インヴェガ錠(パリペリドン)の効果【医師が教える抗精神病薬の全て】

インヴェガ錠(一般名:パリペリドン)は2011年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。抗精神病薬には第1世代(古いもの)と第2世代(新しいもの)の2種類がありますが、インヴェガは第2世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に属します。

統合失調症の代表的な治療薬としてリスパダール(一般名:リスペリドン)がありますが、インヴェガはリスパダールを改良したお薬であり、リスパダールによく似た効果を有しつつ、その副作用を軽減させたお薬となっています。

今日はインヴェガの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているお薬なのかを紹介していきます。

1.インヴェガの特徴

まずはインヴェガの特徴について挙げていきます。

インヴェガは、代表的な統合失調症治療薬であるリスパダールを改良したお薬になります。

リスパダールは1996年に発売された最初の第2世代抗精神病薬で、現在でも広く処方されています。特にドーパミンをブロックする力に優れ、幻覚や妄想・興奮といった症状の改善に役立っています。

このリスパダールをどう改良したかと言うと、

・リスパダールの成分のうち、効果のある成分のみを取り出した
・リスパダールの効きをゆっくりと穏やかにした

という2点が挙げられます。

リスパダールの成分のうち「効果のある成分」というのは、具体的にはパリペリドン(9-ヒドロキシリスペリドン)のことであり、これのみを取り出したのがインヴェガになります。有効成分だけを取り出したことにより、効果はそのままで、余計な作用(副作用)が少なくなることが期待できます。

またインヴェガは特殊な技術によって、ゆっくりと体内に吸収されていくように作られています。ゆっくり身体に取り込まれるため、リスパダールのような即効性はなくなってしまいますが、その代わりに副作用を少なくすることできます。ゆっくり吸収されれば血中濃度も緩やかに上昇し、身体もびっくりしないため、より安全性が高まります。またゆっくり長く効くため、1回の服薬で効果が1日持続するようになっています。

インヴェガはリスパダールと同じく、中枢神経のドーパミン受容体を強力に遮断(ブロック)することで、統合失調症の「陽性症状」と呼ばれる幻覚や妄想を改善させます。また、セロトニン受容体をブロックすることにより、「陰性症状」とよばれる無為自閉・感情平板化などを改善させます。

*陽性症状・・・幻覚や妄想などの統合失調症の代表的な症状。本来ないものが存在するように感じる症状を陽性症状と呼ぶ。

*陰性症状・・・感情が平板化したり、無為自閉など気力なく過ごすようになる統合失調症の代表的な症状。本来あるべきもの(感情や意欲など)がなくなってしまう症状を陰性症状と呼ぶ。

以上から、インヴェガの特徴を紹介します。

【インヴェガ錠の特徴】

  • 幻覚・妄想といった陽性症状に対して特に有効
  • リスパダールよりも副作用が軽減されている
  • 第一世代(定型)と比べると陰性症状にも効果がある
  • 1日1回の服薬で効果が持続する

2.インヴェガの作用機序

抗精神病薬はドーパミンを遮断するのが主なはたらきになります。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されて生じるという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンの放出量をおさえる作用を持ちます。

インヴェガは、抗精神病薬の中でSDA(Serotonin Dopamine Antagonist:セロトニン-ドーパミン拮抗薬) という種類に属します。SDAはセロトニン2A受容体と、ドーパミン2受容体を遮断(ブロック)する作用に優れるおくすりのことです。

ドーパミン2受容体の遮断は、幻覚妄想などを改善する作用を持ちます。また一方で過剰な遮断は、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用の原因にもなります。

セロトニン2A受容体の遮断は、陰性症状(無為、自閉、感情平板化など)を改善する作用を持ちます。また、錐体外路症状の発現を抑えるはたらきもあることが報告されています。

抗精神病薬(統合失調症の治療薬)はドーパミンを抑える作用を持ちますが、時に抑えすぎてしまってこれが副作用を引き起こしてしまう事があります。インヴェガは先ほど説明した工夫により余計な作用が起こりにくくなるように工夫されており、副作用は軽減されています(まったく起こらないわけではありません)。

必要以上にドーパミンを遮断してしまうと、錐体外路症状(EPS)と呼ばれる神経症状の副作用や高プロラクチン血症といったホルモンバランスの崩れが起こってしまうことがあります。これらの副作用は昔の抗精神病薬(第1世代、定型)で非常に多く認められましたが、最近の抗精神病薬である第2世代(非定型)では、大分少なくなっています。

*高プロラクチン血症・・・・プロラクチンというホルモンの分泌を増やしてしまう副作用。プロラクチンは本来は出産後に上がるホルモンで乳汁を出すはたらきを持つ。そのため、乳汁分泌や月経不順、インポテンツ、性欲低下などを引き起こしてしまう。

*錐体外路症状(EPS)・・・薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状が生じる。

また、その他にインヴェガには、α1受容体遮断作用、ヒスタミン1受容体遮断作用、セロトニン2C受容体遮断作用などがあり、これは主に副作用としてはたらいてしまいます。具体的には、

