統合失調症の発症原因に「ストレス」は関係あるのか

統合失調症は幻覚や妄想といった症状が出現する疾患で、100人に1人(1%)に発症すると考えられています。

この統合失調症、どのような原因で発症してしまうのでしょうか。

実は、統合失調症が発症する原因はまだ明確に解明されているわけではありません。現時点では、ある特定の1つの原因があって発症するというわけではなく、複数の原因が重なった結果発症するものだと考えられています。

統合失調症の原因として「ストレスは関係しますか?」という事を、患者さんやその家族から聞かれる事があります。

「ストレス」というのは幅広い概念であるため回答が難しいところですが、統合失調症の発症はストレスと無関係とは言えません。

今日は統合失調症とストレスについてみてみましょう。

1.統合失調症の原因にはどんなものがある?

統合失調症は精神疾患の1つであり、代表的な症状としては次のようなものが挙げられます。

【陽性症状】
・幻覚・妄想など

陽性症状は統合失調症の特徴的な症状の1つで「本来はないものがあるように感じる」症状の総称です。「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」妄想などが該当します。

【陰性症状】
・無為自閉・感情平板化・意欲減退など

陰性症状も統合失調症の特徴的な症状の1つで、陽性症状とは逆に「本来はあるものがなくなってしまう」症状の総称です。無為自閉(=活動性が低下し、こもりがちになる)、感情鈍麻(=感情の表出が乏しくなる)などが挙げられます。

【認知機能障害】
・遂行機能低下・注意力低下・判断力の低下など

認知機能障害も統合失調症の症状の1つです。記憶・注意・判断力の低下、実行機能の低下などが代表的で、これにより就労などが困難になってしまう方も少なくありません。

統合失調症の発症は10代後半~30代中盤といった若い世代に多いと言われています。男性と女性どちらにも同じくらいに生じる疾患ですが、報告によっては若干男性に多いとされるものもあります。また男性の方が重症化しやすい傾向があり、女性の方が発症年齢は遅い傾向にあります。

この統合失調症が発症する原因ですが、明確に全てが解明されているわけではありません。

しかし、

・遺伝(「統合失調症は遺伝するのか【医師が教える統合失調症のすべて】」を参照)
・出生時の要因
・性格(病前の性格)
・環境
・ストレスに対する脳の脆弱性

などがそれぞれ一因となり、これらが組み合わさった結果、発症すると考えられています。

出生時の要因というのは、「生まれた季節」「出生時の状況」が関係しているというものです。統合失調症は、冬の終わり~春の初めにかけて生まれた人は発症リスクが10%ほど上がると言われています。この理由は不明で、ウイルス感染なども推測されていますが、推測の域を出ていません。

また妊娠・出産時のトラブル(仮死や低酸素など)があった場合は統合失調症になりやすくなったり、父親が高齢であった場合は発症リスクが上がったりという事も指摘されています。

環境に対しては、報告によっては、「富裕層よりも貧困層に多く発症する」「地方よりも都市部で多く発症する」というものがあります。これは判断が難しいところで、環境そのものが原因かもしれませんし、環境によるストレスが原因なのかもしれません。

「脳の脆弱性」というのは難しい言葉ですが、これは「脳が劣っている」といった意味ではなく、「ストレスに対して反応しやすい脳」だということです。統合失調症が発症するのは「脳のドーパミンが過剰になるからだ(ドーパミン仮説)」「脳のグルタミン酸が少なくなるからだ(グルタミン酸仮説)」などといった脳内異常が推測されていますが、統合失調症に関係している「脳の脆弱性」というのは、ストレスを受けた時にこういった変化を起こしやすい脳をしているということになります。

ストレスを受けた時、脳のドーパミンが出やすい人もいればドーパミンが出にくい人もいるでしょう。これは体質や個人差とでもいうべきものであり、基本的には生まれつきの素因になります。ストレスに対するトレーニングによってある程度訓練することはできるかもしれませんが、生まれつきの素因が大きな要素を占めます。

生まれつき、「ストレスを受けたことで統合失調症になりやすい脳である」という事は、「統合失調症を発症しやすい脳の脆弱性がある」とは言えますが、これは決して「劣った脳を持っている」という事ではありません。しかし、ストレスを受けた時に、脳は過敏に反応し、ドーパミンを出しやすいような体質の方であれば、そうでない方と比べて統合失調症を発症しやすいとは考えられます。

2.統合失調症における脳の脆弱性とストレス

脳の脆弱性は、統合失調症を発症するリスクの1つになります。

つまり、元々統合失調症になりやすい「脳の脆弱性」を持っていた場合、ストレスを受けることで統合失調症を発症するリスクはあるということになります。

ここから考えると、統合失調症の発症にストレスは関係していると考えることができます。

しかし、ストレスを受け続けると必ず統合失調症になるという事はありえません。私たちは皆ストレスを受け続けながら生きていますが、その中で統合失調症を発症する人というのはごくわずかです。

そこから考えると、統合失調症の発症にストレスは関係してはいますが、その割合は大きくはないと考えられます。

ストレスそのものが統合失調症の大きな原因になるというよりは、統合失調症になりやすい「脳の脆弱性」がある方がストレスを受けた場合、それが発症のリスクになりえるという考え方が出来ます。

また「うつ病、統合失調症などの再発率を5倍も上げてしまう高EEとは?」という記事でも紹介したように、家庭内での高いストレスは再発のリスクを5倍も上げてしまうことが分かっています。ストレスは統合失調症の発症の原因になるばかりでなく、再発の原因にもなり、経過を悪化させてしまう要因でもあるのです。

少なくとも統合失調症においてストレスが良くないものであることは確かでしょう。