クエチアピンを糖尿病の方が使えない理由とは?

クエチアピンが糖尿病に禁忌である理由

クエチアピンは統合失調症の治療薬として用いられているお薬で、「セロクエル」というお薬のジェネリック医薬品になります。

幻覚・妄想といった精神病性の症状を改善させる作用に優れるため「抗精神病薬」という種類に属します。

クエチアピンは抗精神病薬の中でも様々な効果が期待できるお薬で、統合失調症のみならず双極性障害やうつ病、認知症、不眠症など様々な精神疾患に用いられるお薬です。

多くの疾患で処方される可能性のあるクエチアピンですが、処方にあたって注意点があります。それは「糖尿病の方は服用してはいけない」という事です。

クエチアピンは糖尿病患者様、そして糖尿病の既往がある方への投与は「禁忌(絶対にダメ)」となっています。

クエチアピンはなぜ糖尿病の方は服用できないのでしょうか。また万が一、糖尿病の方が服用してしまうとどのような問題が生じうるのでしょうか。

ここでは糖尿病の方がクエチアピンを服用できない理由をお話させて頂きます。

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1.クエチアピンが糖尿病の方に使えないのは何故か

クエチアピンはなぜ、糖尿病の患者さんに投与してはいけないのでしょうか。

その答えを簡単に言うと、

「クエチアピンは血糖値を上げてしまう可能性があるから」

です。

糖尿病は血糖値が高い状態が続く疾患ですが、クエチアピンは血糖値を上げる可能性があるお薬であるため、糖尿病の方の血糖を更に上げてしまうリスクがあるのです。

糖尿病というのは、血液中の糖(血糖)の量が増えすぎてしまう疾患です。インスリンという血糖を下げるホルモンが分泌されなくなったり、糖質の摂取量が多いと生じます。

血糖値が高い状態が長く続くと血管や臓器が痛みやすくなる事が知られており、動脈硬化を進行させて脳梗塞・心筋梗塞を引き起こしたり、組織や臓器にダメージを与え続けて神経障害、腎機能障害、網膜症といった合併症を引き起こす事が知られています。

また血糖値が急激に高値になると、

  • 糖尿病性ケトアシドーシス
  • 高浸透圧高血糖症候群

といった重篤な状態が生じる事もあります。これらは最悪の場合、命に関わる事もある危険な状態です。

【糖尿病性ケトアシドーシス】

通常、食事を摂取した事によって血糖値が上がると、インスリンという血糖値を下げるホルモンが膵臓のβ細胞から分泌されます。

インスリンは血液中の糖を細胞内に取り込むはたらきがあり、これによって血糖が下がります。一方で細胞は取り込んだ糖を代謝する事によってエネルギーを取り出し、このエネルギーをもとにして様々な活動を行います。

しかし血糖値が急激に上がると、膵臓β細胞が疲弊してしまい、インスリンの分泌が少なくなってしまう事があります。

すると細胞は血糖を取り込む事ができなくなり、糖からエネルギーを取り出す事ができなくなってしまいます。これでは困るため細胞は変わりに脂質を細胞にたくさん取り込んで代謝し、エネルギーを得ようとします。

しかし脂質が大量に分解されるとケトン体という酸性の物質が増えます。このケトン体によって身体が酸性(アシドーシス)になってしまうのが、糖尿病性ケトアシドーシスです。

糖尿病性ケトアシドーシスでは、多尿・嘔吐・腹痛などの症状が認められますが、悪化すると昏睡や意識障害が生じる事もあり、最悪の場合は命に関わる事もあります。

【高浸透圧高血糖症候群】

高血糖状態に脱水が加わる事と、血管内の浸透圧が上昇します。すると脳神経細胞内の水分が血管内に移動してしまい、脳神経細胞が脱水状態になる事で意識障害が生じるのが高浸透圧高血糖症候群です。

水分は浸透圧が低い方から高い方に移動するため、高血糖+脱水によって血管内の浸透圧が上昇すると周りの細胞の水分を血液が取り込んでしまい、周囲を脱水状態にしてしまいます。

糖尿病の方にクエチアピンのような血糖値を上げてしまうリスクのあるお薬を投与する事は、長期的には脳梗塞・心筋梗塞・腎不全などの命に関わるような疾患を生じさせるリスクを上げるだけでなく、短期的にも糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群といった重篤な状態を引き起こすリスクとなるのです。

そのためクエチアピンは糖尿病の方への投与は「禁忌(絶対にダメ)」となっているのです。

実際、クエチアピンの添付文書をみると【警告】として、次のように記載されています。

【警告】
(1) 著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤(クエチアピン)投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。

(2) 投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること。

クエチアピンによって高血糖が生じる率は、副作用発生率の調査によると「3.3%」と報告されており、糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡は、糖尿病でない方がクエチアピンを服用して生じる可能性も稀ながらあります。

しかし元々血糖が高い糖尿病の方は、これらの副作用が生じる可能性がより高まってしまうのです。

クエチアピンを投与した患者さんに行われた調査では、高血糖の発現率は、

  • 糖尿病を合併している例では18.0%
  • 糖尿病を合併していない例では2.1%

と糖尿病患者さんにおいて明らかにリスクが高くなっています。

実際にクエチアピンを投与した後に糖尿病性ケトアシドーシスを発症し、死亡してしまった例も報告されているため、糖尿病の方は絶対にクエチアピンは服用してはいけない事となっています。

