セレナールは1970年から発売されている抗不安薬になります。
抗不安薬とは文字通り不安を和らげる作用を持つお薬の事で、「安定剤」「精神安定剤」などと呼ばれることもあります。
古いお薬であり現在では多くは使われてはいませんが、穏やかに長く効いてくれるセレナールは患者さんの状態によっては今でも必要とされるお薬です。
ここでは、セレナールの効果や特徴について、他の抗不安薬と比べてどのような位置づけなのか、どのくらいの強さがあるのかなどを紹介していきます。
1.セレナールの特徴
まずはセレナールの全体的な特徴を紹介します。
セレナールは抗不安薬という種類のお薬になります。現在用いられている抗不安薬は、ほとんどが「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるものです。そして、セレナールもベンゾジアゼピン系になります。
ベンゾジアゼピン系には、
- 不安を和らげる作用(抗不安作用)
- 筋肉の緊張をほぐす作用(筋弛緩作用)
- 眠くさせる作用(催眠作用)
- けいれんを抑える作用(抗けいれん作用)
という4つの作用があります。
ベンゾジアゼピン系のお薬は全てこの4つの作用がありますが、それぞれの強さはベンゾジアゼピン系の各薬剤によって異なります。そして、ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用に特に優れるものは「抗不安薬」と呼ばれています。
セレナールはベンゾジアゼピン系抗不安薬ですので不安を和らげる作用に優れます。しかしそれ以外の作用も有しています。
具体的にセレナールのそれぞれの作用の強さを見ると、
- 弱い抗不安作用
- 弱い筋弛緩作用
- 弱い催眠作用
- 弱い抗けいれん作用
といった各作用の強さを持ちます(個人差もあり、あくまでも目安になります)。
セレナールは、不安を和らげる力は弱めです。そのため、主に軽度の不安症状に用いるお薬になります。また筋弛緩作用や催眠作用も持ってはいますが、これらいずれも弱い作用となります。
この作用の弱さは一見デメリットにも感じられるかもしれませんが、そんなことはありません。作用が弱いという事は「副作用が生じにくい」「依存性が生じにくい」ということでもあり、これは一概に悪いことではありません。
不安症状が重度の方には力不足なお薬であることは確かですが、軽度の不安症状で悩んでいる方にとっては安全に用いることが出来るお薬なのです。
またセレナールのもう1つの特徴として「作用時間が長い事」が挙げられます。作用時間を知る1つの目安となる値に「半減期」があります。半減期はそのお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、そのお薬の作用時間の長さを知る1つの目安になる値です。
セレナールは半減期が約56時間であり、これは他の抗不安薬と比べても長めの値となります。これは薬効が56時間続くという事ではありませんが、長時間作用するという事には間違いありません。
作用時間の長さは、長く効果が続いてくれるというメリットもあります。また長く効くお薬の方が耐性や依存性が生じにくいため、セレナールはベンゾジアゼピン系抗不安薬の中では耐性・依存性を起こしにくいお薬であり、これも大きなメリットになります。一方で1回服用したら、お薬がなかなか身体から抜けきらないという事でもあり、副作用が生じてしまう場合はこれはデメリットとなることもあります。
・効果も穏やか
・副作用も穏やか
・ゆっくり長く効く
これがセレナールの特徴になります。
最後にセレナールの長所と短所を挙げると次のようなことが挙げられます。
【長所】
- 穏やかに効くため副作用は少ない
- ゆっくり効くため依存性が低く、離脱症状も起こしにくい
【短所】
- 効果は弱い。不安症状が強い方には力不足の事も多い
- 長く効き身体から抜けるまで時間がかかるので、副作用が出た場合は長引くことも
2.抗不安作用の強さ -他剤との比較-
抗不安薬には、多くの種類があります。
それぞれ強さや作用時間などの特徴が異なるため、患者さんの状態によってどの抗不安薬を処方するかは異なってきます。
抗不安薬の中でセレナールの「強さ」というのはどのくらいの位置づけになるのでしょうか。
セレナールの抗不安作用(不安を和らげる作用)は、抗不安薬の中では「弱い」という位置付けです。
主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下図のようになります。なお、お薬の効果には個人差がありますので、あくまで目安としてご覧下さい。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
3.セレナールを使う疾患は?
