メラトニンを増やして良い睡眠を得るために大切なポイント

睡眠に関係する物質の1つに「メラトニン」があります。

メラトニンは夜になると多く分泌され、自然な眠りを導く作用があります。また適切な時間帯に分泌されることで体内時計を正常に調整するはたらきも持っています。

このようなメラトニンの効能から、近年では不眠症の方向けにメラトニンのサプリメントなども市販されています。また医薬品としても「ロゼレム(一般名:ラメルテオン)」というメラトニン受容体作動薬があります。

メラトニンが睡眠に関係しているのは事実であり、メラトニンについて正しく理解することは睡眠の質を高めるために役立ちます。しかし、ただ「メラトニンをたくさん取れば眠りの質が上がる」という単純なものではありません。

今日は睡眠におけるメラトニンの役割や、そこから日常で使える良眠のポイント、メラトニンの効果的な使い方について紹介させて頂きます。みなさんの睡眠の助けになれば幸いです。

1.メラトニンとは?

まずはメラトニンというホルモンについて、その正体を詳しくみてみましょう。

メラトニンは脳の「松果体(しょうかたい)」と呼ばれる部位で合成されるホルモンです。その原料は「セロトニン」であり、メラトニンは松果体でセロトニンを原料にして合成されます。ちなみにセロトニンは「トリプトファン」というアミノ酸が原料となりますので、トリプトファン⇒セロトニン⇒メラトニンという経路で合成されることになります。

松果体で作られたメラトニンは血中に分泌され、脳の別の部位にある「メラトニン受容体」にくっつくことでその作用を発揮します。

メラトニン受容体は、MT1受容体、MT2受容体、MT3受容体の3つがあることが知られています。このうち睡眠に関わっているのは主にMT1受容体とMT2受容体になります。

大体の機能としては、

  • MT1受容体は「眠りに導く作用(入眠作用)」がある
  • MT2受容体は「体内時計を調整する作用」がある

となっています。

MT1受容体は脳の視交叉上核(SCN)という部位にあります。視交叉上核は体内リズム時計の中枢部位と言われており、「睡眠⇔覚醒」に深く関わっている部位になります。MT1受容体にメラトニンがくっつくと、視交叉上核の神経細胞の興奮が抑えられます。これによって体温や血圧が下がり、眠りが導かれます。私たちの身体は体温が下がると眠くなるように出来ていますので、メラトニンの体温や血圧を下げる作用は入眠作用となるのです。

MT2受容体は脳の視交叉上核にある他、光を感じる部位である目の網膜にも存在しています。MT2受容体にメラトニンがくっつくと体内時計を調整するはたらきがあります。体内時計が狂って不眠になってしまっている方(概日リズム障害)は、メラトニンを適切な時間に投与することで体内時計を早めたり遅めたり調節し、体内時計を正常に戻すような治療が行われることがあります。

復習すると、睡眠におけるメラトニンの作用というのは、

  • 入眠作用(眠りに導く作用)
  • 体内時計を調整する作用(概日リズム位相変位作用)

の2つがあるということです。

ちなみにメラトニンは睡眠に対する作用が有名ですが、その他にも多くの作用を持っていることが報告されています。

例えば、

  • 抗酸化作用
  • 性成熟の抑制作用
  • 抗がん作用
  • 脂質代謝への影響

もあることが知られています。

つまり、メラトニンが少なくなるような生活を送っていると、睡眠が障害されるだけではなく、

  • 抗酸化作用が得られなくなるため老化が早まる
  • 性成熟が異常に早まる(性の早熟)
  • 発がんリスクが高まる
  • 肥満や高脂血症になりやすくなる

などの危険が考えられるということになります。

メラトニンは子供で多く分泌されています。出生とともに急速に分泌量が増え、そのピークは5~10歳時になります。その後緩やかに分泌量は落ちていきます。高齢者の方は眠りが浅くなったり朝早く目覚めてしまうようになりますが、これはメラトニン量の分泌が加齢と共に減ってくるのも一因です。

2.メラトニンの特徴

メラトニンは私たちの睡眠に関わっている物質です。

ということは、メラトニンの特徴を正しく知ることは良い睡眠を得るためのヒントを得ることができます。

メラトニンにはいくつかの特徴があります。それを知り、日常に生かすだけでも睡眠の質を上げることは可能です。また、もしメラトニンのサプリメントを使用している方がいれば、同様にメラトニンの特徴について正しく理解することでその効果を更に高めることができるでしょう。

Ⅰ.メラトニンは光と体内時計の2つで調節されている

正常なメラトニンの分泌パターンというのは、「昼に少なく、夜になると多くなる」というものです。

この分泌パターンに沿って、私たちは通常、日中に活動して夜に眠っているわけです。この分泌パターンがおかしくなると上手く睡眠が取れなくなってしまいます。

このメラトニンの分泌パターンはどのようにコントロールされているのかと言うと、

  • 体内時計

の2つによって制御されていると考えられています。

メラトニンは光によって分泌が制御されるという特徴があります。セロトニンからメラトニンを合成する時にはたらく酵素は、光を浴びるとはたらきが弱まることが分かっています。つまり、光を浴びるとメラトニンの分泌が弱まってしまうということです。

