統合失調症やうつ病、双極性障害(躁うつ病)、神経症など多くの精神疾患の再発率を大きく上げてしまう要因として「高EE」というものが指摘されています。
これは精神疾患の患者さんに対する家族の接し方を表している用語です。患者さんにとって一番身近な存在であり、一番の理解者である「家族」が患者さんに対してどう接するかによって、再発率は大きく変わってくるのです。
多くの研究で高EEの家庭は低EEの家庭に比べて、再発率が4~5倍に上昇すると報告しています。
EEとは何を意味しているのでしょうか。また、EEを下げて再発率を低くするためには、どんなことに気を付ければいいのでしょうか。
1.EE(Expressed Emotion:感情表出)とは?
EEはExpressed Emotionの略で、「感情表出」と訳されています。ただ感情を表出することを表しているわけではなく、患者さんにとって苦痛となる家族の感情表出を表します。
具体的には
- 批判
- 敵意
- 情緒的な巻き込まれすぎ(患者さんの言動に左右されすぎてしまう)
の3つが主であり、これらの感情表出が多い家庭を「高EE」と呼びます。
EEは1960年代のイギリスで提唱された概念で、当初は統合失調症の再発率に関係する因子として注目されました。
入院治療を終えた統合失調症の患者さんを家庭に戻した時、すぐに再発してしまう患者さんと、再発しにくい患者さんに分かれることが以前より医療者間では気付かれていました。
この理由について詳しく調査したところ、家族が患者さんに対して、
- 「甘えてばかりいるな!」「お前はダメだ!」といった批判的感情
- 無視をしたり攻撃したりする敵意ある感情
- 患者さんを過度に気遣いすぎてしまう情緒的巻き込まれ
を持つことが多い家庭では、どうやら統合失調症は再発しやすいようだということが明らかになったのです。
同様に統合失調症が再発しにくい家庭について調べてみると、
- 批判せず支持的に接してあげている
- 共感したり話し合ったり安心感を与えている
- 適度な距離感を持って接している
ことが分かりました。統計をとってみると、統合失調症において高EEと低EEでは、再発率に約5倍の違いがあるという驚きの結論が出たのです。
また高EEの家庭に対して、低EEになるように家族心理教育を行ったところ、再発率が低くなることも分かりました。
最近ではEEは、統合失調症のみならず、うつ病や双極性障害(躁うつ病)、神経症などの多くの精神疾患に関係することが分かってきました。多くの研究が行われていますが、だいたいどの疾患でも高EEの家庭は低EEの家庭に比べて、4~5倍再発率が高くなるという結論になっています。
精神疾患に罹患しているご家族がいらっしゃる家庭では、家庭のEEを低くすることが、再発予防に非常に大切なのです。
2.EEを低くするために家族が気を付けること
統合失調症、うつ病、双極性障害などの精神疾患を再発させやすくしてしまう高EEとは、患者さんに対して
- 批判
- 敵意
- 情緒的な巻き込まれすぎ
が多い家庭を指します。EEが高いと精神疾患の再発率を高めてしまいます。そのためEEは低くする必要があります。
EEを低くするためには、ただ家族に対して「批判するな!」「敵意を持つな!」「距離を取れ!」と指導するだけでは不十分です。批判や敵意を持つことが良くない、ということはデータを取るまでもなく、倫理的な感覚でみなさん分かっていることだからです。
しかし頭では分かっていても、実際は高EEの家庭は少なくないのです。これを解決するためには、「なぜ精神疾患の家族を持つ家庭のEEは高くなってしまうのか」を考えなければいけません。
これは主に2つの理由があります。それは
- 家族の負担が増えること
- 病気についての知識がないこと
です。
精神疾患の患者さんが家族にいる場合、サポートする家族の負担はどうしても増えてしまいます。夫がうつ病になれば、妻は夫の身の回りの世話をしなければいけません。夫が仕事に行けないほどの状態であれば、妻がパートに出ないといけないかもしれません。精神疾患は治療も長期間に渡るものが多いため、家族の負担は非常に大きいのです。
「病気なんだから仕方ない」と頭では分かってはいても、現実的に負担が増えればストレスが溜まります。ストレスが溜まりすぎれば、その怒りは患者さんに向いてしまうこともあります。
