レンドルミンは1988年に発売された睡眠薬で、「ベンゾジアゼピン系」という種類に属します。
まずまず古いお薬ですが、効果の良さと安全性の高さのバランスに優れるため、医師としても処方しやすく、患者さんからの評判も良いお薬です。現在でも処方される頻度の多い睡眠薬です。
睡眠薬にはたくさんの種類がありますが、それぞれその特徴は異なります。ここではレンドルミンという睡眠薬について、その効果や強さについて紹介していきます。
1.レンドルミンはどんな睡眠薬か
まずはレンドルミンの特徴をお話します。
レンドルミンの最大の特徴は、そのバランスの良さにあります。より具体的に言うと、効果と安全性のバランスが非常に良く、まずまずしっかり効きつつ、重い副作用も生じにくいのです。
また作用時間もちょうどよく、6~8時間程度と人の平均的な睡眠時間と同じになります。
個人差はありますが、服薬してから20~30分も経てば眠気を感じ始め、データ上は1.5時間で血中濃度が最大に達します。効果発現も速く、またある程度効果もしっかりしているため、入眠障害(寝付けない)タイプの不眠には良く効くお薬です。
またある程度の作用時間の長さもありますので中途覚醒にも使える事があります。
2.レンドルミンの強さ
レンドルミンはどのくらい効果が強いのでしょうか。
睡眠薬を処方した時、患者さんが興味を持つのが「睡眠薬の強さ」です。
「先生、一番強い睡眠薬をください」
「睡眠薬は怖いから、一番弱いやつをください」
このように睡眠薬を強さで評価している方は少なくありません。
しかし強いか弱いかというのは、他の睡眠薬と比較してみないと分かりません。
そこで、ここではまずレンドルミン以外の睡眠薬にはどのようなものがあるのかという事からお話させて頂きます。
現在、もっとも多く使われている睡眠薬は「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類です。
これらのお薬はɤアミノ酪酸(通称GABA)の作用を強めることで、鎮静・傾眠作用を発揮します。GABAは抑制系の神経から分泌される物質であるため、この作用が強まると脳のはたらきが抑制され、眠気を催します。
ではこれらベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の中でレンドルミンの強さというのはどのくらいなのでしょうか。
実を言うとこれらベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はどれも強さに大きな差はありません。強いて言えばこれが強い・弱いという程度の評価はありますが、おおむねの評価としては、どれも同じくらいの強さになります。
レンドルミンも一般的なベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系であり、他のベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系と比べて、特に強い・弱いという事はありません。
ちなみにベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬には、
- バルビツール酸系
- メラトニン受容体作動薬
- オレキシン受容体拮抗薬
などがあります。
バルビツール酸系は最古の睡眠薬であり、強力な効果があります。ベンゾジアゼピン/非ベンゾジアゼピン系より効果は明らかに強力です。しかしその分副作用も多く、時に危険な副作用が生じる事もありうるため、現在ではほとんど用いられていません。
メラトニン受容体作動薬というのは、メラトニンのような作用をするお薬の事です。メラトニンは私たちの脳で作られている物質で、夜になると分泌され自然な眠気を催します。また体内時計の調整をするはたらきもあります。メラトニン受容体作動薬は自然な眠りを導くため安全性は高いのですが、効果は非常に弱いお薬です。
オレキシン受容体拮抗薬というのは、脳を覚醒させる物質であるオレキシンのはたらきをブロックする事で脳の覚醒レベルを下げ、眠りを導くお薬です。効果はまずまずありますが、ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系と比べるとやや弱い印象があります。しかしその分耐性や依存性が生じないというメリットもあります。
睡眠薬の強さを考える場合、おおよそですが、
バルビツール酸系>>ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン型>オレキシン受容体拮抗薬>>メラトニン受容体作動薬
となります。
レンドルミンはベンゾジアゼピン系ですので、睡眠薬の中ではまずまずの強さはある事が分かります。しかしベンゾジアゼピン・非ベンゾジアゼピン系の中での強さの比較というのはあまり意味がありません。
ではベンゾジアゼピン・非ベンゾジアゼピン系の中で効果の強さを強めたり弱めたりしたい時はどうすればいいのでしょうか。
睡眠薬の効果を強めたり弱めたりしたい場合は、薬の種類を変えるのではなく一般的には「量」を変える事で対応します。
例えば、「弱い睡眠薬をお願いします」という患者さんがいたとしたら、弱いベンゾジアゼピン系を探すよりも、レンドルミンを普通量の半分にして処方する方が良いでしょう。
レンドルミンは通常0.25mgを1錠、就寝前に投与します。弱めたいのであれば0.125mg(半錠)や0.0625mg(1/4錠)にすればいいのです。
反対に強めたいのであれば、レンドルミンは0.5mgまでは医師が必要と判断すれば認められますので、0.375mg(1.5錠)や0.5mg(2錠)にします。
ただし、睡眠薬の増減は不適切に行うと耐性が出来てしまったり依存性が形成されたりといった危険がありますので、必ず主治医の指示の元で行う必要があります。
3.レンドルミンの作用時間は?
