統合失調症は、その原因が完全には解明されていない精神疾患です。
現時点では、ある特定の1つの原因があって発症するというわけではなく、複数の原因が重なった結果発症するものだと考えられています。
統合失調症発症の一因となりうるものとして、
- 遺伝
- 出生時の要因(出産時トラブル、父親の年齢、出産季節など)
- 環境
- ストレスに対する脳の脆弱性
などが指摘されています。また、
- 性格(病前性格)
も統合失調症の発症しやすさに関係すること分かっています。
統合失調症の原因に性格が関係しているということは、統合失調症になりやすい性格・なりにくい性格というのがあるのでしょうか。また、その場合は性格を変えることで統合失調症の発症を予防できるのでしょうか。
今日は、統合失調症と性格の関係についてお話します。
1.統合失調症発症に多い病前性格
統合失調症と性格の関係については、今までも多くの精神科医が指摘をしてきています。
代表的なところでは、ドイツの精神科医である「クレペリン」は、統合失調症を発症する方の性格について
・男性では無口、内気、ひきこもりがち、孤独
・女性では怒りっぽく、敏感、神経質、強情
といった特徴があるとしています。
また、スイスの精神科医であるブロイラーは
易怒性と引っ込み思案、孤独な性格。
周囲からみると奇異な感じを与える
と統合失調症発症の性格傾向について分析しています。
ドイツの精神科医であるクレッチマーは、「体型と性格・精神疾患発症」というユニークな視点から関連性を指摘しています。クレッチマーによれば、統合失調症はやせ型の人に発症しやすく、次の性格傾向があるとしています。
【自閉性】内向的で非社交的、内気、孤独で生真面目
【精神感受性の亢進】臆病、恥ずかしがり、敏感、神経質
【精神感受性の低下】従順、正直、鈍感
このように、昔から著名な精神科医が「統合失調症発症」と「性格」の関係性について指摘をしており、統合失調症発症と病前性格(病気を発症する前の性格)に関係性があるのは、確かであると思われます。
現在においても、統合失調症を発症しやすい病前性格には傾向があるとされており、
・自閉性
・敏感性
・鈍感性
の3つの性格傾向が代表的です。
これらはあくまでも「傾向」ですので、この全てが当てはまらない方もたくさんいらっしゃいますが、
・人付き合いが苦手
・友人が少ない
・引っ込み思案で引きこもりがち
・無口で内気
・疑い深い
・鈍感と過敏の二面性を持つ
などといった性格傾向が統合失調症の病前性格と言えるでしょう。
2.性格によって発症するのではなく、脳の異常によって病前性格が形成される
統合失調症を発症する方には、特有の病前性格の傾向が認められるという事をお話しました。
しかし統合失調症と病前性格の関連については、2つの可能性が考えられます。
- この病前性格が原因で統合失調症を発症するのか
- それとも、この性格そのものが統合失調症の前駆症状の1つなのか
といったことです。
前者であれば性格が発症の一因になるため、性格を変える努力をすれば発症リスクを下げることができるということになります。後者であれば、そのような性格になってしまうことがそもそも統合失調症の前駆症状の1つだという事で、その性格は広義の「症状」の1つになります。
どちらが真実なのかは昔から議論されており、明確な決着はついていませんでしたが、多くの精神科医の経験からは後者の要素が強いという意見が優勢でした。
近年においてもその答えは明らかになっていませんが、研究が進むにつれ、やはり後者の要素が大きいのではないかという考えが強まっています。
最近の研究では、統合失調症の脳を検査すると
- 脳の体積が小さくなっている部位がある
- 脳の機能に異常が生じている部位がある
といった、脳に異常が生じている可能性が高いことが分かってきました。
また統合失調症の多くは未成年や若年者に発症します。未成年の多くは、自分で意図して性格を作っているわけではありません。そう考えると、統合失調症の病前性格には生まれつきの素因が多く影響していると考えられます。
ここから、「このような性格を続けていると、統合失調症が発症する」といった性格そのものが発症の原因なのではなく、「統合失調症の前段階として、このような性格を呈するのではないか」という性格そのものが発症前段階における症状の1つのサインなのではないかと考えられるようになってきています。
つまり厳密に言えば統合失調症における病前性格というのは「原因」なのではなく、それ自体が統合失調症の前段階を発症しているということなのです。
ここから言える事としては、統合失調症の病前性格に該当する場合、「こんな性格だと、統合失調症を発症してしまう!」と頑張って性格を変える努力をするよりも、「このような性格だということは、普通の人より統合失調症発症のリスクは高いのだろう」と認識し、環境調整やストレス軽減などを工夫して発症リスクを下げたり、万が一発症した時にすぐに相談できる体制を整えておく方が有益だということです。
残念なことに、統合失調症の発症を予防するために有効性が高い方法というのはありません。
例えば高血圧症であれば、塩分を控えるなどといった食生活を改善や、適度な運動が有効なのは明らかで、これらの生活習慣を継続すれば、実際に血圧も下がっていきます。
しかし統合失調症では、
- 過剰なストレスをなるべく避ける
- 現在の環境にストレスが大きいようであれば環境調整を行う
などといった方法が「有効かもしれない」と考えられてはいるものの、これにより発症を確実に低下させるとは言えません。
そのため予防だけでなく、「発症したらどうするか」という点まで考えておかなければいけないのです。幸い統合失調症は、早期発見・早期治療ができれば、大きな後遺症を残すことなく日常生活・社会生活が送れる方も少なくありません。
病前性格を1つの指標として、早期発見・早期治療の体制を整え、その方の人生に大きな不利益が生じないようにしていきましょう。
3.病前性格は早期発見・早期治療を行うための重要な指標の1つ
現在の考えでは、性格が統合失調症の原因ではなく、病前性格は統合失調症の前駆症状の1つという見方が有力で、これは大きくは間違っていないと臨床の感覚からも感じます。
統合失調症の病前性格というのは、「どこか奇異な感じ」「社会に溶け込まない感じ」があり、これはそのまま統合失調症の症状としても当てはまります。そう考えると病前性格は、本格的な症状の前段階と考えて矛盾はしません。
しかし性格が発症の原因ではないのであれば、性格を変えることを努力したところで発症を食い止めることにはならないという事になります。
では病前性格を把握することに意味はないのでしょうか。
そんな事はありません。
病前性格は、その人の人生に不利益を与えないための重要な情報となるのです。
病前性格を把握することができれば、「統合失調症の発症リスクが普通の人よりは高い」ということが分かります。これは当人にとっては知りたくないことかもしれませんし、そんなことを言われたら不快になってしまうかもしれません。しかし、その方の将来を守るためにとても重要な情報になるのです。
先ほどもお話したように、統合失調症は早期に発見して適切な治療を導入できれば、大きな問題なく改善するケースが少なくありません。実際、統合失調症を持ちながらも服薬をしっかり行い、普通に生活や仕事をしている方も大勢いらっしゃいます。
しかし発見や治療が遅れてしまうと、どんどんと陰性症状といったひきこもりがちになってしまう症状、認知機能障害といった集中力・注意力・判断力の低下が増悪していき、その人の人生の質を下げていってしまいます。
統合失調症の方の将来を守るためには早期に発見し、早期に適切な治療をすることが何よりも大切です。病前性格の把握はそれを可能にするための、重要な情報の1つなのです。