ゾルピデムの全て【医師が教える睡眠薬のすべて】

現在、「ゾルピデム」という言葉は、主に二つの意味があります。

それは、

1.ジェネリック薬としてのゾルピデム
2.一般名としてのゾルピデム

です。

最近ではマイスリーのジェネリック薬に、「ゾルピデム」という名称をつけることが多くなったため、この言葉を目にする機会が多くなってきました。

ここでは主にジェネリック医薬品のゾルピデムのお話をさせていただきます。最後に少しだけ、一般名ゾルピデムについてもお話します。

ちなみにジェネリック薬であるゾルピデムは、効果や副作用などの薬効はすべてマイスリーと同じです。薬効について詳しく知りたい方は、マイスリーの記事もぜひご覧ください。

▽ マイスリーの全て【医師が教える睡眠薬の全て】

1.ゾルピデムはどんな睡眠薬なの?

ゾルピデムは、「マイスリー」という睡眠薬のジェネリック医薬品です。

最近はジェネリックが増えてきたため、
ジェネリック薬は「一般名+会社名」という名称に統一する流れがあります。

名称を統一して分かりやすくすることで、
患者さんが混乱することを減らし、投薬ミスなども減らせるためです。

そのため、現在では多くのマイスリーのジェネリックが
「ゾルピデム」という名称になっています。

ちなみに「一般名」というのは、国際的に決められた、全世界で共通のお薬の名称のことです。

具体的には、

  • ゾルピデム「AA」
  • ゾルピデム「アメル」
  • ゾルピデム「サワイ」

などのジェネリック薬があります。
どれも先発品「マイスリー」のジェネリックであり、効果や副作用などの薬効もマイスリーと同等です。

現在、睡眠薬の中で最も使われているものは、
「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類です。

このうち、ゾルピデムは非ベンゾジアゼピン系に属します。

かんたんに言ってしまうとベンゾジアゼピン系の改良型が非ベンゾジアゼピン系です。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA(ɤアミノ酪酸)の作用を強める事で、

  • 催眠作用(=眠くする)
  • 抗不安作用(=不安を和らげる)
  • 抗けいれん作用(=けいれん発作に効果がある)
  • 筋弛緩作用(=筋肉の緊張を和らげる)

などの効果を発揮します。

ベンゾジアゼピン系は多くの作用があるため、色々な効果が期待できる一方で、
副作用の可能性もありえます。
例えば、筋弛緩作用で足元がふらついて転んでしまったり、などです。

その点、非ベンゾジアゼピン系は「催眠作用」のみに選択的に作用するように作られ、
「筋弛緩作用」「抗不安作用」「抗けいれん作用」などの副作用の原因になりうる作用を弱めたものです。

また選択性が高い分、ベンゾジアゼピン系よりも耐性や依存性も軽いのではという報告もあります。

「より眠ることだけに特化した睡眠薬」というと分かりやすいかもしれませんね。

2.ゾルピデムの強さ・作用時間

睡眠薬は作用時間の違いによって4種類に分類されています。

  • 超短時間型・・・半減期が2-4時間
  • 短時間型 ・・・半減期が6-10時間
  • 中時間型 ・・・半減期が12-24時間
  • 長時間型 ・・・半減期が24時間以上

半減期というのは、作用時間の目安として用いられます。
「半減期」≒「おおよその薬の作用時間」と考えて下さい。

ゾルピデムは「超短時間型」に分類されます。
先発品のマイスリーと同じく、内服後15-30分で効果が出始め、1時間以内に血中濃度がピークになり、
約2時間ほどで半減期を迎えて効果が消失します。

睡眠薬の中でも即効性があり、朝まで効果が持ち越すことが少ないため、
「寝付けない」というタイプの不眠によく処方されます。

薬効の「強さ」はというと、普通くらいです。

睡眠薬を処方する際に、「これって強い薬なんですか?」と強さを気にする患者さんは少なくありません。
しかし、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」睡眠薬は、教科書的にはどれも強さは大差ないと
言われています。

