心気症とはどのような疾患なのか

心気症とは

心気症は、自分の健康状態に対する不安から、些細な症状をきっかけに「自分は重大な病気にかかっているに違いない」という思いにとらわれてしまう疾患です。「病気不安症」とも呼ばれます。

心気症の方は病気に対する不安が高まりすぎており、病院を受診して医師から「特に異常はありません」と診断を受けても安心できません。「検査では検出できない異常なのだ」「医師が誤診しているのかもしれない」と考えてしまい、「自分は重大な病気にかかっている」という不安は続きます。

このような傾向から、心気症の方はしばしばあちこちの病院を頻回に受診するようになります。しかしどこを受診しても「異常なし」の結果しかもらえないため不安はいつまでも続きます。

心気症の方は自分の事を心の病気だとは考えていません。身体の病気だと考えるため、自ら精神科や心療内科を受診する事はほとんどなく、適切な治療が行われていない事が少なくありません。

今日は心気症という疾患がどのような病気なのか、そしてどのような原因で発症して、どのように治療していくべきなのかについて紹介していきます。

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1.心気症とはどのような疾患なのか

心気症はどのような疾患なのでしょうか。

心気症は、身体に生じる些細な症状に対して「重篤な病気にかかっているのかもしれない」と誤った認識をしてしまい、その不安にとらわれてしまう疾患です。

何らかの身体の異常を感じれば、誰でも「何か重篤な病気だったらどうしよう・・・」と心配になるものです。これ自体は何もおかしい事ではありません。

しかし健常な人であれば、病院で医師にしっかりと診察・検査をしてもらい「異常ありませんよ」と診断を受ければ、「取り越し苦労だったかな」と一安心するものです。

しかし心気症の方ではそうはなりません。

心気症の方は「自分は重篤な病気である」という強い不安にとらわれており、いくら診察や検査で異常が見つからなくても、「でも実際に体調は優れないし、検査では見つからないタイプの病気なのかもしれない」「先生が病気を見逃しているのかもしれない」と考えてしまうのです。

このようなとらわれから、いくら病院で精密検査を続けても安心が得られません。「異常なし」と診断されれば今度は別の病院に行き、ドクターショッピングを繰り返し続けます。

心気症の方の根本にあるのは「病気への不安」です。「自分が重篤な病気だったらどうしよう」という不安が強まり過ぎてしまい、「自分は重篤な病気に違いない」という観念から離れられなくなってしまっているのです。

根本は「不安」にあるため、心気症では客観的に確認できるような身体症状はほとんど認めません。あったとしても極めて軽度です。

症状と特徴としては、

「何だか体調がすぐれない」
「身体がだるい」

などといった漠然とした訴えが多くを占めます。

胃痛や吐き気、胸痛、動悸といった症状を訴える事もありますが、実際に発熱したり、嘔吐したり、下痢があったり、不整脈が生じていたりといった客観的に確認できるような症状は認めないのが普通です。

病院受診や検査を繰り返しますが、実際には身体的な異常はないため、自分の納得できる結果を医師から伝えられる事はありません。

本人の要求通りに検査を行って、何も異常がない事を伝えても納得する事はないため堂々巡りとなってしまい、内科医も困ってしまう事が少なくありません。

2.心気症はどのような原因で発症するのか

心気症はどのような原因で発症するのでしょうか。

心気症は自分の健康への不安が高まりすぎてしまい、自分の身体に生じたわずかな症状を過大に認識してしまっている状態だと考えられます。

通常、体調に異常を感じても、病院で専門家である医師にしっかりと診てもらって「異常なし」と太鼓判をもらえば安心するものです。

しかし安心できない何らかの要因がある際に、心気症に至りやすいと考えられます。

臨床で心気症の患者さんをみていると、心気症を発症しやすい背景として、

  • 広範性発達障害(アスペルガー障害やADHDなど)
  • 神経質な性格(不安にとらわれやすい)
  • 不安障害、うつ病などの基礎疾患
  • 多忙であったり睡眠不足が続き、精神的に疲労している(冷静に判断できない)

などが挙げられます。

広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の方は、物事に対するこだわりやとらわれが強い事が多く、そのため何らかの契機に「自分は重篤な病気だ」と確信してしまうと、そのとらわれから逃れられなくなりがちです。

