リーマス錠(炭酸リチウム)の効果【医師が教える気分安定薬の全て】

リーマス錠(一般名:炭酸リチウム)は1980年から発売されている気分安定薬です。

気分安定薬というのは、主に双極性障害(躁うつ病)に用いられる治療薬の事で、気分の高揚を抑えたり、気分の落ち込みを持ち上げたりといった気分の波を抑える作用を持つお薬の事です。

気分安定薬にもいくつかの種類がありますが、気分の上がりを抑える作用(抗躁作用)に優れるもの、気分の落ち込みを持ち上げる作用(抗うつ作用)に優れるものなど、それぞれ特徴があります。そのため患者さんの症状に応じて最適なお薬を選んでいく必要があります。

リーマスは日本での発売は1980年ですが、実は1800年の終わり頃より気分に対する作用は報告されており、精神科のお薬の中でも最も古いお薬になります。古いお薬であるため副作用に注意しなくてはいけませんが、リーマスは現在においても気分の波を抑える作用に優れるお薬であるため、双極性障害の主要な治療薬として用いられています。

ここではリーマスの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているお薬なのかを紹介していきます。

1.リーマスの特徴

まずはリーマスの特徴について挙げてみます。

リーマスは、気分安定薬の中でも抗躁作用・抗うつ作用のどちらも持つお薬になります。また将来の異常な気分の波の再発を抑える作用もあります。

双極性障害の治療薬に求められる作用は主に3つあります。それは

  • 躁状態を改善させる作用
  • うつ状態を改善させる作用
  • 将来の異常な気分の波の再発を抑える作用

です。

リーマスはこの3つの作用をすべて持っている万能選手だと言えます。

しかし抗躁作用の方が強く、主に躁を抑える目的での使用が多くなっています。気分安定薬の中でも抗躁作用・抗うつ作用の両者を持つため、リーマスは現在でも双極性障害に対する主力選手として活躍しています。また、恐らく衝動性を抑える作用があり、これによって精神疾患で一番怖い症状である「自殺」を予防する効果も認められています。

デメリットとしては副作用に注意が必要なお薬である事が挙げられます。リーマスの主成分は「炭酸リチウム」というリチウム製剤になりますが、リチウムは身体に蓄積しすぎるとリチウム中毒を引き起こしてしまうのです。

リーマスは治療域(治療のために最適な濃度)と中毒域(リチウム中毒になってしまう濃度)が近いお薬であるため、服薬中は定期的に血中濃度を測定し、リチウム中毒に至らないように気を付けなくてはいけません。

リチウム中毒では、

  • 意識障害・振戦(ふるえ)・傾眠・錯乱などの中枢神経系症状
  • 血圧低下・不整脈などの循環器系症状
  • 嘔吐、下痢などの消化器系症状
  • 運動障害・運動失調などの運動機能障害
  • 発汗・発熱などの全身症状

などが生じ、最悪のケースでは命に関わることもあるため決して軽視できない副作用です。

専門家である医師の指導下で服薬をしているのであれば、リチウム中毒となる事はあまりありませんが、可能性はゼロではありませんめ十分、注意して服薬する必要があります。

またリーマスには催奇形性(奇形児が生まれるリスクが増える)があるため、妊婦への投与は認められておらず、これも注意すべき点になります。双極性障害で治療中の女性が妊娠を予定する場合は、リーマスは原則として中止しなければいけません。

作用機序が未だに明確に解明されていないのもデメリットでしょう。リーマスは不思議なお薬で1900年頃から気分安定作用は報告されており、長い歴史から「間違いなく双極性障害に効果があるお薬」と自信を持って言えるものですが、ではどうやって効いているのかというと未だよく分かっていないのです。

以上から、リーマスの特徴として次のような事が挙げられます。

【良い特徴】

  • しっかりとした気分安定作用があり、抗躁作用・抗うつ作用どちらも有する
  • 特に抗躁作用がしっかりとしている
  • 再発予防効果もある
  • 衝動性を抑えることにより自殺リスクを低下させる

【悪い特徴】

  • リチウム中毒の危険があるため、定期的に血液検査を行う必要がある
  • 作用機序が未だ明確に分かっていない
  • 催奇形性がある

2.リーマスの作用機序

リチウムは、主に双極性障害(躁うつ病)の治療薬として用いられます。躁状態をおさえる効果が中心になりますが、うつ状態を改善させる力もあり、「気分の波全体を抑える」お薬として重要な役割を担っています。

ではリチウムはどのような機序によって気分の波を改善させているのでしょうか。

リチウムは1800年台終盤に精神への作用があることが確認され、以降双極性障害を中心に現在でも多く用いられています。しかしこれだけの長い歴史がありながらも、その作用機序というのはよく分かっていません。

もちろん機序が全く分からないわけではなく、いくつかの作用機序の仮説は提唱されています。

リチウムには神経保護作用があり、これによって気分の波を取るのではないかという説があります。実際、リチウムは神経細胞を保護し、細胞死が起こるのを防ぐという研究報告や、リチウムによって脳の体積が増えるという報告もあります。

また、リチウムにはIMPase(イノシトールモノフォスファターゼ)という酵素をブロックするはたらきがあり、これが気分の波を抑えるはたらきをしているのではないかとも考えられています。IMPaseをリチウムがブロックすると、イノシトールという物質が少なくなります。これによって細胞内の情報伝達を抑えるために薬効が現れるのではないかと推測されています。

