一昔前と比べると、精神科・心療内科を受診する敷居は低くなってきています。
しかしこころの症状というのは目には見えないため、どの段階から受診を検討したらいいのかというのが分かりにくい面があります。
例えば怪我で大量出血していれば、病院を受診した方がいいのは誰の目にも明らかでしょう。また、40度の熱が出ていて苦しいのであれば、これも病院を受診した方が良いという意見に異論はないでしょう。
一般的な病気は、このように数値や症状が目に見えるため、受診すべきかどうかの判断はしやすいと言えます。しかし精神科の疾患は目に見えないため、「受診するほどなのか」が分かりにくいのです。
「こんな症状で精神科を受診していいの?」
「こんなことで受診して、先生に怒られないかな?」
受診を考えているものの、このような心配でなかなか受診できずにいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今日は、精神科・心療内科の受診について、「どんな状態であれば受診した方が良いのか」について考えてみたいと思います。
1.本人が受診を希望すれば受診してよい
精神的な不調から精神科・心療内科への受診を考えた時、
「こんな症状で受診して良いのだろうか」
「こんな事で受診して、先生に怒られないだろうか」
と心配される方は少なくありません。
実際、初診(初めての診察)の際に、「こんなことでわざわざ精神科に来るなって先生に言われてしまうかもしれませんが・・・」と前置きし、恐る恐る経過を話される方もいらっしゃいます。
しかし結論から言ってしまうと、ご自身が精神的な症状で困っていて、受診を希望しているのであれば、受診して頂いて全く問題ありません。
なぜならば、受診して治療の必要があることが分かれば、「早目に受診して良かった」となりますし、仮に診察の結果から「今のあなたの状態は、異常はありません」ということであっても、異常がないことが分かればそれはそれで安心できるからです。
診察の結果、異常がないことが分かれば安心できます。「自分は病気なのかどうか」を心配していた方にとって、この安心が得られることは非常に大きいことでしょう。つまり、受診した意味がある言えます。
「病気でもないのに、何で受診したんだ!」などと怒る先生はいません。受診された方の不安を取るのも、精神科医の仕事のひとつですので、安心して受診して下さい。
つまり、何か精神的な不調があり、本人が精神科・心療内科の受診を希望しているのであれば、基本的には受診しても良いと言うことになります。
ただし、受診するのは問題ありませんが、そこで診断された結果は、あなたの希望に沿わないことがあります。
「自分は正常だ」と思って受診したのに「うつ病ですね」と言われることもあるかもしれません。反対に「自分はうつ病だと思うから抗うつ剤が欲しい」と思って受診したのに「今のあなたには抗うつ剤は必要ないでしょう」と判断されることもありえます。
人は皆、自分の希望があり、その希望通りになって欲しいと考えます。診察の結果が自分の希望していたものと違うと「受診した意味がなかった!」と言われる方がいますが、それは間違いです。
受診は本人の希望で行って問題のないものですが、専門家である精神科医が診察した結果は受け入れるようにしてくださいね。
2.メンタルクリニックを受診した方がよい4つの徴候
精神科・心療内科は、
「本人が受診を希望するのであれば、受診して問題ないもの」
とお話しました。
しかしそうは言っても、「こんな症状で受診していいのだろうか」と受診をためらう方は多いものです。
そこで、「こういった時はメンタルクリニックへの受診を検討しよう」という徴候の中で、特に重要なものを4つ紹介させて頂きます。
Ⅰ.本人が精神症状で困っている
当たり前のことなのですが、自分自身がその症状について「困っていること」は受診の大前提です。
例えば気分が最近落ち込みがちだったとします。でも、「まぁ、人間だしそういう時もあるだろう」と考えており、自分自身があまり困っていないのであれば、受診する意味はあまりないでしょう。
中には双極性障害の躁状態など、自分は困ってないけど周囲から見て明らかに治療が必要、という例もありますが、こういった例も本人が困っていなければ無理矢理受診させても治療になりません。
本人は困っていないのですから、治療にも非協力的ですし、仮にお薬を処方しても飲んでくれないことがほとんどです。
(余談ですが、このような場合は、医療保護入院や措置入院などの強制力のある入院制度で治療する必要が出てきます)
時々、本人は困っていないのに、家族が「最近元気がないから」と心配して無理矢理受診させる例もありますが、これも同様で、本人が「困っている」と感じてなければ、治療にも協力してくれませんので、受診の意味も乏しくなってしまいます。
まずはご自身が精神症状で「困っていること」というのが、受診の大前提になります。
Ⅱ.2週間以上、改善がない
生きていれば誰でも気分が不安定になることはあります。
仕事で大きな失敗をすれば、誰だって落ち込むでしょう。親しい人が亡くなったのに、落ち込まずに居られる人なんていません。
このような時の気分は非常に苦しいものですが、でもこれらに対して全て「精神科・心療内科を受診すべきだ!」というのがおかしいことなのは明らかです。
なぜならば生きている以上、つらい気分になることもあるのが普通であり、その全てを病気だと言うことになれば、世界中の人間全員が病気になってしまいます。
正常範囲内の落ち込みであれば、数日は強い気分の不安定性があったとしても、徐々に改善していくことが普通です。だいたい2週間も経てば、完全に元に戻るとは行かないまでも、改善の傾向が見えてきます。
このように2週間ほど様子をみて、少しずつでも良くなってきている傾向があるのであれば、それはさしあたっては受診せずに様子をみても良いと考えられます。
しかし、2週間経過しても全く改善していると感じられない、あるいはむしろ悪化しているという場合は、受診を検討する必要があります。
Ⅲ.解決する方法が自分では分からない
生きていれば誰でも気分が不安定になることはあります。しかし前項でお話したように、その全てが治療の対象になるわけではありません。
精神的に不安定になっても、その後自然と改善していったり、改善させる方法が自分で見えている場合は、さしあたっては受診をせずに様子をみても良いでしょう。
しかし、全く改善の傾向が見えなかったり、改善に向かわせる方法が自分では全く見当も付かないような場合は、一度専門家に相談することをお勧めします。
Ⅳ.生活に支障が出ている
気分が不安定になり、それが原因で生活に支障が出ているのであれば、これは早めに精神科・心療内科を受診した方が良いでしょう。
例えば、落ち込みを感じているけども、仕事も行けているし、日常生活に必要な活動(人と話したり、必要な外出に出かけたりなど)が出来ているのでれば、さしあたっては様子をみても良いでしょう。
しかし、落ち込みが出現し、仕事を欠勤してしまっている、また自宅にこもりがちとなって日常生活に必要な活動が全くできていないというのであれば話は別です。
そのまま放置すると、ご本人様の健康をより害する可能性がありますし、社会的に不利益をこうむる可能性も出てきます。
この場合は、早めに精神科・心療内科を受診し、治療すべき原因がないのか専門家に判断してもらうべきです。