リスペリドンは、1996年から発売されている「リスパダール」という抗精神病薬のジェネリック医薬品です。
抗精神病薬というのは、主に幻覚・妄想・興奮といった精神病症状を抑える作用を持つお薬の事で、主に統合失調症の治療に用いられています。
抗精神病薬には古い第1世代抗精神病薬と、比較的新しい第2世代抗精神病薬があります。このうち、リスペリドンは第2世代の抗精神病薬に属します。
第1世代と比べて第2世代は改良されていて副作用も少なくなっているため、現在では第2世代が用いられる事が一般的です。
リスペリドンは統合失調症の治療によく使われている代表的な抗精神病薬の1つであり、その効果には定評があります。
ここではリスペリドンの効果や特徴・作用機序などについて紹介し、どのような人に向いているお薬なのかをお話していきます。
1.リスペリドンの特徴
まずはリスペリドンの全体像をつかむため、その特徴についてかんたんに説明します。
リスペリドンは抗精神病薬に属し、主に統合失調症の治療に用いられています。「リスパダール」というお薬のジェネリック医薬品であり、リスパダールよりも安い薬価で処方してもらう事が出来ます。
その基本的な作用は、脳神経において、
- ドーパミン
- セロトニン
という2つの物質のはたらきをブロックする事になります。
ドーパミンやセロトニンは「神経伝達物質」と呼ばれる物質で、神経から神経に情報を伝える役割を持っています。
通常、神経の端(神経終末)から神経伝達物質は分泌され、それが次の神経の細胞体にある「受容体」にくっつく事で情報は伝達されていきます。
リスペリドンはドーパミンの受容体のうち「ドーパミン2受容体」、そしてセロトニンの受容体のうち「セロトニン2A受容体」にフタをしてしまい、各受容体にドーパミンやセロトニンがくっつけないようにしてしまうはたらきを持ちます。
そして、この作用によって統合失調症の症状を改善させてくれるのです。
統合失調症では、脳神経のドーパミン分泌量が過剰になっている事が指摘されており、これにより統合失調症に特徴的な症状である「陽性症状」が出現すると考えられています。
【陽性症状】
統合失調症の代表的な症状であり、本来ないものが存在するように感じる症状の事。
「本来であれば感じるはずのない感覚を感じる」という幻覚や、「本来であればあり得ない事をあると信じてしまう」という妄想などがある。
リスペリドンはドーパミン2受容体を強力にブロックする事で、幻覚・妄想といった陽性症状を改善させます。またそれ以外にも、興奮、衝動性、易怒性などといった精神の高ぶりを抑える事もできます。
リスペリドンに限らず、抗精神病薬の多くはドーパミンをブロックする作用を持ちます。
またリスペリドンはそれ以外にも、「セロトニン2A受容体」をブロックする作用も有しています。
セロトニン2A受容体のブロックは、統合失調症の症状の1つである「陰性症状」を改善させる他、ドーパミンをブロックしすぎる事によって生じうる「錐体外路症状(EPS)」や「高プロラクチン血症」といった副作用の発現を軽減させる役割もあります。
【陰性症状】
統合失調症の代表的な症状であり、本来あるべきもの(感情や意欲など)がなくなってしまう症状。
感情が乏しくなったり(感情平板化)、何も行動や活動をしなくなってしまう(無為自閉)などがある。
【錐体外路症状(EPS)】
薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状が出現する事。
【高プロラクチン血症】
薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、プロラクチンというホルモンを増やしてしまう副作用。
プロラクチンは本来は出産後に上がるホルモンで乳汁を出すはたらきを持つが、プロラクチンが高い状態が続くと、乳汁分泌や月経不順、インポテンツ、性欲低下などが生じる他、長期的には骨粗鬆症や乳がんのリスクにもなる。
このようにリスペリドンは、ドーパミンを強力にブロックする事で陽性症状をしっかり改善させつつ、セロトニンをブロックする事で陰性症状を多少改善させ、またドーパミンのブロックによって生じうる副作用を軽減させるという作用を持った抗精神病薬なのです。
そしてリスペリドンの最大の特徴は、ドーパミン2受容体をブロックする作用が強いという事です。
統合失調症は脳のドーパミンが過剰分泌されることで発症すると考えられており、出過ぎているドーパミンを抑えることが治療の基本になります。
ドーパミンが過剰になると幻覚や妄想といった陽性症状を引き起こすため、ドーパミンをブロックする作用に優れるリスペリドンは、統合失調症の陽性症状を改善する作用に非常に優れています。
しかしドーパミンをブロックする力が強いということは、ドーパミンを抑えすぎてしまうリスクもあるということです。過度にドーパミンをブロックしてしまうと今度は錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症が起こってしまうこともあります。
リスペリドンは、良い意味でも悪い意味でも「ドーパミンを強力にブロックする」お薬です。そのため陽性症状を改善する作用に優れる一方で、錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用も起こりやすいという側面があります。
