新睡眠薬「オレキシン受容体拮抗薬」の臨床試験と安全性

今までの睡眠薬と違う、全く新しいタイプの睡眠薬「オレキシン受容体拮抗薬」が今年中に発売予定です。

この新薬は、

  • 副作用が少ない
  • 依存性や耐性がない

など、安全性の高さが前評判の睡眠薬です。

作用機序から考えてもこれらの前評判は十分納得がいくもので、私たち医療者も発売が楽しみなお薬です。

オレキシン受容体拮抗薬は「Suvorexant」という一般名で、日本ではMSD社が2014年度中に発売する予定になっており、現在発売に向けた大規模臨床試験の結果などが発表されています。

この新しい睡眠薬、興味のある方もいらっしゃると思いますので、みなさんが気になるであろう前情報をいくつか紹介します。

▽ 関連コラム:新睡眠薬「オレキシン受容体拮抗薬」が不眠症治療を変える!? 

1.オレキシン受容体拮抗薬の作用機序

オレキシンというのは脳の神経から放出される物質で、覚醒・睡眠の調整に関わっている事が分かっています。
簡単に言うと、オレキシンが多いと覚醒し、少ないと眠くなります。

「ということは、オレキシンの働きをブロックすれば眠くなるはず」
オレキシン受容体拮抗薬は、このような発想の元で生まれました。

オレキシンは、オレキシン受容体という部位にくっつくことで脳を覚醒状態にします。

オレキシン受容体には「オレキシン1受容体」と「オレキシン2受容体」の2つがありますが、
これらの受容体は、両方が覚醒・睡眠の調整に関わっています。
(オレキシン2受容体の方が強く関わっているようですが)

そのため、どっちかの受容体だけブロックするよりも両方ブロックする方が強く眠りに導く事が分かっており、
オレキシン受容体拮抗薬は両方の受容体をブロックします。

これをDORA(Dual Orexin Receptor Antagonist)(直訳すると「二つのオレキシン受容体の拮抗薬」)
と呼ぶそうです。

2.オレキシン受容体拮抗薬の大規模臨床試験

日本および米国で、オレキシン受容体拮抗薬の発売に向けて、大規模臨床試験が行われました。
その結果で重要な点をいくつか紹介します。

Ⅰ.入眠障害と中途覚醒の両方を改善

睡眠障害は、大きく分けると2種類あります。
「なかなか寝付けない(=入眠障害)」と「すぐに目覚めてしまう(=中途覚醒)」です。

オレキシン受容体拮抗薬は、このどちらにも効果を認めるという結果を得たそうです。
主観的効果(自分が効果があると感じる)と客観的効果(医師などの治療者が効果があると判断する)
両方が認められたとのことでした。

Ⅱ.耐性が認められなかった

現在使われているベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は
しばしば耐性が問題となります。

耐性とは、お薬に身体が慣れてきて徐々に効きが悪くなってくる現象です。

オレキシン受容体拮抗薬は12か月間使用を続けても睡眠薬の効果は変わらず
耐性が認められなかったという結果でした。

Ⅲ.依存性が認められなかった

現在使われているベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は
依存性もしばしば問題となります。

依存性とは、お薬なしではいられなくなってしまう状態です。

オレキシン受容体拮抗薬は、12か月間使用を続けたのちに投与を中断しても
リバウンドや反跳性不眠などを認めなったとの報告です。

Ⅳ.ナルコレプシー症状は認めなかった

オレキシン受容体拮抗薬の働きは、「オレキシンの働きをブロックすること」です。

ナルコレプシーという病気があります。
これは、日中に強烈な眠気に襲われる病気です。

睡眠発作(突然の強烈な眠気)、情動脱力発作(感情が高ぶると脱力してしまう)、
入眠時幻覚、睡眠麻痺(俗にいう「金縛り」)などの症状があります。

ナルコレプシーは、オレキシンの減少で生じると考えられてます。

となると心配なのは、オレキシンの働きをブロックしてしまうとナルコレプシーになるのでは、
という点です。

しかし、臨床研究ではオレキシン受容体拮抗薬はナルコレプシー症状を誘発しなかったということでした。

Ⅴ.作用時間は6-8時間程度

お薬の作用時間は個人差が大きいので、あくまでも目安ですが、6-8時間くらいの薬効を示すお薬のようです。
作用時間だけで考えると、レンドルミン(半減期が7時間)と同じくらいのイメージでしょうか。

最後に

オレキシン受容体拮抗薬「Sevorexant」は安全性の高さが臨床研究でも認められています。

今のところ、「そこまで強くはないけど安全な睡眠薬」というイメージで、
現在発売されているロゼレムに近い位置付けである印象があります。

Sevorexantにせよ、ロゼレムにせよ、耐性や依存性がなく安全性の高い睡眠薬の選択肢が増えてくる事は
とてもいいことだと感じています。

これからの不眠症治療に新しい武器が増え、どのように変わっていくのでしょうか。
患者さんの役に立つ治療法がどんどん増えることは好ましいことですね。

楽しみです。