統合失調症の再発の問題と再発させない工夫について

統合失調症は、再発率が非常に高い疾患です。初発エピソードから5年以内に再発してしまう患者さんの割合は、なんと80%にも達するとの報告もあります。

病気によっては、再発してもその都度治せば問題のないものもあります。例えば風邪(急性上気道炎)などでは予防も大切ではありますが、発症してから治療をはじめても大きな問題になることはありません。

しかし統合失調症は再発を繰り返せば繰り返すほど、患者さんに後遺症を残し、その後の人生に不利益を与えてしまいます。

そのため、統合失調症を再発をさせないように心がけ、再発予防の工夫を十分に行うことは非常に重要なことになります。

統合失調症の再発はなぜ問題なのでしょうか。再発によってどのような支障が生じるのでしょうか。また、再発を防ぐためにはどのような工夫があるのでしょうか。

今日は統合失調症と再発について、詳しくみていきたいと思います。

1.統合失調症の再発率

統合失調症は再発率が非常に高い疾患です。

特に発病してから早期の段階での再発が非常に多く、再発の時期は初発の精神病エピソードから5年以内が約8割を占めます。中でも初発後1~2年以内に再発するのは6~7割と言われており、非常に高い確率となっています。

再発に関する研究はいくつもあり、結果はその研究によって多少異なるのですが、初発後1年未満はまだ比較的再発が少ないのですが、1年~2年ほど経つと再発率が上がってきます。

発病して治療を行い、しばらくは本人も家族も気が張っているのですが、1~2年ほど経ち、安定している状態が続くと徐々に油断が出てきてしまうのかもしれません。その時期になると、段々と通院が不規則になってきたり、飲み忘れが多くなってきたりで再発してしまうというケースが多いように感じます。

2.統合失調症はなぜ再発しやすいのか

統合失調症は、初発5年以内に8割の患者さんが再発する。

これを聞くと統合失調症の再発率が非常に高いことが分かります。

なぜここまで再発率が高くなってしまうのでしょうか。

Ⅰ.病識が乏しい

統合失調症は、病識(=自分が病気だという認識)を持ちにくい疾患です。

症状が出現しても、本人はそれを病気の症状だと思いにくいのです。幻聴や妄想が出現しても、当の本人がそれを「症状」だと思わず「真実」だと感じてしまえば病院を受診することもありません。そうなれば、治療導入が遅れてしまいます。

特に急性期に顕著になる陽性症状(幻覚や妄想・興奮など)は、病識を認めないことが圧倒的に多く、これは再発の大きな原因になります。

【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。

統合失調症に対して正しく知り、病気との付き合い方を学んでいくと、幻覚・妄想が生じても「これは幻聴なんじゃないか」「これは妄想なのでは・・・」と患者さん自身が気付けるようになることもあります。しかし基本的に幻覚妄想というのは、他者からみたら「そんなはずはない」と思うようなものでも、本人にとっては「事実」として認識されるものなのです。

「〇〇さんが自分を攻撃してくる」
「××が俺の悪口を言っている」

これを幻覚妄想だと思わず、「事実」だと認識していれば患者さんは「病院を受診する」などという行動を取ることはありません。むしろ、家に引きこもったりと受診とは反対の方向に向かってしまいます。

「病識が乏しい」というのは患者さんが悪いわけではありません。

患者さんに問題があるというわけではなく、統合失調症の症状の特性として「病識を持ちにくい」ものなのです。

しかし先ほどもお話したように、認知行動療法などの訓練次第で病識を良好にし、自分自身で幻覚妄想を「これは幻聴なのではないか」「これは妄想かもしれない」と気付けるようになります。

Ⅱ.症状がない時もお薬を飲まないといけない

統合失調症は、幻覚妄想などの陽性症状が改善した後も、再発予防のためにお薬を飲み続けるのが基本となります。

「症状があるから、それを緩和するためにお薬を飲む」

ということを実践するのは比較的簡単ですが、

「症状がないけど薬をずっと飲み続ける」

実はこれって意外と難しいものです。

何か月も症状も出ない状態が続けば、「このお薬、本当に飲んでいる意味あるのかな?」「ちょっとくらい間引いてもいいのではないか」といった気持ちが沸いてきてしまうこともあります。また「しっかり飲もう」と思っていても、ついつい忘れてしまうということもあるでしょう。