ベンゾジアゼピン・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の強さはどれも大差ありませんので、私たち医師が睡眠薬を選択するときは「強さ」を中心には選びません。まず考えるのは強さではなく「作用時間」になります。
睡眠薬は作用時間で分けると4つに分類することができます。
名称 | 作用時間 | 薬名 |
超短時間型 | 2~4時間 | ハルシオン、マイスリー、アモバン、ルネスタなど |
短時間型 | 6~10時間 | レンドルミン、リスミー、デパス、エバミール/ロラメットなど |
中時間型 | 12~24時間 | サイレース/ロヒプノール、ユーロジン、ネルボン/ベンザリンなど |
長時間型 | 24時間以上 | ドラール、ダルメート/ベジノールなど |
睡眠薬をどれくらいの長さ効かせたいかを考え、この4種類の中から選択します。
不眠症にはいくつかのタイプがありますが、大きく「入眠障害」と「中途覚醒」に分けられます。
入眠障害は寝付きが悪いタイプです。なかなか眠りに入れないというこのタイプにはすぐに効く超短時間型や短時間型が向いています。
中途覚醒は夜中に何度も目覚めてしまうタイプです。このタイプには中時間型や長時間型を使います。また早朝覚醒という朝早くに目覚めてしまうタイプにもこの系統の睡眠薬が向いています。
レンドルミンは短時間型に属し、服用してから約1.5時間で血中濃度が最大となり、7時間ほどで血中濃度は半分まで下がります。
実際の感覚としては、服用してから20~30分ほどで眠くなり、その効果は6-8時間程度続きます。
4.他睡眠薬との比較
ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はどれも同じくらいの強さだと説明しました。
違いは「作用時間」です。代表的なベンゾジアゼピン/非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のそれぞれの半減期は次のようになっています。
睡眠薬 | 最高濃度到達時間 | 作用時間(半減期) |
---|---|---|
ハルシオン | 1.2時間 | 2.9時間 |
マイスリー | 0.7-0.9時間 | 1.78-2.30時間 |
アモバン | 0.75-1.17時間 | 3.66-3.94時間 |
ルネスタ | 0.8-1.5時間 | 4.83-5.16時間 |
レンドルミン | 約1.5時間 | 約7時間 |
リスミー | 3時間 | 7.9-13.1時間 |
デパス | 約3時間 | 約6時間 |
サイレース/ロヒプノール | 1.0-1.6時間 | 約7時間 |
ロラメット/エバミール | 1-2時間 | 約10時間 |
ユーロジン | 約5時間 | 約24時間 |
ネルボン/ベンザリン | 1.6±1.2時間 | 27.1±6.1時間 |
ドラール | 3.42±1.63時間 | 36.60±7.26時間 |
ダルメート/ベジノール | 1-8時間 | 14.5-42.0時間 |
半減期とはお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、お薬の作用時間とある程度相関します。このような数値を元に作用時間を考え、患者さんに最適な睡眠薬を決めていきます。
5.レンドルミンが向いている人は?
不眠には大きく分けると2つのタイプがあります。
一つ目が「寝付けない事」で、これは「入眠障害」とも呼ばれます。そして二つ目は「寝てもすぐに起きてしまう事」で、これは「中途覚醒」と呼ばれます。
一般的には、
- 入眠障害には超短時間、短時間型
- 中途覚醒には中、長時間型
の睡眠薬が適していると言われています。
レンドルミンは短時間型ですから、セオリー通りにいけば「寝付きが悪い」という入眠障害に向いていることになります。
実際もその通りで、レンドルミンは入眠障害に用いられる事が多い睡眠薬になります。しかしある程度の作用時間の長さもありますので、入眠障害を主としつつ、中途覚醒も少し困っているという不眠症の方にも効果が期待できます。
この場合、1剤で寝つきも改善させ、夜間の覚醒も抑えてくれるという両方の効果が得られる可能性があります。
また効果と安全性のバランスが良い事から、不眠でお薬を検討する際に、まず最初に使いやすい睡眠薬になります。
6.レンドルミンの作用機序
レンドルミンは「ベンゾジアゼピン系」という種類のおく薬です。
ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体という部位に作用することで、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 催眠作用(眠くする)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
という4つの効果を持っていることが知られています。
ベンゾジアゼピン系と呼ばれるお薬は、基本的にはこの4つの効果を全て持っています。ただ、それぞれの強さはお薬によって異なり、抗不安作用は強いけど抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。
ベンゾジアゼピン系のうち、催眠効果が特に強いものを「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼びます。レンドルミンもそのひとつになります。