インチュニブ(一般名:グアンファシン塩酸塩徐放錠)は2017年から発売されているADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬です。
インチュニブはADHDの中核症状である、
- 不注意(ミスが多い)
- 多動性(落ち着きがない)
- 衝動性(待てない)
といった症状を幅広く改善させる効果があります。
またインチュニブは安全性も高く、耐性や依存性といった副作用は生じません。しかし副作用が全くないという事はなく、注意すべき副作用はあります。
どんなお薬にも注意すべき副作用はあり、それをしっかりと理解した上で服用することが大切です。あらかじめ出現しうる副作用を知っておけば不安も軽減できるし、前もって対策も取ることが出来るからです。
ここではインチュニブで生じやすい副作用とその対処法についてお話しさせていただきます。
1.インチュニブの副作用の特徴
副作用の無いお薬はありません。どんなお薬にも副作用はあります。
お薬の服薬を検討する上で大切なことは、ただ漠然と副作用を怖がるのではなく、そのお薬のメリット(効果)とデメリット(副作用)の両方をしっかりと理解することです。その上で自分にとってそのお薬が必要なのかを総合的に判断していくべきです。
本当はお薬が必要な状態なのに副作用が怖いからとお薬を使わずにいると、病気が慢性化したり悪化してしまうこともあります。これではお薬の副作用は避けられたかもしれませんが、病気の症状に苦しむことになってしまいます。
インチュニブの服用を検討している方でもこれは同じです。ただ副作用について怖がるのではなく、お薬によって得られるメリット(効果)とデメリット(副作用)をしっかりと見極め、服用すべきかを判断しましょう。
インチュニブはADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬として用いられるお薬です。
ADHDには、
- 不注意症状・・・ミスが多い、集中できないなど
- 多動性症状・・・落ち着きがない
- 衝動性・・・我慢できない、待てない、割り込んでしまう
などの症状があり、これは生まれつきの脳の微細な機能異常によって脳の神経の情報伝達がスムーズに行われないために生じると考えられています。
神経間の情報伝達は「神経伝達物質」と呼ばれる物質が行っています。神経伝達物質にはノルアドレナリンやドーパミンなどがあり、これらの物質の分泌が低下する事もADHDの一因になります。
そのためADHDの治療薬は、脳のドーパミンやノルアドレナリンを増やすお薬や神経の流れを改善させるお薬が使われます。
ADHDの治療薬は現時点では2種類に分けられます。
1つ目は古くから使われている「中枢神経刺激薬」です。これは文字通り脳(中枢神経)を刺激することによって脳の覚醒度を上げるお薬です。具体的には脳のドーパミンを増やすことで、注意力や実行機能、衝動性の抑制などを改善させ、ADHDの症状を改善させます。
中枢神経刺激薬は脳のドーパミンをしっかりと増やすため、しっかりとした効果が期待できます。しかしドーパミンは依存性に関係する物質であるため、中枢神経刺激薬は依存性や乱用につながるリスクもあるお薬になります。またドーパミンを増やす作用が強いため、吐き気・睡眠障害などといった副作用も比較的多く認められます。
中枢神経刺激薬にはコンサータ(一般名:メチルフェニデート)などがあります。
そして2つ目が非中枢神経刺激薬です。非中枢神経刺激薬はストラテラ(一般名:アトモキセチン)とインチュニブがあります。
ストラテラは脳のノルアドレナリンを増やすことでADHDの症状を改善させます。また前頭葉においては脳のドーパミンを増やす作用も確認されています。
インチュニブは脳のアドレナリン2A受容体を刺激する事で神経の流れを改善させます。
同じ非中枢神経刺激薬でもストラテラとインチュニブはこのように作用機序は全く異なります。
非中枢神経刺激薬は効果の強さとしては中枢神経刺激薬よりは劣ります。しかし依存性が生じないため乱用などのリスクも少なく安全性には優れます。
簡単に言えば、ADHDの治療薬は、
- 効果も強いが副作用リスクもある中枢神経刺激薬(コンサータ)
- 効果は穏やかだが安全性が高い非中枢神経刺激薬(ストラテラ、インチュニブ)
の2種類があるということです。
ADHD治療薬の中でのインチュニブの最大の特徴は、中枢神経刺激薬と異なり、
- 耐性
- 依存性
がないという点です。ADHDの治療薬は長期間に渡って服用する事がほとんどですが、インチュニブは長期間の服用であっても比較的安全に用いることが出来ます。
ちなみに耐性とは、お薬を使い続けていると次第に身体がお薬に慣れてしまい、効きが悪くなってくることです。依存性というのは、お薬を使い続けていることで心身が次第にそのお薬に頼りきってしまうようになり、お薬を止められなくなってしまうことです。
耐性や依存性が出来てしまうと、お薬がだんだん効きにくくなるため服用量がどんどんと増えてしまいます。更にお薬がなくなると落ち着かなくなったり、震えや頭痛、しびれなどといった身体症状が出現してしまうようになるため、お薬を手放せなくなってしまいます。
このようなリスクがないのはインチュニブの良い点です。
一方でインチュニブのデメリットとしては、心血管系の副作用が多い点が挙げられます。インチュニブが作用する部位であるアドレナリン2A受容体は、血圧や脈拍を下げる作用もあります。
実際アドレナリン2A受容体刺激薬は、以前は降圧剤(血圧を下げるお薬)として使われていた事もあるほどです。そのためアドレナリン2A受容体を刺激するインチュニブでは血圧低下や脈拍数低下の副作用が生じやすくなってしまうのです。
その他の副作用としては、
