ハルシオンの依存性【医師が教える睡眠薬のすべて】

ハルシオンはベンゾジアゼピン系に属する睡眠薬です。

ベンゾジアゼピン系は依存性があることが知られており、ハルシオンも依存性があります

依存は注意すべき副作用ではありますが、ハルシオンを一回でも飲んだら必ず依存になるというわけではありません。主治医の指示を守って正しく使えば、依存を起こさないことは十分可能です。

ここではハルシオンの依存性について、また依存にならないために気を付けることについて説明します。

1.ハルシオンの依存性の強さ

ハルシオンを含め、全てのベンゾジアゼピン系には依存性があります。しかし、その中でハルシオンの依存性は、「多め」だと言えます。

ハルシオンは催眠効果が強く、また即効性もあって「キレが良い」ことが特徴です。不眠に良く効く、ということはそれだけ頼ってしまいやすいということでもあり、依存にもなりやすいというリスクを持っています。

実際、海外ではハルシオンの発売を中止した国もあります(イギリス、ブラジル、オランダ、ノルウェー、フィンランドなど)。依存性だけが発売中止の理由ではありませんが、理由の一つではあると思われます。

依存というのは、その物質(ここではハルシオンのこと)が無いと居ても立ってもいられなくなってしまい、常にその物質を求めてしまう状態です。

アルコール依存であれば、アルコールが無いといても立ってもいられなくなる、ゲーム依存だったら、ゲームをしていないと落ち着かずにゲームが手放せなくなってしまう、このような状態を指します。

ハルシオンの依存とは、ハルシオンに頼り切ってしまい、常に手放せなくなってしまうことです。

ベンゾジアゼピン系は全て依存を起こす可能性がありますが、その生じやすさは、

  • 効果が強いほど生じやすい
  • 半減期(=くすりの作用時間の目安)が短いほど生じやすい
  • 服薬期間が長いほど生じやすい
  • 服薬している量が多いほど生じやすい

と言われています。

効果が強いと、「効いている!」という感覚が得やすいので、つい頼ってしまい依存しやすくなります。半減期が短いとおくすりがすぐに身体から抜けてしまうので、何度も服薬してしまいやすく、これもまた依存しやすくなります。

また、飲んでいる期間・量が多いほど身体がおくすりに慣れきってしまうため、依存になりやすいのです。

ハルシオンは催眠作用も強く、半減期も約2.9時間と非常に短いため、依存形成を起こしやすいのです。おくすりが強く効くのはありがたい反面で、依存を起こしやすいという事は理解しておく必要があります。

不眠症状で苦しんでおり、専門家がハ「ルシオンを使うことが適切だ」と判断して使用することは問題ありませんが、服薬期間や服薬量を適宜見直しながら、漫然と飲み続けないように気を付けて使っていく必要があります。

2.依存にならないために気を付ける事

アルコール依存の方が、アルコールをやめるのはかなり大変です。何とかやめたとしても、しばらく経つとまた飲んでしまう方は非常に多いです。ここからも分かるように、一度依存になってしまうとそこから抜け出すのはかなりの労力を要します。

そのため、依存になってから焦るのではなく、「依存にならないように注意する」という予防が何よりも大切です。

依存にならないためには、どんなことに気を付ければいいでしょうか。先ほど、依存になりやすい特徴をお話ししました。復習すると、

  • 効果が強いほど生じやすい
  • 半減期(=くすりの作用時間の目安)が短いほど生じやすい
  • 服薬期間が長いほど生じやすい
  • 服薬している量が多いほど生じやすい

でした。

これと反対のことを意識すれば、依存は生じにくくなると言えます。
つまり、

  • なるべく効果が弱い睡眠薬を選択する
  • なるべく半減期が長い睡眠薬を選択する
  • 服薬期間はなるべく短くなるようにする
  • 服薬量をなるべく少なくなるようにする

ということです。

ひとつずつ、詳しく説明しましょう。

Ⅰ.なるべく効果が弱い睡眠薬を選択する

なるべく弱い作用を持つおくすりを選ぶことは、安全性の面では重要です。

仮に、あなたの不眠の強さが数値で「5」であったとして、「10」の強さがある睡眠薬を服薬していたとしたら、それは強すぎです。

確かに良く眠れますが、おくすりが必要以上に効いている状態であるため、過剰に身体に負担がかかってしまいます。

この場合は、「5」の強さの睡眠薬を選択することが一番よい選択です。睡眠もしっかり取れますし、身体への負担も最小限にできています。

もちろん、弱めすぎる必要はありません。「5」の強さの不眠があるのに、「2」の強さしかない睡眠薬を使っていたら確かに身体への負担は少ないのですが、しっかりと眠れません。症状が取れないと病気もいつまでも治りません。これでは何のために治療しているのか分かりませんね。

この場合はもちろん強めて構いませんが、必要以上に強いおくすりを使うのはよくない、ということです。

一般的にハルシオンは強い催眠作用(眠らせる作用)を持ちます。強い不眠でつらい時に、ハルシオンを使ってしっかりと治療するのは意味のある事ですが、不眠が治ってきているのに、いつまでも強いおくすりを漫然と続けるのは良くありません。

主治医と相談しながら定期的に「弱い睡眠薬に切り替えられないか」と検討してみることは依存を生じさせないために大切です。

Ⅱ.なるべく半減期が長い睡眠薬を選択する

依存形成という面でみれば、半減期の長いおくすりの方が依存になりにくいようです。

半減期というのは、そのおくすりの血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのおくすりのおおよその作用時間の目安として用いられています。

