現在ではあまり使われる事はありませんが、少し前まで精神科のお薬は「トランキライザー(Tranquilizer)」という呼ばれ方をしていました。
この名称は1950年頃から盛んに用いられはじめましたが、現在はほとんど使われなくなっています。
しかし現在でも古い医学書を読むと「トランキライザー」という記載を見かける事があります。また年配の先生などでは、使い慣れた「トランキライザー」という用語を今でも使う事があり、トランキライザーは精神科領域で時々耳にする言葉です。
では、この「トランキライザー」とはいったいどのようなお薬の事なのでしょうか。そしてどうして現在では使われなくなってしまったのでしょうか。
このコラムではトランキライザーについて、その意味や歴史について詳しく説明させて頂きます。
1.トランキライザーって何?
まずは「トランキライザー(Tranquilizer)」とはどういった意味の言葉なのかを説明させて頂きます。
トランキライザー(Tranquilizer)を和訳すると、「精神安定剤」「鎮静剤」という意味になります。またお薬に限らず「周囲を落ち着かせてくれる人」などに対しても「Tranquilizer」と呼ぶ事があるそうです。
つまりトランキライザーの元々の意味は、「気持ちを落ち着かせる作用のあるもの」を広く指す言葉だという事になります。
精神科領域では主に「気持ちを落ち着かせる作用に優れるお薬」をトランキライザーを呼びます。
2.トランキライザーの歴史
トランキライザーは「気持ちを落ち着かせる作用のあるもの」に対して使われる言葉です。
しかし精神科のお薬というのは精神状態を改善させるために投与されるものですから、基本的に全てのお薬が「気持ちを落ち着かせる作用のあるもの」に該当します。
精神科治療に用いられる精神に作用するお薬を「向精神薬」と呼びますが、では向精神薬とトランキライザーが同じ意味なのかというとそんな事はありません。
ではトランキライザーとはどういったお薬になるのでしょうか。
それを知るために、「トランキライザー」の歴史について紹介させていただきます。
実はあらゆるお薬の中でも「精神に作用するお薬」というのは、もっとも開発が遅かったお薬の1つです。
近年まで精神疾患が発症する機序やそれを抑える方法などはほとんど解明されていなかったため、精神疾患に用いる治療薬というのもほとんどありませんでした。
もちろん民間療法として使われていたものや、麻薬や覚せい剤として利用されていたものはありましたが、「治療薬」として精神に作用するお薬が本格的に使われだしたのは、1950年以降であり、まだ歴史はそこまで深くないのです。
向精神薬の歴史は、1950年前後から始まります。
もっとも古い向精神薬は、
- 炭酸リチウム(気分安定薬)
- クロルプロマジン(抗精神病薬)
の辺りだと考えられています。
クロルプロマジンは、統合失調症の治療に用いられる抗精神病薬ですが、このクロルプロマジンの作用は偶然に発見されたという経緯があります。
統合失調症の患者さんにたまたま手術をする事になって、鎮静作用のあるクロルプロマジンで麻酔をかけたところ、麻酔から覚めた後の患者さんの統合失調症の症状が改善していたのです。ここから「クロルプロマジンは統合失調症を治す作用がある」という事に気付かれ、抗精神病薬の歴史が始まったのです。
また炭酸リチウムの発見も同様に偶然でした。炭酸リチウムは双極性障害に用いられる治療薬で、躁状態を抑える作用と、うつ状態を持ち上げる作用の両方があります。
当時は「尿酸体質」という考えがあり、多くの疾患は尿酸体質が原因で生じると考えられていました。うつ病も脳の尿酸の過剰が原因ではないかと考えられ、脳内の尿酸を減らすために尿酸リチウムを用いる研究が行われました。するとその結果、リチウムがうつ病に効果があることが確認されました。
またその後に別の研究者が、同じように尿酸リチウムを動物実験に用いたところ、鎮静作用があることも発見し、躁病に対する効果があることも報告しました。これによって、リチウムが双極性障害に効果があることが注目されはじめ、様々な研究が行われるようになったのです。
この頃から使われるようになったのが「トランキライザー」という用語です。この頃は、精神科のお薬というと非常に限られた数しかありませんでした。
そのため「精神に作用するお薬」を広く「トランキライザー」と呼ぶようになったのです。
しかしクロルプロマジンの発見から、向精神薬の研究が一気に盛んになり、その結果様々な向精神薬が開発されました。
同じ1950年代には、
- バルビツール酸系睡眠薬
- 三環系抗うつ剤
なども開発され、用いられるようになりました。
抗うつ剤は「落ちている気分を持ち上げる」という作用のため「トランキライザー」と呼ばれる事はありませんでしたが、バルビツール酸系睡眠薬も「気持ちを落ち着かせて眠らせるお薬」という事から「トランキライザー」と呼ばれるようになりました。
更に1980年代に入ると、
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬
が開発され、これも「不安を和らげて気持ちを落ち着かせるお薬」であるため「トランキライザー」と呼ばれるようになりました。
こうなってくると「トランキライザー」の定義が分からなくなってきてしまいます。
抗精神病薬もトランキライザー、睡眠薬もトランキライザー、抗不安薬もトランキライザー・・・。確かにどれも気持ちを落ち着かせる作用があるのはその通りなのですが、これでは「トランキライザー」という分類に意味がなくなってしまいます。
そこで向精神薬の中でも、特に気分を落ち着かせるような作用に優れるものがトランキライザーと呼ばれるようになり、またそのトランキライザーもより細かく分類されるようになりました。
具体的にはトランキライザーは、
- 統合失調症などの興奮を落ち着かせる抗精神病薬
- 不安障害などの不安や緊張を落ち着かせる抗不安薬
の2つのお薬を指す事とし、
