睡眠薬の副作用 -依存性への考察-

睡眠薬副作用イメージ

一般人口のおおよそ5人に1人は不眠を自覚しており、20人に1人は睡眠薬を内服している。

このような事実が調査で明らかになっています。

不眠は特殊な人が患うものではありません。誰もが不眠になる可能性があり、誰もが睡眠薬のお世話になる可能性があります。

睡眠薬は

「薬漬けになる」
「飲んだら最後、やめられない」
「危険なお薬」

など、悪いイメージを持たれている方が少なくありません。

もちろん、乱用すれば危険という事に異論はありませんが、一方で睡眠薬が必要以上に悪者にされている印象も受けます。近年、主に用いられている睡眠薬の多くは、安全性が高く、みなさんが恐れているほど危険なものではありません。

ここでは睡眠薬の副作用のうち、みなさんが一番心配する、耐性や依存性について詳しくみてみたいと思います。

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1.睡眠薬は正しく使えば、依存にはならない

「睡眠薬って癖になるんですよね?」
「一度飲んだらやめられなくなるんですよね?」
「できる限り、飲まない方がいいんですよね?」

これらは、診察場面でよく質問されることです。どの質問も、100%間違いではありませんが正解とは言い難いものでしょう。このように睡眠薬に対してネガティブなイメージを持っている方は多いのです。

確かに昔に使われていた「バルビツール酸系」と呼ばれる睡眠薬は、耐性や依存性が強く、また命に関わるような副作用が出ることもあり、とても怖いものでした。

その危険性は大きな議論を呼び、安全性の高い睡眠薬への要望が高まりました。結果、近年はバルビツール酸系はほぼ用いられなくなり、安全性の高い睡眠薬が主流になっています。(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬など)

しかし一度睡眠薬についた悪印象はなかなか消えず、今でも「睡眠薬は怖いもの」という認識が世間にはあります。

睡眠薬について冒頭のような疑問が浮かんだときは、次のように考えてみてください。

あなたは、お酒は飲んだことがあるでしょうか?

ほとんどの方が「はい」と答えるでしょう(もちろん未成年は除きます)。毎日飲む人、たまにしか飲まない人と様々ですが、今まで、一度もお酒を口にしたことがないという人はほとんどいません。

みなさんご存知のようにアルコールにも依存性や耐性があります。

では、お酒を飲んだ人は皆、アルコール依存症になるでしょうか?

「普通にお酒を飲んでて、依存症になるわけないでしょう。」
「アルコール依存性っていうのは毎日たくさんのお酒を飲み続けた人がなるのでしょう」

こう思うのではないでしょうか?

そう、まさにこれが答えです。睡眠薬にもまったく同じことが言えます。

お酒を飲む人はたくさんいますが、アルコール依存症になるのはその中の極々一部の人だけです。毎日毎日浴びるようにお酒を飲めば耐性がつき、飲酒量も増えて依存症になります。しかし節度を持って飲んでいれば、決して依存症になることはありません。

お酒をたしなむほとんどの人は、アルコールに支配されることなく、アルコールを自分のコントロール下に置くことができています。

アルコールに限らず、世の中には依存性になるものがたくさんあります。

タバコもそうだし、パチンコやゲームなどの娯楽もそうでしょう。買い物依存、彼氏への依存など、依存の対象は多岐に渡ります。

しかし、依存症は、「度が過ぎて、その行為をしている」人しかなりません。一般的に適正と言われる量をたしなむ程度で依存になんてなるわけありません。

睡眠薬だって同じだと思ってください。

依存になる可能性はありますが、それは医師の指示を守らず、体に害があると考えられる飲み方を続けた場合だけです。

睡眠薬だけ、必要以上に依存症を恐れることはおかしいのです。飲み会に誘われた時、「僕、アルコール依存症になるのが怖いんでやめときます」と断る人を見たことがありますか?私は見たことがありません。

睡眠薬はもちろん飲まずに済むなら、それに越したことはありません。しかし、眠れなくて大きな苦痛を感じていたり、仕事などに支障が出たりとデメリットが大きいようであれば、飲むことを検討したっていいのです。

2.睡眠薬の依存性・耐性の研究報告

バルビツール酸系睡眠薬が世間に植え付けた影響は大きく、いまだに「睡眠薬は依存性や耐性の副作用が怖い」という誤解があります。

バルビツール酸系は麻酔のような強力な睡眠作用があるかわりに、依存性などの副作用も明らかに強く、その功罪は大きな問題になっていました。

1980年代ごろから、バルビツール系に代わり、「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる睡眠薬が登場し、睡眠薬の安全性は格段に向上しました。