一般的に半減期が短いおくすりというのは、すぐに効き、すぐに効果がなくなります。すぐ効くので「効いてきた!」という実感を得やすく、つい頼ってしまいやすくもあります。また、すぐに効果が消えてしまうため、つい多く服薬をしてしまいがちです。

反対に半減期の長いおくすりは、ゆっくり効いてきて、ゆっくり身体から抜けます。じわじわ効いてくるため「効きがよく分からない」というのがデメリットですが、実は依存にはなりにくいというメリットがあるのです。

ハルシオンの半減期は約2.9時間です。これは非常に短いため「依存を出来る限り起こしたくない」と考えるのであれば、より半減期の長い睡眠薬にかえてみることは有効な選択肢です。

ただし、長く効くお薬は、依存面でいえば良いのですが、眠気やだるさが一日中続いたりと、長く効くことによる問題もありますので、
変薬は主治医とよく相談してから判断してください。

Ⅲ.服薬期間はなるべく短くなるようにする

ベンゾジアゼピン系は漫然と飲み続けてはいけません。

睡眠薬にしろ抗不安薬にしろ、ベンゾジアゼピン系というおくすりは「病気の根本を治療するおくすり」ではなく「補助的なおくすり」「一時しのぎのおくすり」という位置づけです。

そのため、服薬期間はなるべく短くなるように配慮しなければいけません。

ベンゾジアゼピン系は1か月で依存性が形成される、と指摘する専門家もいます。種類や量によるので一概には言えませんが、長期間飲めば依存形成が生じやすくなるのは間違いありません。

病気の症状がつらく、睡眠薬が必要だと判断される期間に服薬をするのは問題ありません。病気の症状を取ってあげるメリットと依存形成のデメリットを天秤にかけてメリットの方が大きいと判断されれば、服薬はすべきです。

しかし、良くなっているのにいつまでも「なんとなく」「やめるのも不安だから」と服薬を続けるのは注意です。

睡眠薬はずっと飲み続けるものではありません。人間の「眠る力」は一時的に弱まることはあっても、無くなることは絶対にありえません。睡眠薬は、眠る力が弱まっている時に一時的に服薬するものだという認識を持ちましょう。

症状や病気が改善してきたら定期的に主治医と「量を減らせないだろうか?」と検討してみてください。

Ⅳ.服薬量をなるべく少なくなるようにする

不眠が苦しいとつい、たくさんのおくすりを飲みたくなります。しかし、服薬量が多ければそれだけ依存になりやすくなります。

服薬量は、必ず主治医の先生が指定した量を守ってください。医師は依存性のリスクも常に念頭に置きながら服薬量を決めています。それを勝手に2倍飲んだり3倍飲んだりすれば、急速に依存が形成されてしまいます。

Ⅴ.ベンゾジアゼピン系以外に変えてみる

これはまだエビデンスが不確かなところもありますが、ベンゾジアゼピン系よりも非ベンゾジアゼピン系の方が依存を起こしにくいのでは、と指摘する専門家もいます。

非ベンゾジアゼピン系:商品名で言うと、マイスリー、アモバン、ルネスタなど

依存形成をなるべく起こさないために、もし非ベンゾジアゼピン系を検討できる不眠なのであれば、非ベンゾジアゼピン系にしてみるのはいいかもしれません。

また、メラトニン受容体作動薬(商品名:ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬(商品名:ベルソムラ)は依存性が無いと言われていますので、これももしこれらの睡眠薬を検討できる不眠なのであれば、変薬してみるのは有効な手です。

3.依存を過剰に怖がるのも問題

睡眠薬や抗不安薬の依存は社会問題にもなっており、しばしば新聞などでも取り上げられています。

そのためか、最近は依存性を過剰に怖がって、「依存が怖いから精神科のおくすりは一切飲みたくありません!」という方もいらっしゃいます。

もちろんおくすりを飲まないで治るのであれば、飲まないに越したことはありません。しかし、診察した医師が「おくすりを使った方が良い」と判断する状態なのであれば服薬を過剰に怖がらないでください。

服薬した方が総合的なメリットは高い、と判断したから主治医はそのように言っているのです。

精神科のおくすりを飲むと絶対に依存になると怖がる人がいますが、そんなことはありません。むしろ、医師の指示通りの量を、決められた期間だけ服薬していただけであれば、依存にならない人の方が圧倒的に多いのです。

依存になるのは、医師の指示を守らずに

  • 勝手に量を調節してしまう
  • 医師が減薬を勧めても、「くすりをやめるのが不安」と現状維持を希望する
  • 定期的に来院せず、服薬も飲んだり飲まなかったりバラバラ

などの場合がほとんどです。

依存形成を起こす身近な物質にアルコールがありますが、「アルコール依存になるのが怖いから、飲み会は欠席します!」という人はいないと思います。

それは、アルコールは依存性があるけれど、適度な飲酒を心掛けていれば依存にはならないと皆知っているからです。そしてほとんどの人は節度を持った飲酒が出来ており、依存になりません。

アルコール依存になるのは、

  • 度を越した飲酒をし続ける人
  • 周囲や医師が「飲酒を控えて」とアドバイスしても聞かない人

ですよね。

アルコールだって、睡眠薬だってその点は同じなのです。

アルコールは依存なんて気にせず飲むのに、睡眠薬になると適度な量でも「依存になる!」と過剰に怖がるのは、私たち専門家から見るとなんだか不思議に感じます。

どちらも「節度を持って、必要な時だけ付き合っていこう」でいいと思うのです。

もちろんおくすりを飲まないに越したことはないのですが、必要がある期間はしっかりと内服することも大切です。