- 傾眠
- 頭痛
- 失神
- 房室ブロック
- 腹痛
- 倦怠感
などが報告されています。
これらの多くはインチュニブがアドレナリン2A受容体を刺激する事で血圧を下がったり脈拍が落ちる事で生じます。
血圧が下がれば眠気や倦怠感が生じます。血圧低下が急激に生じれば頭痛が生じる事があります。また血圧が大きく下がれば失神してしまう事もあります。
房室ブロックは不整脈の1つですが、インチュニブがアドレナリン2A受容体を刺激する事で心拍に変化を与えるために生じる副作用です。
副作用は、特に投与初期に認められやすい傾向があり、薬を続けていくと次第に軽減していく事もあります。
2.インチュニブの各副作用について
それではインチュニブで注意すべき副作用や一般的な対処法を紹介していきます。なおここで挙げる対処法はあくまでも一般的なものですので、独断で行うのは危険です。
必ず処方してくれた主治医と相談しながら行うようにしてください。
Ⅰ.血圧低下
インチュニブは血圧を下げてしまう事があります。そのため元々血圧が低めの方は注意が必要になります。
インチュニブはアドレナリン2A受容体を刺激しますが、アドレナリン2A受容体はノルアドレナリンの放出を抑える事で血圧を下げるはたらきもあります。
このような副作用は特に服用初期に生じやすく、また急激にお薬を増やすと起きやすい事が分かっています。
そのため、血圧低下の副作用を生じさせないためにはなるべくゆっくりと少しずつお薬を増やしていく事が大切です。またインチュニブを服用したばかりの期間は、定期的に血圧計で血圧や脈拍を計測し、大きな低下がないかを確認する事も大切です。
インチュニブは開始用量や維持用量、最高用量が体重別に細かく決まっており、少しずつ増やすように設定されているお薬ですが、このような細かい設定は血圧低下などの副作用をなるべく起こさないためでもあるのです。
血圧低下が急激・強く生じると、頭痛や眠気、倦怠感が生じたり意識消失(失神)する事もあります。
血圧低下が生じてもインチュニブの服用を継続するメリットが高いと判断された場合、しばらく様子をみる事もあります。血圧低下は服用初期に生じやすいのですが、お薬に身体が慣れる事で少しずつ軽減してくる事もあるためです。
自然と消失しない場合は、血圧を上げるお薬(昇圧剤)を併用する事もあります。ただしお薬の副作用をお薬で解決するというのは、あまり健全な方法ではないため、このような方法はインチュニブの必要性が高い場合に限られます。
Ⅱ.徐脈、房室ブロック
インチュニブはアドレナリン2A受容体を刺激する事で、心拍数を下げてしまう作用もあります。
これにより徐脈(脈拍が遅くなる事)、房室ブロック(徐脈性の不整脈)が生じる事があります。
この副作用も特に服用初期に生じやすく、また急激にお薬を増やすと起きやすい事が分かっているため、インチュニブは少しずつ慎重に増やしていく事が推奨されます。
脈拍低下も、生活に問題のない程度であればそのまま様子を見て構いませんが、程度が重く失神や転倒のリスクになりそうであれば、インチュニブも減量あるいは中止する必要もあります。
このような場合は、ストラテラなど異なるADHD治療薬を検討するのも手になります。
3.インチュニブの禁忌
インチュニブの副作用について説明してきました。
このような副作用があることから、インチュニブは使ってはいけない方がいます。
インチュニブが禁忌(絶対に使ってはダメ)という方はどのような方なのかを紹介します。
Ⅰ.妊婦、妊娠している可能性のある方
インチュニブは、妊婦さんや妊娠している可能性のある方は服用してはいけません。
その理由は、妊婦さんが服用するとお腹の中の赤ちゃん(胎児)に悪影響をきたす可能性があるためです。
マウスを用いた動物実験において、大量のインチュニブを妊娠マウスに投与したところ、児の催奇形性(奇形が生じる率が上がる事)が確認されました。
児に外脳症や脊椎破裂症などが生じたという報告があり、マウスと同様ヒトでも悪影響をきたす可能性を考え、妊婦さんには投与できない事となっています。
Ⅱ.房室ブロック(Ⅱ度、Ⅲ度)
房室ブロックとは、心臓内での電気の流れが悪くなってしまう不整脈で、徐脈(脈拍が遅くなる事)性の不整脈になります。
房室ブロックは重症度によってⅠ度~Ⅲ度まであります(Ⅰ度がもっとも軽く、Ⅲ度が重度です)。
一部のⅡ度とⅢ度は、失神のリスクも高いため、ペースメーカー植え込みの適応になる徐脈性不整脈です。
インチュニブはその作用機序から脈拍を低下させてしまう可能性があります。房室ブロックの方はただでさえ徐脈になりやすいので、そこに更にインチュニブを投与してしまうと失神のリスクが高まり危険です。
そのため、Ⅱ度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックの方はインチュニブも投与してはいけない事となっています。
この状態の時に更にインチュニブでノルアドレナリンを増やしてしまうと、更に血圧が上がってしまい危険です。そのため、褐色細胞腫の方にはインチュニブの使用は禁忌になっています。
4.インチュニブ取り扱いの注意点
副作用ではないのですが、インチュニブは服用に当たって注意点があります。
インチュニブは徐放性剤という剤型になります。これは錠剤に工夫が施されており、体内でゆっくり溶ける事でゆっくり長く効果が続くように設計された剤型になります。
このような工夫が施されているため、インチュニブは服用の際にかみ砕いてはいけません。かみ砕くとせっかくゆっくり溶けるように工夫されている設計が壊れてしまいます。すると本来の効き方をしなくなるため、効果も持続せず、副作用も生じやすくなってしまいます。
必ず錠剤をかみ砕かずにそのまま飲み込むようにしましょう。