デパケン服用中に妊娠してしまったら?デパケンの催奇形性と妊娠時の対応法

デパケンと妊娠

デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は、気分安定薬という種類に属するお薬で、精神科領域では主に双極性障害などの気分の波を安定させるために用いられます。またそれ以外にもうつ病の方に補助薬として用いたり、認知症や自閉症スペクトラム障害などに伴う易怒性・興奮などに用いられることもあります。

精神科領域以外では、てんかんを抑える抗てんかん薬として用いられる他、偏頭痛の治療薬としても用いられています。

このように幅広い患者さんに用いられるお薬ですが、デパケンの注意すベき点として「催奇形性」があります。

これは女性の方が妊娠中にデパケンの服薬を続けていると、デパケンが赤ちゃんにも作用してしまい、赤ちゃんに奇形が発生する可能性が高くなってしまうという事です。

双極性障害もてんかんも偏頭痛も、若い女性が罹患する可能性が十分ありうる疾患です。そのためデパケンは若い女性が服薬することも少なくありません。妊娠する可能性のある女性は、デパケンの催奇形性を必ず理解した上で服薬を始めないといけません。

今日はデパケンの催奇形性について紹介させて頂きます。

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1.デパケンの催奇形性について

お薬の中には、「催奇形性」があるものがあります。

催奇形性とは妊娠中の女性が服用することで、胎児にお薬が影響してしまい、出生時に児に奇形が発生してしまう事です。

普通に出産した時、女性が健康な赤ちゃんを出産する確率は97~98%程度と報告されています。つまり、正常であっても2~3%の赤ちゃんは何らかの奇形が生じてしまうという事です。これは自然に生じてしまうものですから予防することは困難です。

一方で、デパケンを服薬している女性が健康な児を出産する確率は90%程度という報告があります。奇形が発生してしまう確率が約3倍に上がるという事です。これは予防できる奇形発生であるため、できる限り予防する必要があります。

このようにお薬によっては、赤ちゃんに奇形が生じてしまう確率を上げてしまうものがあり、これを「催奇形性のあるお薬」と呼びます。デパケンも催奇形性のあるお薬の1つです。

そのため、妊娠予定の方や妊娠中の方は極力デパケンを服用すべきではありません。自然に発生してしまう奇形は防ぐことができませんが、お薬が原因の奇形は防ぐことが出来るからです。

2.デパケンにはなぜ催奇形性があるのか?

なぜデパケンを服薬すると、奇形が生じやすくなるのでしょうか。

これはデパケン自体が神経に作用するお薬だからだと考えられます。デパケンは脳神経に何らかの作用をすることで気分の波や異常脳波を抑えてくれます。すでに神経の形成が完了している私たちが服薬する分には、このように良い効果が期待できるのです。しかし神経などの諸器官が形成途中の赤ちゃんに、これらに影響するデパケンを投与してしまうと、神経形成・器官形成に何らかの異常が生じてしまうのでしょう。

デパケンは胎盤を通過して母体から赤ちゃんに移行できてしまう物質です。臍帯血(母親から赤ちゃんにつながっている血管)中のデパケンの血中濃度は、母親の血液中と比べて1.7倍に高くなっていると報告されており、母親が服薬したデパケンは濃縮されて赤ちゃんの体内に流れてしまっているのです。

赤ちゃんの血液中に入ったデパケンは、児の形成中の脳神経や臓器にも何らかの作用を及ぼして、奇形を作ってしまうと考えられていますが、具体的にはデパケンが持つGSK3β阻害作用が催奇形性を来たしているのではないかと推測されています。

これはデパケンがGSK3βという酵素のはたらきをブロックする作用のことです。本来の作用としてはGSK3βをブロックすることで神経の成長を促したり、神経を保護するはたらきが得られます。しかし赤ちゃんにおいてはこれが正常な神経の形成をジャマしてしまうようなのです。

