不眠に悩んでいる方は非常に多くいらっしゃり、睡眠薬は精神科・心療内科のみならず様々な科で処方されています。
病院に行かなくてもドラッグストアに行けば「睡眠改善薬」と呼ばれる市販薬も販売されており、手軽に入手することができます。
不眠を改善するためのお薬は、多くの製薬会社からたくさん発売されていますが、その効き方は一様ではありません。みなさんはこれらのお薬を使うにあたって、それぞれのお薬の種類や特徴を理解できているでしょうか。
一口に「睡眠薬」「睡眠改善薬」といっても、その効き方は種類によって全く異なります。また「睡眠薬」という分類に入らないお薬でも眠りを導いたり、眠りを深くする作用を持つものもあります。
これらについて正しく知ることは、不眠を適切に解決するための有益な第一歩になります。
ここでは睡眠に作用する全てのお薬について、その種類とそれぞれおの特徴について詳しく説明していきます。
1.睡眠に作用するお薬はどのような種類があるのか
「眠れない」
「眠りが浅い」
「ぐっすり眠った感じがない」
このような睡眠に関する悩みに対して、有効な対処法の1つに「お薬を使う」という方法があります。
病院を受診すれば「睡眠薬」を処方してもらう事ができます。また睡眠薬以外にも睡眠に良い作用をもたらすお薬もあり、症状によってはこれらのお薬が処方される事もあります。
ドラッグストアに行くと、「睡眠改善薬」と呼ばれる市販薬をを購入することもできます。
このように、睡眠に作用するお薬は、
- 睡眠改善薬(ドラッグストアで購入できる睡眠薬)
- 睡眠薬(処方薬のうち「睡眠薬」に分類されているもの)
- その他のお薬(処方薬のうち「睡眠薬」に分類されていないものの、睡眠に作用するお薬)
などがあります。
これらはそれぞれ、全く異なる作用機序を持ちます。
よく「ドラッグストアで売られている睡眠改善薬は、病院の睡眠薬を弱くしたものだろう」と思っている方がいますが、これは間違ってます。
睡眠改善薬と睡眠薬は作用機序の全く異なるお薬です。強さが違うわけではなく効き方が違うため、「軽い不眠は睡眠改善薬」「重度の不眠は睡眠薬」などと簡単に使い分けられるものではありません。
これら睡眠に作用するお薬のそれぞれの種類とその特徴を知り、どのような時にどのようなお薬が適しているのかを知ること出来れば、不眠をより適切に解決する事ができるようになるでしょう。
では、
- 睡眠改善薬(市販薬)
- 睡眠薬(処方薬)
- その他の睡眠に作用するお薬(処方薬)
のそれぞれの特徴について紹介していきます。
2.睡眠改善薬の種類一覧
まずは市販されている睡眠薬である「睡眠改善薬」についてみていきましょう。
ドラッグストアに行くと、眠れない方向けの睡眠薬が売られています。このように病院を受診しなくても入手することができる睡眠薬は「睡眠改善薬」と呼ばれています。
よく知られている睡眠改善薬には「ドリエル(一般名:ジフェンヒドラミン)」などがあります。CMなどで耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
ドリエルは「ジフェンヒドラミン塩酸塩」という成分を含んでいます。実はドラッグストアで買える睡眠改善薬の多くは、このジフェンヒドラミンが主成分です。
ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬と呼ばれ、ヒスタミンという物質の働きをブロックする作用を持ちます。
ヒスタミンは脳を覚醒させる作用を持つため、それをブロックする抗ヒスタミン薬は脳の覚醒レベルを落とします。この作用によって眠くなるわけです。
ちなみにジフェンヒドラミン以外の成分を含む睡眠改善薬もありますが、その多くは「漢方薬」を配合しています。漢方の中でも安神作用(精神を落ち着かせる作用)を持つ生薬を配合しており、心身をリラックスさせる事で眠りに導きます。
抗ヒスタミン薬、漢方薬以外を含む睡眠改善薬には「ウット」というお薬があります。
ウットはジフェンヒドラミンを含有しますが、それ以外にも「ブロモバレリル尿素」という成分を含んでいます。
ブロモバレリル尿素は1900年代に使われていた古い睡眠薬であり、非常に強力な催眠作用(眠らせる作用)があります。
しかし効果は強いものの副作用の危険も非常に高いお薬であり、極力使うべきではありません(アメリカでは発売を禁止されている成分であり、なぜ日本では市販で購入できてしまうのか極めて疑問なお薬です)。
ウットは原則として使わないようにしましょう。
では睡眠改善薬に含まれる代表的な成分について詳しく見ていきます。
Ⅰ.ジフェンヒドラミン塩酸塩
【ジフェンヒドラミン塩酸塩を含む睡眠改善薬】
・ドリエル(発売会社:エスエス製薬) (いずれもジフェンヒドラミン塩酸塩を50mg含有) |
ジフェンヒドラミン塩酸塩は「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるお薬です。これはヒスタミンという物質のはたらきを抑えるお薬になります。