私たちは光の多い日中には眠くならず、暗い夜になると眠くなるわけですが、これにはこのような仕組みがあるのです。

メラトニンは100ルクス程度の弱い光でも分泌が弱まることが確認されています。メラトニンの分泌を弱めないためには眠りに入る前は光量は50ルクス以下にする必要があります。

またメラトニンは通常、起床してから約16時間後に徐々に分泌量が増え出します。これは体内時計に従ってメラトニンが分泌されているのだと考えられます。

仮に全く光がないような部屋で一日を過ごしたとしても、体内時計に従って起床時の16時間後くらいになるとメラトニンの分泌は高まるため、光以外にも体内時計がメラトニンの分泌をコントロールしていることが分かります。

Ⅱ.メラトニンの分泌を抑える光と抑えない光がある

メラトニンは夜間に多く分泌されますが、夜間に光を浴びるとメラトニンが分泌されにくくなります。夜になっても明るい環境にいるとメラトニンが分泌されなくなってしまうのです。

正確に言うと、光はメラトニンを作る酵素のはたらきを低下させてしまうのです。

日中、私たちがあまり眠気を感じないのは、光がメラトニンの合成を低下させているためで、これは一概に悪い作用とは言えません。しかし夜に光を浴びてしまうと睡眠的には悪影響だということになります。

ちなみにどんな光でもメラトニンが抑制されるわけではありません。

光の中でも青色の光(短波長)が特にメラトニンを抑制し、赤色・黄色の光(長波長)はメラトニンの抑制は少なくなります。短波長の光というのはいわゆる「ブルーライト」などが該当します。ブルーライトは蛍光灯(特にLED)などの照明から多く発されている他、テレビやゲーム機、スマートフォンなどの液晶画面からも発されている光になります。

反対に白熱灯は長波長(黄色や赤色)が多いため、メラトニンの分泌はあまり抑制されません。

Ⅲ.日中に光を浴びると夜のメラトニン分泌が増える

夜に光を浴びるとメラトニンの分泌は減りますが、反対に日中に適度な光を浴びていると、その分夜間のメラトニン分泌が増えることが分かっています。

そのため、「夜に光を浴びない」ことを意識するだけでなく、「日中は適度な光を浴びて、夜はなるべく光を浴びない」ことが大切です。

Ⅳ.メラトニンはすぐに分解されてしまう

実はメラトニンというのは半減期(その物質の血中濃度が半分に落ちるまでの時間)が短い物質です。

松果体で合成されたメラトニンは、1時間もしないうちに分解されてしまいます。そのため夜間はメラトニンは松果体から持続的に分泌され続けています。明け方になるとメラトニンの分泌が弱まり、私たちは目覚めます。

この知識は、メラトニンをサプリメントなどで人工的に摂取している場合に重要になります。メラトニンを人工的に摂取した場合も、その作用は1時間も持たないと考えるべきです。となるとサプリメントのメラトニンは眠りに入るのを助けてくれることは期待できますが、眠りを維持する作用は期待できないということになります。

Ⅴ.入眠作用は弱い

メラトニンは体温を下げ、血圧を下げることで自然な眠気を導く作用があります。そのため、一般的な睡眠薬のように「人工的に強力に眠らせる」ような効果は期待できません。

メラトニンは元々毎日脳内で合成されている物質であり、あくまでも自然に眠らせる物質になります。

「これを摂取すればストンと眠れる」という期待をすべき物質ではありません。

3.メラトニンで良眠を得るために気を付けたいこと

メラトニンの特徴から、良い睡眠を得る上で大切なことをお話させて頂きます。

Ⅰ.眠る前は白熱灯、朝起きたい時は蛍光灯

光の中でも波長の短い蛍光灯(青白い光)は特にメラトニンの分泌を抑えてしまいます。そのため、このような光を眠る前に浴びることは良くないことが分かります。

反対に白熱灯(オレンジ、黄色い光)はメラトニンの分泌をそこまで抑えません。そのため、眠る前にはこのような光が良いという事です。

睡眠に入る数時間前からは、部屋の明かりは白熱灯にしましょう。寝室は白熱灯にした上で、眠る直前は50ルクス以下の光が良いでしょう。するとメラトニンの分泌が妨げられないため、良い睡眠を得やすくなります。

反対に朝、しっかりと目覚めたい場合は部屋の明かりは蛍光灯にしましょう。蛍光灯の光を浴びるとメラトニンの分泌は抑えられるため目覚めやすくなります。

Ⅱ.日中に光を浴びよう

夜にメラトニンがしっかりと分泌されるようにするには、夜に光を浴びないようにするだけでは不十分です。

日中にしっかりと光を浴びることで、夜のメラトニンの分泌が増えることが分かっています。

一日中室内で仕事をしている方は、日中に十分な光を浴びれない方も多いでしょう。そのような方も、昼休みに少し外に出て散歩してみたりと日中に光を浴びる工夫をしてみましょう。

