睡眠に対する調査で、
国民の5人に1人が不眠を感じており、
20人に1人が睡眠薬を内服している
ということが明らかになっています。
この調査結果を見ると、誰にとっても不眠は起こりうるもので、決して他人事ではないんだなと感じます。これは同時に、「誰にとっても睡眠薬は無関係なものではない」ということでもあります。
しかし、睡眠薬というと 「依存になりそう」「薬漬けになりそう」「怖い」といったネガティブなイメージを持つ方が多いようです。「眠れなくなっても睡眠薬だけは絶対に飲みたくない!」という方も多いのではないでしょうか。
しかし、近年は「安全性の高い睡眠薬」が次々と開発されています。近年では、非ベンゾジアゼピン系(アモバン、ルネスタ、マイスリーなど)と呼ばれる依存性や副作用を少なくしたお薬が主流となってきています。
また、メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)といった、依存性がほとんどなく、安全で極めて生理的に近い働きをするお薬も出てきており、注目を浴びています。
そんな中、また新しい作用機序の睡眠薬が発売予定となっています。「オレキシン受容体拮抗薬」という睡眠薬で、依存性や耐性が全くなく安全性の高さが注目されているお薬です。
新しい睡眠薬「オレキシン受容体拮抗薬」について、現在分かっていることを紹介していきます。
1.オレキシン受容体拮抗薬とは?
まず、「オレキシン」とは一体どんなものなのでしょうか?
オレキシンは「覚醒調整系」というところに関与する神経ペプチドです。
オレキシンは覚醒維持に関わる神経を活性化させることで、
覚醒を安定化させたり、覚醒状態を維持する働きがあります。
簡単に言ってしまうと、
オレキシンが作用すると、脳が「覚醒」するのです。
逆に考えると、オレキシンが作用できないと脳は覚醒しない、
つまり「眠くなる」ということです。
オレキシンはオレキシン受容体という部位にくっつくことで効果を発揮します。
ならば、オレキシン受容体にくっつくのをジャマする薬を投与しちゃおうというわけです。
それが、「オレキシン受容体拮抗薬」です。
オレキシン受容体拮抗薬は、今までの睡眠薬と作用機序が全く異なるため、
今までの睡眠薬で効果が不十分であった患者さんにも効く可能性があります。
また、動物実験レベルの結果ですが、単に眠らせるだけでなく、
ノンレム睡眠という「深い眠り」を増やしてくれるという結果も出ており、
これが非常に活気的なこととして注目されています。
実は、現在使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬は、
眠らせる作用はあるものの、ノンレム睡眠を抑制してしまうことが分かっています。
眠らせるんだけど、眠りの質は悪くしてしまうのです。
睡眠薬を飲むと悪夢を見てうなされる、とか
睡眠薬を飲むと翌日だるい、という人がいるのはこのためです。
眠ることもできて、眠りの質も良くしてくれるというのは、
ベンゾジアゼピン系にはない、とても好ましい作用です。
またオレキシン受容体拮抗薬は、耐性や依存性といった
臨床上問題となるような副作用もほとんどないと言われています。
実際の効果は、発売されて使ってみないと分からないところもありますが、
治療の選択肢が増えるのはとてもいいことですね。
発売が楽しみです。