相性の良い精神科医・精神科クリニックを見つけるためのポイント

どんな科でも先生との相性は大切ですが、精神科・心療内科においてはとりわけ「先生との相性」が大切になります。

精神疾患や心身症では、病気の発症にその人の考え方や環境、対人関係などが影響している事が少なくありません。そのようなプライベートな事も関係してくると、これは誰にでも話せることではありません。「この人は信用できる」と思える先生にしか話せないでしょう。

「こないだ、風邪ひいちゃって・・・」という話は、比較的誰にで話せる話題でしす。しかし「親との関係で悩んでいる」「職場がつらくて本当に苦しんでいる」という話は、誰にでも出来るものではありませんし、軽々しく話せる内容でもありません。

このような深い話をした時、「患者」として機械的に対応されるのと、「精一杯、親身になって対応してくれる」のでは、その対応だけで気持ちの安らぎは大きく異なってくるでしょう。

心が傷ついている時、「支えてくれる人」「親身になってくれる」の存在は本当に大きなものです。先生が自分にとって心から信頼できる人であれば、それだけで大きな安心をもらえ、病気が良くなっていくこともあります。
実際、精神科・心療内科の診察の際に、「ここでしか話せない事なんですけど・・・」とおっしゃられる患者さんはとても多くいらっしゃいます。
だからこそ、精神科・心療内科の通院を考える時は「相性の良い病院・先生」を選ぶ事がとりわけ大切になってきます。精神科・心療内科は「転院」が多い科でもあります。それだけ、自分にあった病院や医師を見つけるのが難しいという事でしょう。

病気を治してもらえる事はもちろんですが気持ちよく受診でき、満足できる治療を受けるためにはどんな事に気をつけて病院を選べばいいでしょうか。

いくつかのクリニック・病院に勤務してきた経験から感じるところを書いてみたいと思います。

1.無理なく通える場所か?

基本的な事ですが、病院までの距離はとても大切です。通院に数時間もかかるようであれば通院自体が苦痛になるでしょう。
精神的につらい時って、外出したり人に会う事すらも大きなストレスを感じてしまいます。それなのに、通院のために電車に何時間も乗って、人ごみを歩いて病院へ行くようでは、これだけで病気の治りは悪くなってしまうでしょう。
あまりに病院が遠いと、精神状態があまりに悪いと通院予定日に通院できなくなるリスクが高くなります。また、それでお薬が切れてしまえば病気の治りも悪くなってしまうでしょう。これはとてももったいない事です。
病院までの距離と、通院継続率は反比例します。つまり距離が遠いほど、途中で通院をやめてしまう率が高くなるという事です。
「どうしても、あの先生の診察を受けたい!」
という方もいらっしゃるとは思いますが、距離的に現実的でない場所への通院はあまりお勧めできません。病院までの距離はどんなに遠くても1時間以内に行けるところにすべきでしょう。

2.自分のライフスタイルに合った診療時間か?

病院の診療時間が自分のライフスタイルに合っているかも意外と大切です。

最近は夜間診療に力を入れているクリニックや、休日も診療をしているクリニックも増えてきました。このようなクリニックを上手に利用し、自分のライフスタイルに合った病院を選ぶようにしましょう。

たとえば社会人であれば平日の日中はほとんど仕事でしょう。このような方が平日の日中のみ開院しているクリニックをかかりつけとするのは良いとは言えません。通院できない事が多くなり、結果として治療もうまくいかなくなります。

このような場合は、夜間遅くまで開院しているクリニックや休日に開院しているクリニックを選んだ方が良いでしょう。自分のライフスタイルと照らし合わせ、無理なく通院できるクリニックを選びましょう。

3.わかりやすい説明かどうか?

