ストレスがかかった時の自分の傾向を知っておこう

生きていれば「イヤなこと」「ストレス」に遭遇することは必ずあります。

ストレスは工夫次第で「減らす」ことはできますが、「ゼロにする」ことは極めて困難です。

となると、精神的に安定した毎日を送るために意識すべき事は「ストレスをゼロにする事」ではありません。安定したこころを得るためには「自分がストレスを受けている事に、いち早く気付ける事」、そして「傷が浅いうちに早めに対処できるような体制を整えておく事」が現実的には大切なポイントになります。

これはつまり、「ストレスを受けた時に自分がどうなりやすいのかを知っておくこと」だとも言えます。

ストレスを受けた時の自分の傾向を知っておけば、精神的に不安定になりかけた時に早い段階で気付くことができます。早く気付けば、それ以上の悪化を防ぐこともできるということです。

自分の事というのは分かっているようで意外と分かっていないものです。みなさんは、自分がストレスを受けた時にどうなるのか、把握できていますか。

今日は、ストレスを受けた時の自分の傾向を知っておく意義についてお話します。

1.ストレスが溜まった時に出やすい症状は?

過剰なストレスが溜まると、ストレスは必ずどこかから噴き出してきます。その噴き出し方は人によって様々ですが、ストレスは無限に溜め込めるものではありませんので、必ずどこかから噴き出します。

ストレスを受け続けて傷が大きくなれば、誰でも「これはまずい」と気付くでしょう。ストレス過剰が続き、家事・勉強・仕事などができなくなったり、出社できなくなったりすれば、これは誰がみても「問題だ」と分かり、何とかしようと考えます。

しかしここまで来てやっと気付くのでは遅すぎます。会社に行けなくなってから慌てて対処をするようでは、本人の被害も甚大ですし周囲にも迷惑がかかってしまいます。そのため、理想としてはそこに至る前の「このままいくとまずいぞ」という段階で気付き、早めに対策を打てるようにすることではないでしょうか。

そのための第一歩は、「ストレスを受けた時の自分の傾向を知っておくこと」になります。

みなさんは、ストレスを受けたら自分がどのようになる傾向があるのか把握しているでしょうか。意外と把握できていない方は多いように感じます。しかしこれを把握する事によるメリットは大きいため、ぜひみなさんに把握して頂きたいと思っています。

一般的にストレスは、自分の元々の突出した性格の部分から噴き出すことが多いようです。

例えば、普段から気が短い人は、より怒りっぽくなったり攻撃的になったりします。普段からお酒が好きな人は、更にお酒に走ったりします。

全員が必ずこうなる、というわけではありませんが、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

ストレスを上手に制するためには、ストレスを受けた時に自分がどのような反応をするのかという「傾向」を知ることが何より大切です。

患者さんのお話を聞いてみると、ストレスを受けた時の傾向は人によって本当にそれぞれ異なります。

「いつもより貧乏ゆすりが酷くなります」
「浪費が多くなり、いつもなら買わないものまで買ってしまいます」
「食欲が上がり、いつもよりたくさん食べてしまいます」
「寂しさからか、人にしつこくなってしまうんです」

これらは一例に過ぎませんが、人それぞれ、出やすい症状があるはずです。

ストレスを無限にため込める人はいませんので、過剰なストレスはなんらかの形で現れてくるはずです。その傾向を知ることが、ストレスと上手に付き合えるようになるための第一歩となります。

2.自分の傾向はどうやったら分かるのか

「あなたはストレスを受けた時、どのような症状が出ますか」

こう聞かれて考えてみたとしても、

「あれ??そう言えばよく覚えてないな・・・」

と思い出せない方もいるかもしれません。自分の事というのは自分自身では意外と良く分かっていないものです。特に「ストレスを受けた時」というのは冷静ではなく、精神的に不安定になっている時がほとんどですので、「あまり良く覚えていない」という方もいらっしゃるでしょう。