- 強く鎮静させる抗精神病薬を「メジャートランキライザー」
- 穏やかに落ち着かせる抗不安薬を「マイナートランキライザー」
と呼ぶようにしたのです。
その後しばらくはこの呼び方が続いたのですが、1990年頃に入ると「このような分け方は、医学的な妥当性が乏しいのではないか」と考えられるようになりました。
抗精神病薬も抗不安薬も確かに両方とも神経を鎮め、精神を安定させる作用はあります。また抗精神病薬の方が鎮静力は強く、また抗不安薬の方が弱いため、鎮静力の強弱で分ければ確かに抗精神病薬が「メジャー(強い)」であり、抗不安薬は「マイナー(弱い)」と言えるかもしれません。
しかし抗精神病薬と抗不安薬は、そもそも全く作用機序が異なるお薬ですし、適応となる状態も異なるお薬です。
抗精神病薬は脳のドーパミンのはたらきを抑える事で、幻覚・妄想やそれに伴って生じている興奮・易怒性などを抑え、精神を安定させます。基本的には統合失調症や双極性障害などに用いられます。
一方で抗不安薬は、抑制性の神経を活性化させる事で心身をリラックスさせ、不安を抑えて精神を安定させます。基本的には不安障害(不安神経症)やうつ病、心身症などに用いられます。
このように両者は用いられる場面が異なります。それなのに、
- メジャートランキライザー(強い精神安定剤)
- マイナートランキライザー(弱い精神安定剤)
という分け方をしてしまうと、「マイナーが効かなくて、お薬を強めたい時はメジャーに切り替えればいい」といった誤解につながります。
メジャートランキライザー(抗精神病薬)は、マイナートランキライザー(抗不安薬)を強力にしたものではありません。
ただ両者ともに精神を安定させる作用があるというだけで、作用機序の異なるお薬を無理矢理同じ系統に分類する事は自然ではないため、現在ではこのように分ける事はなくなりました。
3.メジャートランキライザーの種類と一覧
ではメジャートランキライザー(抗精神病薬)にはどのようなお薬があるのでしょうか。
メジャートランキライザーは現在では「抗精神病薬」と呼ばれていますので、ここでは現在用いられている抗精神病薬の種類と一覧をみてみましょう。
まず抗精神病薬(メジャートランキライザー)には、
- 第1世代抗精神病薬
- 第2世代抗精神病薬
があります。
第1世代は1950年頃から使われ始めた古い抗精神病薬であり、第2世代は1990年頃から使われ始めた比較的新しい抗精神病薬です。
主な第1世代には、
- フェノチアジン系
- ブチロフェノン系
の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。
そして第2世代には、
- SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
- MARTA(多受容体作用抗精神病薬)
- DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)
の3種類があり、やはり特徴はそれぞれ異なります。
どれも抗精神病薬の基本的な作用である「ドーパミンのはたらきをブロックする」という作用は共通していますが、それ以外の点で違いがありそれぞれの抗精神病薬に利点と欠点があります。
これから各抗精神病薬の特徴を説明していきますが、深く理解するために抗精神病薬を用いる疾患である「統合失調症」の代表的な症状である、
- 陽性症状
- 陰性症状
- 認知機能障害
について理解しておきましょう。
【陽性症状】
統合失調症の症状のうち、本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。
【陰性症状】
統合失調症の症状のうち、本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下してこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。
【認知機能障害】
情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認める事。
それでは抗精神病薬について、1つずつ詳しく見ていきましょう。
Ⅰ.第1世代抗精神病薬
第1世代抗精神病薬は、簡単に言えば「昔の抗精神病薬」です。1950年ごろより使われるようになりました。効果はしっかりしているのですが古いお薬であるため副作用も多く、また稀に重篤な副作用を引き起こしてしまう事もありました。
第1世代抗精神病薬には
- フェノチアジン系
- ブチロフェノン系
の2種類があります。
現在では後述する第2世代抗精神病薬(新しい抗精神病薬)が何らかの理由で使えない時にのみ検討されるお薬という位置づけです。
【第1世代抗精神病薬の特徴】・1950年頃から使われるようになった古い抗精神病薬 ・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる ・陽性症状に対する効果は良好 ・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない(むしろ悪化させる事も) |
フェノチアジン系抗精神病薬
【特徴】 鎮静作用に優れ、様々な効果が期待できるが副作用も多い
フェノチアジン系抗精神病薬は1950年頃から使われるようになった、もっとも古い抗精神病薬です。
最古の抗精神病薬であるコントミン(一般名:クロルプロマジン)は、元々は麻酔薬として用いられていました。統合失調症の患者さんに対して手術を行う事になってコントミンを使用したところ、精神症状が改善した事からコントミンの統合失調症に対する効果が偶然に発見されました。
この発見から抗精神病薬の歴史が始まりました。
麻酔として使われていたという経緯からも分かるように、フェノチアジン系は抗精神病薬の中でも鎮静作用に優れます。
またフェノチアジン系はドーパミン以外にも様々な受容体に作用する事で幅広い効果を発揮します。
