか。

それぞれ作用機序が同じではないため、その強さを一概に比較することは難しいのですが、おおよその感覚で比較すると、

1位:バルビツール酸系
2位:非バルビツール酸系
3位:ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系・オレキシン受容体拮抗薬
4位:メラトニン受容体作動薬

となるでしょう。

バルビツール酸系≒非バルビツール酸系>>ベンゾジアゼピン系=非ベンゾジアゼピン系≧オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬

といった感じですね。

なお、安全性でみると、

メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬>非ベンゾジアゼピン系≧ベンゾジアゼピン系>>非バルビツール酸系≒バルビツール酸系

となります。

おおよその傾向として、多少の例外はあれど、

  • 効果の強い睡眠薬は副作用も多い
  • 効果の穏やかな睡眠薬は副作用も少ない

ということができます。

そのため、不眠症にお薬を用いる場合、

・メラトニン受容体作動薬
・オレキシン受容体拮抗薬

といった穏やかな睡眠薬から始めるのが理想ではあります。その理由は安全性が高いためです。お薬は心身の調子を良い方向にするために服用するものですので、副作用(心身の調子を悪い方向に向かわせる作用)は極力出すべきではないからです。

しかし、これらの安全な睡眠薬は効果が不十分であることも多く、患者さんから「効かないのでもっと強いやつを下さい」と言われてしまう事も多く、実際は、

・ベンゾジアゼピン系睡眠薬
・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

が不眠症治療の主薬となっているのが現状です。