国がジェネリック医薬品を推奨している事もあり、ジェネリック医薬品を目にする機会は年々増えています。これは医療費削減が主な目的になりますが、患者さん側としてもお薬代が安く済むため、メリットがあります。
ハルシオンにもジェネリックがたくさんありますので、ハルシオンを処方された時にジェネリックを勧められた方もいらっしゃると思います。
しかし「高い正規品」と「安いジェネリック」があると、
「安いジェネリックは品質は大丈夫なのか」
「本当に正規品と同じように効いてくれるのだろうか」
と不安にもなってしまいます。
今日はハルシオンのジェネリックについて、先発品と本当に同じ効果が得られるのか、なぜ安いのかといった事についてお話していきます。
1.ジェネリック医薬品とは何か?
ジェネリック医薬品とは、「後発品」とも呼ばれます。
お薬は「先発品」と「後発品」があります。先発品は、その主成分を持つお薬として一番最初に発売されたお薬です。そして後発品は、先発品を真似して作られたお薬のことになります。
今回の話で言えば、「トリアゾラム」という主成分を使った睡眠薬として、ファイザー株式会社が1983年にハルシオン(一般名:トリアゾラム)を発売し、これが「先発品」になります。
お薬というのは、その開発・研究に巨額のお金がかかっています。製薬会社さんに聞いた話だと、1つのお薬を作るのに数百億とかそういう規模のお金がかかるそうです。有効な成分を探すのにだってお金がかかりますし、やっと見つけたその成分の有効性・安全性を詳しく調査するのにもお金がかかります。
お薬を作るのって大変なんですね・・・。お薬って高いものもありますが、薬価にはこのような研究・開発費もかかっているのです。
しかし、そうやってやっとの思いで作ったお薬を、他の製薬会社がすぐに真似して同じものを作ってしまったら、先発品を作った製薬会社はたまったものではありません。巨額のお金をかけた研究・開発は先発品の会社が全てやってくれているわけですから、何度もやる必要はありません。真似する会社は、先発品を発売した会社が投資した数百億の研究・開発費をかけずにお薬を作れてしまいます。
こんなことが普通に許されてしまうようだと、新しいお薬を作るメリットが会社になくなってしまい、どの製薬会社も新しい薬を作らなくなってしまいますよね。
そこで国は、新薬に一定期間「特許」を発生させ、「一定期間はこのお薬を真似しないように」という縛りを作っています。特許期間中は、他の製薬会社は同じお薬を作ることが出来なくなり、その間に先発品の製薬会社さんは、お薬にかけた研究・開発費を回収できるようにしたのです。
これによって先発品の製薬会社は、お薬にかけた研究・開発費を回収できるようになり、会社としても利益をちゃんと上げれるようになります。
しかし一方でこの特許が永遠に発生してしまうと、1つの製薬会社による市場独占につながってしまい、これは健全な医療を阻害する可能性があります。
そのため「一定期間」を過ぎれば、他の製薬会社も先発品の真似をしたお薬を発売していいことになっています。この「一定期間」がどれくらいかというのは色々な条件があるようで、法律の専門家でもない私も詳しくは分かっていないのですが、おおよそで言うと10年前後であることが多いようです。
この特許期間が切れた先発品を真似して作られたのが「ジェネリック医薬品(後発品)」になります。ジェネリックはお薬の特許が切れると「ゾロゾロ」と発売されるため、「ゾロ」と呼ばれることもあります。
ジェネリック医薬品は、先発品と違って、莫大な研究・開発費をかけずにお薬を作れますので、その分薬価が安くなります。
2.ハルシオンのジェネリックにはどのようなものがあるのか
ジェネリック医薬品は、人気のあるお薬ほどたくさん発売されます。
製薬会社としては、たくさん処方されるお薬のジェネリックを作った方が利益につながるわけですから当然ですよね。
つまり、そのお薬のジェネリック医薬品がどのくらい発売されているかというのは、そのお薬の人気を表しています(特許期間中の新薬は除きます)。ちなみに人気なお薬だから良いお薬だとは必ずしも言えないので、そこは注意が必要です。
ハルシオンは人気のある睡眠薬であり、多くのジェネリックが発売されています。
- ハルラック
- ミンザイン
- アサシオン
- トリアゾラム
- パルレオン
- トリアラム
- アスコマーナ
- カムリトン
など、まさに「ゾロゾロ」と発売されました。
ちなみに、1つのお薬にこれだけのジェネリック医薬品が発売されると、現場は大変です。今までの何倍ものお薬の名前を覚えなくてはいけないので、お薬の取違いなどのミスが発生する可能性も高くなってしまうでしょう。またあまりにたくさんの薬名があると、患者さんも「これって何のお薬なの?」と分からなくなってしまいます。
そのため最近ではジェネリック医薬品は
「一般名+会社名」
という呼び名で統一することで、何のお薬なのかが分かりやすくなるように工夫されています。ハルシオンのジェネリックも同様で、
- ミンザイン⇒トリアゾラム「日医工」
- アサシオン⇒トリアゾラム「タナベ」
- パルレオン⇒トリアゾラム「テバ」
- アスコマーナ⇒トリアゾラム「日新」
と徐々に名称が変更されています。確かにこの名称だと「これはトリアゾラムを使ったジェネリックなんだ」と分かりやすいですね。
3.ハルシオンとジェネリックの効果は同じなのか?
