レボトミン錠の効果【医師が教える抗精神病薬の全て】

レボトミン(一般名:レボメプロマジン)は1963年から発売されている抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。

抗精神病薬には古い第1世代と比較的新しい第2世代があり、レボトミンは第1世代に属します。新しい第2世代の方が安全性は高く、現在では第2世代を使うことがほとんどですので、今ではレボトミンを使用する頻度は多くはありません。

とはいえレボトミンは、その催眠作用(眠らせる作用)の強さに定評があり、現在でも不眠症状・興奮症状を中心に時々使われることがあります。

古いお薬であるため副作用に注意しなくてはいけませんが、レボトミンは統合失調症をはじめとした精神疾患の治療に大きく貢献してきたお薬です。

ここではレボトミンの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているお薬なのかを紹介していきます。

なおレボトミンは、「ヒルナミン」という抗精神病薬と同じ成分のお薬になります。発売している会社が異なるだけで主成分はどちらも全く同じです。

1.レボトミンの特徴

まずはレボトミンの特徴について挙げてみます。

レボトミンの特徴は、催眠作用(眠りに導く作用)や鎮静作用に優れることです。

レボトミンは抗精神病薬に属しますが、抗精神病薬はどれも脳のドーパミンのはたらきをブロックする作用を持っています。これは、統合失調症は脳のドーパミンのはたらきが過剰になってしまっていることが一因だと考えられているからです(ドーパミン仮説)。

レボトミンももちろん、脳のドーパミンのはたらきをブロックするはたらきがあります。しかしレボトミンはそれ以外にも様々な受容体をブロックする事が知られています。単純にドーパミンをブロックする作用だけを見れば決して強くはないのですが、脳を鎮静させる多くの受容体に作用するため、催眠作用・鎮静作用は強力なものになります。

例えば、

  • 覚醒に関係しているヒスタミンをブロックする作用
  • 血圧や意欲に関係しているノルアドレナリンをブロックする作用
  • セロトニンをブロックする作用

があり、これらがレボトミンの強い催眠・鎮静作用の理由です。特にノルアドレナリンをブロックする作用は抗精神病薬の中では珍しく、レボトミンが他の抗精神病薬よりも強い催眠・鎮静を有するのは、このノルアドレナリンの影響もあるのでしょう。

またこれ以外にもセロトニンへの作用も関係していると考えられています。具体的にはセロトニン受容体のうち、セロトニン2A受容体と2C受容体がブロックされるとレム睡眠と徐波睡眠(深い眠り)が増えることが知られています

そのためレボトミンは脳が過活動になっていて鎮静が必要な状態に用いられます。具体的には、

  • 統合失調症の興奮
  • 双極性障害の躁状態
  • うつ病における焦り
  • 不眠

などです。

一方で、このようにたくさんの受容体に作用することは、余計な副作用が出やすいという事でもありますので注意も必要です。

レボトミンと同じく第1世代の抗精神病薬に属する有名なお薬に「セレネース(商品名:ハロペリドール)」があります。セレネースはレボトミンと異なり、ドーパミンのみをピンポイントで狙うお薬です。セレネースはドーパミン以外には作用しにくいため、ドーパミン系の副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症など)は多いものの、それ以外の副作用は比較的生じにくいという特徴があります。反対にレボトミンはドーパミン系の副作用は比較的少ないものの、それ以外の副作用が多くなります。どちらも一長一短あるため、症状によって使い分けられます(しかしどちらも第1世代ですので、第2世代と比べると副作用は多めです)。

【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンが少なくなりすぎる事で、ふるえやしびれ、手足が勝手に動いてしまうなどの神経症状が生じる。

【高プロラクチン血症】
ドーパミンが少なくなることで本来乳汁を出すホルモンであるプロラクチンが増えてしまい、胸の張りや乳汁分泌が生じてしまう副作用。プロラクチン高値が続くと、乳がんや骨粗しょう症なども発症しやすくなる。

レボトミンの副作用で多いのは、過剰な催眠・鎮静をしてしまう事です。これによる日中のふらつき、転倒、倦怠感などが生じ、患者さんを苦しめてしまうことがあります。また多くの受容体に作用するため、食欲増加、抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉など)や血圧低下なども生じる可能性があります。しかしドーパミンだけを狙うお薬ではないため、セレネースようなお薬と比べると、ドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用は少なくなっています。

レボトミンのような第1世代の抗精神病薬は古いお薬であり、時に重篤な副作用を起こすリスクがある事も忘れてはいけません。重篤な不整脈(心室細動、心室頻拍など)や悪性症候群、麻痺性イレウスなど、命に関わるような副作用が生じることがあり、これが第1世代があまり使われなくなってきた一番の理由になります。

