酸棗仁湯にはどのような効果・副作用があるのか【漢方薬】

酸棗仁湯の効果と副作用

漢方薬には、精神的な症状に対して効果が期待できるものもあります。

穏やかに効き、副作用が少ない漢方薬は「精神科の薬は飲みたくない」といった患者さんから好まれることも多く、精神科領域でもしばしば用いられます。

主に不眠症状に対して用いられる漢方薬の1つに「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」があります。

酸棗仁湯は、睡眠薬のように強制的に眠らせるような効き方はしません。安神作用(心を穏やかにする作用)によって眠りやすい状態を作り、徐々と眠りを改善していくような効き方をします。

そのため不眠だけでなく、動悸やめまい、焦りといった自律神経症状・精神症状に対しても効果が期待でき、不安障害(神経症)や心身症、うつ病をはじめ、更年期障害などに用いられることもあります。

漢方薬は多くの生薬が配合されているため、どのように使えばいいのか分かりにくいものです。しかしその特徴をしっかりと知れば、こころの健康を助けてくれる強い味方になります。

ここでは酸棗仁湯にはどんな効果や副作用があるのか、どんな人に向いているお薬なのかについて紹介していきます。

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1.酸棗仁湯の成分とそれぞれのはたらき

漢方薬は様々な生薬(しょうやく)が配合されています。酸棗仁湯も同様で、5種類の生薬が配合されたお薬になります。

酸棗仁湯を知るためには、まずは配合されている生薬とその作用を知りましょう。たくさんの生薬が配合されているため分かりくく感じるかもしれませんが、それぞれの主な作用は次のようになります。

生薬 含有量 主な作用
酸棗仁(さんそうにん) 10.0g 肝の血流を増やし疲れを取る(肝血)、精神を鎮める(安神)、眠りに導く
茯苓(ぶくりょう) 5.0g 脾臓を活性化させる事で(健脾)、胃腸のはたらきを改善し、気持ちを落ち着ける
川芎(せんきゅう) 3.0g 気と血液の流れを改善させる(活血行気)
知母(ちも) 3.0g 悪い熱を下げ、焦りを和らげる(滋陰清熱)
甘草(かんぞう) 1.0g 緊張を和らげる事で痛みやけいれんを抑える

酸棗仁湯はこれら5つの生薬が配合されています。

なお、配合されている各生薬の量は製薬会社によって多少の違いがありますが、ここでは「ツムラ」の酸棗仁湯の配合量を記載しています。

これらの生薬を全て合計すると22.0gになりますが、これらを混ぜて乾燥させたもののうち3.25gを取り、それに添加物を加える事で計7.5g(1日使用量)としたのが酸棗仁湯になります。

ではこれら5種類の生薬を配合した酸棗仁湯は、どのような漢方薬なのでしょうか。

酸棗仁湯の主薬は「酸棗仁(さんそうにん)」です。酸棗仁はナツメという植物の種から作られた生薬で、体力が低下している方に対して、肝血を補う事で疲労を取り、精神を落ち着け、眠りにつきやすい状態を作ります。

茯苓(ぶくりょう)は脾臓の血流を増やす事で胃腸のはたらきを改善したり、精神を落ち着ける作用があります。酸棗仁が肝臓の血流を増やす事で精神を落ち着けるのに対して茯苓は脾臓にはたらくため、酸棗仁の作用を補い、増強してくれます。

川芎(せんきゅう)は、気と血液の流れを改善させる作用を持ちます。これを「活血行気」と呼びます。酸棗仁は肝臓への血流を改善させますが、川芎は肝臓に溜まった血液や気を疎散(≒拡散)させる作用があり、酸棗仁湯はこの両者を配合する事で気や血流のバランスを保っています。

知母(ちも)は悪い熱を下げる事で焦りなどを落ち着かせる作用があり、このような作用は「滋陰清熱」と呼ばれます。頭に熱が昇ってイライラしている状態などを静めてくれる作用が期待できます。

甘草(かんぞう)はこれらの生薬を調和させる作用があります。また甘草自体にも緊張を和らげる作用があり、酸棗仁の安神作用を補強してくれます。

以上から、酸棗仁湯は、

  • 養血安神(血流を増やす事によって体力を改善し、気持ちを落ち着かせる)
  • 清熱除煩(悪い熱を下げる事でイライラを取り除く)

といった作用をもち、これによって眠りに導く漢方薬である事が分かります。

このような特徴から、酸棗仁湯は不眠の中でも、

  • 体力が落ちている方
  • イライラや不安などが不眠の一因となっている方

に対して適している漢方薬になります。

2.酸棗仁湯の証は?

