オーバードーズ(OD)を防ぐための5つの工夫

オーバードーズ(OD:Over Dose)は「過量服薬」とも呼ばれ、医師から指示された用量以上にお薬を服用してしまうことを指します。

精神科領域では「死にたい」「楽になりたい」という気持ちから、オーバードーズが行われることがあります。

たくさんの量のお薬を一気に飲むオーバードーズは身体への害も大きく、決してやってはいけないことです。しかし耐えられないほどのつらさに襲われた時、「もう楽になりたい」「全てを忘れたい」という一心からついオーバードーズをしてしまう人は後を絶ちません。

オーバードーズは計画的に行われることは稀で、ほとんどの方が精神的に不安定になってしまった時に、勢いで実行してしまいます。しかしオーバードーズをしたことは冷静になった後、必ず後悔をします。周りに迷惑をかけてしまったこと、先生の指示通りにお薬を飲めなかったことなどから、更に自分に自信をなくしてしまうこともあります。

そのため、オーバードーズをしたい衝動に駆られても、なんとかそれを抑えることはとても重要なことなのです。

今日はオーバードーズについて、そしてそれを防ぐための工夫について考えてみましょう。

1.オーバードーズ(OD)とは何か?

オーバードーズ(OD:over dose)とは「過量服薬」のことで、指示された量以上にお薬を服薬してしまうことです。

お薬というのは身体に何らかの変化を与える物質です。その変化が狙った範囲内であれば病気を治すといった良い結果をもたらしますが、規定用量以上に使えば身体にとって害となってしまう可能性もあります。そうならないようにお薬には必ず、適正な用法や用量が設定されています。

オーバードーズで運ばれてくる患者さんを見ると、だいたい数十錠のお薬を一気に飲む方が多いようです。100錠以上という方がいないわけではありませんが、かなり稀です。

100錠ともなると一気には飲めないため、服薬するのはかなりの時間がかかりますし、100錠服薬しているうちに冷静さを取り戻したり、あるいはその前に意識がボーッとして服薬できなくなるため、多くは数十錠の服薬にとどまります。

しかし数十錠だから大丈夫というわけではありません。服薬するお薬の種類や量にもよりますが、オーバードーズは最悪の場合に死亡に至ることもある恐ろしいものなのです。

オーバードーズは絶対にしてはいけない行為です。

2.オーバードーズが行われるのは何故か?

オーバードーズをしてしまう背景は人によってそれぞれですが、精神科領域で圧倒的に多いのは、

「現実を忘れたい」
「楽になりたい」
「死にたい」

といったものです。

精神的に不安定で冷静ではいられない時に、このような気持ちに押しつぶされてしまうと、オーバードーズという行為に走ってしまうことがあります。

患者さんからお話を聞いていて感じることなのですが、オーバードーズは「死にたい」という自殺の目的よりも「とにかく現実から逃げたい」「ここから消えてしまいたい」といった逃避の気持ちから行われることが多いように感じます。

そのため、オーバードーズに使われるお薬は睡眠薬であったり、安定剤(抗不安薬)であったりと、意識をボーッとさせるものが用いられやすい傾向にあります。

3.オーバードーズを防ぐ基本的な考え方

オーバードーズを防ぐために知っておいて欲しいことが2つあります。

Ⅰ.オーバードーズ衝動は長くは続かない

「楽になりたい」
「薬をたくさん飲んで全てを忘れたい」

このような思いに駆られてオーバードーズは実行されてしまいますが、実はこの強い衝動というのは長くは続きません。

ほとんどの場合、非常に強い衝動が持続するのは数十分程度であり、そこを乗り越えればオーバーオーズ衝動は消えてはいないものの、なんとか理性にて制御できるレベルにまで自分を取り戻します。

そのため、この数10分をオーバードーズせずに何とか乗り越えることは非常に重要になってきます。ここさえ乗り越えれば、オーバードーズを実行に移す危険性は大幅に減るからです。

「オーバードーズしたい」という衝動に駆られても、「10分だけ我慢してみよう」とわずかな時間でも我慢してみることは非常に意味があることです。また、周囲も少しでもいいから話を聞くなどして時間を引き延ばす方法は、実はとても有効なのです。

Ⅱ.小さな手間でオーバードーズはしにくくなる

好き好んでオーバードーズしたい人なんていません。

オーバードーズは辛い気持ちに押しつぶされて、「オーバードーズする以外にここから逃れる方法がない」という気持ちから行われます。積極的にオーバードーズをしたいわけではなく、他に方法が思い付かないため止むを得ず選択される方法なのです。

積極的に行われる行為ではないため、ちょっとした障害でもあれば、それだけでもオーバードーズを思いとどまる材料になります。

オーバードーズを防ぐための工夫を後述しますが、どれも魔法のような方法ではなく、このような「ちょっとした手間」を加えることになります。しかしちょっとした手間でも精神的にギリギリのところで闘っている方にとっては大きな抑止力になるのです。