同じように神経質な性格傾向のある方も不安にとらわれやすく、「重篤な病気だったらどうしよう」という不安が生じると、不安が不安を呼び、どんどんと悪い方向へ考えてしまいます。

不安障害やうつ病といった精神疾患に罹患している方は精神エネルギーが低下しているため、何事もネガティブな方向に考えやすくなりがちです。些細な身体症状を「自分はもう助からない病気なのかもしれない」と考えてしまう事があります。

またそこまでいかなくても精神的に余裕がなくなるような生活習慣が続いている方(睡眠不足や過労など)も、気持ちの余裕のなさからネガティブな方向に考えがちです。

このような背景がある方は、心気症的な考えに至りやすい傾向があります。

またこれらの要因に加えて、次のような環境的な要因が重なると更に心気症が生じやすくなります。

  • 特定の疾患が世間や周囲で話題になっている
  • 身近な人が特定の疾患にかかった
  • 医師とのトラブルがあり医療不信になっている

例えばテレビに出ているような有名人が重篤な疾患に罹っている事というニュースがやっていて、自分にも似たような症状がたまたまあったりすると「もしかしたら自分もそうなのかもしれない」と考えてしまう事があります。

またニュースなどで「最近、梅毒が流行っています。梅毒の初期症状は〇〇で・・・、」などと報道されたりしても同様で、その時に似た症状を感じていると「自分ももしかしたら・・・」という考えに至ってしまう事があります。

あるいは身近な人の病気が原因となるケースもあります。自分の父親が肺がんで亡くなったというエピソードを持つ人が、血痰や咳などが続くと「もしかして自分も・・・」と考えてしまいやすくなります。

また以前に主治医に対して不信感を抱くような経験があった方は、医師の「異常ありません」の言葉を信用する事が出来ず、これによって心気的な考えになってしまう事もあります。

心気症は40台前後の中年層に多く生じる事が知られています。これはこのくらいの年齢の方が、ちょうど身体の不調を認め始めやすい年代だからです。

このように心気症の原因は1つではありません。性格的な要因や基礎疾患に環境的な要因が加わるといった複合的な原因によって発症していくと考えられています。

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3.心気症で認めやすい症状

心気症ではどのような症状が認められるのでしょうか。

心気症で訴える症状は非常に多岐にわたります。

しかし症状の特徴としては、

  • 漠然とした症状
  • 主観的な症状

が多くを占めます。

症状は主観的で、「何となく調子が悪い」「胃がムカムカする」「胸が刺されるような感じ」と客観的には確認できないような症状が多くを占めます。

実際に不整脈が生じていたり、吐いてしまったり、下痢を認めたりといった、客観的な症状は基本的には生じません。

症状が生じる部位として特に多いのは、

  • 胃腸(胃痛、吐き気、むかつきなど)
  • 心臓(胸痛、動悸など)

の2つです。

心気症は「ヒポコンドリー(Hypochondria)」とも呼ばれますが、これはギリシア語で「心窩部」という意味になります。

心窩部というのは「みぞおち」の事でちょうど心臓や胃がある位置です。はるか昔から心気症の方はこの部位に不調を特に感じやすいという事が知られていたのです。

また心気症の方は、症状に対する感覚が過敏になっている事が指摘されています。

例えば通常の方であれば「お腹が押される感じ」としか感じない刺激であっても、心気症の方には「腹痛」と感じられたりします。これは不安や神経質によって感覚が過敏となっているためだと考えられます。

4.心気症の診断基準とチェック法

どのような基準で心気症は診断されるのでしょうか。

心気症(病気不安症)の診断基準を見ながら、心気症のチェック方法について診ていきましょう。

【DSM-5 心気症(病気不安症)】

A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ

B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

D.その人は過度の健康関連行動を行う(例:病気の徴候が出ていないか繰り返し身体を調べ上げる)、または不適切な回避を示す(例:受診予約や病院を避ける)。

E.病気についてのとらわれは少なくとも6か月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

F.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または妄想性障害の身体型などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