漢方薬には「証」という概念があります。証は西洋医学には無い漢方独特の考え方なので、慣れないと分かりにくい概念かもしれません。

証とは、かんたんに言えば「あなたの体質」のようなものです。同じような症状でも、証(体質)が異なれば適した漢方薬も違ってくる、というのが漢方医学の考えなのです。

証にはいくつかの分け方がありますが、ここでは代表的な2つの証を見てみましょう。

まずは「虚実」という考え方があります。漢方医学では、実とは体力が強いこと、虚とは体力が弱いことを表します。「実」「虚」、そしてそれらの間である「中間」に分けられます。

次は、「寒熱」という考え方があります。これは代謝の良さや患者さん本人が自覚する身体の熱感を表します。寒熱は体温の高さではありませんので間違えてはいけません。この証も「熱」「中等」「寒」の三段階に分けて考えます。

このうち、酸棗仁湯は、

虚実:虚証
寒熱:中等証

の方に適した漢方薬だと考えられています。

実際に酸棗仁湯の適応として、

心身がつかれ弱って眠れないもの

と記載されています。心身が弱っている、つまり虚証の方に向いている漢方薬だという事がここからも分かります。

なお漢方医学には多くの流派があり、証の考え方はそれぞれで違いがあります。「実虚」「寒熱」以外にも証はいくつかあります。しかし、このコラムは「証」を専門的に説明するものではないため、証の概念の説明はこれくらいにさせて頂きます。

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3.酸棗仁湯はどのような疾患に効果があるのか

酸棗仁湯はどんな疾患に効果があるのでしょうか。

添付文書を見ると酸棗仁湯の適応疾患として、

心身がつかれ弱って眠れないもの

と記載されています。

更に酸棗仁湯が推奨される方として、

体力の低下した人で、心身ともに疲労して、不眠を訴える場合に用いる。

1)慢性疾患患者や、老人などで夜間眼がさえて眠れない場合
2)精神不安、神経過敏などを伴う場合

とも書かれています。

老化や基礎疾患によって体力が消耗している方、そして不安やイライラなどの精神症状が不眠の一因となっている方に使用する事が推奨されています。

反対に、

  • 体力のある方(実証の方)
  • 不眠の原因が精神的な理由ではない方(例えば不規則な生活など)

にはあまり効果は期待できません。

また、単に眠らせるお薬ではなく心身の調子を整えて眠りやすい状態を作るお薬ですので

・めまい
・イライラ、焦り
・動悸
・寝汗
・発熱
・頭痛
・口渇

などといった自律神経症状の改善にも効果が期待できます。

このような特徴から、酸棗仁湯は不眠症以外にも、

  • 不安障害(神経症)
  • 自律神経失調症(めまい、発汗、肩こりなど)
  • 更年期障害

などに用いられる事もあります。

4.酸棗仁湯の実際の効果

酸棗仁湯が効く疾患についてみてきましたが、実際の精神科の臨床現場での酸棗仁湯の効果や評判はどうなのでしょうか。

「漢方薬に興味があるんですが、実際の効きはどうなんでしょうか?」という事は患者さんから非常に多く頂く質問です。安全性が高い漢方薬に興味を持っている方は多いのですが、「本当に効くのだろうか?」という不安から使用に躊躇してしまう事も多いようです。

まず、これは漢方薬全体に言えることですが、漢方薬は効果の個人差が非常に大きいです。西洋薬と異なり、特定の疾患を対象に開発されたお薬ではなく、あくまでも自然界にある生薬を配合したものであるため、ピンポイントの効果ではなく、広い効果を持つお薬だからです。

効く人には著効することもあります。しかし効かない人には全く効果を示しません。特に証から大きくはずれている患者さんや、症状の程度があまりに重度な患者さんは効果が乏しいことが多いと感じます。

強さとしても穏やかであり、飲めばすぐに眠れるようになる、というものではありません。緩やかに心を落ち着かせる事で徐々に眠りやすい状態に変えていくというものです。

即効性も乏しく、緩やかに効き始めます。睡眠薬のように即効性があって、すぐに眠気をもよおすような作用は期待できません。そのため睡眠薬のような効果を期待して服用すると、期待外れに感じるかもしれません。

酸棗仁湯は不眠症に用いるお薬ではありますが、強制的に脳を眠らせるようなお薬ではなく、精神状態を落ち着ける事でゆっくりと穏やかに、自然に眠りやすい状態を作るようなお薬だという考えを持つ事が大切です。

