精神科・心療内科を受診しようと考えた時、
「自分の気持ちを分かってもらえるだろうか?」
「正しく診断してもらえるだろうか?」
「変な病名をつけられないだろうか?」
と受診に対して不安になってしまう方は多いのではないでしょうか。
昔より敷居が低くなってきたとはいえ、精神科・心療内科はまだまだ気軽な気持ちで受診できるものではありません。風邪で内科を受診したり、腰痛で整形外科を受診するのと比べると、抵抗が高いのが普通です。
もちろん、私たち精神科医は患者さんから得られる様々な情報から、正確に診断し、患者さんの気持ちが楽になるように日々努めています。
しかし、精神疾患というのは目にも見えなければ血液検査やレントゲン検査でも検出できないものであるため、「患者さんの話」が正確な診断への大きなウエイトを占めているという側面があります。
診察をより精度の高いものにするため、患者さんの気持ちを医師がより汲み取りやすくするためには、患者さんが「より正確に自分の状態を話してくれる」ということも実は非常に重要なのです。
今日は、初めて精神科や心療内科を受診する時に、「こんな情報があれば正確な診断を付け、適切な治療を行いやすい」というものをまとめてみたいと思います。
目次
Ⅰ.何で一番困っているのか? =主訴
一番困っていることは何なのか?これをしっかりと治療者に伝えることは重要です。
精神科を初めて受診する時は、精神的にとてもつらい状態であるのが普通です。そのため症状も一つではなく、様々な症状があるとは思います。
しかしその中で、自分がもっとも困っている症状、もっとも治したい症状は何なのかが明確になっていることは大切です。
これを「主訴」と言います。
例えば「最近、眠れないのがつらい」という理由で精神科を受診したケースを考えてみましょう。
眠れないのがつらいとは言っても、症状は不眠だけではないと思います。不眠が続けば、気分だって滅入ってきますし、頭も重くなるでしょう。胃がムカムカして、食欲だって落ちてくるかもしれません。
症状はたくさんあります。
「最近、少し眠れなくて・・・。あ、そういえば食欲も落ちてるしやる気も出ないなぁ。胃もちょっとむかむかしているし・・・。あ、そういえば頭痛なんて本当にひどくて困ってるんですよ!」
このように、症状をあれこれ思いつくままに伝えてしまうと、診察した医師は「頭痛が一番つらい症状なのかな?」と勘違いしてしまうかもしれません。そのまま「まずは頭痛を中心に治療をはじみえよう」という治療方針になってしまう可能性もあります。
これは極端な例ですが、「一番困っていること」をしっかりと伝えることは大切です。
先ほどの例でいえば、
「最近、眠れないのがつらくて来院しました。一番困っているのは眠れないことで、それが続くと気分が滅入ってやる気が出なくなったり、胃がムカムカして食欲も落ちたりしています。眠れない日が続くと頭痛もひどくなって困ります。」
と伝えれば主訴が分かりやすいですね。
Ⅱ.どのような経過なのか =現病歴
症状が出てきた経緯も大切です。ある日突然出てきたのか、それとも何らかのきっかけがあって出てきたのか。それによって治療方針が変わってくる可能性もあります。
ここでも、自分の思いつくままにつらい出来事を話してしまいがちですが、時間経過に沿って話すと、聞いている側は正しく理解しやすいです。
思いつくままに、
「去年、こんなつらいことがあって・・・、それでやっと傷が癒えてきたと思ったら先月にまたあんな事があって。そういえば3年前にも○○がありましたね。あ、今思い出しましたが小学生時代にも●●なんて事がありましたね。」
と話すよりも、
「始めて症状を自覚したのは小学3年生の時で、●●を感じました。普通に通学は出来ていたのでそのまま様子をみていました。3年前、特にきっかけなく〇〇が出てきました。更に去年、こんなつらいことがあって、先月も同じようなことがあったので受診したのです」
と時系列に沿って話した方が分かりやすいでしょう。
診察場面でいきなり綺麗に話すのは難しい場合もありますので、経過が複雑な場合は事前にまとめておくとなお良いでしょう。
Ⅲ.生まれや幼少時の事、学歴など =生育歴
精神科の場合、出生時や幼少期の事、学歴なども診断に関係することがあります。主なものを紹介します。
1.生まれはどこなのか?