このすべての項目を満たした時、心気症(病気不安症)と診断できます。

1つずつ詳しく見ていきましょう。

Ⅰ.重篤な病気であるというとらわれがある

A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ

心気症では「自分は重篤な病気にかかっている」というとらわれが存在します。この健康に対する不安が心気症の中核症状です。

Ⅱ.身体症状がほとんどない

B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

心気症では重篤な病気を心配しているわりに、認められる症状が軽微である事が特徴です。

本人はその症状を苦しそうに訴える事はありますが、少なくとも客観的に確認できる範囲では症状はほとんどないか、軽度になります。

Ⅲ.自身の健康に対する強い不安がある

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

心気症は「病気不安症」とも呼ばれるように、自分の健康状態に対する強い不安が背景にあります。

誰でも「病気になったらどうしよう」と不安は持っているものですが、一般的な程度から考えて、明らかにその程度が強い傾向にあります。

Ⅳ.重篤な疾患にかかっている事に対して過剰な行動を行う

D.その人は過度の健康関連行動を行う(例:病気の徴候が出ていないか繰り返し身体を調べ上げる)、または不適切な回避を示す(例:受診予約や病院を避ける)。

「自分は重篤な病気にかかっている」というとらわれのもと、明らかに過剰な行動(頻回の受診や検査など)を行います。

また反対に「自分は重篤な病気にかかっている」と不安にとらわれているのにも関わらず、医療をほとんど受けずに避けるタイプの心気症の方もいらっしゃいます。

Ⅴ.6か月以上続く

E.病気についてのとらわれは少なくとも6か月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

「重篤な病気に違いない」というとらわれは、一般的には6か月以上続きます。

なお、とらわれる症状や病気の内容は変化する事があります。例えば最初は「胃が痛いから胃癌に違いない」と訴えていたのに、途中から「やっぱりこれは心臓の痛みだ」となる事もあります。

Ⅵ.他の精神疾患ではない

F.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または妄想性障害の身体型などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

これは精神科の医師でないと確認できない項目ですが、心気症と似た他の精神疾患ではないという事を確認する必要があります。

5.心気症の治療法

心気症はどのように治療していけばいいのでしょうか。

まず心気症は、適切な治療に入るまでが難しい疾患であるという事を知っておく必要があります。むしろ適切な治療に入る事が出来たら治療は半分は成功したようなものです。

心気症は心の病気ですので、精神科的な治療(向精神薬の投与や精神療法)が必要になります。しかし当人は「自分は重篤な『身体の』病気にかかっている」と考えていますので内科的治療を求めており、精神科的な治療は求めていません。

つまり適切な治療を導入するためには、本人の認識を否定する(「身体の病気ではなくて心の病気なんだよ」と理解してもらう)必要があります。本人にこれを納得してもらわなければ適切な治療は導入できないわけです。

実はこれが非常に難しく、時間がかかるのです。

「自分は重篤な身体疾患にかかっているに違いない」というとらわれの中にいる方に対して、「いえいえ、あなたの症状の原因は精神なんですよ」という事を説明しても、すぐに納得してくれるはずがありません。

むしろ安易にそのような事を言えば「この医者は何をでたらめな事を言っているんだ」と怒ってしまい、別の病院に行ってしまったり、病院に来なくなってしまう事もあるでしょう。

かといって、本人の希望するままに内科的検査を行い続けても、いつまでも解決には至りません。

ではどうすればいいのでしょうか。

心気症を治療するためには、まずは最初は患者さんの訴えに応じた適切な内科的診察・治療を行う必要があります。

例えば動悸がするというのであれば胸部レントゲンや心電図で心臓の状態を診たりするという事です。

これは「実際に内科疾患がないかを確認する」という意味と、「患者さんの訴えをないがしろにしていない」という姿勢を治療者が見せる事で患者さんとの信頼関係を作っていくという意味があります。

「胃が痛い」と訴える患者さんが来た時、それが心気症なのか本当に胃に異常があるのかは最初は確実に見分ける事は出来ません。そのため、まず最初は内科的な原因がないかどうかをしっかりと確認する必要があるのです。