このベンゾジアゼピン系にも多少の依存性があると考えられていますが、実はベンゾジアゼピン系の依存性を証明した大規模研究というのはありません。作用機序や臨床での印象、バルビツール酸系で得た経験から、「依存性や耐性がありそうだ」と考えられているに過ぎないのです。

反対に「ベンゾジアゼピン系の依存性や耐性が証明できなかった」という研究はいくつかあります。

ある研究では、ロラメット、ベンザリンの効果を6か月間観察し、これらのお薬に対して「6か月間効果が持続したが、耐性は形成されなかった」と結論しています。半年間投与しても睡眠薬の効きも良好、量もどんどん増えることはなかったのです。
(Oswald l, et al.Benzodiazepine hypnotics remain effective for 24 week.Br Med J 1982;284:860-3)

別の研究でもマイスリーの効果を5週間観察し、同じく「効果は持続したが、耐性は形成されなかった」と結論していますし、ルネスタに関しても同様の研究があります。
(scharf MB,et al.A multicenter,placebo-controlled study evaluating zolpidem in the treatment of chronic insomnia.J Clin Psychiatry 1994;55:192-9)
(Krystal AD,et al.Sustained efficacy of eszopiclone over 6 months of nightly treatment:results of a

これらの研究から、現在の睡眠薬には少なくとも重篤な依存性は確認できないのではないか、と言う事ができます。

実際の診察場面でも、睡眠薬を適量内服している方で耐性が生じたり依存になって苦慮する症例というのはごくごく稀です。

依存で困るのは、3剤以上の多量の睡眠薬を内服している方だったり、眠れないからと医師の指示を守らず数倍量内服してしまう方だったり、バルビツール酸系などの依存性の強い睡眠薬を使っている方です。

ベンゾジアゼピン系に依存性が全くないとは感じません。

しかしお酒と同じで、適量を飲んでいる分には依存性が問題となることはほとんどないと考えて問題ないでしょう。

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4.更に安全な睡眠薬への推移

一番最初に使われるようになった睡眠薬は尿素系と呼ばれるもので1860年ころに登場しました。

その後、1900年頃にバルビツール系が登場し、睡眠薬の主流となりました。尿素系もバルビツール系も、ものすごく強く効くかわりに危険と隣り合わせのお薬でした。

不眠の患者さんにとっては、大きな助けとなった一方で、耐性が形成されて服用量がどんどん増え、過量に服薬するようになった患者さんが命を落とすということが後を立ちませんでした。

眠れるようになる代わりに呼吸まで止めるリスクがある薬なんて大問題です。「もっと安全な薬を」ということで、1960年ごろよりベンゾジアゼピン系という睡眠薬が誕生しました。

ベンゾジアゼピン系は効果がやや弱くなった分、副作用も大きく改善され、適量を内服する分には依存性はほぼ問題がなくなりました。

ベンゾジアゼピン系は筋肉を弛緩させる作用があるため、ふらついて転倒するなどの副作用があったため、睡眠だけに選択的に作用し、筋肉を弛緩させにくいものとして、1990年ごろ、非ベンゾジアゼピン系というものも誕生しました。

しかし、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系も、大量に内服すると依存の形成が起こります。

中には医師の指示に従わず大量に服薬してしまったり、いくつもの病院から睡眠薬をもらって、大量に飲んでしまう、という人もいて、睡眠薬の依存性への問題は、まだ続いていました。

さらなる安全性を求めて、2010年にはメラトニン受容体作動薬が発売され、そして2014年にはオキレシン受容体阻害薬が発売される予定です。

メラトニン受容体作動薬もオキレシン受容体阻害薬も、効果は強くはなく、自然な眠りを後押しするようなイメージのお薬です。その分、耐性や依存性は全くないと考えられています。

現状、バルビツール酸系や尿素系はほとんど処方されなくなりましたが、しかし、まだ一部の患者さんには処方されています。効果だけみれば「最強の睡眠薬」ですので、処方を希望する方も多いのです。

メラトニン受容体作動薬は、安全な薬ではあるのですが、効果が弱く即効性に欠けるため、今一つ患者さん受けが良くなく、そこまで処方頻度は多くないのが実情です。

ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系が効果もほどほどあり、副作用もほどほどであるため、一番多く処方されています。

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