第1世代抗精神病薬であるレボトミンは、現在ではその副作用の問題から処方される頻度は少なくなっています。第2世代で似たような作用を持つものには、ジプレキサ(オランザピン)やセロクエル(クエチアピン)などのMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)があり、現在ではレボトミンの適応となるような症例では、まずはMARTAなどが用いられることが一般的です。

以上から、レボトミンの特徴として次のような事が挙げられます。

【良い特徴】

  • 特に鎮静作用・催眠作用に非常に優れる
  • 統合失調症の幻覚・妄想などの症状のみならず、様々な症状に幅広く効果を示す

【悪い特徴】

  • 過鎮静・日中の傾眠などの副作用が生じやすい
  • 体重増加、抗コリン作用、血圧低下などの作用が生じることがある
  • 第1世代であるため、重篤な不整脈や悪性症候群など命に関わる副作用も起こり得る
  • 副作用が多い第1世代であるため、現在ではあまり用いられない

2.レボトミンの作用機序

抗精神病薬はドーパミンのはたらきをブロックするのが主なはたらきです。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されて起こるという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを抑える作用を持ちます。

レボトミンは抗精神病薬の中でも、「フェノチアジン系」という種類に属します。

フェノチアジン系には、レボトミン(レボメプロマジン)以外にも、

  • コントミン(一般名:クロルプロマジン)
  • ヒルナミン(一般名;レボメプロマジン)
  • ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
  • フルメジン(一般名:フルフェナジン)
  • ピーゼットシー(一般名:ペルフェナジン)

などがあります。

ちなみに「ヒルナミン」はレボトミンと同じ主成分のお薬になります。発売している会社が違うことと添加物が多少違うだけで、効果・効能もほとんど一緒です。

フェノチアジン系は全体的に、様々な受容体に作用して特に鎮静力に優れるという特徴があります。そのため、統合失調症の治療薬として用いられる他、興奮症状の鎮静や不眠の改善などに用いられることもあります。しかし多くの受容体に作用するという事は、多くの余計な作用が出やすいという事でもあり、眠気やふらつきや抗コリン症状(口渇・便秘・尿閉など)、体重増加、血圧低下などの副作用が時に問題となります。

フェノチアジン系の中でもレボトミンは、特に「催眠作用」「鎮静作用」が優れるため、急性期の興奮状態がひどい方や、不眠の改善がなかなか得られない方などに用いられることがあります(とはいっても古い第1世代ですので、使われる頻度は減ってきてはいます)。

レボトミンは脳においてドーパミン以外にも、

  • ヒスタミン
  • ノルアドレナリン
  • アドレナリン
  • セロトニン

などに作用し、上記の作用を発揮します。特にノルアドレナリンをブロックする作用に優れ、これにより高い鎮静作用を発揮すると考えられています。

またレボトミンには「制吐作用(吐き気を抑える)」もあることが知られていますが、実はこれもドーパミンをブロックする作用によるものです。脳の延髄には「化学受容体引き金帯(Chemoreceptor Trigger Zone:CTZ)」という部位があり、ここのドーパミン受容体がブロックされると制吐作用が得られるのです。

ちなみにレボトミンのような第1世代抗精神病薬は統合失調症の陽性症状には非常に有効ですが、陰性症状や認知機能障害はむしろ悪化させてしまうリスクもあると言われています(特に高用量を使用している場合)。

【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。

【陰性症状】
本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下しこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。

【認知機能障害】
認知(自分の外の物事を認識すること)に関係する能力に障害を来たすことで、情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認めること。

そのため近年ではレボトミンはあまり用いられておらず、レボトミンを用いるような症例に対しては、第2世代抗精神病薬が用いられます。第2世代の中でも特にMARTAという種類の抗精神病薬がレボトミンと比較的作用が似ているため、用いられます。

MARTA(Multi Acting Receptor Targeted Antipsychotics:多元受容体作用抗精神病薬) は、1990年頃より発売され始めた比較的新しいお薬で、その名の通り多くの受容体を遮断する作用に優れるお薬のことです。

具体的には、

  • ジプレキサ(一般名:オランザピン)
  • セロクエル(一般名:クエチアピン)
  • クロザピン(一般名:クロザリル)

などがあります。

MARTAとフェノチアジン系はまったく同じ作用機序を持つお薬ではありませんが、共に多くの受容体をブロックする作用に優れ、鎮静力があるという点では似た特徴を持っています。更にフェノチアジン系と比べたMARTAの利点として

  • 全体的に副作用が少ない
  • 命の関わるような重篤な副作用が少ない
  • 陰性症状にも効果が期待できる

というメリットがあります。そのため、現在ではまずはMARTAを用いることが多くなっており、レボトミンなどの第1世代が検討されるのは、第2世代では効果が不十分な場合など、やむを得ないケースに限られます。