5.酸棗仁湯の効果的な使い方

酸棗仁湯は主に不眠に対して用いられますが、不眠のお薬というと「寝る前に服用する」という印象を持っている方は多いのではないでしょうか。

実際に睡眠薬などは寝る前に服用する事が一般的で、日中に服用する事はありません。

しかし酸棗仁湯の場合はこのような認識を持って服用するのはあやまりです。酸棗仁湯は睡眠薬のように、服用直後に強制的に眠気を催させるお薬ではないからです。

服用を続ける事で安神作用(心を穏やかにする作用)が発揮され、徐々に眠りを得やすい状態を整えていくような効き方をします。

そのため夜にだけに服用するのでは不十分で、一日を通して服用する必要があります。

実際、酸棗仁湯の用法及び用量を見ると、

通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

と夜だけに服用するのではなく、1日を通して効果が発揮されるような服用法をするように記載されています。

また酸棗仁湯に限らず、漢方薬は食前に服薬することが推奨されています。ほとんどのお薬は食後に服薬するのに、なぜ漢方薬は食前なのでしょうか?

これは漢方薬に含まれる「配糖体」という成分が関係しています。

配糖体には糖が含まれていますが、これはこのままでは体内に吸収できない構造になっています。腸管で腸内細菌によって糖がはずされると、体内に吸収できる構造に変化し、これによって腸管から血液内へ吸収されていきます。

腸内細菌が糖をはずしてくれないと、配糖体は吸収されずにそのまま排泄されてしまうのです。

漢方薬を食後に服薬すると、腸内細菌は食物を処理するのに大忙しのため、漢方薬の配糖体をはずすヒマがありません。そのため、漢方薬の吸収効率が落ちてしまいます。空腹時であれば、食べ物がないため腸内細菌は漢方薬の配糖体をしっかり処理してくれるので、空腹時の方が好ましいと考えられているのです。

そのため、漢方薬は可能であれば食前に服薬するようにしましょう。

しかし他のお薬のほとんどは食後に服薬するため、漢方薬だけ食前だと服薬の手間が煩雑になってしまいます。この場合は主治医と相談の上、漢方薬も食後に服薬することもあります。上記のように理論上は食前の服薬が良いのですが、実際には食前でも食後でもそこまで大きな効果の差はないと指摘する専門家もいます。

6.酸棗仁湯の副作用

漢方薬には副作用がないから安全と考えている方がいますが、本当にそうでしょうか。

確かに漢方薬は化学的な物質ではなく生薬から作られているため、副作用が少ないのは事実です。

しかし副作用が全く生じないわけではありません。

それどころか、頻度は稀ですが命に関わるような副作用が発現してしまう事もあります。

「漢方薬だから絶対に安心」という考えは間違いで、漢方薬は副作用は少ないけども、お薬であるため副作用には一定の注意は必要です。「安全だ」と安易に考えるのではなく、その効果と副作用をしっかりと理解したうえで使うようにしましょう。

では酸棗仁湯で注意すべき副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。

生じうる副作用としては、

  • 食欲不振
  • 胃部不快感
  • 悪心
  • 腹痛
  • 下痢

などがあります。しかしその頻度は多くなく、また程度も軽いものがほとんどです。

これらの胃腸系の副作用は、酸棗仁湯に含まれる「川芎(せんきゅう)」が原因だと考えられています。川芎は時にこのような胃腸系の副作用を起こす事が知られています。

また稀ですが注意すべき重篤な副作用として「偽性アルドステロン症」を知っておく必要があります。偽性アルドステロン症は臨床でたまに見かける副作用で、見逃してしまうと患者さんに苦しい思いをさせることになってしまいます。

偽性アルドステロン症は、「甘草(かんぞう)」を含む漢方薬に認められる副作用です。甘草は「グリチルリチン」という成分を含みますが、このグリチルリチンは「アルドステロン」というホルモンと似たようなはたらきをします。

アルドステロンは身体の中のナトリウムを増やし、反対にカリウムを減らす作用があります。

甘草によってこのアルドステロン様の作用が強くなりすぎてしまうと、身体のカリウムが必要以上に失われ、「高ナトリウム血症」「低カリウム血症」になります。

ナトリウムは水を一緒に引っ張る作用があるため、高ナトリウム血症になると血圧が上がり、むくみ(浮腫)が強くなります。カリウムは筋力や心臓の収縮に関わっているため、低カリウムになると力が入りにくくなったり、けいれんするようになったり、尿がたくさん出るようになってしまったり、不整脈が出るようになってしまいます。

これが偽性アルドステロン症です。

偽性アルドステロン症を見逃さないためには、何よりもまず服用している患者さんが偽性アルドステロン症について知っておくことが大切です。その上で、むくみや血圧上昇、力の入りにくさやけいれんなどが出るようになったらすぐに主治医に報告することです。

また酸棗仁湯を服用の間は定期的に血液検査をしてナトリウムやカリウムの値をチェックすることも大切です。

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