ワイパックスの舌下投与【医師が教える抗不安薬のすべて】

おくすりを飲むとき、通常は「水と一緒に口に含んで飲み込む」という方法が一般的です。

ワイパックスもこの飲み方が一般的なのですが、時々「舌下投与」という飲み方をすることがあります。舌下投与は正式な飲み方ではないため、積極的におすすめするわけではありません。

しかし、いくつかのメリットもある飲み方ですので、知識として知っておく価値はあります。

ここでは舌下投与とはどういうものなのか、そしてワイパックスの舌下投与について説明します。

1.舌下投与とは

普通におくすりを飲む場合、水と一緒におくすりを飲み込みます。

この場合、おくすりは胃から腸管へ流れていき、腸管から吸収されて血管に入り脳へ到達して効果が発現します。

舌下投与というのは、文字通り錠剤を舌の下に置く事です。

舌の下に置く事で、舌の血管や口腔粘膜の血管からおくすりが吸収されます。血管に直接吸収されるため、即効性があるというのが舌下投与のメリットです。

つまり、通常の飲み方だと、

口→胃→腸管→血管→脳

という経路なのですが、舌下投与だと

口→血管→脳

という短い経路になるため、その分効果が早く出るのです。経由部位が少なくなるため、舌下投与の方が早く効くことが分かると思います。

本来、舌下投与は「すぐに効いてほしい」という場合に用いられる方法です。有名どころで言うと、狭心症などの心臓の疾患の発作時などに使われます。狭心症発作は、心臓の血管がつまりかけることで生じます。これは早急に心臓の血管を広げる必要があります。正に一刻を争う状態ですね。

ニトログリセリン舌下錠というおくすりが有名ですが、これを舌下投与するとすぐにおくすりの成分は舌の血管から吸収され、数分で効果が出現して心臓の血管が拡張します。

ニトログリセリンの例からも分かるように舌下投与は、「すぐに効いてほしい!」という早急な効果の発現が必要な時には有効な投与方法なのです。

また、舌の下に乗せるだけで身体に吸収されますので、服薬の際に「水がいらない」というのも舌下投与のメリットです。

2.ワイパックスの舌下投与の意義

ワイパックスのような抗不安薬に即効性を求めるのは、「不安発作が起こってしまった時」でしょう。

発作が起こってしまい、すぐにでもおくすりを効かせたい、こんな時は舌下投与をしてもいいかもしれません。

しかし実はワイパックスは、データ的には舌下投与も普通の投与方法も効果発現の時間は変わらないと言われています。

これはワイパックスを発売しているファイザー社が行った研究結果だという事ですが、データ上はワイパックスは舌下投与しても早く効くわけではない、との事なのです。

であれば、不安発作が起こった時に舌下投与をする意味はないことになりますが、臨床的にはワイパックスの舌下投与は、時と場合によっては検討してもいい方法です。

まず、データ上は普通の飲み方も舌下投与も効きの早さに差がないとの事なのですが、臨床上は、「舌下投与は早く効きます!」という患者さんは一定の割合でいらっしゃいます。

これはもしかしたら「舌下投与したんだから早く効くはず!」という思い込みからきているものかもしれませんが、仮に思い込みであったとしても早く効いて、不安が早くに治まったのは事実ですから、意味があるだと言えます。

不安発作を体験した事のない方には、不安発作の怖さはなかなか理解できないものですが、周りからみると大したことないように見えても、本人は「このまま死んでしまうのでは」という強い恐怖を覚えます。

これを一刻も早く抑えてあげることは大変に意味があることです。

「発作が起こっても舌下投与すればすぐ効くから大丈夫!」という安心感が得られれば、それは普段の不安の改善にもつながり、病気の治りだって良くなる可能性が十分あります。

また、発作時に常に水を持っているとは限りません。水なしでも身体におくすりを吸収させることのできる舌下投与は、外出先など不意の状況で発作が起こったとき、良い服薬方法となります。

ワイパックスの舌下投与は、公に推奨されている方法ではありませんので、普段から行うことはおすすめできません。

発作時に限り、「舌下投与は自分にとっては即効性がある」と感じられるのであれば使ってもいい方法ではないかと思います。

ただし、主治医に必ず相談した上で行ってくださいね。