セレナールの適応疾患を添付文書を見ると、
・神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
・心身症(消化器疾患、循環器疾患、内分泌系疾患、自律神経失調症)における身体症候ならびに不安・緊張・ 抑うつ
・麻酔前投薬
と書かれています。
添付文書には難しく書かれていますが、ざっくりいうと、様々な原因で生じる不安を和らげるために使用するという認識で良いでしょう。不安感が強く出現しており、それが正常範囲内を超えていて、「治療の必要がある」「生活に様々な支障が出ている」という場合に適応となります。
神経症というのは現在でいう「不安障害」とほぼ同じだと思って頂いて良いでしょう。心身症というのは「精神的ストレスが原因で身体に症状が生じている疾患」のことです。例えば胃潰瘍の中でも食生活が悪くて胃潰瘍になったのは心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になった場合は心身症になります。
ちなみに健常な人にも不安はありますが、このような「正常範囲内の不安」に用いる事は推奨されていません。
抗不安薬を飲めば正常範囲内の不安であっても、それを和らげることは出来るでしょう。しかし、健常者に使ってしまうと得られるメリット(不安が改善する)よりもデメリット(依存性などの副作用)の方が大きいため、総合的に考えると使用すべきではないのです。
不安感があり、専門家が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断した場合のみ、セレナールなどの抗不安薬が検討されます。
疾患で言えば、パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏、強迫性障害、心身症などの疾患に用いる機会が多いです。また、うつ病や統合失調症などで不安が強い場合も補助的に使用されることがあります。
4.セレナールが向いている人は?
セレナールの特徴は、
- 効果も副作用も穏やか
である点です。
これがセレナールの代表的な特徴であり、この特徴を生かしたい時にセレナールは検討されます。
ここから考えると、
- 軽度の不安症状が長期間続いている方
などには良い適応になると思われます。
セレナールは不安を抑える作用としては弱いため、重い不安症状を改善させるには力不足である感は否めません。
しかし効果は穏やかな分、副作用も少ないため、安全に軽度の不安を抑えたい場合は良い適応です。眠気、ふらつきといった副作用を始め、長期的な服用で生じる耐性や依存性も生じにくいと考えられます。
ベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安薬にはどれも依存性があります。そのため使用は出来る限り短期間にとどめるべきなのですが、病状によってはどうしても長期間の服用をせざるを得ない場合もあります。
やむを得ず長期間の使用になってしまう場合は、依存形成を出来る限り防ぐため、ベンゾジアゼピン系の中でも依存性がなるべく低いものを選ぶという事は大切です。
セレナールに依存性がないわけではありませんが、他のベンゾジアゼピン系と比べるとその程度は少ないと言えます。そのため、ベンゾジアゼピン系の使用が長期に渡る場合は、セレナールに切り替えるのは、依存形成の確率を低くするために有効な方法です。
ただし、これはあくまでも一般論であり、例外も多々あります。上記に示した例以外でも、「あなたのような症状の場合はセレナールを使った方がいいでしょう」と主治医が判断するケースもあるでしょう。
実際にセレナールを使うべきかどうかはは主治医とよく相談して判断して下さい。
5.セレナールの作用機序
セレナールは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬です。セレナールに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。
ではこのベンゾジアゼピン系というお薬はどのような機序によって不安を軽減させているのでしょうか。
ベンゾジアゼピン系は、脳にある抑制系の神経に存在するGABA受容体という部位に結合することで、GABA受容体の作用を増強します。それによって、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
- 催眠作用(眠くさせる)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
を発揮します。
更に具体的に見ると、GABA受容体の中でもGABA-A受容体というところにある「ベンゾジアゼピン結合部位」という部位に結合することで上記の作用を発揮します。
ベンゾジアゼピン系は全てこの4つの作用がありますが、ベンゾジアゼピン系のうち抗不安作用が特に強いものを「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼びます。
セレナールも4つの作用全てを有していますが、特に抗不安作用に優れるため、「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」に属しています。
そして、そのそれぞれの強さは
- 弱い抗不安作用
- 弱い筋弛緩作用
- 弱い催眠作用
- 弱い抗けいれん作用
となっています。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち、催眠効果が特に強いもののことです。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの効果が全てあります。ただ、それぞれの強さはおくすりによって違いがあり、抗不安効果は強いけど、抗けいれん効果は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安効果は弱いけど、催眠効果が強いベンゾジアゼピン系もあります。