ニトラゼパムは、1972年から発売されている「ベンザリン」「ネルボン」という睡眠薬のジェネリック医薬品です。
ジェネリック医薬品というのは、先発品(ベンザリン、ネルボン)の特許が切れた後に別の製薬会社から発売されたお薬の事です。効果は先発品と同等でありつつ、お薬の開発・研究費があまりかかっていないため薬価が安くなっているというメリットがあります。
ニトラゼパムは、睡眠薬の中でもベンゾジアゼピン系という種類に属します。
ベンゾジアゼピン系は効果もしっかりしており、また重篤な副作用も少ないため、不眠症の治療によく使われているお薬の1つです。
ここではニトラゼパムの効果の強さや作用時間、他の睡眠薬との比較などを紹介していきます。
1.ニトラゼパムの特徴
まずはニトラゼパムの全体像をお話します。
ニトラゼパムは睡眠薬の1つであり、主に「眠れない」という不眠症の方に用いられるお薬です。
ベンゾジアゼピン系という種類に属し、GABA-A受容体を刺激する作用を持ちます。GABA-A受容体は中枢神経を鎮静させる作用を持つ抑制性の神経に存在する受容体で、これが刺激されると中枢神経はリラックス・鎮静の方向に向かい、眠気を感じるようになるわけです。
不眠症の治療に適切な睡眠薬を用いるために重要なポイントは、
- その睡眠薬の作用の「強さ」
- その睡眠薬の服用してからの作用発現時間(即効性)
- その睡眠薬の服用してからの持続力
の3つがあります。
一口に「眠れない」といっても、寝付きが悪かったり(入眠障害)、眠りが浅くて夜中に何度も目覚めてしまったり(中途覚醒)、その両方であったりと様々なタイプがあります。
入眠障害には即効性に優れる睡眠薬が適していますし、中途覚醒には持続力に優れる睡眠薬が適しています。
睡眠薬によってこれらの特徴は異なりますので、自分の不眠に合った睡眠薬を選択する事が大切です。
ニトラゼパムの3つの作用については、
- 作用の強さはベンゾジアゼピン系の中で中等度
- 服用してから血中濃度が最大になるまでには約2時間(即効性はそこまでない)
- 半減期は約24時間(持続力はまずまず)
となります。
半減期とは血中濃度が最大になってから半分に下がるまでにかかる時間の事で、そのお薬の作用時間とある程度相関する値です(半減期=作用時間と一致するわけではありません)。
そのためニトラゼパムは不眠症の中でも中途覚醒(夜中に何度も目覚めてしまう)や、早朝覚醒(朝早くに目覚めてしまう)などに適した睡眠薬であると言えます。
では次にそれぞれの作用の特徴について詳しく見ていきましょう。
2.ニトラゼパムの作用時間
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は作用時間で大きく4種類に分ける事が出来ます。
超短時間型・・・半減期が2~4時間
短時間型 ・・・半減期が6~10時間
中時間型 ・・・半減期が12~24時間
長時間型 ・・・半減期が24時間以上
半減期というのは、その薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間の事で、そのお薬の作用時間とある程度相関します。
ニトラゼパムは「中時間型」の睡眠薬に分類され、服薬してから2時間ほどで血中濃度が最高値になり、半減期は約24時間前後です。
中時間型に分類されてはいますが、長時間型にも匹敵する作用時間を持つため、長時間型に分類されることもあります。
飲んでから効果が最大となるまで2時間程度になります。個人差もありますが、服用してから効果を感じ始めるまでには30~60分ほどかかり、即効性はそこまで期待できません。
半減期は長いため、持続力は期待できます。そのため夜中に何度も起きてしまったり早朝に目覚めてしまうという方には向いています。
しかし半減期が長いという事は良い事だけではありません。日中にまで眠気が持ち越してしまうリスクもあり、日中の集中力低下やふらつきの原因にもなりえます。
3.睡眠薬の作用時間比較
よく使われる睡眠薬の作用時間を比較してみましょう。
睡眠薬 | 最高濃度到達時間 | 作用時間(半減期) |
---|---|---|
ハルシオン | 1.2時間 | 2.9時間 |
マイスリー | 0.7-0.9時間 | 1.78-2.30時間 |
アモバン | 0.75-1.17時間 | 3.66-3.94時間 |
ルネスタ | 0.8-1.5時間 | 4.83-5.16時間 |
レンドルミン | 約1.5時間 | 約7時間 |
リスミー | 3時間 | 7.9-13.1時間 |
デパス | 約3時間 | 約6時間 |