ちなみにこれは自殺を予防するための考え方と同じになります。

電車のホームなどで、自殺を予防するための対策として線路沿いに柵が設けられていることがあります。

「そんな柵なんて作っても本気で自殺する人は乗り越えるだろうから無意味だ」と批判する方もいますが、これは「もう死にたい」「でも本当は死にたくない」というギリギリの精神状態で闘っている患者さんの心理を十分に理解できていません。

確かに物理的に考えれば、柵など作っても、それが容易に乗り越えられるものであれば、柵としての物理的な役割は十分に果たさないでしょう。

しかしギリギリの精神状態にある方にとっては、「柵を乗り越える」というちょっとした障害があることによって、自殺を思いとどまったり、我に返ったりしやすくなるという心理的な効果が期待できるのです。

オーバードーズの防止も基本的な考え方はこれと同じです。

ちょっとした手間を設けるだけでも、オーバードーズを心理的に抑止する大きな力となってくれるのです。このちょっとした手間を「そんなことをしても意味はないよ」と軽くみてはいけません。

4.オーバードーズを防ぐ5つの工夫

オーバードーズをしてしまう背景には自分では制御できないつらい気持ちがあります。

患者さんのほとんどは、お薬を医師から処方してもらう時には「オーバードーズしてやろう」といった意図を持っているわけではありません。病気の治療として受け取ったお薬ですが、治療中に耐えられないほどにつらい事があった時、「もう死にたい」「楽になってしまいたい」という気持ちに負けてしまい、気が付いたらオーバードーズしてしまうのです。

オーバードーズはできる限り予防しなくてはいけません。

なぜならば、オーバードーズによって得られるメリットなど何もないからです。患者さんの「楽になりたい」という気持ちすらもオーバードーズで叶うことはありません。

オーバードーズを防ぐために出来る予防法について紹介します。

Ⅰ.家族に薬を管理してもらう

薬を手元に置かないことは、基本的ながらも非常に有効な防止策になります。

精神的に不安定になった時、手元にお薬があれば勢いでオーバードーズしてしまいやすくなります。

しかし家族の方がお薬を管理してくれれば、必要以上に飲みことができなくなるため、オーバードーズのリスクが大きく低下します。

またご家族がお薬を本人に渡すときに精神状態のチェックも行えるため、患者さんの精神状態が不安定ではないかどうかを把握しやすくなります。

常にご家族がお薬を管理するというのは大変なので、特に精神状態の悪い期間だけ家族にお薬を管理してもらうようにするという方法でも有用です。

Ⅱ.粉薬にしてもらう

救急外来で働いていた時に感じたことですが、オーバードーズはほぼ錠剤です。

粉薬をオーバードーズしたというケースはほとんどありません。

考えてみればその理由は明白で、錠剤は一気に何十個も飲みやすいのですが、粉は何十回分も一気の飲むことはなかなか難しいのです。

また、粉薬は服薬に当たってある程度の水が必要になるため、これも1つ手間になります。

ということはこれを逆手にとってみると粉薬にすればオーバードーズを予防しやすくなることが分かります。

オーバードーズしてしまいそうな精神状態が続く時は、処方薬を粉砕してもらうと、オーバードーズのリスクは低下します。

これは実際の臨床経験からも感じることです。

ただし中には粉薬にすることができないタイプのお薬もありますので、主治医とよく相談してみてください。

Ⅲ.受診間隔を短くする

毎週受診するようにすれば、手元には最大でも1週間分のお薬しかないことになります。

持っているお薬が少量だと、オーバードーズするリスクが少なくなりますし、また万が一オーバードーズしてもその被害も少なくなります。

また受診間隔を短くすれば、より短いスパンで主治医に相談できるようになるため、これも安心感につながります。

Ⅳ.日頃からストレス解消法を持っておく

オーバードーズしやすい方の多くは、ストレスを溜め込みやすい傾向があります。

日頃から定期的にストレスを解消していないがために、溜め込みきれなくなったストレスが噴き出し、オーバードーズに至ってしまうのです。

オーバードーズに至る前にストレスを解消できなかったのかを考えてみましょう。ストレスを解消する方法は必ずあるはずです。

ストレス解消法は人によって異なるため、「これをすれば絶対にストレス解消になるよ」というものはありませんが、当サイトでも「一人でも簡単にできる!ストレス解消方法10選」などの記事でストレス解消法を紹介していますので、参考にしてみて下さい。

Ⅴ.我慢せず周囲に助けを求める

どうしてもつらい時は周りに、

「つらい」
「助けて」
「話を聞いて欲しい」

と助けを求めましょう。

「そんなこと言ったら迷惑だと思われる」なんて思ってはいけません。

周囲の人からすれば、何の知らせもなく、ある日突然オーバードーズされてしまう方が悲しく感じてしまいます。身近な大切な人が突然オーバードーズしたら「なんで私に相談してくれなかったの・・・」「そんなつらいなら言ってくれれば・・・」と思うでしょう。

あなたの周囲の人だって同じことを思っています。

つらいときは「つらい」「助けてほしい」と言いましょう。それがあなたのためでもあるし、何も言わないよりも正直な気持ちを伝えた方が周囲だって安心します。