ちなみに同じ気分安定薬である「リーマス(炭酸リチウム)」にも催奇形性がある事が知られていますが、リーマスにもGSK3β阻害作用があることが分かっています。

また服薬したデパケンは体内で代謝され、「4-enVPA」という物質が産生されますが、これも催奇形性に関わっていると考えられています。デパケンを服用すると、時に肝臓の副作用(肝機能障害)が出現しますが、これも4-enVPAが原因だと考えられています。

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3.デパケンではどのような奇形になってしまうリスクがあるのか

ではデパケンを服用すると、どのような奇形が発生する可能性が高くなるのでしょうか。デパケンによって誘発される奇形は一つではなく、多くの報告があります。

代表的な奇形を紹介します。

Ⅰ.二分脊椎(神経管欠損)

デパケンで生じる奇形でもっとも注意すべきなのは二分脊椎(神経管欠損)です。

脊椎は背骨にある神経とその通り道の事です。二分脊椎は、普通であれば作られる脊椎の一部が正常に形成されない奇形です。軽度であれば大きな症状が出ずに気付かれないこともありますが、神経の一部の欠損により何らかの神経症状を伴うことも多くあります。

神経は妊娠初期に作られます。そのため、妊娠初期にデパケンを服薬していると二分脊椎の発生率は高くなります。一般の女性が二分脊椎の赤ちゃんを出産する確率は0.1%と報告されていますが、デパケンを服用するとその確率は1%にまで上昇します。

欠損する神経の部位によって生じる症状は様々ですが、

  • 運動障害:身体の動きの一部が低下する。例えば手足が動かしにくかったり
  • 感覚障害:身体の感覚の一部が低下する。例えば触っても分からなかったり
  • 自律神経障害:排便や排尿などがうまくできなくなってしまう

などの症状が認められます。

出生時に二分脊椎を発見した場合、なるべく早い段階で手術などの適切な治療を行う必要があります。

Ⅱ.心奇形

デパケンで心臓の奇形が発生する可能性もあります。

心臓は4つの部屋(左房、左室、右房、右室)があり、それぞれが血液を全身に効率良く送るためにはたらいています。妊娠中の方がデパケンを服薬していると、赤ちゃんの心臓が作られる際、この部屋の仕切りをうまく作れず、部屋を仕切る壁に穴が開いてしまうことがあります。穴が開く部位によって「心房中隔欠損症」「心室中隔欠損症」などと呼ばれます。

穴が開いてしまうと、本来の効率的な血液の流れ以外の流れが出来てしまうため、血液が非効率的な運ばれ方をするようになります。すると全身に十分な酸素・栄養を送れなくなってしまったり、心臓が頑張りすぎて心不全になってしまうリスクが高くなります。

心臓のどこの壁に穴が開いているかで治療は異なりますが、基本的には手術によって穴をふさぎます。

Ⅲ.顔面小奇形

デパケンは、顔面の様々な小奇形を発生させ、特有の顔貌になってしまうということもあります。

どのような奇形かというのは本当に様々で

  • 頭頂部が三角形のようにとがってしまう
  • 目や鼻、唇、耳などの顔のパーツの大きさ、形、位置が少し崩れてしまう
  • おでこが出っ張ってしまう

などが報告されています。

Ⅳ.口唇・口蓋裂

口唇口蓋裂は、口唇(くちびる)や口蓋(口腔の上側の壁)に裂け目が出来てしまうことです。

口唇裂の場合、鼻に向かって唇の一部が避けてしまいます。口蓋裂の場合、本来口蓋は口腔と鼻腔を分けている壁であるため、ここが繋がることにより誤嚥(食べ物を飲み込む際に気管に入ってしまう)などのリスクになります。

口唇裂は美容上の問題もあり、手術にて裂け目をふさぎます。口蓋裂も誤嚥の予防のため手術にて裂け目を閉鎖します。

Ⅴ.多指症

デパケンによって指の本数が多くなってしまうという奇形が生じることもあります。通常は指は5本ですが、これが6本になってしまうことがあります。

日本では美容上の問題から、手術をして多い指を切除することが多いです。

Ⅵ.自閉症スペクトラム障害、知能低下

奇形ではありませんが、デパケン服用によって児のIQが低下したり、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群など)を発症しやすくなるという報告もあります。

4.デパケン服用中に妊娠してしまったら?

