パニック障害は、突然パニック発作が生じてしまう疾患です。パニック発作は不安や緊張が強い状況で生じやすいため、仕事をしている時に起こってしまうことも十分ありえます。
仕事をされている方がパニック障害にかかってしまった場合、なるべく仕事に支障を来さないように、そして仕事でパニック障害が悪化しないように注意して仕事に取り組む必要があります。
パニック障害を持ちながら仕事をしている方は少なくありませんが、仕事中に気を付けるべきことに対しての理解は本人・職場ともまだまだ不十分である印象を受けます。
今日は、パニック障害の方が仕事をするにあたって特に気を付けて欲しいこと、そしてパニック障害の方が向いている仕事内容についてお話します。
1.パニック障害を正しく知る事が最重要
パニック障害を持ちながら仕事をする場合、パニック障害を悪化させないように注意しながら仕事に取り組まなければいけません。そのためには、パニック障害に対する正しい理解が必須になります。
パニック障害は不安が根底にある病気だということを理解することが大切です。
つまり不安を感じやすい状況になれば悪化しやすく、安心を感じやすい状況にいれば悪化しにくいという事です。
仕事では多かれ少なかれ、ある程度の不安や緊張は感じることが普通です。仕事は責任を持ってやるべきものである以上、全く緊張感のない仕事、不安を感じない仕事などあるはずがありません。
しかし、そんな中でもなるべく安心を感じることが出来るのはどんな状況なのかを考えてみることは大切です。
パニック障害についての詳しい情報は、このサイトでも掲載していますので、ぜひご覧ください。
2.仕事中にパニック障害を悪化させないために出来る工夫
どのような状況で安心を感じられるかは、職場にもよりますし、人それぞれで異なります。そのため「こうすれば安心して仕事が出来る」というものは一概に言えるものではありません。しかし、私はパニック障害を抱えながら仕事をしている方をたくさん診察していますが、その中で感じる「安心できる職場環境」の共通点がありますので紹介させて頂きます。
職場での立場、職場の雰囲気などによっては出来ない工夫もあるかとは思いますが、周囲や上司・会社側と相談して、少しでも不安を軽減し、安心を得やすい環境に整えていくことは大切です。
またこれらの工夫は、パニック障害が改善してきたら、徐々に制限を解除していって良いものです。経過が良好であれば職場側や産業医などと相談しながら、徐々に解除していきましょう。
Ⅰ.上司や同僚がパニック障害を理解してくれている
やはり一番安心できるのは、周囲が自分の状況を理解してくれている事です。
自分と席が近くの同僚や自分の上司が、自分がパニック障害である事について正しく理解してくれれば、それだけで「何かあっても大丈夫だ」と安心することができます。
職場によっては、同僚全員に伝えるのが難しいという事もありますが、職場の一人だけでも理解してくれていれば安心感は全然違います。
「自分はパニック障害で治療である」ということは出来る事ならば伝えたくない、と考える方もいらっしゃると思います。確かに精神疾患に対して正しく理解していない人はまだまだいらっしゃいますので、パニック障害であると伝えた事であらぬ偏見を持たれるのではないか、という心配は当然でしょう。
しかし誰にも伝えていない事で、仕事中に不安感が強くなっているのであれば、それは誰かに伝えるメリットの方が大きい可能性があります。「伝えることで安心して仕事が出来るようになり、その結果病気も早く良くなる」と考えてみるといいかもしれません。
自分からうまく伝えられなさそうな場合は、産業医を通して上司に伝えてもらうなどの方法もあります。
Ⅱ.困った時に相談しやすい環境
健常な人でも、仕事で「どうしていいのか分からない時」は不安になります。このような時は、パニック障害ではない人でも、胸がドキドキしたり、冷や汗が出てきたりするものです。
パニック障害でなくてもこのような症状が出るのですから、パニック障害を持っている場合これはパニック発作に発展してしまう可能性があります。
反対に、何かトラブルがあった時に相談しやすい環境を整えることがパニック障害を悪化させないためには大切になります。
漠然と「困ったらその時考えろ」とか「その場にいる誰かに聞け」とあいまいにされるのではなく、「こういった事で困ったら〇〇さんに相談する」「こういった問題であれば△△さんに相談する」とフォロー体制がしっかりしていると、それだけで安心できます。
Ⅲ.予定外の仕事が入りにくい
予定内の仕事というのは、自分の中で予定を立てて行えるため、そこまで大きな不安を感じることはありません。しかし予定外に仕事が入ると、その仕事は予定内の仕事と比べると不安が高くなります。
そのため、予定外の仕事についてはパニック障害が不安定なうちは免除したり軽減してあげると、安心して仕事に慣れていくことができます。
予定外の仕事として良くあるものは、
- 電話対応
- 来客対応
などです。
電話は相手の都合でかかってくるため、こちらとしては気持ちの準備が出来ておらず、不安は高くなってしまいます。また突然の来客の対応をしなくてはいけない時も、知っている同僚などと仕事の話をするのと比べると、緊張感は高まります。
Ⅳ.通勤ラッシュを避けた通勤
パニック発作が起こりやすい状況というのは「閉ざされた空間」や「容易に逃げることの出来ない空間」だと言われています(これを専門的には広場恐怖と言います)。
私たちが日常で経験する典型的な広場恐怖は、電車やバスがあります。
電車やバスも空いている時ならまだいいのですが、朝の通勤ラッシュはかなり危険な広場恐怖になります。
そのため、もし電車やバス通勤の方であり、会社側が都合がつくのであれば、朝の通勤ラッシュの時間帯は避けて通勤できるととてもありがたいでしょう。
満員電車の中でパニック発作を起こしてしまうと、その恐怖から出勤することが出来なくなってしまう危険があります。
通勤ラッシュの時間を避けて、早めに出勤するかやや遅めに出勤することが可能であれば、この危険は大分少なくなり、出勤する自信もつきやすくなるでしょう。
Ⅴ.会議など途中退席できる
先ほど説明した広場恐怖には、会議や朝礼なども当てはまります。
会議というのは、会議室という密室の中で緊張感を持って行われるのが普通ですので、どうしても不安・緊張が高まりパニック発作が起こりやすくなります。
また、自分が発言しなければいけなかったりするとその緊張はより高いものになるでしょう。
そのため、慣れないうちは会議を欠席しても良いように配慮したり、あるいは扉の一番近くの席に座ってもらい、不安が強くなってしまったらすぐに退席できるように配慮してもらえると、とても助かります。
また、大勢の人の前での発表などもパニック障害が不安定なうちは免除あるいは軽減してあげると、より安心して仕事に望むことができます。
3.仕事がパニック障害悪化の原因になっている時は休職の必要も
パニック障害を抱えながら仕事をしなくてはいけない状況もあるとは思いますが、あまりに症状が強いケースでは、一定期間仕事を休職することが必要になることもあります。
- パニック障害の悪化に仕事が大きく関係している
- パニック障害の悪化に通勤が大きく関係している
- 無理して仕事を続けることでパニック障害が悪化したり長引いてしまう可能性が高い
このような場合では、医師の判断のもとで休職の診断書が発行されることがあります。
医師から休職の必要性を告げられたら、出来る限りその指示には従うようにしましょう。無理して仕事を続けてパニック障害が悪化してしまい、仕事が出来ない状態になるよりも、一定期間しっかりと治療に専念してから仕事に復帰した方が、長い目で考えれば損失は少ない事が多いからです。
どのくらいの状態で休職が必要になるかは、パニック障害の重症度だけでなく職場の状況なども合わせて判断されます。そのため自分の状況では休職した方がいいのかどうかは、主治医とよく相談して下さい。