ラミクタール錠に安全性速報「重篤な皮膚障害について」が発出

平成27年2月4日、グラクソ・スミスクライン社が発売している「ラミクタール錠」に対して、安全性速報が発出されました。安全性速報は、青色の紙で回ってくるために通称ブルーレターと呼ばれています。

ブルーレターは、医薬品の使用に際して、特に注意喚起をすべきものがあった場合に発出されます。簡単に言うと、「このお薬でこういう報告が出ているから、注意して使用してくださいね」という内容です。

今回のラミクタールのブルーレターの内容はどのようなものだったのでしょうか。またラミクタールを服用している方は何か気を付けることはあるのでしょうか。

1.ラミクタールは安全なの?

ブルーレターは「このお薬を使って、こんな副作用が確認されましたので、より注意して使用ください」という内容のものがほとんどです。これは、服薬している患者さんは心配になってしまいます。

今回、みなさんが一番知りたいところは「私、ラミクタールを飲んでいるんだけど大丈夫なの?」というところではないでしょうか。

今回のブルーレターの内容は、

4か月間でラミクタールの使用により、重篤な皮膚障害が発症し、死亡に至った例が4人報告されている。

というものです。そのため、厚生労働省がラミクタールを発売している製薬会社(グラクソ・スミスクライン社)にブルーレターを発出するよう指示しました。

これだけを見るとラミクタールが怖いお薬のような印象を受けます。しかし、注目すべきは、

この4例はいずれも用法・用量が守られていない症例であり、皮膚障害が発症してから重症化するまでラミクタールの投与が中止されていなかった

という点です。

つまり、ラミクタールの添付文書に書かれている用法・用量通りの使用をせず、更に副作用が出ているのに服薬を続けてしまったた結果の死亡例だということです。

ラミクタールは少量からはじめて少しずつ増やしていくという使い方をするお薬であり、他の気分安定薬と比べて治療用量に持っていくまでに時間がかかるお薬です。なぜゆっくり増やしていくのかというと、このような皮膚障害を起こさないためです。

日本でラミクタールが発売されたのは2008年ですが、世界的には1990年代より使用されていました。そして海外では、少量から少しずつ増やしていかないと重篤な皮膚障害が出現する確率が高くなってしまうということはよく知られていました。

当然、日本もそれを受けて、ラミクタール発売の際に、「ラミクタールの使用の際には少量から開始し、少しずつ増やしていくこと」を添付文書に明記していました。

しかし諸事情によりこの増薬ルールを守らなかった症例で重篤な皮膚障害が出てしまったのでしょう。また、皮膚障害が出ているにも関わらずラミクタールを中止しなければ、どんどん重症化してしまいます。

どんなお薬であっても、身体に変化を与えるものである以上、副作用(リスク)は存在します。製薬会社が作ったルールにはずれた使い方をすればそのリスクが更に上がるのは当然です。

このようなブルーレターを見ると、ラミクタールが特に怖いおくすりのような印象を持ってしまいますが、この副作用は海外では以前から指摘されていたことであり、日本においてもすでに広く知られているものです。

そのため、ラミクタールを用法通りに使用しており、副作用がないかをチェックしていて、副作用らしきものが出た場合はすぐに中止できる環境にあるのであれば、今まで通り使用していて問題はないでしょう。

2.ラミクタールはどんなお薬なのか

ラミクタール(一般名:ラモトリギン)は、最初はてんかんに対するお薬(抗てんかん薬)として発売されました。その後、気分安定作用もあることも発見され、双極性障害(躁うつ病)にも使用されるようになりました。

精神科においては主に双極性障害に使用する機会が多いのですが、なぜ気分安定作用があるのかは明確には解明されていません。

仮説ですが、ナトリウムチャネル(ナトリウムを通過させるタンパク質)を抑制するはたらきが確認されており、これによって神経膜を安定化させ、神経細胞を保護することで気分安定作用があるのではないかと考えられいます。

また、グルタミン酸という興奮性の神経伝達物質を抑制するはたらきを持つため、これが気分安定作用を持つのではという考えもあります。

双極性障害に使われるお薬というと、炭酸リチウム(商品名:リーマスなど)、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケンなど)が有名ですが、これらのお薬は躁病相に対する効果が強く、うつ病相に対する効果は弱めでした。