当たり前のことなのですが、

「分かりやすい説明をしてもらえるか」

というのは大切なポイントになります。

お医者さんは頭の良い方が多いですから、専門用語やら何やら「難しい言葉」を好みます。いくら正しい事を説明してくれていたとしてもそれが患者さんにとって意味不明な専門用語であれば意味がありません。

「理解できるような説明をしてくれるかどうか」

当たり前の事なのですが、患者さんと医師の信頼関係がとても大切な精神科・心療内科において、これがクリアできているかはとても重要な事です。

先生も多忙ですので、なかなか十分な説明時間が取れないという現状は確かにあるのですが、患者さんにとって、「精神科を受診すること」や「精神科の薬を飲むこと」というのは大きな不安を感じるものです。

どんな薬なのかの説明も一切ないまま、お薬を処方されれば、それを飲むのに抵抗を感じるのは当然です。それが何の説明もなかったら、不安が改善するわけありません。薬だって気持ちよく飲めないし、不信感だって募ってしまうでしょう。

「副作用があったらどうしよう。でも飲まないと先生、怒るだろうな・・・。」

こころを穏やかにするために精神科・心療内科を受診したはずなのに、こんな事になっては本末転倒ですよね。

「ちゃんと、理解できる説明をしてくれるかどうか?」は本当に当たり前すぎる事なんですけど、初診時に必ず押さえておきたいポイントです。

4.話しやすい雰囲気か?

これはすぐには分からないので、判断に難しいところですが、非常に大切な事なので書かせてください。

精神科・心療内科を受診する方のほとんどは、そのような精神状態になってしまった「原因」があります。それは親や夫婦の関係だったり、職場の人間関係だったり、仕事の忙しさだったり・・・

本当に色々です。

患者さんによって色々ですから、当然患者さんから聞かないと分かりません。受診する患者さんだって、そのつらかった思いを治療者に聞いてもらいたい気持ちがあります。

つらかった事を吐き出して、それを誰かにわかってもらうだけで人のこころというものは随分と楽になるものなのです。

精神科・心療内科の診察において

「つらかった想いを吐き出す事」
「自分の気持ちを分かってもらう事」

はとても重要です。

その証拠に、転院したり主治医を変えたりする患者さんのほとんどは

「先生が話を聞いてくれない」
「込み入った話をしたら面倒くさそうな顔をされ、それ以降先生に何も話せない」
「先生がいつも忙しそうで、言いたい事をいえない」

と「話を聞いてくれないから」という理由が挙がります。

何とか精神科・心療内科を受診し、やっとの思いでつらい出来事を話せたのに、お医者さんに面倒くさそうな顔で流されたらそれは治療になるわけありません。「話を聞いてくれる雰囲気を持っている先生」というのはとても大切な要素になります。

ただ一方で、医者の視点から言うと、十分な診察時間の確保というのは結構難しいという現実もあります。精神科・心療内科を受診する患者さんの数は年々増えていますが、医師はまだまだ不足しています。

つらいから新たに受診したいという患者さんを断るわけにもいきません。かと言って、今まで診ていた患者さんをないがしろにするわけにもいけません。

医師一人が担当する患者さんは年々増えていると思います。更に経営陣からは「もっとたくさん患者さんを診てくれないと病院が潰れます」とプレッシャーをかけられている先生もいらっしゃると思います。

こんな状況だと、先生方が時間に追われて患者さんの話を十分に聞けない事も分からなくはありません。

でも、そんな中でも

「今日はちょっと忙しいから、お話は十分聞けないけど、聞けなかったところは次回必ず聞かせてもらうからね」と言ってくれたりと、「出来る限り話を聞こうとする姿勢」を持ってくれる先生もいます。

毎回毎回、医師が患者さんが120%満足いくまで話を聞く、

というのは現状では難しいのかもしれません。

でも、そんな中でも

「できる限り患者さんの話に耳を傾けてくれようとする姿勢をもってくれる」

先生を選びましょう。

5.調子の悪い時の対応

調子の良い患者さんの診察というのは、私たち医師としては楽な面があります。患者さんが困っていることも多くはないわけですから、診察もスムーズに終わります。

反対に調子が悪くなってしまった患者さんの診察は大変です。どうして悪くなったのか、どのような解決策があるのか、などを考えていかなければいけません。どうしても診察に時間もかかるため、患者さんがいっぱいの時に調子の悪い方の診察をすると焦ってしまう事もあります。

