睡眠の病気と言うと「不眠症」を思い浮かべる方が多いでしょう。不眠症は「眠りたくても眠れない」という疾患で、非常に多くの患者さんがこの疾患で苦しんでいます。
しかし実は睡眠障害というのは不眠症だけではありません。不眠症とは反対の「過眠症」という疾患もあります。
過眠症は、十分な睡眠時間を取っているにも関わらず日中に強い眠気が生じてしまう疾患です。強い眠気によって日中の活動に大きな支障を来たし、場合によっては交通事故などを引き起こす事もあります。決して軽視する事はできない疾患なのです。
この過眠症はどのような原因で生じるのでしょうか。ここでは過眠症について、その原因を詳しく説明していきます。
1.過眠症とは
まず、過眠症がどのような疾患であるのかをお話します。
過眠症というと「眠りすぎる病気」「1日中眠っている病気」というように、「睡眠時間が非常に多い」というイメージを持たれている方が多いかもしれません。
もちろんこのような状態も過眠症にはなりえますが、実は過眠症のポイントは「睡眠時間」だけではありません。過眠症は、ただ睡眠時間が多いというものではないのです。
過眠症というのは、十分な睡眠時間(約7時間以上)を取っているのにも関わらず、
- 起床時に「よく眠れた」という熟眠感・回復感がなく、
- 日中の眠気がひどく、
- 生活に支障を来たしている
とことを満たしている状態です。またこのような状態が少なくとも3カ月以上続いている場合、「過眠症」と判断されます。
「睡眠時間が多すぎる」ではなく、「十分な睡眠を取っていても日中に眠気がひどい」のが過眠症なのです。
2.過眠症の原因
過眠症では十分な睡眠時間を取っているにも関わらず、日中の強い眠気が生じてしまい、日常生活に支障を来してしまっています。
ではこのような状態は、どのような原因によって引き起こされるのでしょうか。
実は過眠症の原因は1つではなく、様々な原因によって引き起こされる事が分かっています。
同じ「過眠」という症状であっても、その原因が何なのかによって取るべき治療法も異なってきます。そのため過眠症は、まずは原因をしっかりと見極める事が非常に大切になります。
過眠症の原因は大きく3つに分けられます。まずはこの3つをそれぞれ詳しく見てみましょう。
Ⅰ.夜間の睡眠の量に問題がある
過眠症の原因の1つ目は、夜の睡眠量がそもそも不足しているために日中に眠気が出てしまうというものです。いわゆる「寝不足」です。
夜の睡眠時間が少ない事(寝不足)で日中眠くなるのは、ただの寝不足ですので「過眠症」とは言えません。これはただの寝不足で、夜の睡眠時間を正常に増やせばいいだけです。
しかし夜間の睡眠不足を補うために日中にも眠っており、結果として昼夜を合わせた睡眠量は正常かそれ以上なのに、眠気が取れなかったり、疲労が取れない場合は過眠症と考える事が出来ます。
夜の睡眠不足を補うために日中に眠ったとしても、日中は脳が覚醒している時間帯であるため深い眠りは得にくいものです。そのため総合的な睡眠量は正常でも、日中に強い眠気が生じてしまう事があるのです。
過眠症が疑われたとき、実はもっとも多い原因がこの「夜間の睡眠不足」です。過眠症のような症状が出ている場合、まず「夜間の睡眠時間は適正か?」「昼寝をしていないか」などを見直してみる必要があります。
Ⅱ.夜間の睡眠の質に問題がある
2つ目の原因として、睡眠の質が低いために日中に眠気を感じるというものがあります。
夜間の睡眠中に、睡眠の質を落としてしまう何らかの原因が生じていると、疲れが十分に取れずに日中に強い眠気が生じてしまいます。
これに該当する疾患として、
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
- 周期性四肢運動障害
- むずむず脚症候群(下肢静止不能症候群)
などが挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群は、夜間に呼吸が一定時間止まってしまう疾患です。脳の呼吸中枢が原因で生じる中枢性無呼吸と、空気の通り道である上気道(咽頭・喉頭など)が狭くなっている事が原因で生じる末梢性無呼吸があります。
中枢性無呼吸は脳梗塞などで呼吸中枢のはたらきが低下してしまうと生じます。末梢性無呼吸は肥満などで喉や舌が気道を塞いでしまう事で生じます。