ラミクタールの特徴は、これらのお薬と異なり、躁病相に対する効果は弱いのですが、うつ病相に対する効果を認める点が挙げられます。

3.重篤な皮膚障害を起こさないために気を付けるべきこと

どんなお薬でも、用法・用量通りに使用することが原則ですが、ラミクタールは特に用法・用量通りに使用しないと危険であることが、今回の報告から改めて分かりました。

ラミクタールで重篤な皮膚障害を起こさないために気を付けるべきことを改めて確認してみましょう。

Ⅰ.用法通りに使用する

用法通りに使用することを必ず守ってください。ラミクタールは元々、急に増薬すると皮膚障害が起こりやすくなることが知られています。だからこそ、慎重に増薬するように決められているのです。

双極性障害にラミクタールを使用する場合は、

通常、成人には
・最初の2週間は1日25mgを1日1回経口投与
・次の2週間は1日50mgを1日1回又は2回に分割して経口投与し
・5週目は1日100mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・6週目以降は維持用量として1日200mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・症状に応じて適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日量として最大100mgずつ、1日用量は最大400mgまでとし、いずれも1日1回又は2回に分割して経口投与する。
(ラミクタールの添付文書より)

という使い方になります。また、ラミクタールとバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)は相互作用するため、デパケンと併用する場合は更に慎重な増薬が求められます。

デパケンと併用する場合は、

通常、成人には
・最初の2週間は1回25mgを隔日に経口投与
・次の2週間は1日25mgを1日1回経口投与し
・5週目は1日50mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・6週目以降は維持用量として1日100mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・症状に応じて適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日量として最大50mgずつ、1日用量は最大200mgまでとし、いずれも1日1回又は2回に分割して経口投与する。
(ラミクタールの添付文書より)

つらい症状を抱えていると、1日も早く治したいという気持ちから、早い増薬をしてしまったり、つい多く飲んでしまったりしたくなるかもしれません。その気持ちは分かります。しかしラミクタールは急に増薬すると危険が大きいお薬であるため、必ず用法・用量を守って使用してください。

今回の死亡例も用法を守らなかったがために起きてしまったことであることを忘れてはいけません。

Ⅱ.ラミクタールの皮膚障害の特徴を知る

ラミクタールの皮膚障害は次のような特徴がある事が知られています。

【投与初期に多い】

ラミクタールによる皮膚障害の副作用は、投与初期(8週間以内)に多いと報告されているため、飲み始めたばかりの時は特に注意する必要があります。ラミクタールを服薬して間もない間は、皮膚に異常が起きていないか注意深く観察してください。

万が一、異常を見つけたら主治医にすぐに報告し、指示を仰いでください。(原則、軽微でも皮膚に異常があればラミクタールは中止が望ましいと考えられています)

【発疹のタイプ】

ラミクタールの発疹は、いきなり全身に出ることは少なく、最初は軽微であることがほとんどです。発疹の形状としては、斑状や丘疹状に現れることが多いと言われています。

斑状・・・まだら状
丘疹状・・・正常皮膚との境界が明瞭な1cm以下の盛り上がった発疹。形は円形だったり多角形だったり様々。

【小児に多い】

ラミクタールの皮膚障害は、成人と比べて小児に多いと報告されています。そのため、小児に使用する際は、特に注意深い皮膚の観察が必要です。

【発疹以外にこんな症状を伴うことが多い】

発疹に加えて、次のような症状を伴う場合は、重篤な皮膚障害に至る可能性が高くなると報告されています。

・38度以上の発熱
・眼の充血
・くちびるや口の中のびらん
・咽頭痛
・全身倦怠感
・リンパ節の腫れ

発疹とともにこのような症状が出現した場合は、すぐに主治医に連絡しましょう。この場合、原則ラミクタールは中止となります。

【バルプロ酸Na(商品名:デパケン)との併用注意】

同じ双極性障害の治療薬として、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)がありますが、ラミクタールとデパケンを併用した場合は、皮膚障害が起こりやすいことが報告されています。

しかし実際はデパケンと併用せざるを得ないケースもあります。デパケンとラミクタールを併用する際は、先ほど記載したようにラミクタールを更に慎重にゆっくりと増薬することが必要となります。

Ⅲ.ラミクタール服薬時に発疹を見つけたら

すぐに主治医に報告してください。受診日までまだ日がある場合でも、すぐに病院・クリニックに電話して相談しましょう。

投与初期である場合や、ラミクタールによる発疹である可能性が否定できない時は、原則ラミクタールは中止となります。

万が一、どうしても主治医に連絡できない場合は、その日のラミクタールの服薬は中止して下さい。そして、翌日以降なるべく早く主治医に連絡をするようにしてください。

ラミクタールを服薬してしばらく経っている場合や、明らかに他の原因で発疹が出来ている場合(蚊に刺された、など)では、ラミクタールの中止をしないこともありますが、この判断は専門家が慎重に行う必要があります。独自に判断することは極めて危険ですので、必ず主治医に相談しましょう。