また、病気についての知識がないため、どのように接すればいいのかが分からないというのも理由です。統合失調症の患者さんが明らかにおかしな発言をしていれば、つい「そんなわけないでしょ!」と強い口調で批判したくなってしまいます。うつ病の患者さんが一日中家でボーッとして過ごしているのをみると「もっとしっかりしなさい!」と言いたくもなってしまいます。
どちらも患者さんのことを思っての発言なのですが思うのですが、こういった発言は病気を悪化させてしまいます。医療者であれば知っていることですが、医療者でないご家族は、分からなくても仕方がないことです。
では、EEを低くするために、家族はどのような方法を取ればいいのでしょうか。
Ⅰ.自分で全て何とかしようと考えないで専門家に相談する
長期に渡る精神疾患の患者さんとの生活は、いくら家族とは言えストレスになります。これは患者さんには申し訳ないけれども、事実なのです。
一人では十分な生活を送れない患者さんのサポートをするのは、やはり家族です。家族だけでこれらの負担を抱え込んでしまえば、ストレスはどんどん溜まり、家庭の雰囲気は悪くなってしまうでしょう。
対策としては、具体的に困っている状態や症状に対して、医療機関や公的機関で相談をし、生活のアドバイスをもらったり、サポートやサービスを受けることです。必要なサポート・サービスを受けるのは患者さんそして家族の権利であり必要な治療の一環です。
「家族の問題なのだから、周りに頼らず家族内で何とかしなければいけない」と考えてしまうご家族がいらっしゃいますが、これは誤りです。多くの場合、精神疾患は家族が原因で起こったものではありません。誰にでも起こりうるものが、たまたまその家庭に起こってしまっただけなのです。
だから家族だけで解決しようとするのではなく、行政や医療を巻き込んでよいのです。いや、巻き込まなければいけない、といってもいいでしょう。
公的に受けれるサービス、例えば、障害年金や障害者手帳などを受けることで生活が多少楽になり、家族のストレスもたまりにくくなるかもしれません。行政の相談機関に定期的に相談に行くことで、ストレスは和らぐかもしれません。色々な助けを借りて下さい。
また、患者さんが病院受診するときに、一緒についていき、主治医に相談することも有効な方法です。
Ⅱ.疾患について学ぶ
病気について自分で勉強したり、医師や看護師から病気について教えてもらい、学んでいくことも大切です。精神疾患に関する本は一般の方向けにもいくつも発売されています。
病気の正体を理解していないと、イライラしやすくなっしまいます。一日中部屋でボーッとしている患者さんをみた時、それを「怠けている」と判断すれば、イライラして当然です。でも、「脳の異常で気力が沸かない病気なんだ」と理解することができれば、「それならばボーッとしてしまうのも仕方ないよね」と怒りは和らぐはずです。
精神疾患患者さんを持つ家庭が集まる家族会などに参加するという方法もあります。家族会では様々な家庭での患者さんへのかかわり方を聞く事ができます。他の家庭の話を聞く事で疾患に対するとらえ方を学ぶことができます。また家族会によっては医療者が疾患の講義をしてくれるところもあり、これも疾患の理解に役立ちます。
Ⅲ.共感してもらえる場に顔を出す
療養中の家族のサポートをしていてつらいのは、誰からも褒めてもらえない、誰からも努力を認めてもらえないところです。これは高齢者の介護などでも同じなのですが、身の回りの世話を一生懸命やり続けても、「家族ならそれくらいして当然だよね」という評価しか得られないことも多いのです。
誰かに褒めてもらえないとやらない、ということではありませんが、自分の大変さを理解してもらえず、でもその作業は続けないといけない、というのはとてもつらいものです。
時には「毎日大変ですよね、お疲れ様です」くらい誰かに言ってほしいですよね。
この状況を理解してくれる人は、同じ境遇にいる家庭の人でしょう。先ほども紹介した家族会に顔を出せば、家庭間で苦労話を分かち合うことができます。お互いの頑張りを評価することは、モチベーションを保つために効果的です。
Ⅳ.適度な距離感を意識する
患者さんと適度な距離感を取ることは、EEを低くするために重要です。家族であっても適度な距離感は必要です。