しかし実はこういう時こそ、先生の本当の精神科医としての腕(というと言い方が悪いですが・・・)が問われると思います。

次の患者さんがたくさん待っている中、十分な時間が取れないのは仕方がない面もあるでしょう。しかしその中でも精一杯の対応をし、患者さんに寄り添い、真剣に患者さんを治す手立てを考えてくれる先生は本物の精神科医です。

治療中は、診察中毎回調子が良い事が理想です。しかし一方で調子が悪い時こそ、実は先生との本当の相性が分かるのも事実です。

6.看護師、臨床心理士、事務員などのコメディカルの対応も大切

クリニックを受診すると、医師のみと関わるわけではありません。

初めてクリニックに電話する時は、受付の事務員さんに対応してもらいます。検査が必要な時は看護師さんに対応してもらうし、カウンセリングが必要な時は臨床心理士さんが対応してくれます。

こういったコメディカルスタッフの雰囲気も大切です。

メンタルクリニックのスタッフと他の科のスタッフでは、求められるものが大きく違います。

他の科では、経験や知識というのが何よりも大きな武器になります。

しかし精神科・心療内科では必ずしもそれだけではありません。

万が一経験や知識は浅かったとしても、人柄や人間性がよく、患者さんに寄り添う姿勢をもっているスタッフはそれだけで患者さんを元気にしてあげれます(知識や経験が浅くても良い、という意味ではありません) 。

これは、精神疾患というのがあくまで「こころ」に根ざしたものであることを考えれば、当然のことだと言えます。

クリニックから帰る時に、受付の子が笑顔で、「お気をつけてお帰りくださいね」と言ってくれて、なんだか暖かい気持ちになれました。こういってくれる患者さんもいます。

私の勤務経験では、笑顔で向かえ、笑顔で送り出してくれるスタッフがいるクリニックは、患者さんにもとても評判がいい印象があります。

7.その他の私見

うつ病や不安障害といった精神疾患の方は近年増えており、それに伴いメンタルクリニックの数も増加の傾向にあります。

困った時にすぐに受診できるという意味ではこれは良いことですが、最近は「医者の入れ替えが激しいクリニック」もあります。何回か診察を受けたら先生が退職してしまい次の先生になり、その次の先生もまた退職されて、また新しい先生になる・・・。このような事もあるようです。

先生にもそれぞれ事情があるので仕方はないところですが、あまりに先生がコロコロと変わってしまうクリニックはあまりお勧めできません。

先生が頻繁に変わると、その度に受診するに至った経緯を先生に話さないといけません。いくらカルテで申し送りはされるとはいえ、紙面で100%申し送れるわけではないからです。精神的につらい状態で、何度も何度も自分にとってつらかった思い出を話す、というのは、治療上も良い事とは言えません。

出来れば、信頼できる先生を見つけたら、その先生にずっとかかるというのが理想でしょう。

また最近は「綺麗な病院」「高級志向の病院」もあります。病院がキレイなのは良いことですが、病院のキレイさと「質の良さ」は全く別の話だと考えた方が良いでしょう。

私も臨時アルバイトで様々なクリニックで働いた経験がありますが、まるで高級ホテルのような綺麗なクリニックもありました。もちろん、汚いクリニックより綺麗なクリニックの方がいいに決まってます。

綺麗なクリニックが悪い、と言うわけではありません。ただ「綺麗で高級な雰囲気」と「いい診療をしているか」は全く別次元だと思って下さい。

オンボロなマンションの一角でひっそりとやっている先生がとても温かみのあるいい先生だったりというのは病院では良くある話です。

高級地にあるから、クリニックのサイトがゴージャスだったから、クリニックが綺麗だから。これ「だけ」でクリニックを選ばないようにした方がよいでしょう。

<まとめ>

自分にとって相性のいい病院を見つけるためには

・場所   ・・・無理なく通院できる場所か?

・診療時間・・・無理なく通院できる時間に開いているクリニックか?

・先生   ・・・分かりやすい説明をしてくれるか?

         話を聞こうという姿勢を持ってくれるか?

         調子の悪い時でも本気で向き合ってくれるか

・スタッフ ・・・温かみを感じる事の出来るスタッフか?

をみて、選びましょう。