ヒスタミンは私たちの体内で様々なはたらきをしていますが、その1つに「脳の覚醒保持」があります。抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミン塩酸塩はヒスタミンのはたらきをブロックするため、これによって脳の覚醒が保持できなくなり、覚醒レベルが下がります。これによって眠くなるというわけです。
ちなみにヒスタミンにはアレルギー反応を誘発する作用もあるため、抗ヒスタミン薬はアレルギー症状を緩和するお薬としても用いられています。
有名な花粉症治療薬には「アレグラ」「タリオン」「アレジオン」などがありますが、実はこれらもジフェンヒドラミン塩酸塩と同じ抗ヒスタミン薬なのです。花粉症のお薬は副作用で眠くなるものがありますが、これは抗ヒスタミン薬が覚醒レベルを下げるためなんですね。
ジフェンヒドラミン塩酸塩は抗ヒスタミン薬の中でも特に脳の覚醒をブロックする作用が強いため、睡眠改善薬として用いられています。
ジフェンヒドラミンは、服用してから2~4時間後に血中濃度が最大となり、以後5~8時間で血中濃度が半分に下がると報告されています。実際の感覚としては、服用してから1時間前後で効果が出現し始め、約6時間前後効果は続きます。
しかしジフェンヒドラミン塩酸塩は、「すぐに耐性(慣れ)がついてしまう」という問題があります。
早いと数日で耐性が形成されてしまい、同じような効果を得られなくなってしまいます。
そのためジフェンヒドラミンは基本的に数日の不眠に使うお薬になります。具体的には普段と異なる環境(旅行や出張など)で眠れないなどといった時には適しています。
反対にある程度の期間使用するには適していません。
Ⅱ.漢方薬
【漢方薬を含む睡眠改善薬】
・ホスロールS(発売会社:救心製薬) |
漢方薬の中には鎮静作用(気持ちを静める作用)、抗不安作用(不安を和らげる作用)など、気持ちをリラックスさせる作用(安神作用)を持つものがあり、これらは間接的に眠りを導く作用が期待できます。
睡眠改善薬には、このような漢方薬を配合したものも発売されています。
安神作用を持つ生薬には、
- 酸棗仁(サンソウニン)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 抑肝散(ヨクカンサン)
- 柴胡(サイコ)
- 当帰(トウキ)
- 白朮(ビャクジュツ)
などがあり、漢方の睡眠改善薬にも主にこのような生薬が含有されています。
漢方の睡眠改善薬は副作用が少なく安全性に優れるのが利点です。
しかし副作用がないわけではありません。「甘草(カンゾウ)」という生薬を含むものは低カリウム血症が生じる可能性があります。また漢方といえども体質によっては合わずに臓器能障害などが生じる可能性もあります。生薬とはいえやはりお薬である以上、「漢方だから絶対に副作用がない」と考えてはいけません。
効果には個人差はありますが、漢方というのは効果はおおむね穏やかです。即効性を期待するというよりは服用を続けることで少しずつ睡眠を改善していくイメージです。
また漢方には「証(しょう)」という概念があります。これはその人の「体質」のようなもので、「実証・虚証」「熱証・寒証」などがあります。同じ症状でも証によって適した漢方は異なるため、証を考えずに漢方を選ぶと十分な効果が得られないことがあります、
自分の証に合った漢方薬が欲しい場合は、市販のものを買うのではなく、漢方外来で診察を受けて処方してもらうのが良いでしょう。
Ⅲ.ブロモバレリル尿素
【ブロモバレリル尿素を含む睡眠改善薬】
・ウット(発売会社:伊丹製薬) (ブロモバレリル尿素250mg、ジフェンヒドラミン25mgを含有) |
ブロモバレリル尿素は本来、市販されるべきお薬ではありません。1900年代に使われていた昔の睡眠薬であり、その危険性から現在の医療現場ではほぼ使用していないお薬になります。
アメリカではその危険性からブロモバレリル尿素を含む医薬品の販売を禁止しているほどです。
その効果は確かに強力です。
精神科では昔「イソブロ」という処方が流行った事があります。イソミタールというバルビツール酸系睡眠薬(非常に強力)とブロバリン(ブロモバレリル尿素)を配合した睡眠薬を処方する方法ですが、強力な睡眠薬2つを併用するため難治性の不眠にも効く処方として精神科医が一部の難治性の不眠の患者様に処方していました。
しかし問題は副作用にあります。乱用や過量服用によって最悪のケースでは命を落とすこともあります(実際、ブロモバレリル尿素は自殺の手段としても使われる事もあります)。依存性もあり長期服用しているとやめられなくなってしまう可能性もあります。
ウットに含まれるブロモバレリル尿素は処方薬と比べると含有量は少量ではありますが、このような危険な物質ですので安易に服用すべきではありません。