具体的には、
- ヒスタミン受容体をブロックして眠気や食欲亢進が生じる
- アドレナリン受容体をブロックしてふらつきや鎮静が生じる
- ムスカリン受容体をブロックして抗コリン症状(口喝、便秘、尿閉など)が生じる
などがあります。
ドーパミンのみを強力にブロックするわけではないため、ドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症)などは、ブチロフェノン系と比べると少なめです。
ドーパミン以外の様々な受容体に作用するため、睡眠の改善や興奮の鎮静、食欲の改善などを狙って投与される事があります。
代表的なフェノチアジン系には、
- コントミン(一般名:クロルプロマジン)
- ヒルナミン・レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
- フルメジン(一般名:フルフェナジン)
- ピーゼットシ一・トリラホン(一般名:ペルフェナジン)
- ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
- ニューレプチル(一般名:プロペリシアジン)
などがあります。
【フェノチアジン系抗精神病薬の特徴】・1950年頃から使われるようになった第1世代抗精神病薬 ・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる ・陽性症状に対する効果は良好 ・睡眠改善、食欲改善、不安や興奮を抑えるなど様々な効果が期待できる ・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない |
ブチロフェノン系抗精神病薬
【特徴】幻覚妄想を抑える作用に優れるが、錐体外路症状を生じやすく全体的に副作用も多い
ブチロフェノン系抗精神病薬も、フェノチアジン系と同時代に使われていた抗精神病薬です。
フェノチアジン系との違いとして、フェノチアジン系はドーパミン受容体をはじめヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、セロトニン受容体など様々な受容体に作用する事で様々な効果を発揮するのに対して、ブチロフェノン系は比較的ドーパミン受容体に集中的に作用するという点が挙げられます。
ドーパミン受容体への作用は、幻覚妄想といった陽性症状を抑える作用につながると考えられているためブチロフェノン系は陽性症状に対する効果に非常に優れます。
一方でドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症)なども起こしやすいお薬になります。
ドーパミン以外の受容体にはあまり作用しないため、フェノチアジン系が得意とする、興奮を抑える作用や眠りを導く作用は弱めです。
- セレネース(一般名:ハロペリドール)
- インプロメン(一般名:ブロムペリドール)
- プロピタン(一般名:ピパンペロン)
- トロペロン(一般名:チミペロン)
などがあります。
【ブチロフェノン系抗精神病薬の特徴】・1950年頃から使われるようになった第1世代抗精神病薬 ・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる ・陽性症状に対する効果は極めて良好 ・錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用を生じやすい ・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない(むしろ悪化させる事も) |
Ⅱ.第2世代抗精神病薬
第2世代抗精神病薬は、1990年ごろから使われるようになった比較的新しい抗精神病薬です。
第1世代の副作用の多さ、陰性症状や認知機能障害への効果の乏しさに対して改良がおこなわれたお薬になります。
第1世代に劣らない陽性症状への効果を維持しつつも、重篤な副作用の頻度が少なくなっています。また多少ではありますが、陰性症状や認知機能障害にも効果が期待できるようになりました。
一方で心身をリラックスさせる作用によって代謝を落とすため、第1世代よりも体重増加・肥満・血糖値上昇・脂質異常などのメタボリックな副作用は多くなっています。
第2世代抗精神病薬には
- SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
- MARTA(多受容体作用抗精神病薬)
- DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)
の3種類があります。
現在では抗精神病薬は原則として第2世代抗精神病薬から開始する事が推奨されています。
【第2世代抗精神病薬の特徴】・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬 ・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない ・第1世代と比べるとメタボリックな副作用(体重増加や血糖値上昇など)が多い ・陽性症状に対する効果は良好 ・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる |
SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
【特徴】幻覚妄想を抑える作用に優れる。錐体外路症状には注意
SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)は、第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。
その名の通り、主に、
- ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
- セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)
といった作用を持ちます。
SDAは第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。
また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。
第2世代の中では、セロトニン受容体とドーパミン受容体に集中的に作用するため、ブチロフェノン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。
- リスパダール(一般名:リスペリドン)
- インヴェガ(一般名:パリペリドン)
- ロナセン(一般名:ブロナンセリン)
- ルーラン(一般名:ペロスピロン)
などがあります。
【SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)の特徴】・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬 ・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない ・陽性症状に対する効果が極めて良好 ・副作用の錐体外路症状や高プロラクチン血症に注意 ・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる |
MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)
【特徴】 鎮静作用に優れ、様々な効果が期待できる。眠気と体重増加に注意
MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)も第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。
その名の通り、様々な受容体に作用し、
- ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
- セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)
- ヒスタミンをブロックする事による催眠、食欲亢進
- ノルアドレナリンをブロックする事による穏やかな鎮静
といった効果が期待できます。
MARTAも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。
また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。
第2世代の中でも様々な受容体に幅広く作用するため、フェノチアジン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。
- ジプレキサ(一般名:オランザピン)
- セロクエル(一般名:クエチアピン)
- シクレスト(一般名:アセナピン)
- クロザリル(一般名:クロザピン)
などがあります。
【MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)の特徴】・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬 ・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない ・陽性症状に対する効果が良好 ・睡眠改善、食欲改善、不安や興奮を抑えるなど様々な効果が期待できる ・体重増加や眠気に注意 ・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる |
DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)
【特徴】 効果は良好で副作用も少ない。抗うつ作用も持つが鎮静力は弱い
DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)はDPA(ドーパミン部分作動薬)とも呼ばれ、第2世代抗精神病薬に属するお薬です。2006年頃から使われるようになりました。
DSSは「ドーパミンの量を適切に調整する」という作用を持ちます。
強制的にドーパミンをブロックするわけではないため、ドーパミンをブロックしすぎる事による副作用なども少なく、安全性に優れるお薬です。
DSSも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクは少なくなっています。
統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。
- エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)
があります。
【DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)の特徴】・2006年から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬 ・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない ・陽性症状に対する効果が良好 ・抗うつ作用も期待できる ・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる ・鎮静力は弱く、アカシジアが他の第2世代と比べてやや多い |
4.マイナートランキライザーの種類と一覧
ではマイナートランキライザー(抗不安薬)にはどのようなお薬があるのでしょうか。