睡眠薬の強さは、どれも大きな差はなく、
どれも量を多くすれば強くなるし、量を減らせば弱くなります。

3.ゾルピデムの副作用

どんなお薬でも、副作用はたくさんあります。

副作用を全て紹介はしきれませんので、、
ここでは臨床でよく見られる副作用を中心にお話します。

当然ですが、マイスリーと成分が全く同じおくすりですので、
多い副作用もマイスリーと全く一緒です。

Ⅰ.眠気

睡眠薬なので当然「眠気」が生じます。
これは時として副作用にもなりえます。

睡眠薬を飲んで、夜に眠くなるのは「効果」なので問題ありません。
しかし、「朝起きてもまだ眠い」「日中も眠くて仕方ない」となると、問題です。

日中まで睡眠薬の眠気が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と言います。
眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下などもあります。

ゾルピデムは半減期が2時間ほどですので、普通に睡眠時間が取れている方であれば
持ち越しはまず起こりません。

しかし、睡眠時間が極端に短い方であったり、
薬の代謝(分解)が遅い体質の人だったりすると、持ち越してしまう事があります。

この場合の対処法は、まずは睡眠時間を増やすことになります。
薬効が切れるまで眠っていれば、持ち越し効果が起こることはありません。

睡眠時間を多く取ることがどうしても難しいのであれば、
半減期のより短い睡眠薬に変えることが次の対策になりますが、
実は、ゾルピデムより半減期が短いものはほとんどありません。

そのため、ゾルピデムの服薬量を減らしてみるのが次の手になります。

例えば10mgを内服しているのであれば、7.5mgにしたり5mgにしたりします。
効果も弱くなってしまいますが、一般的に量を減らすと半減期は多少短くなります。

Ⅱ.耐性・依存性形成

多くの睡眠薬に言える事ですが、長期的に内服を続けていると「耐性」「依存性」が形成されます。

耐性というのは、身体がおくすりに慣れてきて、効きづらくなってくる事です。
耐性が形成されると、今までは1錠飲めばぐっすり眠れていたのに、
2錠、3錠と飲まないと十分な眠りを得られなくなります。

依存性というのは、次第にその物質なしではいられなくなる状態をいいます。
依存性が形成されると、おくすりをやめられなくなってしまいます。

耐性と依存性を持つ物質として有名なものにアルコールがあります。
どちらもアルコールでイメージしてみると分かりやすいでしょう。

アルコールを常用していると、最初に満足できていた量では次第に酔えなくなってきて
よりたくさん飲まないと酔えなくなります。これは耐性が形成されているという事です。

また、大量の飲酒を続けていると次第に昼夜問わず飲酒せずにはいられなくなります。
この「お酒なしではいられない」状態は、依存性が形成されているという事になります。

ほとんどの睡眠薬には耐性と依存性があります。
ただし、通常量(医師が指示している範囲内の量)であれば、
アルコールよりも耐性・依存性形成は軽いため、そこまで心配する必要はありません。

アルコールだって、適量に摂取していて依存症になる人はいませんよね。
依存症になるのは、明らかに多い量を飲み続けている人です。

また、「睡眠薬は依存が怖いから」といって寝酒をして眠ろうとしている方がいますが、
これは全くおかしな話だという事が分かります。
だって睡眠薬よりアルコールの方が依存性は強いのですから。

睡眠薬で耐性・依存性を形成しないためには、必ず「医師の指示通りに服用する」ことが大切です。
アルコールも睡眠薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。

医師は、耐性・依存性を起こさないように量を考えながら処方しています。
それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、急速に耐性・依存性が形成されてしまいますし、
本人の勝手な判断だと、医師もそれに気づくのが遅れてしまいます。

また、アルコールとの併用も危険です。
アルコールと睡眠薬を一緒に使うと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。

「漫然と飲み続けない」ことも大切です。
睡眠薬はずっと飲み続けるものではなく、不眠の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです。
時には「量を減らせないか」を検討すべきであり、漫然と長期間内服を続けてはいけません。