デパケンにはこのような催奇形性があります。そのためデパケンを服用している方が妊娠を考えている場合、デパケンを中止できるまで待ってから妊娠を検討した方が良いでしょう。

しかし実際はデパケン服用中の方が、予想外に突然妊娠してしまうこともあります。本来妊娠はおめでたい事なのですが、デパケンを服用している場合は危険もあります。そのためデパケン服用中の方は妊娠が発覚したら速やかに主治医に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。

デパケンは催奇形性があることが理由ですが、更にこの催奇形性は妊娠初期の服薬の影響が特に大きいことが知られています。妊娠初期のデパケン投与が一番危険であり、だいたい予定外の妊娠は妊娠初期にデパケンを服薬しているわけですから、速やかに対処を行わなければいけません。

デパケンを服用中の方が妊娠してしまった場合、どのようにすればいいのでしょうか。一般的な対処法を紹介します。なお、これらの対処法は決して独断では行ってはいけません。必ず主治医と相談の上、行うようにしてください。

Ⅰ.基本的にはデパケンは中止

デパケンに催奇形性があることが確認されている以上、妊娠時はできる限り中止をすべきです。

理想的には、妊娠の希望がある場合は事前に主治医とよく相談し、デパケンをしっかりと中止してから妊娠を計画すべきです。デパケン服用中に予定外の妊娠がないように注意しなければいけません。

しかし現実として、デパケン服用中に急に妊娠が発覚してしまう事もあります。この時は慌てて自分の判断でデパケンの継続・中止を判断するのではなく、必ず速やかに主治医に連絡し、どうすべきかの指示を仰いでください。

基本的にはできる限り中止とすべきで、「デパケンは原則中止」になります。

ただし服薬している量によっては、いきなり全てを中止するのは危険なこともあります。その場合は主治医と相談し、できる限り早くペースで、しかし体調に大きな不調を来たさないように慎重に考えながら減薬をしていきます。

Ⅱ.特に妊娠初期では出来るだけ中止を

デパケンの催奇形性は特に妊娠初期のデパケンの服薬の影響を強く受けます。

これは何故かと言うと、妊娠初期は赤ちゃんの様々な臓器が形成される時期だからです。脳などが形成されている時にデパケンが作用してしまうと奇形になってしまうリスクが高くなります。

反対に器官形成がほとんど終わっている妊娠後期であれば、催奇形性のある物質を摂取していても、その影響は少なくなります(服用しても良いという意味ではありません)。

デパケンが中止しにくいような患者さんでも、もし可能であれば妊娠初期だけでもデパケンを中止できると、赤ちゃんへの影響をかなり弱めることが可能です。

Ⅲ.どうしても減らせない場合はR剤単剤の少量投与、葉酸を検討

症状的にどうしてもデパケンを減らせないケースもあります。

例えばデパケンを中止することにより、てんかんや気分の波が大きく悪化する可能性が高い時です。デパケンの催奇形性ももちろん心配ですが、デパケンをやめたことで重篤なてんかん発作が出たり、大きな精神ストレスによって流産などの赤ちゃんへの悪影響が生じることも心配です。

どうしてもデパケンが中止できない場合、まずは可能なかぎり少ない量になるように調整しましょう。基本的にデパケンの催奇形性はデパケンの服用量が多ければ多いほど生じやすいと考えられてます。

具体的には1,000mg/日以上の量だと催奇形性は強くな、反対に400mg/日以下まで下げれると催奇形性は大分弱まると言われています。

また通常のデパケン錠やデパケン細粒よりも、「デパケンR錠」という徐放製剤の方がゆるやかに吸収されるため、赤ちゃんへの悪影響も少なくなると考えられます。R剤というのは「Retard(遅くする)」の略で、ゆっくりと吸収されるように工夫された剤型のことです。

そのため、デパケン錠やデパケン細粒を服薬している方は、できる限り「デパケンR錠」に変更しましょう。

更に、他に気分安定薬や抗てんかん薬も飲んでいる場合は、内服薬を見直す必要があります。デパケン以外も、気分安定薬や抗てんかん薬は催奇形性があるものが少なくありません。中にはデパケンと併用してしまうことで催奇形性を大きくあげてしまうお薬もあります。

