統合失調症で認められる認知機能障害とはどのような症状なのか

統合失調症は、100人に1人(1%)の割合で発症すると報告されており、決して稀な疾患ではありません。

統合失調症では様々な症状が出現する可能性がありますが、代表的な症状としては「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つが挙げられます。

陽性症状は幻覚・妄想といった「本来ないものがあるように感じる症状」で、陰性症状は無為自閉・感情平板化・無気力といった「本来あるべき能力がなくなってしまう症状」です。これらは比較的理解しやすい症状だと言えます。

しかし認知機能障害というのは、具体的にどんな症状なのか分かりにくいのではないでしょうか。

認知機能障害は統合失調症において無視できない重要な症状であり、認知機能障害を出来る限り改善させることが患者さんの社会復帰・生活能力向上につながります。

今日は統合失調症の認知機能障害についてみてみましょう。

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1.認知機能障害とは何か?

統合失調症では様々な症状が生じますが、その中の1つに「認知機能障害」があります。

統合失調症の代表的な症状というと、「陽性症状」と「陰性症状」があり、これらは分かりやすい症状でもあるためよく知られています。しかし認知機能障害は陽性症状・陰性症状と比べるとあまり知られておらず、そのために軽視されてしまう傾向があります。

【陽性症状】
(具体的な症状)幻覚・妄想など

陽性症状は統合失調症の特徴的な症状の1つで「本来はないものがあるように感じる」症状の総称です。「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」妄想などが該当します。

【陰性症状】
(具体的な症状)無為自閉・感情平板化・意欲減退など

陰性症状も統合失調症の特徴的な症状の1つで、陽性症状とは逆に「本来はあるものがなくなってしまう」症状の総称です。無為自閉(=活動性が低下し、こもりがちになる)、感情鈍麻(=感情の表出が乏しくなる)などが挙げられます。

陽性症状や陰性症状というのは定義としても分かりやすく理解しやすい症状ですね。しかし認知機能障害はどういう意味でどういった症状なのかがイメージしにくい症状です。

しかし認知機能障害は、 その人の日常生活・社会生活に大きく関わるものであり、決して軽視することはできません。

では認知機能障害とは具体的にはどんな症状なのでしょうか。

統合失調症における認知機能障害とは情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認めることです。

これらは普段の生活では意識しなくても発揮されている能力であるため、障害されると通常の生活を行うのが困難になります。

私たちは生活をしていく中で、その状況毎に無意識に適応する能力を持っています。

「仕事を今日までに終わらせないといけない」となれば集中力・注意力が上がります。生活で大きなトラブルに見舞われたら「どうすればいいだろうか」と今後の計画をし、問題解決を考えます。

しかし統合失調症の患者さんは、これが上手にできません。現在の状況を認知することも苦手ですし、そこから適切な能力を発揮することも出来なくなってしまうのです。

特に統合失調症の方は、事象の細かい部分の認知は可能であるけども、全体的視野として把握することが苦手だと言われています。全体的な状況を把握できないために、生活において様々な支障が出現してしまいます。

統合失調症の治療が適切に行われないと、これまで通りの仕事が出来なくなってしまったり、自力で日常生活を送れなくなってしまう方が少なくありません。これは陰性症状によって無為自閉・意欲低下が生じたためでもあるのですが、それだけでなく認知機能障害によって生活に支障を来たしているためでもあるのです。

2.統合失調症の認知機能障害にはどのようなものがあるか

統合失調症で認められる認知機能障害の代表的な症状を簡単に紹介します。

Ⅰ.判断力低下

私たちは普段、何気なく物事を判断しています。

しかし物事を判断するというのは、広い視野でその状況を見て、総合的に考える力が必要です。

例えば今日の晩御飯の食材を買いに行くにしても、「食材を買えばいい」という判断のみで買い物が行われることはありません。

「今日は〇人分作る必要がある」
「ここ1週間の食事メニューは〇〇だったから、今日は××にしよう」
「今日は▽▽が安いから、これを使った料理にしよう」

このように様々な状況に対して、総合的に判断してどの食材を購入するのかは決定されます。

統合失調症の認知機能障害が出現してしまうと、このように総合的な視野に立って判断するのが苦手になってしまいます。そのため、何を買っていいのか分からなくなってしまったり、「食材を買う」という細かい視野のみから買い物をしてしまうという事が生じるのです。

この判断力の低下は、計画をうまく作ることが出来なかったり、問題を解決する能力が乏しくなってしまう事にもつながります。

Ⅱ.集中力低下

私たちは、仕事や家事・勉強などをするときには、集中する必要があります。

しかしこの「特定の対象に意識を集中させる」ということが、統合失調症の方では苦手になってしまいます。

その障害により、統合失調症の認知機能障害が出現すると、今まで通りに就労が行えなくなってしまったり、勉強についていけなくなってしまうことがあります。

また日常生活においても会話などにも集中できないため、対人コミュニケーションのトラブルの原因になることもあります。

Ⅲ.記憶力低下

生活したり仕事をしていく上で、「物事を覚えていく」ということは必須の能力です。これがないと同じ状況で何度もつまづいてしまい、一人でやれる事が少なくなってしまいます。

