統合失調症をチェックする方法と診断基準について

統合失調症は、しばしば診断に苦渋する疾患です。

幻聴が聞こえたり妄想が生じたりといった派手な症状が明らかであれば、比較的診断は容易です。しかし幻覚妄想はあまりはっきりせず、意欲や気力が消失し、自閉がちに過ごしているような場合、この症状は統合失調症から来るものなのか、それともうつ病や発達障害などの別の疾患から来るものなのか、あるいは正常範囲内の心因反応であるのか、というのは専門家であってもしばしば診断に苦慮します。

統合失調症かどうかを正確に診断するためには、熟練した精神科医の診断を受ける他ありません。

しかしいきなり精神科を受診するのは敷居が高く、まずは「統合失調症の可能性が高いのかどうか」を知りたいという方もいらっしゃるでしょう。特に統合失調症は病識(=自分が病気だと認識すること)に乏しい疾患であるため、本人よりも家族などの周囲の方が「統合失調症かもしれないけど、本人が困ってないから病院にも連れていけない。どうしていいのか分からない」と悩まれるケースが多く、そうこうしているうちに病気が進行してしまう事があります。

そこでここでは、統合失調症の簡単なチェック方法や診断基準などを紹介させて頂きます。正確な診断は精神科を受診しないと分からないという前提ではありますが、一般の方でもなるべく分かりやすいように統合失調症のチェック項目をお話してみます。

これらに当てはまる場合は、一度精神科に相談してみてください。

1.統合失調症の診断はどのように行われるのか

まずは統合失調症の診断を私たち精神科医がどのように行っているのかを紹介します。

統合失調症のみならず精神疾患の診断は、精神科医の診察によってのみ行われます。医師以外が疾患の診断を行うことは出来ないため、診断を受けるためには必ず精神科医の診察を受ける必要があります。

簡単にではありますが、どのような手順で診察がなされているのかを紹介します。

Ⅰ.診察所見から

統合失調症をを診断するにあたって重要な情報となるのが診察所見です。

精神疾患の症状はこころの症状が主であり、目に見えるものではありません。血液検査や画像検査などでは分からないため、精神科医が入念に診察を行い、その所見をもとに診断を行います。

診察においては、本人の訴えの他、態度・表情なども重要な情報となります。統合失調症の方と相対すると「プレコックス感」という、特有の感情が生じることがあり、これも診断の1つの参考になります。

プレコックス感:オランダの精神科医リュムケが名付けた名称。統合失調症患者さんに相対した相手が感じる、言葉で表しようのない特有の感情をいう

本人の訴えや、今までの経過(現病歴)、患者さんの性格や生活環境、精神疾患の家族歴、既往歴や服薬歴などを入念に聴取していきます。

Ⅱ.家族や周囲からの情報

統合失調症の場合、本人に病識(=自分が病気だという認識)がない事が多いため、本人に症状を聞いても「何も問題ない」「病院に来る必要などない」と診察に協力していただけず、必要な所見が取れないことがあります。

そのため家族などの周囲の方からの情報も大切になります。

普段はどのような生活をしているのか
周囲から見て、どのような行動が見られるのか

といった情報や、生育歴(生まれた時からの経過)も大切になってきます。

Ⅲ.診断基準との照らし合わせ

疾患には診断基準というものがあります。

精神疾患においては、アメリカ精神医学会(APA)が発刊しているDSM-5という診断基準と、世界保健機構(WHO)が発刊しているICD-10という診断基準の2つが有名で、日本でもこの2つが主に用いられています。

これらの診断基準の診断項目と、診察で得た所見を照らし合わせて、統合失調症の診断基準を満たすかどうかを判定します。

Ⅲ.補助的に検査を行う

心理検査は、その結果から直接診断を下せるものではありませんが、診断の補助的な役割を果たしてくれます。

ただし統合失調症を初めて診断するような状況では、本人に病識がない事が多いため、検査に協力していただけないことも多く、この場合は検査を行わずに診断することも多くあります。

A.PANSS

PANNSSとは「Positive and Negative Syndrome Scale」と略で「陽性・陰性症状評価尺度」という意味になります。

統合失調症の主症状である陽性症状と陰性症状の程度を評価します。検査には40~50分ほどかかるため、初診で病識のない患者さんは検査に協力してくれない事も多いため、本人のみならず家族から得た情報から検査を行うこともあります。