Ⅲ.あくまでも補助的に睡眠を助けてくれるもの

メラトニンを睡眠薬代わりだと考えるのには無理があります。

メラトニンは自然な眠りを促すホルモンであり、睡眠薬のように人工的に眠らせる物質ではありません。眠りに入りやすくする作用は期待できますが、「メラトニンを飲めばそれだけでグッスリ眠れます!」というほどの効果は期待できません。

実際、医薬品として「ロゼレム(ラメルテオン)」というお薬も発売されていますが、このお薬も入眠作用は非常に弱いものとなっています。

ロゼレムはメラトニンではなく、メラトニン受容体を刺激するお薬です。発売当初は「新しい睡眠薬」として注目されましたが、現在では他の睡眠薬と比べると処方される割合は多くはありません。その理由は「効果が弱いから」です。

ロゼレムは安全に眠りを導いてくれる素晴らしいお薬なのですが、「睡眠薬」として考えてしまうとその力は頼りないのです。

ここからも分かるように、メラトニンあくまでも良い眠りを得るために補助的に利用するものであり、それを飲むだけで睡眠の問題が解決するというものではありません。

Ⅳ.メラトニンが作られるような食生活を

メラトニンは、トリプトファンというアミノ酸が原料になります。

トリプトファン⇒セロトニン⇒メラトニン

という経路で合成されます。

ということは、睡眠の質を上げるためにはトリプトファンが不足しないような食生活も大切になります。

トリプトファンを取れば取るほど良いというわけではありません。多量に取る必要はありませんが、あまりに不足しているとメラトニンが作れなくなってしまうため、睡眠の質が悪化してしまう可能性があるでしょう。

トリプトファンはタンパク質を多く含む食べ物に含まれます。具体的には

  • 肉類
  • 魚類

などの動物性タンパク質に多く含まれており、また、

  • 豆類

などの植物性タンパク質にもある程度含まれています。

ただし、トリプトファンの摂取には一つ注意点があります。

トリプトファンは、LNAAs(large neutral amino acids)というアミノ酸(具体的にはバリン・ロイシン・イソロイシン・フェニルアラニン・チロシン・メチオニン)と一緒に摂取すると脳へ到達しにくくなることが分かっています。トリプトファンもLNAAsもどちらもアミノ酸でありタンパク質に含まれる物質です。そのため、タンパク質を過剰に摂取しすぎると良くない事が考えられます

このようなことを考えると「トリプトファンをたくさん取ろう!」と意識しすぎるのではなく、適量のタンパク質が摂取できていれば十分でしょう。

Ⅴ.サプリメントのメラトニンを取る時に気を付けたい事

サプリメントでメラトニンを使う場合は、2つの事を理解しておかないといけません。

1つ目は、メラトニンは作用時間が非常に短いということです。摂取されたメラトニンは1時間未満で作用がなくなってしまいます。

体内では、夜間は常にメラトニンが分泌されているため、メラトニンの作用時間が短くても夜間の眠りの維持に役立っていますが、人工的に摂取したメラトニンは投与後1時間程度しか作用がないということになります。

つまりメプリメントや医薬品として使うメラトニンは、寝付くためには有効ですが、眠りの維持には有効ではないということになります。

2つ目は、メラトニンには体内リズムの調整作用があるということです。これは逆に言えば、生理的ではない時間帯にメラトニンを摂取してしまうと、体内時計が狂ってしまう危険があるということになります。

夜にメラトニンを摂取するという使い方であれば、「夜に増える」という生理的なメラトニンの分泌に従っているため問題ないのですが、日中にメラトニンを摂取するのはあまり良くないということです。

具体的には、夜勤の仕事をしている方などが日中に眠るための睡眠薬として使うのは推奨されません。日中に人工的にメラトニンの濃度を高めてしまうと、体内時計が「今が夜なのだ」と誤解してしまう可能性があります。すると体内時計が狂ってしまう可能性があるのです。

これはサプリメントのメラトニンだけでなく、メラトニン受容体作動薬である「ロゼレム(一般名:ラメルテオン)」でも同じことが言えます。

4.メラトニンの副作用

メラトニンは元々が体内で作られているホルモンですので、危険なものではありません。

しかし気を付けるべき注意点はあります。

適切に摂取していても、人によっては

  • 日中の眠気や倦怠感
  • 吐き気・腹痛・下痢などの腹部症状
  • 血圧低下

などの副作用が生じることがあります。

また、いくら体内で作られているものだからと言っても、多量に摂取するのは問題です。

例えばメラトニンの作用の1つに「性成熟を抑制させる」という作用があります。そのため、性機能の発達段階にある子供はメラトニンを摂取すべきではないでしょう。正常な性機能の発達が遅れてしまうからです。同様の理由から妊婦さんや授乳婦さんも摂取すべきではありません。赤ちゃんの性機能の発達を抑制してしまう可能性があるからです。

また成人でも多量にメラトニンを摂取してしまうと性機能が抑えられ、月経が止まってしまうこともあります。