また患者さんが心配している部位をしっかりと検査する事で、「この先生はちゃんと私の話を聞いてくれる」と安心を与える事が出来ます。

適切な内科的診察・検査を行い、身体の異常がない事を確認できたら、その後は患者さんの希望通りに何度も何度も検査を行う必要はありません。もちろん必要に応じて検査をする事はありますが、検査で異常がなくても納得してくれないものである以上、検査をする意味は乏しいでしょう。

意味が乏しいだけならまだしも、検査は患者さんの身体に害を与えるものもあります。例えばレントゲンを必要以上に何度も取る事は放射線への被ばくという観点から見れば好ましいものではありません。血液検査も患者さんの身体を針で刺すという行為である以上、不必要に行うべきではないのです。

しかし患者さんの「健康に対する不安」や「身体に異変を感じている事」に対してはしっかりと向き合い、患者さんの話にはしっかりと耳を傾けなければいけません。

患者さんの検査の希望も説明なく断るのではなく、「検査をするメリット(原因が分かる可能性がある)とデメリット(検査による身体への害)を天秤にかけるとデメリットの方が大きいから私はしない方がいいと思う」と、患者さんの事を考えた上での判断である事をしっかり伝えていく事が大切です。

このような事を一定期間続けていく事で、患者さんとの信頼関係を築いていきます。

ある程度の信頼関係が築けたら、タイミングをみて患者さんに精神科的な治療アプローチを提案していかなければいけません。

ここはなかなか難しいところですが、「私はあなたを治したいと思っている」「だから私を信じて欲しい」と真剣に伝える事が重要です。

心気症の患者さんの「自分は重篤な病気に違いない」というとらわれは、訂正不能な妄想ではありません。

【妄想】
いくら説得しても訂正不能な非現実的でかたくなな考え。本来あるはずのない事をあると思う事。統合失調症などで認められる。

もし妄想であれば、これはいくら説得しても訂正は困難です。しかし心気症のとらわれは、非常に強いとらわれではありますが、絶対に訂正不可能なものではありません。しっかりと信頼関係を築いていけば、少しずつではあるものの訂正可能となりうるものなのです。

そのため時間をかけて信頼関係を築き、「この先生がここまで言ってくれるなら、先生が勧める治療法を一度受けてみよう」と思ってもらえる事が大切なのです。

実際に患者さんに同意を得られたら、どのような治療が行われるのかを紹介します。

Ⅰ.精神療法

心気症では、精神療法(カウンセリング)が重要になります。

精神療法で目的とするのは、自分の精神状態を客観的に理解できるようになる事です。

今の自分は「健康不安に対するとらわれ」に陥っている事のだという事に気付いてもらい、そこから脱却する考え方が出来るように少しずつ訓練していくということです。

精神療法では、どうしてこのような想いにとらわれてしまっているのかを客観的に見ていき、自分の思考のパターンを分析していきます。

自分の中で不安が生じ、その不安から冷静な判断が出来なくなっているという事を見つめなおし、少しずつ冷静で客観的な考えを取り入れていきます。

また病気不安へのとらわれから抜け出すために、森田療法が用いられる事もあります。

森田療法では「不安」という根本の原因を「取り除く」のではなく「受け入れる」事を目指します。特に神経質であったり心配症である方に有効だと考えられています。

そのように出来るようにするには自分の思考をどう変えていけばいいのかを森田療法は教えてくれます。

Ⅱ.薬物療法

心気症に特化したお薬というのはありませんが、場合によっては心気症にお薬が用いられることもあります。

使用するお薬としては、

  • 抗不安薬
  • 抗うつ剤

になります。

心気症では身体症状はほとんどないため、内科的なお薬を用いる事はほとんどありません。根本にあるのは身体症状ではなく「健康への病的な不安」であるため、不安を和らげるためのお薬が用いられます。

抗不安薬は即効性もあり頼れるお薬ですが、その場しのぎの方法になってしまいがちです。また漫然と長期間続けていると耐性が生じたり(効きにくくなる)、依存性が生じる(お薬がないと落ち着かなくなる)事があります。そのため一時的に用いるのは問題ありませんが、長期間はなるべく続けないように気を付けなければいけません。

抗うつ剤は気分を安定させたり、不安を軽減させる作用があります。抗不安薬と異なり耐性や依存性は形成されないため、長期間お薬で不安を軽減させる必要がある時に用いられます。

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