診断の補助に用いるというよりは統合失調症の経過をみるために行われる検査ですが、診断の参考になる検査でもあります。

検査は40~50分ほどかかり、

陽性症状の質問項目:7個
陰性症状の質問項目:7個
総合的な質問項目:16個

と計30項目からなっています。それぞれ1点(なし)~7点(もっとも重い)までの7段階で評価し、最高点は210点になります。点数が高いほど重症度は高くなります。

B.バウムテスト

バウムテストは「樹木画テスト」とも呼ばれ、患者さんに1本の木の絵をかいてもらい、そこから心理状態などを推測する投影法になります。

木の絵をかいてもらうという簡単な検査ですので、検査への協力は得られやすいのですが、その解釈は十分に熟練した精神科医・臨床心理士が行う必要があります。

あくまでも「絵」をもとに評価者が解釈するという検査であり、それだけで診断するには客観性に乏しい検査であるため、あくまでも診断の補助的な役割を果たします。

c.ロールシャッハ検査

1921 年にスイスの精神科医であるロールシャッハによって考案された検査です。

インクのしみで出来た左右対称の模様を「何に見えるか」と患者さんに問う検査です。10枚のインクのしみの模様をみせ、それぞれ何に見えるのかを聞きます。

この方法も「インクのしみに対する解釈」をもとに評価者が解釈するという検査であり、それだけで診断できる検査ではありません。しかしロールシャッハテストは、長い歴史がある検査であるため、膨大なデータが集積されており、一定の妥当性のある検査です。

ロールシャッハ検査は有益な検査ではありますが、幻覚妄想状態がひどい患者さんに行ってしまうと、インクのしみによって幻覚妄想が強化されてしまうことがあり、症状が不安定な時の施行には注意が必要です。

2.統合失調症の診断基準

統合失調症の診断は、

・診察所見
・家族からの情報
・診断基準との照らし合わせ
・心理検査(補助的)

という、4つの手順で行われることを紹介しました。

本人やご家族がチェックする場合を考えると、精神科医の診察所見は受診をしないと得ることができません。また心理検査も統合失調症の場合は、経験豊富な検査者でないと評価できないものばかりですので、これも受診しないと行うのは難しいでしょう。

となると、医療機関を受診する前に行えるものとしては、

・診断基準に照らし合わせてみる

ことが受診前のチェックとして出来ることになります。

もちろん非医療者によるチェックは医師の診察とは異なるため、診断と同じ精度を持つものではありません。そのため非医療者によるチェックは、「統合失調症の可能性がある」という程度の精度に過ぎません。しかしチェックした結果、統合失調症が強く疑われた場合は、精神科や心療内科を受診して相談をすることをお勧めします。本人に病識がない場合は、家族だけで相談に行っても良いでしょう。

それでは統合失調症を診断基準を紹介します。

診断基準にはDSM-5とICD-10があることをお話しましたが、ここではDSM-5の診断基準を紹介させて頂きます(どちらの診断基準を使っても問題はありません)。

なお診断基準は難しい用語で書かれていて分かりにくいため、後ほど改めて分かりやすく紹介します。

【統合失調症の診断基準(DSM-5)】

A. 以下のうち2つ以上、各々が1ヶ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。
(1)妄想
(2)幻覚
(3)解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)
(4)ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
(5)陰性症状(情動表出の減少、意欲欠如)

B. 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

C. 障害の持続的な徴候が少なくとも6ヶ月間存在する。この6ヶ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1ヶ月(または治療が成功した際はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:風変わりな信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

D. 統合失調感情障害と、精神病性の特徴を伴ううつ病または双極性障害が以下のいずれかの理由で除外されていること
(1)活動期の症状と同時に、うつ病・躁病エピソードが発症していない
(2)活動期の症状中に気分のエピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

E. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

F. 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1ヶ月(または治療が成功した際はより短い期間)存在する場合にのみ与えられる。

3.診断基準から統合失調症をチェックする

それでは診断基準から統合失調症ををセルフチェックしてみましょう。これらを全て満たす場合、診断基準的には統合失調症の診断となります。

Ⅰ.統合失調症に特徴的な症状がある

A. 以下のうち2つ以上、各々が1ヶ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。
(1)妄想
(2)幻覚
(3)解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)
(4)ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
(5)陰性症状(情動表出の減少、意欲欠如)

統合失調症では様々な症状が出現しますが、特に出現する頻度の高いものや、特異度の高いものがあります。その代表的な症状が、上記の(1)~(5)になります。統合失調症を診断するためには、これらのうち2つ以上を認める必要があります。

「妄想」は、被害妄想であることが多く、更に他の疾患と異なり、一見するとなぜそのような考えに至ったのかを理解できないような「一次妄想」の形を取ることがほとんどです。