サイレース/ロヒプノール | 1.0-1.6時間 | 約7時間 |
ロラメット/エバミール | 1-2時間 | 約10時間 |
ユーロジン | 約5時間 | 約24時間 |
ネルボン/ベンザリン | 1.6±1.2時間 | 27.1±6.1時間 |
ドラール | 3.42±1.63時間 | 36.60±7.26時間 |
ダルメート/ベジノール | 1-8時間 | 14.5-42.0時間 |
作用時間が睡眠薬によって様々であることが分かります。
最高濃度到達時間が早いお薬は「即効性がある」と言えます。
ルネスタ、マイスリー、アモバンなどの「超短時間型」は1時間前後で血中濃度が最高値になるため、「すぐに寝付きたい」という方にお勧めですが、3~4時間で半減期を迎えてしまうため、長くぐっすり眠りたい方には不適であることが分かります。
反対にぐっすりと長時間眠りたい場合は、サイレース/ロヒプノールやデパス、ロラメット/エバミール、ユーロジンなどの睡眠薬が適していることが分かります。
ニトラゼパムは即効性はありませんので、寝付きの改善に用いるのはあまり適していません。寝付きだけを改善したい場合は、超短時間型や短時間型を用いるべきでしょう。
しかし半減期は24時間前後ありますから、長くぐっすり眠りたい方には向いています。一方で長く効きすぎて日中にも眠気が持ち越してしまう可能性がありますので、注意して使用しましょう。
このように睡眠薬は「眠らせる」という作用は同じでも、それぞれ特徴は異なります。主治医とよく相談して、自分に合う睡眠薬を選ぶようにしましょう。
4.ニトラゼパムの強さは?
ニトラゼパムの睡眠薬としての強さはどのくらいなのでしょうか?
これは個人差もありますが、総じていうと「普通」くらいでしょう。
現在の不眠治療は、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流となっていますが、これらの睡眠薬はどれも強さに大きな差はないと考えられています(もちろん多少の強さの差はありますが、総じて言えば大きな差ではありません)。
強さは同じくらいで、「強さがピークになる時間帯」や「効果が続く時間」が違うだけです。
上図のように、睡眠薬はどれもピーク時の強さには大きな差はありません。強さがピークになる時間帯が違うのです。
そのため、もし睡眠薬の作用を強めたい場合は、睡眠薬の種類を変えるよりもまずは「量を増やす」方が効果的です。ニトラゼパムは5mg~10mgの間の量で使いますが、量を増やせばそれだけ作用は強くなります。
ただし量を増やせば作用も強くなりますが、副作用も現れやすくなります。そのため、まずは5mgで開始し、10mgは効果が不十分な場合に限り使うようにしましょう。
5.ニトラゼパムが向いている人は?
不眠症には大きく分けると2つのタイプがあります。
一つ目が「寝付けない事」で、これは「入眠障害」とも呼ばれます。そして二つ目は「寝てもすぐに起きてしまう事」で、これは「中途覚醒」と呼ばれます。
一般的には、
- 入眠障害には超短時間、短時間型
- 中途覚醒には中時間型、長時間型
の睡眠薬が適していると言われています。
ニトラゼパムは中時間型ですから、セオリー通りに考えると、「夜中に何回も起きてしまう」という中途覚醒に向いていることになります。
実際もその通りで、即効性はないため入眠障害に使っても効果はあまり期待できません。中途覚醒の改善に用いられる場合はほとんどです。
しかし中時間型に分類されてはいるものの、長時間型に匹敵する長い半減期を持ちます。これは夜間にしっかり効き続けるというメリットでもありますが、お薬の作用が翌日の日中にも持ち越しやすいということでもあります。
夜は眠れるようになったけど、日中も眠くて仕方ない。これでは困りますよね。
そのため単純な中途覚醒の改善のために用いるのであれば、まずはもう少し半減期の短いものを試してみて、それでも「効きが短い」と感じる場合に、ニトラゼパムを検討するのがいいでしょう。
まずは半減期がニトラゼパムより短い、リスミーやレンドルミン、ロラメット/エバミールなどからはじめて、それでも「効果がまだ短い」と感じるのであれば、ニトラゼパムが役立つ可能性はあります。
またニトラゼパムはGABA-A受容体を刺激する事で、不安を和らげたり、てんかんやけいれんを抑えたりする作用もあります(これを抗不安作用、抗けいれん作用と言います)。そのため日中の不安も改善したい、日中のけいれんを抑えたいという場合にも向いています。
上手く作用してくれれば、夜は中途覚醒を改善し、日中は不安やけいれんを改善してくれることも期待できます。