特に、

  • デグレトール(カルバマゼピン)
  • フェノバール(フェノバルビタール)

はデパケンの催奇形性を更に高めてしまうため、できる限り併用しないようにしましょう。

最後にデパケンで生じる奇形のうち、「二分脊椎」は葉酸の不足も関与していると考えられています。そのためデパケンを服用しながら妊娠する場合、妊娠前・妊娠中に葉酸を合わせて服用しておくようにしましょう。これにより二分脊椎の発症率を下げられる可能性があります。

5.男性側はデパケンを服薬していても大丈夫なのか

妊娠予定の女性の方に、たまに

「デパケンに催奇形性があると聞いたのですが、夫がデパケンを服用しています。大丈夫でしょうか?」

と質問されることがあります。

これはまったく問題ありません。

男性が服薬しているデパケンは赤ちゃんの体内にはほとんど届きませんので、心配しなくていいでしょう。

6.妊娠中もデパケンを継続するケースもある

デパケンは催奇形性が報告されているため、基本的には妊娠を予定している場合はデパケンは止める必要があります。またデパケン服用中に万が一妊娠が発覚したら、できる限り速やかにデパケンを中止すべきです。

しかし現状ではやむをえずデパケンを継続したまま出産を迎えることもあります。それはどのような場合かというと、

デパケンを服用するデメリット(奇形児出産の確率が上がる)よりも、服用のメリットの方が大きいと判断された時

です。

具体的にいうと、例えばデパケンをてんかんを抑えるために服用しているような場合が挙げられます。抗てんかん薬にはデパケン以外にもいくつか種類がありますが、人によっては「どうしてもデパケンじゃないと、てんかんが抑えられない」という方もいらっしゃるでしょう。

そのような方がデパケンを中止してしまうと、妊娠中にてんかん発作が生じてしまうかもしれません。軽い発作ならまだいいのですが、意識を失ったり、呼吸が一時的にできなくなるような発作であれば、これは危険です。

デパケンを止めてしまったことでてんかんが生じ、それが原因で倒れてお腹を強打してしまったり、一時的に呼吸が止まってしまい赤ちゃんを低酸素状態にさらしてしまう可能性があるのであれば、これはこれでリスクが高いと判断せざるを得ません。

このような場合はデパケンを服用するメリットとデメリットをしっかりと見極めて、服用すべきか止めるべきかを判断します。そして服用するメリットの方が高いのであれば、妊娠中であっても慎重に服用を続けざるを得ません。

また双極性障害もデパケンの中止によって躁状態が誘発されてしまう可能性が高い場合は、中止が難しい事もあります。もしデパケン中止により躁状態となってしまい、妊婦なのに過活動になってしまったり、不眠・過食となってしまったり、アルコール飲酒・喫煙などの逸脱症状が出現してしまうと、これはこれで赤ちゃんにとって害が大きいと考えられます。

このような場合でも、デパケンを服用するメリットとデメリットを慎重に判断し、服薬継続をするかどうかを考えます。

服用を継続することになっても、できる限りデパケンの服薬量は少なくなるように調整をしなくてはいけません。デパケンによる催奇形性は服薬量が多ければ多いほど発生率が上がり、1日量1,000mg以上だと確率が上がることが報告されています。血中濃度的にみると70μg/ml以上で催奇形性が高まると報告されています。できれば、1日量を400mg程度に下げれると良いでしょう。

また妊娠中に服薬を継続する場合は、併用薬にも気を付けて下さい。気分安定薬・抗てんかん薬には他にも催奇形性を持つものが少なくありません。例えば、

  • リーマス(炭酸リチウム)
  • テグレトール(カルバマゼピン)
  • フェノバール(フェノバルビタール)

にも催奇形性が報告されており、こちらに対しても対応が必要です。特にテグレトール・フェノバールとデパケンを併用していると催奇形性が更に上昇するという報告があり、一層の注意が必要です。

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