しかし統合失調症の認知機能障害が出現すると、記憶力の低下も認めることがあります。

Ⅳ.抽象的な表現が苦手(具象化傾向)

「例え」「比喩(ひゆ)」といった抽象的な表現を使ったり理解するには、俗にいう「頭の柔らかさ」が必要になります。

このような抽象的な表現を理解するには、状況から判断する能力が必要です。

統合失調症の方はこれも苦手になります。そのため表現が過度に具象化した内容になることがあります。

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3.認知機能障害はなぜ生じるのか

判断力・記憶力・注意力といった生活において必要な能力が低下してしまうのが認知機能障害ですが、これらが生じる病態というのはまだ解明されていません。

認知機能障害の出現のしかたは、陰性症状と似ています。また、「本来あるべき能力がなくなってしまう」という点で陰性症状も認知機能障害も共通しているため、認知機能障害は広義の陰性症状に含まれるとも考えられます。

統合失調症発症の急性期は、幻覚や妄想といった陽性症状が中心となり、陰性症状や認知機能障害はあまり目立ちません。

しかし陽性症状が落ち着いて、消耗期・回復期に入ると、陰性症状や認知機能障害が目立つようになります。そのため、認知機能障害は陰性症状とある程度共通した機序で生じている可能性があります。

統合失調症の病態として提唱されている仮説に「ドーパミン仮説」があります。これは統合失調症の原因は脳のドーパミンのはたらきが過剰になるために生じるという仮説で、陽性症状についてはある程度説明のつく仮説になっています。

しかし陰性症状・認知機能障害においてはドーパミン仮説だけでは十分な説明がつきません。

統合失調症は、ドーパミン仮説以外にも脳に何らかの異常が生じている可能性が高い事が、近年の研究から明らかになっています。画像で確認しても、健常者と比べて脳室の拡大が認められたり、脳体積が減少している部位があることが報告されています。

このような脳内変化が認知機能障害を発症しているのではと考えられています。

4.認知機能障害はどのように治療すればいいのか

認知機能障害は、どのように治療をすればいいのでしょうか。

認知機能障害の治療は、基本的には陰性症状への治療と共通しています。

Ⅰ.お薬のみの治療には限界がある

統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)に対しては、比較的お薬が良く効きます。そのため、陽性症状を抑えるためにある程度の抗精神病薬(統合失調症の治療薬)は必要です。

しかし陰性症状に対してはと言うと、抗精神病薬はあまり効きません。同様に認知機能障害に対してもお薬の効果は限定的です。

昔の抗精神病薬である第1世代抗精神病薬に比べると、最近の抗精神病薬である第2世代抗精神病薬は陰性症状・認知機能障害に対しての効果は多少得られるようになりました。また抗うつ剤などを併用することにより陰性症状・認知機能障害に対して多少の改善が得られる症例も臨床的には経験します。

しかし全体としてみると、お薬だけで陰性症状・認知機能障害を十分に改善するのには無理があります。

どんどんとお薬を増やしていけば、今度は副作用で認知機能が低下してしまいます。精神科のお薬(向精神薬)は基本的には気持ちをリラックスさせるものですから、大量に服薬すればボーッとしたり眠くなったりしてしまいます。これでは集中力や判断力・注意力はますます低下してしまい、本末転倒になってしまうでしょう。

統合失調症の認知機能障害にお薬は「ある程度」は効果があります。しかしあくまでも「ある程度の効果」であり、「十分な効果」ではないことを忘れてはいけません。

Ⅱ.お薬以外の治療法を積極的に導入する

統合失調症の認知機能障害を改善させるには、お薬以外の治療法が必須になります。

具体的には、「作業療法」「SST(社会生活技能訓練)」などがあります。

作業療法とは、精神科デイケアや作業所、就労所などに通所してもらい、治療の一環として作業を行うことです。

SSTは「socail skill training」の略で、日常生活において必要な技術を学んでいく治療法になります。ただ勉強するというだけでなく、認知行動療法的な治療法を用いて学んでいきます。精神科デイケアなどでも行われている治療法になります。技術自体の獲得を目指すだけでなく、その技術を行えない理由が認知や感情といった「内面」にある場合には、そのような内面にもアプローチをしていく治療法です。

これにより陰性症状や認知機能障害の改善が得られることが報告されています。

統合失調症の方は、症状として「無為自閉」「無気力」などを認めるため、デイケアや作業所の通所を促しても「行かなくて大丈夫です」「やめときます」と参加に消極的な方が多いため、周囲が協力して通所を粘り強く促すことも大切です。

無理矢理デイケアに連行してしまうのはよくありませんが、場合によっては本人が乗り気でなくても連れていった方が、長期的に見れば本人のためになることもあります。

Ⅲ.認知機能障害はすぐに改善しない

陽性症状はお薬が効くと比較的速やかに改善していくことが珍しくありません。入院して1週間もしたら妄想がほぼ消失していた、という事もあります。

しかし陰性症状・認知機能障害に関してはこのような速やかな改善はまず得られません。数か月、場合によっては数年単位で改善していくものだという認識を持つ必要があります。

焦らずにゆっくりと治療していくことが大切です。

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