例えば、

  • ヤクザに狙われている
  • 外に出ると電磁波による攻撃を受ける

などです。

また、自分の心身のコントロールの喪失に基づいた妄想も、統合失調症に頻度の高い妄想になります。

例えば、

  • 自分の考えが抜き取られている(考想奪取)
  • 自分の考えが周囲に漏れている(考想伝播)

などです。これらは作為体験(させられ体験)と呼ばれることもありますが、ここから妄想につながる事も少なくありません。

幻覚は「本来であれば、ないはずの知覚を体験する」という症状で、幻視や幻聴、幻臭、幻味などがあります。統合失調症では幻聴が圧倒的に多く、その中でも

  • 対話性幻聴(問いかけと応答の幻聴):幻聴同士が話あっている。あるいは自分と幻聴が話し合っている
  • 注釈性幻聴(批評性幻聴):幻聴が自分の行動に注釈・批評してくる

が多く認められます。どちらも悪い内容である事が多く、対話性幻聴であれば、

幻聴A:「〇〇(患者さんの名前)の悪口をみんなが言ってるぞ」
幻聴B:「そうだな。〇〇は消えた方がいいな」

など、本人にとっては不快な内容で、ここから被害妄想につながる事もあります。

統合失調症では思考の混乱・障害が起こるため、言動が周囲から見ると奇異に写ります。会話があちこちに移ったり、支離滅裂となることがあり、これも重要な所見になります。

陰性症状は活動期には顕著ではないこともありますが、統合失調症の中核となる症状です。感情の表出が乏しくなったり、意欲が消失してしまったりと、本来であればあるはずの能力が無くなってしまうのが陰性症状になります。

Ⅱ.社会的な能力が低下している

B. 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

統合失調症を発症したと思われる以前と比べると、社会的な能力が低下していることです。

社会的な機能というのは、人として社会的な生活を行うに当たって必要な能力のことで、学生であれば時間通りに学校にいって授業を受けて、一定の成績を取って、というもので、社会人であれば、時間通りに職場にいって、求められる仕事を行って、という能力の事です。

元々低いのであれば別の疾患の可能性がありますが、統合失調症と診断するには、発症したことによりそれ以降に低下しはじめる必要があります。

これは統合失調症の症状の1つである、陰性症状や認知機能障害によって生じる症状になります。

Ⅲ.症状は6か月以上続いている

C. 障害の持続的な徴候が少なくとも6ヶ月間存在する。この6ヶ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1ヶ月(または治療が成功した際はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:風変わりな信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

一時的に症状が出現したのであれば、それは病気でないこともあります。

誰でも過剰なストレスを感じると幻聴などが聞こえることがあります。それは過剰なストレスによって生じた反応であり、統合失調症とは言えません。

統合失調症の場合、症状が6か月間続き、更にA.に記載されていた活動期の症状は1カ月以上続いている必要があります。ただし当然ですが、治療が導入された場合は、1カ月未満でも症状は消失することがあります。

Ⅳ.似たような疾患ではない

D. 統合失調感情障害と、精神病性の特徴を伴ううつ病または双極性障害が以下のいずれかの理由で除外されていること
(1)活動期の症状と同時に、うつ病・躁病エピソードが発症していない
(2)活動期の症状中に気分のエピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

E. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

F. 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1ヶ月(または治療が成功した際はより短い期間)存在する場合にのみ与えられる。

統合失調症は、しばしば、

・うつ病
・双極性障害(躁うつ病)

と見分けがつきにくいことがあります。特に、「統合失調症の陰性症状によって生じる情動表出の低下、意欲欠如」とうつ病によって生じる「抑うつ気分、意欲低下」は鑑別が困難なことが少なくありません。同様に「統合失調症の急性期における興奮」と「双極性障害の躁状態」も鑑別が困難な事があります。

この見分けを一般の方が行うのは難しいところですが、上記(1)(2)は鑑別するための1つのポイントになります。

また、覚せい剤の一部の薬物は統合失調症と似たような症状を引き起こすものがあります。 このような薬物が原因ではないかもしっかりと除外する必要があります。

統合失調症はしばしば自閉症スペクトラム障害(発達障害)とも見分けがつきにくいことがあります。また両者は合併することもあります。

以上を全て満たした場合、統合失調症の診断基準を満たすことになります。

A.の項目を2つ以上満たし、かつそれが長く続いているのであれば、統合失調症の可能性がありますので、一度精神科に相談してみて下さい。