ノックビン原末(一般名:ジスルフィラム)は1953年から発売されている抗酒薬(アルコール依存症治療薬)になります。
ノックビンは上手に利用すればアルコール依存症の治療に効果を発揮しますが、一方で正しい知識を持って使用しないと危険もあるお薬です。
ノックビンにはどのような副作用があるのでしょうか。そして安全に使用するためにはどのような事に気を付ければいいのでしょうか。
ここではノックビンの主な副作用や、その対処法について紹介していきます。
1.ノックビンの副作用の特徴
副作用の無いお薬は無く、どんなお薬にも必ず副作用はあります。ノックビンも同様で副作用が生じる可能性のあるお薬です。
特にノックビンは、正しい知識を持って医師の指示通りに用いないと危険なお薬になります。
ではノックビンはどのような副作用があり、どのような事に注意すればいいのでしょうか。
ノックビンは正しく服用すれば、基本的な副作用は多くはありません。
生じうる副作用としては、
- 肝機能障害
- 吐き気、倦怠感
- 精神神経症状(興奮、物忘れ、抑うつなど)
- 発疹
などが報告されていますが、その頻度は多くはなく、また程度も軽いものがほとんどです。
ノックビンの副作用でもっとも注意しなければいけないのは、ノックビン服用中にアルコールを摂取してしまった場合になります。
ノックビンは、アルコールの分解を抑える作用を持つお薬です。アルコールを分解できなくなってしまうため、少量のアルコールが体内に入っただけで急性アルコール中毒のような不快症状が出るようになります。
ノックビンは、アルコールを飲み過ぎた際に経験するような不快な症状、例えば、
- 動悸
- 呼吸困難
- 吐き気
- 頭痛
などが少量のアルコールを摂取しただけで生じ、更にひどい場合だと
- 呼吸抑制
- 意識障害
- 痙攣
などが生じる事もあります。
これによりアルコールが飲めなくなります。またアルコールに対する不快なイメージを患者さんに意識付ける事もできます。
ここからも分かるように、ノックビンはかなり懲罰的な治療法になります。無理矢理アルコールを受け付けない身体にさせ、アルコールを飲んだら不快な症状が出てしまう身体にさせるという治療法なのです。
ノックビンを服用する場合は、この事をしっかりと理解しておく必要があります。
「ノックビンはアルコールを飲めない身体にしてしまうお薬」
「ノックビンを服用してアルコールを飲むと重篤な症状が出てしまう事がある」
このような知識を正しく持つようにしましょう。
正しい知識がない患者さんがノックビンを服用し、その後にアルコールをいつものように大量に飲んでしまうと、最悪の場合命に関わる事も十分にあり得ます。
また「ノックビンを飲んだら飲酒してはいけない」と分かっていても、理解が不十分だと、気付かずにアルコールを含む食品を摂取してしまったり、アルコールを含む物質を身体に付けてしまう事で不快症状が出現してしまう事もあります。
例えばノックビン服用中に、
- 奈良漬などアルコールを使った料理を食べてしまった
- アルコールを使ったお菓子を食べてしまった
- アルコールを使った化粧品を身体に塗ってしまった
という場合も、同様に不快症状が出てしまいます。
ノックビンを使用する際には、ただ「アルコールを飲んではいけない」というだけでなく、「アルコールを含むものを塗布・摂取してはいけない」という事をしっかりと意識しておく必要があります。
2.アルコール摂取による不快症状を防ぐために
ノックビンの副作用でもっとも注意すべきなのは、アルコールと併用した際に出現しうる不快症状になります。
この副作用を生じさせないために、大切なポイントをお話します。
Ⅰ.治療の意志のある人にしか投与しない
ノックビンは、アルコールの分解を抑えるお薬です。
ノックビンを服用すると、摂取したアルコールを分解できなくなるため少量のアルコールを服用しただけで、酔っ払い過ぎた時のような不快な症状が出ます。それなりの量のアルコールを服用してしまうと、意識を失ったり、痙攣や不整脈が生じる事もあり、危険です。
ここから、ノックビン服用中はアルコールは絶対に飲んではいけない事が分かります。
ノックビンはアルコール依存症の治療薬として用いられますので、服用する人は基本的にアルコールに対して依存している人たちです。
アルコール依存症の方でも、お酒をやめたいという意志をしっかりと持っている方は、服用しても良いのですが、治療意欲の低い方(例えば家族に言われて嫌々治療をしている方など)には服用させるべきではありません。
そのような方は治療者の指示に従わずに飲酒してしまう事も多いため、危険だからです。
実際、ノックビンの効果をみた研究報告では、
- 意志薄弱な本質的中毒患者
- 性格異常を基盤とした中毒患者
にはノックビンの効果はほとんどなかった事が確認されています。
Ⅱ.身の回りにアルコールを置かない
アルコールに依存していまっている状態だと、たとえ患者さん本人が「アルコールを辞めたい」という意志を持っていても、ついアルコールを手にしてしまう事があります。
しかしノックビンを服用している時に飲酒をする事は危険です。
そのような事態にならないため、ノックビンを服用中は、身の回りにアルコールを一切置かない事が大切です。
飲酒用のアルコールを置かない事はもちろんのこと、アルコールが含まれている食べ物や料理用に使用するアルコール、アルコールを含む化粧品などもあやまって服用・使用しないように、身に回りから片付ける必要があります。
Ⅲ.本人だけでなく家族などの周囲も理解を深める
ノックビンを服用中の方がアルコールを服用してしまうと、どのようになってしまうかというのは本人だけでなく家族など周囲にいらっしゃる方々も知っておくとなお良いでしょう。
身の回りにアルコールを置かない事を協力できますし、万が一アルコールを摂取して重篤な状態になってしまった時もすぐに気づく事が出来る可能性が高くなるからです。
3.その他の副作用とその対処法
ノックビンでもっとも注意すべき副作用は、ノックビン服用中にアルコールを摂取してしまう事で出現する不快症状です。
それ以外の副作用は大きなものはありませんが、それ以外にもノックビンで時折生じる副作用について紹介させていただきます。
Ⅰ.肝機能障害
ノックビンは主に肝臓で作用し、肝臓で代謝されます。
そのため時に肝臓に負担をかけてしまい、肝臓にダメージを与える事があります。
肝機能が障害されると、
- 倦怠感
- 吐き気
- 食欲不振
などの症状が出ます。
ノックビンによる肝機能障害の副作用を見落とさないためには、定期的に肝機能を血液検査でチェックする事が大切です。
肝機能障害が軽度である場合は慎重に様子を見る事もありますが、ノックビンで肝機能障害を認めた場合は原則としてノックビンを減薬あるいは中止すべきになります。
Ⅱ.精神神経症状
頻度は稀ですが、ノックビンは
- 集中力障害
- 不安
- 抑うつ
- 傾眠
- 見当識障害(自分が置かれている状況が分からなくなる)
- 記憶障害
- 錯乱
といった精神神経症状をきたす事があります。
これらの精神症状は特に服用初期に生じやすく、経過とともに自然と改善してくる事もあります。
そのため、程度が軽ければ様子を見る事もあります。ただし程度が重い場合はやはり原則としてノックビンの減量あるいは中止になります。
Ⅲ.発疹
ノックビンを服用後、特に初期に発疹を認める事があります。
発疹の多くは自然と改善していくため、発疹が軽いものであれば少しの間様子をみても問題はありません。
ただし発疹がどんどん広がっていくようであったり、かゆみや痛みなどの不快な症状を伴う場合はやはりノックビンを減量あるいは中止する必要があります。