またリチウムはGSK-3β(グリコーゲン合成酵素キナーゼ3)にも関係しており、これが精神的な作用をもたらしているのではないかと考える研究者もいます。この仮説から、近年エブセレンという物質が見出され、リチウムと同様の精神作用があるのかの研究も進められています。

3.リーマスの適応疾患

添付文書にはリーマスの適応疾患として、

躁病および躁うつ病の躁状態

が挙げられています。

臨床現場でも主な用途は添付文書の通り双極性障害(躁うつ病)です。しかし抗躁作用だけでなく、抗うつ作用も狙って処方されることも少なくありません。

双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す疾患です。気分が高揚し、「自分は何でもできる!」「やる気がみなぎって仕方がない」」などといった躁状態が印象に強く残る疾患ですが、実は患者さんが苦しい思いをするのはうつ状態の方が多いのです。実際、経過の中で躁状態はわずかであり、うつ状態が経過中の7~8割を占めると言われています。

そのため、気分安定薬は抗躁作用だけでなく、抗うつ作用も有していると患者さんにとってはありがたいものとなります。。

リーマスはしっかりとした抗躁作用だけでなく、ある程度の抗うつ作用も有しているため、双極性障害の症状に幅広く効果を示すことが特徴です。

また適応外の使い方ではありますが、難治性のうつ病に対して使用されることもあります。リーマスの抗うつ作用を狙って、抗うつ剤に少量のリーマスを併用するという使い方です。これを増強療法(Augumentation)と呼びます。

4.リーマスの歴史

リーマスの効果とはあまり関係のない話になりますが、実はリーマス(炭酸リチウム)というのは一番最初に発見された向精神薬(精神に作用するお薬)だと言われています。

向精神薬というと、抗うつ剤や抗精神病薬(統合失調症の治療薬)、抗不安薬や睡眠薬がありますが、これらが実際に医療現場で使われるようになったのは1900年代に入ってからです。

対してリチウムは1886年に初めててうつ病に対する効果が報告されており、1950年代には躁病に対しての効果が発見されました。

更にリチウムのすごいところは、これだけ昔に発見された薬なのにも関わらず、現在でも双極性障害(躁うつ病)の主役選手として活躍しているところです。昔の抗精神病薬である第一世代(定型)抗精神病薬、三環系抗うつ剤、バルビツール酸系睡眠薬などは、今では難治性の疾患にしか用いられることはなくなり、主役ではなくなっています。

これらのお薬と比較すると、リーマスというのは今でも現役選手です。リーマスの発見がいかに画期的であったかが分かります。

ちなみにリーマスは、今でも作用機序が解明されていません。なのに、なぜ双極性障害に効果があると分かったのでしょうか。

実はこれは偶然の発見になります。

リチウムの効果を始めて報告したのは、ランゲというデンマークの精神科医です。

当時は「尿酸体質」という考えがあり、多くの疾患は尿酸体質が原因で生じると考えられていました。うつ病も脳の尿酸の過剰ではないかと考えたランゲは、脳内の尿酸を減らすために尿酸リチウムを用いようと考えたのです。するとその結果、リチウムがうつ病に効果があることが確認されました。

当時はこの報告はあまり注目されずに埋もれてしまいましたが、その後にオーストラリアの精神科医であるケイドが、同じように尿酸リチウムを動物実験に用いたところ、鎮静作用があることを発見し、躁病に対する効果があることを報告しました。これを機に、リチウムが双極性障害に効果があることが注目されはじめ、様々な研究が行われるようになったのです。

5.リーマスが向いている人は?

リーマスの特徴をもう一度みてみましょう。

  • しっかりとした気分安定作用があり、抗躁作用・抗うつ作用どちらも有する
  • 特に抗躁作用がしっかりとしている
  • 再発予防効果もある
  • 衝動性を抑えることにより自殺リスクを低下させる
  • リチウム中毒の危険があるため、定期的に検査を行う必要がある
  • 作用機序が未だ明確に分かっていない
  • 催奇形性がある

ということが挙げらました。

古いお薬であり、副作用の多さもありますので注意して使うべきお薬ですが、現在においても双極性障害に対する有効性は高いお薬であり、よく用いられています。

双極性障害における第一選択薬として位置づけているガイドラインもあり、双極性障害の診断を受けた方であればまずは検討すべき治療薬の一つになります。

リーマスを使うに当たって一番重要なことは、リチウム中毒を起こさないことに尽きます。リーマスは治療域と中毒域が近いお薬であるため、主治医の指示に従わない飲み方をすることが多かったり、衝動的に過量服薬するリスクが高い方には向かないお薬です。

またリーマスの血中濃度を不安定にしやすいお薬を服薬する可能性が高い方も、リーマスはあまり向かないこともあります(主治医に確認してください)。

例えば、

  • 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
  • 利尿剤
  • 降圧剤(ACE阻害薬、ARBなど)

などはリーマスの血中濃度を上げてしまうことがあると報告されていますので、リーマスとの併用は主治医とよく相談しなくてはいけません。

更に、

  • 脱水
  • 腎機能障害
  • 60歳以上の高齢者

などでは血中リチウム濃度が上昇しやすいため、このような状態の方もリーマスの使用は特に注意しなければいけません。特に夏場はしっかりと水分を取るようにし、脱水からリチウム中毒に至らないようにしましょう。