無呼吸は「10秒以上呼吸が止まった状態」と定義されていますが、息がしばらく出来ない状況というのはとても苦しいものです。睡眠時無呼吸症候群では無呼吸が一晩に何回も繰り返されます。
こんなに苦しい事が一晩に何回も生じれば、睡眠の質は当然浅くなります。すると睡眠時間が十分でも疲れが取れずに日中に眠気が生じてしまうのです。
周期性四肢運動障害は、睡眠中に手足がピクピク動いたり、引きつったりしてしまう疾患です。これにより睡眠が妨げられるため睡眠の質が低下します。
むずむず脚症候群は横になったり動かずにいると、下肢の「むずむず感」などが出現する疾患です。周期性四肢運動障害と関連性が深いとも考えられています。むずむずは睡眠中にも出現するため、睡眠の質が低下する事もあります。
このような睡眠の質を落とすような症状がある場合、睡眠時間が十分でも疲れが取れないため、日中に強い眠気を感じるようになります。
Ⅲ.脳のはたらきに問題がある(中枢性過眠症)
3つ目は、睡眠中枢や覚醒中枢のはたらきに問題があって日中の眠気が生じているものです。
脳に原因があるため、「中枢性過眠症」とも呼ばれ、この中枢性過眠症のみが「真の意味での過眠症」だと考える専門家もいます。
これに該当する疾患として、
- ナルコレプシー
- 特発性過眠症
- 反復性過眠症
などがあります。
これらの疾患については次の項でより詳しく説明します。
3.中枢性過眠症の原因
脳の睡眠中枢や覚醒中枢の異常によって過眠が生じるのを「中枢性過眠症」と呼びます。中枢性過眠症をきたす疾患について説明します。
Ⅰ.ナルコレプシー
ナルコレプシーは「眠り病」とも呼ばれ、日中に非常に強い眠気が出現する疾患です。「オレキシン」という脳を覚醒させる物質が欠乏する事で生じると考えられています。
代表的な症状としては、
- 睡眠発作(食事中、会話中でも突然眠ってしまう)
- 情動脱力発作(笑ったり泣いたり、情動的になった時に力が入らなくなる)
- 入眠時幻覚(寝入りばなに幻覚を見る)
- 睡眠麻痺(いわゆる金縛り)
が4大症状だと言われています。
Ⅱ.特発性過眠症
特発性過眠症は原因は不明ですが、脳の何らかの異常によって過眠が慢性的に持続する疾患です。
10~20代に発症し、慢性的な過眠と日中の眠気が持続します。半日以上眠っている事も多く、また目覚めも悪く1時間以上かかる事もあります。無理矢理起こされると、朦朧(もうろう)とした状態になり、自分では記憶がないのに動いてしまう事もあります。
特発性過眠症では、自律神経症状(頭痛、胃痛、動悸、低血圧など)を合併する事が多いのが特徴です。
Ⅲ.反復性過眠症
反復性過眠症は、過眠の時期とそうでない時期を交互に繰り返す疾患です。
1日に12時間以上眠り続ける「傾眠期」と、全く普通の睡眠時間で良い「正常」を数日から数週間感覚で繰り返します。患者数は少なく、非常に珍しい疾患です。
傾眠となる根本の原因は眠さではなく、意識レベルと低下だとも考えられており、ここから脳(中枢)に原因があると考えられています。
傾眠期は、精神的苦痛や体調不良などのストレスを契機に出現することがあります。
10代で発病し特に有効な治療薬はありませんが、その多くは10年前後で自然と改善していきます。
4.その他過眠の原因になるもの
その他「過眠症」には該当しないものの、過眠を呈する状態もあります。
過眠症状が認められる場合は過眠症だけではなく、これらの原因の可能性も考える必要があります。
Ⅰ.お薬の副作用
お薬の中には睡眠を導くものがあり、これによって人工的に過眠が引き起こされることがあります。
具体的には、
- 睡眠薬
- 抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)
- 抗うつ剤
- 抗精神病薬
などがお薬による過眠(薬剤性過眠)の原因となります。。
特に作用時間の長いお薬は日中の眠気に影響しやすいため、薬剤性過眠の原因になりやすく、注意が必要です。
Ⅱ.過眠を認める疾患
疾患の中には、症状として過眠が生じるものがあります。
代表的なものとして、「非定型うつ病」があります。普通のうつ病では「不眠」が症状として多く認められますが、非定型うつ病では「過眠」が認められます。
また内科疾患にも過眠が生じるものがあります。
例えば、脳腫瘍によって覚醒中枢・睡眠中枢が障害を受けた場合も過眠が出現する事があります。その他甲状腺疾患や尿毒症などでも過眠が生じる事があります。