これは精神科に限らず、他の科のお薬でも同様です。

例えば、花粉症などで抗アレルギー薬をもらうとします。くしゃみや鼻水といった症状があれば、誰でも毎日忘れずにお薬を飲むと思います。しかし症状が治まってきたと感じたら、徐々に飲み忘れが多くなるのではないでしょうか。

症状がないのにお薬を飲む、というのは実はとても難しいことなのです。

問題は、花粉症のお薬を止めて症状が出てきても、その時お薬を再開すればそれで症状は再び治まるのに対して、統合失調症の場合、症状が出てきてしまうと、その症状は病識が乏しい症状であるため、「症状がぶり返してきたから、お薬を再開しよう!」と患者さんが考えにくい傾向があるということです。

3.統合失調症が再発すると何が問題なのか

統合失調症は再発率が高い疾患ですが、なぜ再発するとまずいのでしょうか。

再発してしまうと具体的にどのような問題が生じるのでしょうか。

Ⅰ.脳の萎縮が進む

一番の問題は、統合失調症は再発を繰り返せば繰り返すほど、脳がダメージを受けてしまうということです。脳がダメージを受ければ脳萎縮が進み、社会機能が低下してしまう可能性が高くなります。

統合失調症による脳萎縮は、特に陽性症状が優位である「前駆期」「急性期」に生じやすいことが分かっています。

【統合失調症の経過】
1.前駆期:「何となくおかしい」といった感じはあるが、明らかな症状に乏しい時期
2.急性期:幻覚・妄想などの激しい症状が出現する時期
3.消耗期:急性期の反動として、自閉・意欲低下・無気力・感情平板化などが出現する時期
4.回復期:緩やかに症状が回復していく時期

(再発時は再び1.~4.を繰り返す)

統合失調症は、再発を繰り返すたびに前駆期・急性期を経て脳のダメージが蓄積していきます。

そして現状の医学では萎縮してしまった脳を元に戻す事はできません。

脳をダメージから守り、萎縮させないためには再発をさせないことが何よりも重要なのです。

Ⅱ.周囲に迷惑をかけてしまい、社会的立場が悪くなってしまう

統合失調症が再発してしまうと、激しい幻覚や妄想が再び出現することになります。

【幻覚】
「本来であれば、ないはずの知覚を体験する」症状の事で、幻の知覚全てを含む。

・幻視(本来ないはずのものが見える)
・幻聴(本来聞こえないものが聞こえる)
・幻臭(本来臭わないものが臭う)
・幻味(本来感じないはずの味を感じる)

などが幻覚に含まれる。統合失調症で生じる幻覚は「幻聴」が圧倒的に多い。

 【妄想】
本来であればあるはずのない事をあると思い込むこと。

統合失調症では、「自分が他者から悪意を持って危害を加えられている」という被害妄想が多い。

患者さんが、幻聴や被害妄想を「事実」だと認識し、それに基づいて行動すると、しばしば周囲を巻き込んでしまうことがあります。

例えば、「アイツを殴れ」という幻聴に従ってしまい、通行人を突然殴ってしまうかもしれません。「Aが自分の悪口を言っている」という被害妄想にとらわれ、Aさんを攻撃したり暴言を吐いてしまうかもしれません。

これは統合失調症の症状である「幻覚」「妄想」による行動であるため、患者さんが悪いわけではないのですが、一般の方にそれを理解してもらうのはなかなか困難です。

このような事が続いてしまうと、患者さんのその後の社会生活に大きな支障を来たしてしまう可能性が高くなってしまいます。

4.統合失調症を再発させないための工夫

統合失調症の再発はなぜ多いのか、そして再発は何が問題なのかをお話してきました。

統合失調症の再発率は非常に高いのが現状ですが、これをできる限り下げる工夫をすることがいかに大切なことか分かってもらえたでしょうか。

最後に統合失調症の再発を防ぐために出来る工夫について紹介したいと思います。

Ⅰ.飲み忘れを防ぐ工夫を

統合失調症の再発を防ぐ、一番間違いのない方法は「お薬を飲み忘れないこと」です。

最近の抗精神病薬(第2世代抗精神病薬)は、、脳がダメージを受けることによって生じる脳萎縮を予防するはたらきがあることが報告されています。服薬を行わないと、初発後5年で90%の患者さんが再発しますが、しっかりと服薬をしていればそれを30%まで抑えられるという報告もあります。