昔の古い抗精神病薬である第1世代抗精神病薬と比べるとこれらの副作用の頻度は少なくなっていますが、第2世代の中ではリスペリドンの錐体外路症状、高プロラクチン血症の頻度は多めであると言ってよいでしょう。
また、リスペリドンには様々な剤型があるという利点もあります。
具体的には錠剤をはじめとして、OD錠(口腔内崩壊錠)、粉薬(細粒)などがあり、液体のお薬もあります。また先発品にはなりますが、持効性注射剤(LAI)といって、1回注射するだけで2週間効果が持続するタイプのお薬もあります(商品名:リスパダールコンスタ)。
更にリスペリドンの活性代謝物のみを抽出し、ゆっくりと身体に吸収されていくように開発された剤型もあり(商品名:インヴェガ)、更にはその持効性注射剤もあります(商品名:ゼプリオン)。
以上からリスペリドンの特徴としては次のような点が挙げられます。
【良い特徴】
- 強力な抗幻覚・妄想作用
- 剤型が豊富(錠剤、細粒、液剤、注射剤など。また活性代謝物インヴェガもある)
- 陰性症状にも多少効果がある
- 第1世代と比べると全体的に副作用は少ない
- ジェネリック医薬品であり、薬価が安い
【悪い特徴】
- 第2世代の中では高プロラクチン血症や錐体外路症状などの副作用が起こりやすい
- 第2世代の中では、陰性症状に対する効果は弱め
2.リスペリドンの作用機序
リスペリドンはどのような作用機序を持つ抗精神病薬なのでしょうか。
抗精神病薬は、ドーパミンをブロックするのが主なはたらきです。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されている事が一因だという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを抑える作用を持ちます。
リスペリドンは、抗精神病薬の中でもSDA(Serotonin Dopamine Antagonist:セロトニン・ドーパミン拮抗薬) という種類に属します。SDAはドーパミン2受容体とセロトニン2A受容体をブロックする作用に優れる抗精神病薬のことです。
ドーパミン2受容体のブロックは幻覚・妄想といった陽性症状を改善させます。一方で過度にブロックしてしまうと、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用の原因にもなりえます。
セロトニン2A受容体のブロックは、無為・自閉、感情平板化などといった陰性症状を改善させます。また錐体外路症状や高プロラクチン血症といったドーパミン系の副作用の発現を軽減させるはたらきもあることが報告されています。
またその他にもリスペリドンには、
- α1受容体をブロックする作用(程度:中等度)
- ヒスタミン1受容体をブロックする作用(程度:軽度)
- セロトニン2C受容体をブロックする作用(程度:軽度)
なども多少有しています。
これらの作用は主に副作用となってしまう事が多く、α1受容体のブロックは血圧を下げる事によりめまいやふらつき、血圧低下を引き起こす事があります。また射精障害の原因となる事もあります。
ヒスタミン1受容体のブロックは体重増加や眠気を引き起こす事があります。またセロトニン2C受容体のブロックも体重増加の原因になりえます。
リスペリドンでこれらの副作用が時に生じるのは、これらの受容体に多少作用してしまっている事が原因なのです。
3.リスペリドンの適応疾患
リスペリドンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。
添付文書にはリスペリドンの適応疾患として、
統合失調症
が挙げられています。
臨床でも主な用途は添付文書の通り統合失調症になります。統合失調症の中でも特に幻覚妄想をいった陽性症状が前景に立っているタイプに適しています。
またリスペリドンはドーパミン受容体を強力にブロックすることで、興奮・衝動・怒りなどを抑える作用にも優れるため、
- 躁状態で興奮している患者さん
- 認知症で易怒的となっている患者さん
- 自閉症スペクトラム障害やパーソナリティ障害などで衝動性の強い患者さん
などにも有効で、これらの疾患の方に主に鎮静させる目的で投与されることもあります。
実際、海外では躁病や自閉症スペクトラム障害に対してリスペリドンが保険適応となっている国もあります。
またリスペリドンはうつ病の治療に用いられることもあります。
うつ病の治療薬としては通常は「抗うつ剤」が用いられますが、抗うつ剤のみでは不十分に改善しないうつ病患者さんに対しては第2世代抗精神病薬を少量加えるという治療法が用いられれる事があります。
これを増強療法(Augmentation)と言います。増強療法にはリスペリドンやジプレキサ(一般名:オランザピン)、エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)など様々な第2世代抗精神病薬が用いられています。
このようにリスペリドンは保険適応としては統合失調症にしか適応がありませんが、実際には双極性障害やうつ病、認知症、自閉症スペクトラム障害など多くの疾患に用いられる可能性のあるお薬なのです。