そのために、患者さんに病院のデイケアや地域の作業所に参加してもらってもいいでしょう。病気だと頭では分かっていても、ずっと顔を合わせているとどうしてもEEが高くなってしまいます。デイケアや作業所は、本人のためだけでなく、家庭のEEを低くするためにも大変有効なのです。
また、時には患者さんのことを忘れて、自分の時間を作ることも大切です。患者さんのお世話はもちろん大切ですが、ご家族は患者さんの世話をするだけのために生きているのではありません。
自分の時間を取り、気分をリフレッシュした方が、結果的には患者さんにも優しく接することができ、患者さんのためにもなるのです。
「毎週〇曜日の夕方は、仲のいい友達とごはんを食べに行く」など決めておき、定期的に自分の時間を取るようにしましょう。
3.EEを低くするために患者さんが気を付けること
患者さん自身も家族の一因です。そのため家庭のEEを低くするためには、患者さん自身の意識も大切になってきます。
病気で療養中なので無理をする必要はありません。それでも患者さん本人に出来ることもあります。
Ⅰ.無理して頑張らなくもいい。でも家族に感謝の言葉をかけよう
精神疾患はつらいものです。
例えばうつ病を患っていて療養していると、家族に迷惑をかけて申し訳ないと思っていても、どうしても意欲が沸いてきません。気持ちが一日中暗く、とてもじゃないけど行動を起こすこともできません。
こんな時、無理して頑張る必要はありません。無理すれば一時的には活動できるかもしれませんが、必ず反動が来ます。あとあと余計調子を崩してしまったら、意味がありませんし、家族にも結局迷惑をかけてしまいます。
だから、無理はしてはいけません。少しずつゆっくりと治していってください。
でも強いて言うなら、家族への感謝を忘れないでください。そして感謝を「思う」だけでなく、「言葉に出して」下さい。
「いつも悪いね。ありがとう」
「〇〇のおかげで本当に助かってる」
このように言葉に出して感謝を伝えてあげてください。この感謝の言葉を発するかどうかで、家庭の雰囲気は全く違うものになります。
いくら家族でも、相手の考えていること全てを理解することはできません。お互いの想いがすれ違わないためにも、言葉に出して感謝することは大切です。
Ⅱ.家族に自分の時間を取らせてあげよう
家族にも家族の人生があります。
もちろん患者さんによくなってもらいたいという想いはありますが、患者さんのサポート以外にもしなくてはいけないことがあります。また家族も時々は息抜きをしないと壊れてしまいます。
意識して時々は、家族に息抜きの時間をあげてください。これも思うだけでなく、
「数時間なら一人でも大丈夫だからさ、出かけてきなよ」
「たまには息抜きしないとダメだよ。遊びに行っておいで」
など家族に言葉で伝えてあげてください。
また、少し体調が良くなってきたら、デイケアや作業所など積極的に家庭以外の場所へ顔を出すようにすることも大切です。そうすることによって、自分自身も視野が広くなるし、家族の息抜きにもなります。
Ⅲ.自分の病状を伝えよう
家族が患者さんに対して、つい批判的になったり、過度に気を遣いすぎたりするのは、患者さんが「何を考えているのか」「今どういう状態なのか」が分からないからです。分からないから、どうしていいか分からず、間違った行動をとってしまうのです。
これを解決するには、自分の状態を定期的に家族に伝えてあげることが重要です。
明らかに落ち込んでいる患者さんをみた時、その原因が分からなければ、家族はどう対応していいのか分からなくなります。すると、
「あぁ、またいつものが始まったよ。全くもう・・・」という怒り
「落ち込んでいるけど、どうしよう。下手に刺激しないように機嫌を取ろう」という情緒的巻き込まれ
が起こってしまいます。これではEEは高くなってしまいます。
しかし、
「昨日は〇〇ということがあって、それで落ち込んでしまったんだ」
ということが伝われば、家族は原因が分かって安心できますよね。
EEを下げるために、魔法のような方法や最先端の治療法があるわけではありません。すべきことは当たり前のことばかりです。一言でいえば、家族であっても、お互いがお互いを思いやる「思いやり」を忘れないことが大切だということになります。
こんな古臭い方法ですが、最先端の治療なんかより再発率を下げることができます。