お薬はなるべくなら飲みたくないものですが、統合失調症治療においてはお薬のしっかりと服薬するメリットは大きく、適正量であれば服薬を継続することをおすすめします。

統合失調症は好発年齢が10代であり、若いうちに発症します。お薬の服薬は、その後長期間に渡るため、何年・何十年も飲み忘れなく続けるのは大変です。

そのため、自分の力だけで飲み忘れを防止しようとするのではなく、周囲に協力してもらったり役立つツールは利用してみてください。

例えば、飲み忘れを防ぐ有効な方法には、

  • ピルケースの利用
  • ポケット付きカレンダーの利用

などがあります。

ピルケースはお薬を入れておくケースで、最近は曜日や時間ごとに分けて入れておくことができるものもあります。ピルケースに飲むべきお薬をあらかじめ入れておけば、飲み忘れに気付きやすくなります。

またポケット付きのカレンダーにお薬をあらかじめ入れておいたり、カレンダーにお薬を貼り付けておいたりすれば、これも飲み忘れ防止に役立ちます。

最近ではスマホのアプリで服薬の時間になったら知らせてくれるものもあり、これも飲み忘れ防止に役立つでしょう。

また家族も合わせて服薬の確認してあげるとなお良いでしょう。薬の殻はとっておくことで、「ちゃんと服薬した」という確認もしているご家族もいらっしゃいます。

家族の方が一緒に確認する時は、「飲み忘れがないか監視する」という姿勢ではなく、「一緒に飲み忘れがないように協力していく」という姿勢が大切です。

飲み忘れがあっても怒るのではなく、「人間だから時に忘れちゃうのは仕方ない」「次から飲み忘れないようにするにはどうしたらいいか」という事を一緒に考えてみてください。

Ⅱ.統合失調症の勉強をしよう

患者さんと話していて感じることなのですが、

「再発を繰り返すと脳萎縮が進んでしまう」
「抗精神病薬は症状を抑えるだけでなく、再発予防効果も確認されている」

という事実を知らない方が多いように感じます。

これは私たち医師が患者さんにお薬を飲む意味を分かりやすく説明できていないということであり、反省すべきことです。

再発というのは、その人のその後の人生に大きな不利益を与えるものだという事をしっかりと理解してもらうことは飲み忘れ防止につながります。

統合失調症について、そしてお薬の役割について正しく知ることは、飲み忘れの防止につながります。

Ⅲ.持効性注射剤にする

忙しかったりして、どうしても飲み忘れが多くなってしまうという方は、「持効性注射剤」を使うという方法があります。

持効性注射剤というのは、1回注射することで長く効く抗精神病薬のことです。

注射なので「痛い」のがデメリットですが、最近の持効性注射剤は針を細くするなどの工夫がされており、痛みも驚くほどのものではありません。

1回注射するだけで数週間効果が持続するため、飲み忘れの心配もありません。1回注射すれば間違いなくお薬が体内に入るため、ご家族も「ちゃんとお薬を飲んでいるのかな?」と心配する必要がなくなります。

現時点で使える持効性注射剤は、

  • リスパダールコンスタ(リスパダールの持効性注射剤):1回の注射で2週間効果が持続
  • ゼプリオン(インヴェガの持効性注射剤):1回の注射で4週間効果が持続
  • エビリファイ持続性水懸筋注用(エビリファイの持効性注射剤):1回の注射で4週間効果が持続

があります。

注射部位は、リスパダールコンスタとエビリファイ持続性水懸筋注用は臀部(お尻)、ゼプリオンは臀部か三角筋(肩付近の筋肉)となります。

持効性注射剤は数週間かけてゆっくりと効き続けるため、副作用も少なめであり、これもメリットの1つです。

Ⅳ.家族との連携

統合失調症の再発例をたくさんみてきましたが、再発に一番早く気付くのは一番身近にいる家族であることが多いです。

つまり主治医と家族が良い連携を取れていると、早期発見・早期治療につながるということです。

ご家族の方も大変だとは思いますが、時々診察に同席頂き、主治医との連携を取れるようにしていただけるといざという時に非常に助かります。