服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がりますので。

このようなことをしっかりと守って、内服を続ければ
睡眠薬で耐性や依存性が形成されることはほとんどありません。

Ⅲ.もうろう状態、一過性前向性健忘

前向性健忘とは、睡眠薬を内服以降の記憶がなくなってしまう現象です。
睡眠薬の効果が消えている翌朝以降はしっかり記憶できるため「一過性」と付きます。

一過性前向性健忘とは、睡眠薬の服薬後に
自分では覚えてないんだけど、歩いたり人と話したりしてしまうことです。

翌朝、家族などに「昨夜こんな話をしてたよね」と言われますが、自分には全く記憶にないため、
とても不気味に感じるようです。

もうろう状態は、かんたんに言うと「意識がもうろうとしている」状態のことです。

どちらも超短時間型のベンゾジアゼピン系(ハルシオンなど)で多く見られます。
即効性のある超短時間型を、多量服薬しているケースで起こりやすいようです。

ゾルピデムは超短時間型ではありますが、非ベンゾジアゼピン系であり、
この副作用を起こす頻度は多くはありません。
ただ可能性は0ではないため、注意は必要です。

睡眠薬を使うと中途半端な覚醒状態にしてしまう事があります。
特に睡眠薬を急激に効かせた場合で起こりやすく、この中途半端な覚醒状態が
「もうろう状態」「一過性前向性健忘」を起こします。

万が一、これらの症状が起こってしまったら、量を減らすか、
作用時間の長い、ゆっくりと効き始める睡眠薬へ切り替える事が対応策となります。

4.他剤との比較

ゾルピデムと他剤の半減期(≒作用時間)の比較を紹介します。
マイスリーのジェネリックですので、「マイスリー=ゾルピデム」と考えてご覧下さい。

睡眠薬最高濃度到達時間作用時間(半減期)
ハルシオン1.2時間2.9時間
マイスリー0.7-0.9時間1.78-2.30時間
アモバン0.75-1.17時間3.66-3.94時間
ルネスタ0.8-1.5時間4.83-5.16時間
レンドルミン約1.5時間約7時間
リスミー3時間7.9-13.1時間
デパス約3時間約6時間
サイレース/ロヒプノール1.0-1.6時間約7時間
ロラメット/エバミール1-2時間約10時間
ユーロジン約5時間約24時間
ネルボン/ベンザリン1.6±1.2時間27.1±6.1時間
ドラール3.42±1.63時間36.60±7.26時間
ダルメート/ベジノール1-8時間14.5-42.0時間

5.ゾルピデムの薬価

マイスリー錠(先発品)       5mg      49.6円
マイスリー錠(先発品)       10mg    78.7円

ゾルピデム(ジェネリック) 5mg          26.9円
ゾルピデム(ジェネリック)   10mg        42.8円                        (2014年現在)

マイスリーは睡眠薬の中では薬価の高いおくすりです。
ジェネリックでもそれなりの価格ですが、先発品と比べると大分安くなってますね。

ジェネリックはたくさんの会社から発売されていますが、いまのところ
どの製薬会社のゾルピデムも薬価は同じです。
もちろん薬効もどれも同じです。

6.一般名:ゾルピデムとは?

ジェネリック薬は「一般名+会社名」という名称にするという流れになってから、
一般名を目にする機会が増えてきました。

ちなみに一般名というのは、その薬物の国際的な名称のことです。

優れたお薬は、日本だけでなく全世界で使われています。
となると全世界で共通の薬物の名称が必要になります。
それが一般名なのです。

つまり、ゾルピデム(Zolpidem)と言えば海外の医師にも通じますし、
論文や専門誌など多くの国の医師が見る可能性のあるものにはすべて「Zolpidem」と書かれています。

対して「マイスリー」というのは商品名で、ゾルピデムを発売しているアステラス社が
販売する際に独自につけたゾルピデムの名称です。

ちなみに「マイスリー」という名前は、「My Sleep」というところからきているそうです。
自分の自然な眠りを取り戻す、ということでしょうかね。