  • α1受容体遮断作用(中等度):ふらつき、射精障害
  • ヒスタミン1受容体遮断作用(軽度):体重増加、眠気
  • セロトニン2C受容体遮断作用(軽度):体重増加

などの副作用を起こしてしまいます。

インヴェガはリスパダールの改良薬であるため、基本的な特徴はリスパダールと同様になります。

しかしデータ上はリスパダールと比べるとセロトニン2Aへの作用が強いことが報告されており、これは陰性症状への効果が期待されています。

またインヴェガはリスパダールよりも余計な作用(副作用)を起こさないお薬ではありますが、α1受容体やヒスタミン受容体への作用は少なくなく、リスパダールと同様にしばしばこれに関連した副作用を生じます。

(インヴェガの副作用については、別記事で詳しく紹介します)

3.インヴェガの適応疾患

添付文書にはインヴェガの適応疾患として、

統合失調症

が挙げられています。

臨床現場でも主な用途は添付文書の通り、統合失調症です。統合失調症の中でも特に幻覚妄想が著明なタイプによく使われます。

インヴェガはリスパダールの改良薬になりま。具体的にはリスパダールの副作用が軽減するように改良したお薬になりますので、「リスパダールが良く効くんだけど、副作用が出てしまって困る」という方には良い適応だと思われます。

4.抗精神病薬の中でのインヴェガの位置づけ

抗精神病薬には多くの種類があります。その中でインヴェガはどのような位置づけになっているのでしょうか。

まず、抗精神病薬は大きく「定型」と「非定型」に分けることができます。定型というのは第一世代とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。非定型というのは第二世代とも呼ばれており、最近の抗精神病薬を指します。

定型として代表的なものは、セレネース(一般名:ハロペリドール)やコントミン(一般名:クロルプロマジン)などです。これらは1950年代頃から使われている古いお薬で、強力な効果を持ちますが、副作用も強力だという難点があります。

特に錐体外路症状と呼ばれる神経症状の出現頻度が多く、これは当時問題となっていました。また、悪性症候群や重篤な不整脈など命に関わる副作用が起こってしまうこともありました。

そこで、副作用の改善を目的に開発されたのが非定型です。非定型は定型と同程度の効果を保ちながら、標的部位への精度を高めることで副作用が少なくなっているという利点があります。

非定型として代表的なものが、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)であるリスパダールやMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれるジプレキサ(一般名:オランザピン)、DSS(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などになります。

現在では、まずは副作用の少ない非定型から使用することがほとんどであり、定型を使う頻度は少なくなっています。定型が使われるのは、非定型がどうしても効かないなど、やむをえないケースに限られます。

非定型の中の位置づけですが、SDA、MARTA、DSSそれぞれの特徴として、

SDA
【該当薬物】リスパダール、ロナセン、ルーラン、インヴェガ
【メリット】幻覚・妄想を抑える力に優れる
【デメリット】錐体外路症状、高プロラクチン血症が多め(定型よりは少ない)

MARTA
【該当薬物】ジプレキサ、セロクエル、クロザピン
【メリット】幻覚妄想を抑える力はやや落ちるが、鎮静効果、催眠効果、抗うつ効果などがある
【デメリット】太りやすい、眠気が出やすい、血糖が上がるため糖尿病の人には使えない

DSS
【該当薬物】エビリファイ
【メリット】上記2つに比べると穏やかな効きだが、副作用も全体的に少ない
【デメリット】アカシジアが多め

といったことが挙げられます。

5.インヴェガが向いている人は?

インヴェガの特徴をもう一度みてみましょう

  • 幻覚・妄想といった陽性症状に対して特に有効
  • リスパダールよりも副作用が軽減されている
  • 第一世代(定型)と比べると陰性症状にも効果がある
  • 1日1回の服薬で効果が持続する

ということが挙げられます。

また、非定型の間で比較すると、

  • MARTAと比べて鎮静や体重増加が少ない

というメリットがあります。インヴェガでも体重増加が生じることはありますが、その頻度や程度はMARTAと比べると軽度です。

そのため、インヴェガは、

  • 幻覚・妄想が主体の統合失調症の方
  • お薬による体重増加が心配な方
  • お薬による眠気や鎮静を起こしたくない方(日中仕事をしている方など)

に向いているおくすりではないでしょうか。

また、インヴェガは1日1回の服薬で済む抗精神病薬であるため、

  • 1日に何回もお薬を飲むのがイヤだという方
  • 飲み忘れが多い方

などにも良いかもしれません。

インヴェガには持効性注射剤(ゼプリオン)もあります。持効性注射剤というのは、お薬を1回注射することで長く効果が持続するタイプの治療薬であり、飲み忘れが多い方などに向いています。ゼプリオンは4週間に1回注射すればいいため、毎日お薬を飲む必要がなく、飲み忘れの心配もありません。そのため、

  • 毎日おくすりを飲むのがわずらわしい方
  • 飲み忘れが多い方

などもインヴェガに切り替えた上で、ゼプリオンを試す価値はあるでしょう。