患者さんから頂くジェネリックの質問で多いのが
「先発品と効果は本当に同じなのですか?」
「安いという事は、質が悪いという事ですか?」
というものです。
ジェネリックの利点は「値段が安い」ところですが、確かに「正規品か、安い後発品かどっちにしましょうか」と聞かれれば、「安いという事は質に何か問題があるのかも」と考えてしまうのは普通でしょう。
しかし、基本的に正規品(先発品)とジェネリック(後発品)は同じ効果になります。
その理由は同じ主成分を用いていることと、ジェネリックも発売に当たって試験があるからです。ジェネリックは発売するに当たって、「これは先発品と同じような効果を示すお薬です」ということを証明した試験を行わないといけません。
これを「生物学的同等性試験」と呼びますが、このような試験結果や発売するジェネリック医薬品についての詳細を厚生労働省に提出し、合格をもらわないと発売はできないのです。
そのため、基本的にはジェネリックであっても先発品と同等の効果が得られると考えてよいでしょう。
しかし臨床をしていると、
「ジェネリックに変えてから調子が悪い」
「ジェネリックの効きが先発品と違う気がする」
という事がたまにあります。
精神科のお薬は、「気持ち」に作用するためはっきりと分かりにくいところもありますが、例えば降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリックなどでも「ジェネリックに変えたら、血圧が下がらなくなってきた」などと、明らかに先発品と差が出てしまうこともあります。
なぜこのような事が起こるのでしょうか。
これは、先発品とジェネリックは基本的には同じ成分を用いておおよそ同じ薬効を示すことが試験で確認されてはいるけども、100%同じものではないからです。
先発品とジェネリック医薬品は、生物学的同等性試験によって、同じ薬効を示すことが確認されています。しかし「100%全く同じじゃないと合格しない」という試験ではなく、効果に影響ないほどのある程度の誤差は許容されます。この誤差が人によっては明らかな差として出てしまうことがあります。
また先発品とジェネリックは、「主成分」は同じです。ハルシオンのジェネリックは、どれも「トリアゾラム」という主成分で作られた睡眠薬になります。しかし主成分は同じでも添加物は異なる場合があります。その製薬会社それぞれで、患者さんの飲み心地を考えて、添加物を工夫している場合もあるのです。
この添加物が人によって合わなかったりすると、お薬をジェネリックに変えたら調子が悪くなったりしてしまう可能性があります。
このため、「先発品とジェネリックは基本的には同じ効果だけども、微妙な違いはある」、というのがより正確な表現になります。
ジェネリックに変更したら明らかに調子がおかしくなるというケースは、臨床では多く経験することはありません。しかし全く無いわけではなく、確かに時々あります。そのため、そのような場合は無理してジェネリックを続けるのではなく、他のジェネリックにするか、先発品に戻してもらうようにしましょう。
ちなみに、「ジェネリックは安い分、質が悪いのでは?」と心配される方がいますが、これは基本的には誤解になります。ジェネリックが安いのは質が悪いからではなく、巨額の研究・開発費がかかっていない分が引かれているのです。