ハルシオンは超短時間型に分類されている睡眠薬です。
超短時間型は半減期が2~4時間ほどであり、ハルシオンの半減期は約2.9時間となっています。
半減期とは、内服したおくすりの血中濃度が半分になるまでの時間のことで、これはおくすりの作用時間とある程度相関します。半減期が分かると、そこからおくすりの様々な特徴が分かってきます。
ここでは、ハルシオンの半減期や他睡眠薬との比較、半減期から考えられるハルシオンの効果的な使い方について紹介していきます。また、「半減期」の意味についても少し詳しくお話します。
1.ハルシオンの半減期はどのくらいか
睡眠薬は半減期(≒作用時間)で大きく4種類に分類されています。
- 超短時間型・・・半減期が2~4時間
- 短時間型 ・・・半減期が6~10時間
- 中時間型 ・・・半減期が12~24時間
- 長時間型 ・・・半減期が24時間以上
半減期は、おくすりの血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことです。血中濃度が半分まで減ると、薬効がある程度消失するため、半減期はおくすりの作用時間とある程度一致すると考えられています。
おおまかには「半減期」≒「おくすりの作用時間」と考えてよいでしょう。
おくすりが身体から抜けていくスピードは個人差があるため、半減期は目安に過ぎませんが、おくすりを選択する際に大きな指標になる数値です。
ハルシオンの半減期は、睡眠薬の中でも最短クラスであり、
服薬してから1.2時間ほどで血中濃度が最高値になり、半減期は約2.9時間です。
すぐに効き、すぐに身体から抜けていくという「キレの良い」睡眠薬なのです。
2.睡眠薬の半減期一覧
睡眠薬は、半減期によって4種類に分類されることをお話しました。
主な睡眠薬の半減期を比較してみると下図のようになります。
睡眠薬 | 最高濃度到達時間 | 作用時間(半減期) |
---|---|---|
ハルシオン | 1.2時間 | 2.9時間 |
マイスリー | 0.7-0.9時間 | 1.78-2.30時間 |
アモバン | 0.75-1.17時間 | 3.66-3.94時間 |
ルネスタ | 0.8-1.5時間 | 4.83-5.16時間 |
レンドルミン | 約1.5時間 | 約7時間 |
リスミー | 3時間 | 7.9-13.1時間 |
デパス | 約3時間 | 約6時間 |
サイレース/ロヒプノール | 1.0-1.6時間 | 約7時間 |
ロラメット/エバミール | 1-2時間 | 約10時間 |
ユーロジン | 約5時間 | 約24時間 |
ネルボン/ベンザリン | 1.6±1.2時間 | 27.1±6.1時間 |
ドラール | 3.42±1.63時間 | 36.60±7.26時間 |
ダルメート/ベジノール | 1-8時間 | 14.5-42.0時間 |
睡眠薬によって、半減期や最高濃度到達時間が様々であることが分かります。
最高濃度到達時間が早いお薬は「即効性がある」と言えます。
例えばマイスリー、アモバン、ハルシオンなどの「超短時間型」は1時間前後で血中濃度が最高値になるため、「すぐに寝付きたい」という方に向いています。しかし半減期が3~4時間なので、すぐに効果が切れてしまい、長く眠りたい方には向いていません。
長く眠る事を目的にする場合は、エバミール/ロラメットやリスミー、ユーロジンなどの半減期が長めの睡眠薬が第一選択としては向いています。
ハルシオンは、約1.2時間で効きが最高値に達し、半減期は約2.9時間です。即効性があるけども、長くは効かない睡眠薬なのです。
睡眠薬はそれぞれ特徴が違いますので、主治医とよく相談して自分に合いそうな睡眠薬を選びましょう。
3.半減期から考えるハルシオンの使い方
不眠は大きく分けると2つのタイプがあります。
一つ目が「寝付けない」タイプで、「入眠障害」と呼ばれます。
二つ目は「寝付けてもすぐに目覚めてしまう」タイプで、「中途覚醒」と呼ばれます。
教科書的には、
入眠障害には超短時間型か短時間型、
中途覚醒には中時間型や長時間型