統合失調症ではない患者さんが、医師から十分な説明のないままリスペリドンを処方されてしまうと「この薬が出たという事は自分は統合失調症なのか」と心配されてしまう事があります。
処方されたお薬がどんなお薬なのか、今はネットで簡単に調べられますからね。
リスペリドンは、添付文書上の適応疾患としては統合失調症しか書かれていませんが、実際の臨床では統合失調症以外でもこのように様々な疾患に対して用いられます。
そのためリスペリドンを処方されたからといって、それだけで「自分は統合失調症なんだ」ということにはなりません。
4.抗精神病薬の中でのリスペリドンの位置づけ
抗精神病薬にはたくさんの種類があります。その中でリスペリドンはどのような位置づけのお薬になるのでしょうか。
まず、抗精神病薬は大きく「第1世代」と「第2世代」に分けることができます。第1世代は「定型」とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。第2世代は「非定型」とも呼ばれており、比較的最近の抗精神病薬を指します。
代表的な第1世代としては、
- セレネース(一般名:ハロペリドール)
- コントミン(一般名:クロルプロマジン)
などがあります。
これらは1950年代頃から使われている古い抗精神病薬です。第1世代は作用は強力なのですが副作用も強力だという難点があります。
特に錐体外路症状と呼ばれる神経系の副作用や、高プロラクチン血症というホルモン系の副作用が生じやすく、これは当時から問題となっていました。
また悪性症候群や重篤な不整脈などといった命に関わる可能性もある副作用が起こってしまうことも稀ながらありました。
病気を治すためにお薬を服用しているのに、そのお薬を服用する事で身体に何らかの害が生じてしまったら元も子もありません。
そこで第1世代の副作用の多さの改善を目的に開発されたのが第2世代です。第2世代は第1世代と同程度の作用を保ちながら、標的受容体への精度を高めることで副作用を少なくしているという利点があります。
第2世代には、
- SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
- MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)
- DSS(ドーパミン部分作動薬)
の3つの種類があります。
お薬は作用の強さも大切ですが、一番大切なのは副作用が少なく安全性に優れる事です。そのため現在では、まずは副作用の少ない第2世代から使う事が鉄則となっています。
第1世代を使うのは、第2世代ではどうしても効果不十分になってしまうなど、やむをえないケースに限られます。
第2世代の中のそれぞれの位置づけですが、SDA、MARTA、DSSそれぞれの特徴として、
SDA
【該当薬物】リスパダール(リスペリドン)、ロナセン、ルーラン
【メリット】幻覚・妄想を抑える力に優れる
【デメリット】錐体外路症状、高プロラクチン血症が多め(第1世代よりは少ない)
MARTA
【該当薬物】ジプレキサ、セロクエル、シクレスト、クロザピン
【メリット】幻覚妄想を抑える力はやや落ちるが、鎮静効果、催眠効果、抗うつ効果などがある
【デメリット】太りやすい、眠気が出やすい、血糖が上がるため糖尿病の人には使えない
DSS
【該当薬物】エビリファイ
【メリット】上記2つに比べると穏やかな効きだが、副作用も全体的に少ない
【デメリット】アカシジアが多め
といった特徴が挙げられます。
5.リスペリドンが向いている人は?
最後にリスペリドンが向いているのはどのような患者さんなのかを考えてみましょう。
リスペリドンの特徴をもう一度みてみると、
- 幻覚・妄想を抑える作用が強い
- 陰性症状にも多少効果がある(第2世代の中では弱め)
- 錐体外路症状・高プロラクチン血症が第2世代の中では多め
- ジェネリック医薬品であり、薬価が安い
ということが挙げられます。
また第2世代の中で比較すると、
- 鎮静や体重増加が少ない
という利点もあります。
リスペリドンでも体重増加が生じることはありますが、その頻度や程度は他の第2世代と比べると軽度です。特に第2世代のMARTAは高い確率で体重増加を引き起こしますが、リスペリドンが属するSDAはMARTAと比べると体重増加はあまり引き起こしません。
そのためリスペリドンは、
- 幻覚・妄想が主体の統合失調症の方
- お薬による体重増加が心配な方
- お薬による眠気や鎮静を起こしたくない方(日中仕事をしている方など)
- なるべく治療費を安価に抑えたい方
に向いているお薬ではないかと考えられます。
またリスペリドンは剤型が豊富にあります。錠剤のみならずOD錠(口腔内崩壊錠)、細粒、内用液(液剤)があり、更には先発品のリスパダールには持効性注射剤(リスパダールコンスタ)という注射製剤もあります。
持効性注射剤であるリスパダールコンスタは2週間に1回注射すればいいため、毎日お薬を飲む必要がなく、飲み忘れの心配もありません。そのため、
- 毎日お薬を飲むのがわずらわしい方
- お薬の飲み忘れが多い方
などといった方で、リスペリドンを服用する事で効果がある方は、リスパダールコンスタに切り替えてみるのも方法の1つです。