マイナートランキライザーは現在でいうベンゾジアゼピン系抗不安薬ですので、ここでは現在用いられているベンゾジアゼピン系抗不安薬の種類と一覧をみてみましょう。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は20種類以上のお薬があります。どれも基本的な作用機序である「抑制性神経を活性化させる」という点は同じですが、その強さや作用時間・即効性などは異なります。
たくさんのお薬があるため、それぞれのお薬の特徴や位置づけは分かりにくいものです。
抗不安薬のそれぞれのお薬の特徴と違いを把握するためには、
- 抗不安作用(不安を和らげる作用)の強さ
- 作用時間
の2つの軸で抗不安薬を考えると理解しやすくなります。
ではそれぞれの軸から抗不安薬を分類してみましょう。
Ⅰ.抗不安薬を強さで分類する
代表的な抗不安薬を、
- 抗不安作用が強い
- 抗不安作用が中くらい
- 抗不安作用が弱い
という3つに分類すると次のようになります。
抗不安作用 | 商品名(一般名) |
強い | ・デパス(一般名:エチゾラム) ・レキソタン・セニラン(一般名:ブロマゼパム) ・ワイパックス(一般名:ロラゼパム) ・リボトリール・ランドセン(一般名:クロナゼパム) ・レスタス(一般名:フルトプラゼパム) |
中等度 | ・ソラナックス・コンスタン(一般名:アルプラゾラム) ・セパゾン(一般名:クロキサゾラム) ・セルシン・ホリゾン(一般名:ジアゼパム) ・メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル) |
弱い | ・グランダキシン(一般名:トフィソパム) ・リーゼ(一般名:クロチアゼパム) ・セレナール(一般名:オキサゾラム) ・バランス・コントール(一般名:クロルジアゼポキシド) |
抗不安薬作用が強いものほどしっかりと不安を抑えてくれますが、強ければ強いほど良いというわけではありません。
一般的に作用が強ければ強いほど、副作用も多くなる傾向があります。またベンゾジアゼピン系抗不安薬には耐性・依存性がある事が知られており、作用が強いほど耐性や依存性も生じやすくなります。
そのため自分の不安の強さに応じて、適切な強さの抗不安薬を選ぶことが大切です。
Ⅱ.抗不安薬を作用時間で分類する
抗不安薬を、
- 作用時間が短い(6時間前後)
- 作用時間が中くらい(12時間前後)
- 作用時間が長い(24時間以上)
で分類すると次のようになります。
作用時間 | 商品名(一般名) |
短い | ・グランダキシン(一般名:トフィソパム) ・リーゼ(一般名:クロチアゼパム) ・デパス(一般名:エチゾラム) |
中等度 | ・レキソタン・セニラン(一般名:ブロマゼパム) ・ワイパックス(一般名:ロラセパム) ・ソラナックス・コンスタン(一般名:アルプラゾラム) ・セパゾン(一般名:クロキサゾラム) |
長い | ・セレナール(一般名:オキサゾラム) ・バランス・コントール(一般名:クロルジアゼポキシド) ・セルシン・ホリゾン(一般名:ジアゼパム) ・リボトリール・ランドセン(一般名:クロナゼパム) ・メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル) ・レスタス(一般名:フルトプラゼパム) |
Ⅲ.抗不安薬の強さ・作用時間一覧
以上の2つの軸である
- 抗不安作用の強さ
- お薬の作用時間
から代表的な抗不安薬を比較すると次のようになります。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
「半減期」という言葉がありますが、半減期というのはそのお薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、作用時間を知る1つの目安になる値です。実際は半減期だけで作用時間を特定することはできませんが、目安の1つとしては有用です。
抗不安薬を選択するとき、基本的な考えとしては
- どれくらいの強さのものを選ぶべきか
- どのくらいの作用時間のものを選ぶべきか
という2つの観点から考えます。
強さは、強ければ強いほど良いというものではなく、自分の不安の強さに応じて選ぶべきです。仮に不安を数値化できるとして、あなたの不安が「5」だったら、「5」に近い強さを持つ抗不安薬を選択することが大切です。
不安が「5」なのに「10」の強さを持つ抗不安薬を選んでしまうと、短期的には不安は抑えられるかもしれませんが、長期的には副作用で困ることになります。眠気やふらつき、物忘れなどの副作用が出現しやすくなったり、耐性や依存が生じやすくなってしまいお薬をなかなかやめられなくなってしまう可能性が高くなるでしょう。
反対に不安が「5」なのに「2」の強さしかない抗不安薬を選んでしまうと、不安が十分に抑えられないため、症状がいつまでも改善せず病気も長引いてしまいます。
自分の不安を抑えるのにちょうど良い強さの抗不安薬を選択することが大切です。
また作用時間は、手間や微調整の必要性、安全性などを考えて選びます。
作用時間の短いものはすぐに効果がなくなってしまうため、1日に何回も服薬しなければいけず手間になりますが効果の微調整をしやすいという利点もあります。作用時間が短いものであれば、例えば「日中にだけ普段が強いから日中だけ薬効を発揮させたい」という使い方も可能になります。
また作用時間の短いものの方がサッと効いてサッと消えるため、効果を実感しやすいという面もあります。しかし作用時間の短いものはどちらかというと耐性・依存性が生じやすい傾向もあるため注意も必要です。
一方で作用時間の長いものは、ゆっくり効果が出てくるため、効果を感じにくいのが欠点です。また微調整が出来ないため、副作用が出てしまったらお薬が抜けるまで長時間我慢しないといけません。しかし1日1回の服用などで良いため、手間的には楽になります。また作用時間の長いものの方が耐性・依存性も生じにくいと考えられています。
どちらも一長一短あるため、自分が困っている不安の状態に応じて適切なお薬を選択することが大切です。