の睡眠薬が適していると書かれており、まずはこのセオリーに沿っておくすりを決めていきます。
ハルシオンは「超短時間型」に属するため、セオリー通りであれば、入眠障害に使われるべきです。1時間ちょっとで効きが最高値になるため、入眠障害への効果には定評があります。しかし半減期は約2.9時間と短く、持続性は期待できず中途覚醒への効果は乏しいと言えます。
超短時間型であるハルシオンは、入眠障害に特化した睡眠薬だと言っていいでしょう。
ハルシオンの使用にあたって注意すべきことに、ハルシオンは時としてキレが「良すぎる」ことがあります。
効果が強めで即効性のあるハルシオンは、服薬後急激に効くため、ふらつきや転倒の原因になることがあります。急激に脳を人工的に眠らせるため、中途半端な覚醒状態を作ってしまい、せん妄や一過性前向性健忘を起こすこともあります。キレが良いと依存や乱用にもつながりやすく、効果が強いという事は、副作用も多めだという事は念頭において使用しなければいけません。
また、強く効いて即効性がある睡眠薬というのは、誰かを眠らせたい時に使いやすいため、犯罪などに利用されやすいという側面も持っています。
実際、海外のいくつかの国ではハルシオンの発売を中止しているところもあります(イギリス、ブラジル、オランダ、ノルウェー、フィンランドなど)。キレの良さから依存・乱用がやや多く、危険だと判断されたからでしょう。
このことから、不眠の薬物治療において最初に使うべきおくすりとしてハルシオンは不適だと思われます。もちろん、状況によっては最初から使うこともあるでしょうが、一般的にはもう少し緩やかなおくすりから始めた方が安全ではあります。
効果が強めで副作用も強めというおくすりは、他の睡眠薬が効かないケースに限って慎重に使用した方がよいでしょう。
まずは似たような薬物動態を持つ、効果が強すぎない睡眠薬からはじめ、それでも十分な効果が得られない場合に限り、検討すべきでしょう。
4.半減期とは?
せっかくなので「半減期」について勉強してみましょう。
半減期というのは「おくすりの血中濃度が半分になるまでに要する時間」のことです。
半減期は、おくすりの作用時間とだいたい一致するため、半減期が分かれば作用時間がだいたい推測できます。
例えば、下記のような薬物動態を示すお薬があるとします。
だいたいのお薬は内服すると、このグラフのようにまず血中濃度がグンと上がり、それから徐々に落ちていきます。
このお薬は、投与10時間後の血中濃度は「10」ですが、投与20時間後には血中濃度は半分の「5」に下がっています。血中濃度が半分になるのに要する時間は「10時間」ですので、このお薬の半減期は「10時間」です。そして半減期が10時間ということは「だいたい10時間くらい効くおくすり」なんだと分かります。
正確には半減期と作用時間の長さは完全に一致するわけではありません。実際は、おくすりを飲むとまずは血中濃度は上がり最高血中濃度に到達してそれから下がっていきますので、厳密に言えば最高濃度に到達するまでの時間も加味しなければいけないでしょう。
もっと言えば、すべての人が、血中濃度が半分になったら薬効を感じなくなるとは言えません。血中濃度がどれくらい下がれば薬効を感じなくなるかは人それぞれでしょう。半分の人もいれば、それ以上・それ以下の方もいます。
更に個々人の体質や代謝能力まで考え出すとキリがなく、そうなると作用時間を数値化することは不可能です。
でも、「どれくらいの効くかは、人それぞれですから分かりません」では話にならないので、ひとつの目安として、半減期を使用しているのです。
細かいことを考え出せばキリがありませんが、あまり難しく考えずざっくりと「だいたい半減期が作用時間と同じくらいだ」と考えていいのではないかと思います。
半減期はあくまでも目安で、絶対的な値ではないという事は気を付けてください。個人差はおおいにあります。お薬を分解する力が強い人もいれば弱い人もいます人によって差があります。
特に肝臓が悪い方は、お薬を分解する力が弱まっているため、一般的に半減期よりも長い時間お薬が身体に残ってしまいます。