このように自分ではよく分からないという場合は、どうしたら分かるでしょうか。

ストレスを受けた時の自分の傾向を知るための2つの方法を紹介します。

Ⅰ.身近な人に聞く

一番確実なのは親や兄弟などの身近な人に聞いてみることです。一緒に過ごす時間が多い親友などに聞いてみるのもよいでしょう。あるいは学校の先生や職場の上司など、あなたがストレスを感じた時に取る行動を目の当たりにしている可能性が高い人に聞いてみてもいいでしょう。

あなたがストレスを受けて不安定になっている時でも、周囲の人は冷静ですのでしっかりとあなたの傾向をみれていることがあります。

診察をしていて強く感じるのですが、特に母親はあなたのクセをよく把握しています。母親は幼少期からあなたの事を良く見ていますから、やはりクセも良く分かっているのです。

「あなたはイライラするとすぐに貧乏ゆすりが始まるのよ」
「あの子は昔から自分の思い通りにならない時は爪を噛む癖があったんです」

など、患者さん自身も意識できていなかった「ストレスを受けた時の傾向」を教えてくれて助かったことが診察でも何度かあります。これを参考にしない手はないでしょう。自分で思い当たらない場合は、母親に聞いてみるのはとても有用です。

Ⅱ.自分で記録を取ってみる

中には事情により身近な人に聞く事が出来ないという方もいらっしゃるかもしれません。この場合はどうしたらいいでしょうか。

この場合は、これで自分で見つけていくしかありません。

自分で自分の傾向を見つけるために一番確実な方法は「記録」を取ることになります。

自分の傾向を自分で探すためには毎日記録することを数週間続けてみましょう。

記録といっても細かくやる必要はありません。1日が終わったら、簡単で構いませんので、

・今日ストレスを感じたことがあったか。
・その時にどんな行動を取っていたか

を思い出し、記録していきましょう。

重要なのは必ず「その日のうちに」記録を取ることです。人間の記憶は意外といい加減ですから、数日経ってしまうと忘れてしまったり、あやまった記憶に変わってしまっている事があります。必ずその日に振り返る事が大切です。

これを数週間続けると、大きなストレスを受けた時の自分の傾向が見えてくるはずです。

また「ストレスを受けた時の反応」とは反対に、「ストレスから解放された時の反応」も合わせて記録できるとなお良いです。「ストレスから解放されたら、〇〇が出来るようになった」という事は、ストレスを受けている時は「〇〇が出来なくなる」という傾向があるという事で、これも自分を知るために役立つ情報になるからです。

あるストレスから解放された患者さんが、診察時にふと「そういえば最近、飼っているハムスターに愛情を持って接することができるようになったんですよ」とおっしゃったことがあります。

これは逆に言うと、ストレスを受けている時というのは

「ハムスターを義務感で世話をするようになってしまっていた」
「かわいがらなきゃと思うのに、かわいいと思えない自分がいた」

という事になります(実際に患者さんに確認したら、「言われてみればその通りですね」とおっしゃってました)。

この事に気付けたのはとても大きい事です。なぜならば、これからは

「最近、ハムスターをかわいいと思えない・・・」

と感じる事があれば、それは「無理なストレスがかかっているのかもしれない」という可能性がある事に気付きやすくなるからです。

3.自分がストレスを受けていると気付いたら

このように自分自身に対する理解を深めていくと、こころが不安定になりかけている自分を早期に発見できる確率が圧倒的に高くなります。

自分自身の不調を早めに気付くことができれば、対策だって取ることができます。どんな病気も同じですが、早く発見し、早く対策を打てば打つほど傷は浅くて済みます。

例えば、「自分はストレスを受けすぎると貧乏ゆすりが多くなる」、という傾向がある方が、「どうも最近貧乏ゆすりが多いぞ」という事に気付けば、「これをこのまま放置していたら、精神的に不安定になってしまうかもしれない」と気付けます。

ここまで気付く事ができれば、そうならないために、

  • 早めに主治医に相談する
  • 今のストレス因子をリストアップし、減らせるものがないか検討する
  • 気分転換や休息の時間を増やす
  • 睡眠時間を多くする
  • 家族や友人に話を聞いてもらう時間を増やす

などの対策を早めに取る事ができます。

これはこころが本格的に不安定になる前に、このような対策を取れれば傷が浅いうちに回復させることが可能となるでしょうし、精神疾患の予防にもつながります。