3.レボトミンの適応疾患

添付文書にはレボトミンの適応疾患として、

・統合失調症
・躁病
・うつ病における不安・緊張

が挙げられています。

現在の臨床現場での主な用途は急性期で興奮が強い統合失調症や躁病の改善に用いられるほか、うつ病などにおける強い不眠・焦りに対して用いられることもあります。

しかし前述の通り、現在では第1選択として用いられるお薬ではありません。

4.抗精神病薬の中でのレボトミンの位置づけ

抗精神病薬には多くの種類があります。その中でレボトミンはどのような位置づけになっているのでしょうか。

まず、抗精神病薬は大きく「第1世代」と「第2世代」に分けることができます。第1世代というのは定型とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。第2世代というのは非定型とも呼ばれており、比較的最近の抗精神病薬を指します。

第1世代として代表的なものは、セレネース(一般名:ハロペリドール)やコントミン(一般名:クロルプロマジン)などです。レボトミン(一般名:レボメプロマジン)もここに属します。これらは1950年代頃から使われている古いお薬で、強力な効果を持ちますが、副作用も強力だという難点があります。

特に錐体外路症状と呼ばれる神経症状の出現頻度が多く、これは当時問題となっていました。また、悪性症候群や重篤な不整脈など命に関わる副作用が起こってしまうこともありました。

そこで、副作用の改善を目的に開発されたのが第2世代です。第2世代は第1世代と同程度の効果を保ちながら、標的部位への精度を高めることで副作用が少なくなっているという利点があります。また、ドーパミン以外の受容体にも作用することで、陰性症状や認知機能障害の改善効果も期待できます。

第2世代として代表的なものが、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)であるリスパダール(一般名:リスペリドン)やMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれるジプレキサ(一般名:オランザピン)、DSS(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などです。

現在では、まずは副作用の少ない第2世代から使用することがほとんどであり、第1世代を使う頻度は少なくなっています。第1世代が使われるのは、第2世代がどうしても効かないなど、やむをえないケースに限られます。

レボトミンの抗精神病薬の中での位置づけは、

  • 鎮静作用・催眠作用が強力
  • でも副作用の多さから、現在では最初から使う事はないお薬

といったところです。

かんたんに言えば「昔のお薬」であり、現在では「今のお薬が効かない場合に限って使用を検討されるお薬」という位置づけになります。

5.レボトミンの使い方

レボトミンはどのように使うのでしょうか。レボトミンの使用方法は、

通常、成人には1日25~200mg を分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

と記載されています。

効きには個人差もありますが、一般的には催眠作用・鎮静作用が強いお薬ですので、最初から100mgなどの高用量は使わないようにしましょう。人によっては5mgで眠気を感じる方もいますので、心配であれば5mgなどの少量から開始しても良いと思います(レボトミンは5mg錠もあります)。

また1日を通してこ興奮や焦燥(焦り)を抑えたいのであれば、1日2~3回に分けて服薬しますが、不眠に対して用いるのであれば1日1回就寝前に服薬するのでも構いません。

レボトミンは、服薬してから1~4時間ほどで血中濃度が最大となり、半減期は15~30時間ほどと報告されています。半減期とは、そのお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間を見る1つの目安になります(半減期だけで作用時間が決まるわけではありませんので、あくまでも目安の1つに過ぎません)。

服薬を定期的に続けた場合、血中濃度は4~7日で安定(定常状態に達する)し、効果が最大になるまでは6週間から6か月ほどと報告されていますが、実際の臨床の実感としては、数週間で効果は最大になるようにも感じます。

レボトミンはCYP2D6という酵素で代謝(≒分解)されます。精神科のお薬はCYP2D6で代謝されるものが少なくありませんが、このCYP2D6という酵素は遺伝子多型があることが知られています。遺伝子多型というのは、人によってこの酵素の作りが異なることが多いということで、分かりやすく言えば「この酵素の強さは個人差が大きい」ということです。

これはつまり、CYP2D6で代謝されるお薬は、効果の個人差が比較的大きいという事になります。その意味ではレボトミンは効きに個人差があるお薬だともいえるでしょう。

6.レボトミンが向いている人は?

レボトミンの特徴をもう一度みてみましょう。

  • 特に鎮静作用・催眠作用に非常に優れる
  • 過鎮静・日中の傾眠などの副作用が生じやす
  • 体重増加、抗コリン作用、血圧低下などの作用が生じることがある
  • 第1世代であるため、重篤な不整脈や悪性症候群など命に関わる副作用も起こり得る
  • 副作用が多い第1世代であるため、現在ではあまり用いられない

といった特徴を持つことが挙げらました。

レボトミンは古い第1世代に属するお薬ですので、現在では最初から使われる事はありません。

レボトミンを使うのは、鎮静・催眠作用が必要なケースで、

  • 第2世代がどうしても使えないケース
  • 第2世代では効果が不十分なケース

などに限られるでしょう。

昔であればレボトミンの使用を検討された症例は、現在ではまずは作用機序が比較的似ているMARTA(セロクエル、ジプレキサなど)が検討されます。