また糖尿病ではない方であってもこれらの副作用が生じるリスクはゼロではないため、定期的に血糖値の測定を行い、また高血糖を疑うような症状(口喝、多尿、倦怠感など)が認められる場合はすぐに主治医に相談する必要があります。

2.クエチアピンが血糖値を上げてしまう機序

クエチアピンはどのような機序で血糖値を上げてしまうのでしょうか。

クエチアピンは抗精神病薬に属するお薬で、抗精神病薬の中でもMARTA(Multi Acting Receptor Targeted Antipsychotics:多元受容体作用抗精神病薬)という種類に属します。

MARTAはその名の通り、多くの受容体に作用する抗精神病薬であり、様々な部位に作用する事で様々な作用が得られます。これは同時に様々な副作用が生じ得るという事でもあります。

クエチアピンが作用する代表的な部位は次のようになります。

【作用する部位】 【作用】 【副作用】
ドーパミン受容体 陽性症状(幻覚や妄想)の改善 錐体外路症状、高プロラクチン血症
セロトニン受容体 陰性症状(無為自閉、感情鈍麻)の改善 悪性症候群、食欲亢進、性機能障害
ヒスタミン受容体 不眠改善・食欲改善 眠気・過食・体重増加
アドレナリン受容体 興奮抑制 ふらつき・血圧低下・性機能障害
アセチルコリン受容体 口喝・便秘・排尿障害

このうち、高血糖に関与しているのは、

  • セロトニン受容体をブロックする作用によって食欲を上げてしまう
  • ヒスタミン受容体をブロックする作用によって食欲を上げてしまう
  • アドレナリン受容体をブロックする作用によって代謝を落としてしまう

などが考えられています。

クエチアピンで血糖が上昇してしまう機序は大きく2つあります。

1つ目はクエチアピンによって食欲が上がり、過食傾向になってしまう事です。過食になるとお菓子やファーストフードといった炭水化物(糖質)を多く含むものをたくさん摂取する傾向となるため、血糖値は上がりやすくなります。

2つ目はクエチアピンによって代謝が落ちてしまう事です。これは分かりやすく表現すると「糖質が燃えにくくなる」という事です。

クエチアピンをはじめ、精神に作用するお薬は心身をリラックスさせる方向に作用します。これは気分が安定するという良い作用になる一方で、糖質や脂質が燃焼しにくくなり、身体に蓄積しやすくなってしまうという悪い作用にもなります。

これによって身体に糖質が蓄積されるようになるため、それに伴い血糖値も上昇してしまうのです。

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3.糖尿病を合併している方がクエチアピンを使いたい時は?

クエチアピンは統合失調症の治療のみならず、双極性障害、うつ病、認知症、パーソナリティ障害など様々な精神疾患に利用されているお薬です。

糖尿病を合併している患者さんにクエチアピンを使用したい場合、どうすればいいのでしょうか。

まず基本的にクエチアピンは糖尿病に「禁忌(絶対にダメ)」ですので、原則としてクエチアピンを使う事は出来ません。また「糖尿病の既往歴のある方」にも同様に禁忌ですので、今は糖尿病は治ったけど昔は糖尿病だった、という方も使用できません。

このような方がクエチアピンを使用したい場合は、クエチアピン以外の別のお薬で代用する事を考えるしかありません。

クエチアピンはMARTAに属する抗精神病薬ですが、同じMARTAに属するお薬としては、

  • ジプレキサ(一般名:オランザピン)
  • シクレスト(一般名:アセナピン)

があります。

このうち、ジプレキサはクエチアピンと同じ理由で糖尿病に禁忌ですので使えません。

一方でシクレストはMARTAでありながら、血糖上昇や体重増加などの副作用が比較的少ないため糖尿病の方にも禁忌ではありません。

シクレストも糖尿病及びその既往歴のある方には「慎重投与」という扱いになっていますので注意は必要ですが、MARTAの中では比較的高血糖を起こしにくいため使いやすいのです。

MARTAは「様々な受容体に作用する抗精神病薬」ですが、同じMARTAでもどのような受容体にどれくらい作用するのかはそれぞれのお薬で異なります。

そのため同じMARTAでも血糖を上げる度合いは全く同じではありません。同様に効果もクエチアピンとシクレストは異なり、全く同じように効くわけではありませんが、クエチアピンの代替薬として糖尿病の方はシクレストを検討する価値はあるでしょう。

あるいは症状からみて他の抗精神病薬でもよさそうであれば、MARTA以外の抗精神病薬の投与あるSDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)やDSS(ドーパミン・システム・スタビライザー)を検討するのも手です。

また統合失調症以外にクエチアピンを検討していた場合、他の向精神薬(精神に作用するお薬)で代用できないかも検討してみましょう。

例えば双極性障害の気分の波を抑えるためにクエチアピンの投与を検討していたのであれば、作用機序は異なるものの同じく気分の波を抑える作用を持つ「気分安定薬」にできないかを考えてみます。

認知症の不穏や易怒性に対してクエチアピンの投与を検討していたのであれば、作用機序は異なるものの、不穏や易怒性改善に効果のある抗認知症薬(メマリーなど)や漢方薬(抑肝散など)ではダメかを考えてみましょう。

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