→ある特定の地域に多い病気があります。
2.兄弟、姉妹は何人か。自分は何番目なのか
→家族内での立ち場が性格や考え方、ストレスなどに影響していることがあります。
3.母の妊娠中・出産時に異常はなかったか
→早産や仮死での出生などがあれば、それが精神症状の原因であることもあります。
4.発達に異常はなかったか
→正常の発達であったかは大切です。例えば発達の遅れなどがあった場合、精神遅滞や広汎性発達障害などが背景に隠れている可能性もあります。ちなみに成長・発達歴は母子手帳や小学生低学年の時の通知表などがあるとよく分かります。幼少期に描いた絵などにその特徴が隠れていることもあります。
5.家庭環境の問題はなかったか
→両親の離婚、家庭内暴力など、幼少期に大きな精神的ダメージを受けるような出来事がある場合、それはその後の精神状態にも影響することがあります。両親の愛情をしっかりと受けることができたのかは正常な精神形成のために大切なポイントです。
5.不登校や学校でのトラブルはなかったか
→多感な学生時代に大きな精神的ダメージを受けてしまうと、これもその後の精神状態に影響する可能性があります。話ずらいことかもしれませんが、不登校やいじめられた過去があった場合は教えて頂けると治療の助けになります。
6.学歴、職歴
→学歴は、知的水準や社会適応力を判断する一つの材料になります。
Ⅳ.家族や親族に精神疾患の方がいるか。 =精神医学的負因
遺伝が関係する精神疾患があります。
双極性障害(かつての躁うつ病)や統合失調症は遺伝が原因で発症することが少なくなく明らかな遺伝性があります。うつ病も遺伝が全てではありませんが、一部関係していると言われています。
家族だけでなく、近い親族に精神疾患の方がいないかは調べておくと診断の助けになります。
Ⅴ.他の病気にかかっているか =既往歴
精神科に限らず、何か他の病気にかかっているか。そして、その病気に対しておくすりなどを使っているのか、なども大切な情報です。
内科系の疾患でも、落ち込んだり無気力になったりなどの症状が出る病気もあります。おくすりの副作用でも同様に精神的に不安定になることもあります。
一例を挙げると、脳梗塞や糖尿病、甲状腺疾患、パーキンソン病、膠原病などではうつ症状が生じることが報告されています。
おくすりで言うと、インターフェロン製剤やステロイド製剤、一部の降圧薬、抗ヒスタミン薬、経口避妊薬などの副作用でうつ症状出現の報告があります。
初診ですべてを言う必要はない
ここまで、初診でまとめておくと良い情報をお話ししましたが、精神的な情報というのは、言いづらいものも多いと思います。
例えば、幼少期に親から暴力を受けていたとか、中学時代にいじめでとてもつらい思いをした、というのは出来れば思い出したくもない事でしょうし、あまり話したくもないことでしょう。
特に初診時は、主治医とも初めて会うわけですし、まだ信頼関係も築けていません。そんな状態で、いきなりすべてを洗いざらい話せ、と言う方が酷です。
なので最初にすべてを話す必要はありません。通院を続けて、「この先生になら話せる」と思っていただいた時に話していただければよいのです。
でも、話したくないからと初診時にウソをついてしまうと、診断の精度が落ちてしまいます。
なので、例えば学生時代のいじめについてあまり話したくない時、「学生時代は特に問題はありませんでした」と答えてしまうのは診断の精度という意味では良い回答とは言えません。
「つらい事はありましたが、思い出すのがつらいので今日は話さなくてもいいでしょうか。」
「話ずらいことなので今日はちょっと・・・」などと言っていただくといいと思います。
これであれば、「何かはあったんだな」と主治医も分かるので、「何も問題はなかった」と勘違いせずに済みます。