精神的なストレスが原因で、喉の違和感・異物感・詰まり感などが生じる疾患をヒステリー球(咽喉頭異常感症)と呼びます。
ヒステリー球の原因は精神的なストレスや葛藤と考えられていますので、治療は精神科や心療内科で行われることが一般的です。
しかし喉の症状で病院を受診するとなると、まず思い付くのは内科や耳鼻咽喉科などの身体科ではないでしょうか。精神科や心療内科は「こころ」を扱う科だから、喉の症状で受診しても診てくれないのではないかと受診する科を迷ってしまう方もいらっしゃると思います。
明らかにストレスなどで悪化している場合なら最初から精神科・心療内科を受診してよいのでしょうか。それともまずは耳鼻科や内科を受診すべきなのでしょうか。
ヒステリー球を疑うような、喉の症状が出たときに、何科を受診すればいいのかをお話します。
1.まずは身体科を受診し、次に精神科を受診しよう
喉の症状があって、それが明らかにストレスで悪化している場合、「これは精神的なものだな」と患者さん自身が気付くこともあります。精神的な原因で喉の違和感が生じているとなると、治療も精神的なものだろうからと、まず精神科・心療内科を受診される方もいらっしゃいます。
これは間違っているわけではないのですが、確実な診断・治療を行うのであれば、まずは内科・耳鼻科といった身体科を受診し、それで異常が見つからなければ精神科・心療内科を受診するという流れが理想的です。
これはなぜかというと、身体疾患が原因ではないことを確実に除外しておく必要があるからです。
明らかに精神的なストレスなどで増悪する喉の症状であったとしても、その原因として喉に何か出来ていたり、異常が生じている可能性は0ではありません。「喉の違和感」=「ヒステリー球」というわけではなく、まずは原因をしっかりと特定する必要があります。
原因が違えば治療方針が異なり、間違った治療をしてしまえば病気は治らないばかりが悪化してしまうこともあります。
例えば、食道がんが原因で喉の違和感が生じているのに、「不安な時に症状が強くなる印象があるからヒステリー球だろう」と推測して、ヒステリー球の治療だけを行ってしまうと、喉の違和感は改善しないだけでなく、がんはどんどん進行してしまい、大きな不利益を被ることになります。
2.喉の違和感を生じる疾患はたくさんある
喉の違和感・異物感・詰まり感を生じる疾患のひとつにヒステリー球がありますが、それ以外にも喉の違和感が出現する疾患はたくさんあります。
一例を挙げれば、
・扁桃肥大
・食道がん
・喉頭がん
・食道潰瘍
・橋本病(慢性甲状腺炎)
・膠原病
・唾液分泌異常
・実際に異物がある(魚の骨など)
などです。
当然ですが、これらに対する治療はヒステリー球の治療と全く異なります。
3.まずは耳鼻科・内科で身体疾患の除外を
明らかに精神的なストレスで喉の違和感が生じている場合であっても、上で説明したような身体疾患が「絶対にない」とは言えません。そのため、まずは身体科(耳鼻科や内科など)で、身体的な異常がないかを確認するようにしましょう。
大きな病院でない限り、精神科・心療内科は、内視鏡や造影装置、レントゲン、CTなどの身体的な異常を検査する機械を置いていないことがほとんどです。特にメンタルクリニックであれば、これらの検査機器はまず無いといってもいいでしょう。
となると、いきなり精神科・心療内科を受診してしまうと、これら身体疾患の確実な除外が困難になってしまいます。それでは困りますので、精神的なストレスが原因のように感じたとしても、念のため一度は身体科を受診してください。
専門の先生による診察所見、そして諸検査を行うことで、身体的な異常があるのかどうかというのは、かなり高い精度で鑑別できます。造影検査や内視鏡検査、レントゲンやCTなどで異物がないか確認をすればそれは一層確実になります。また、場合によっては血液検査などで異常がないか見ることもあります。
内科医・耳鼻科医の診察・検査によって、「身体的な異常はなさそう。精神的な原因ではないか」という判断になれば、その後の精神科・心療内科を受診するのが正しい流れになります。
このとき、紹介状を作成してもらえば、精神科・心療内科での診察がよりスムーズになります。
4.身体的に異常がなければ精神科・心療内科へ
身体的な異常がないことを確認し、「これは精神的なものが原因であろう」と判断されれば、その後に精神科・心療内科を受診しましょう。
この時、できる限り紹介状を作ってもらってください。それは身体科の先生による診察・検査の結果となった確かな証拠があった方が、精神科医も症状の原因究明をより確実に行えるからです。また、前医での診察所見・検査所見が分かった方が同じ検査を再度行う、という無駄な検査も省くことができます。
一度身体科で検査してから、精神科・心療内科を受診する、というのは手間に感じるかもしれませんが、万が一の誤診を防ぐためには大切な事です。
ヒステリー球だと思って治療をしていたけど一向に治らない。数か月経って、おかしいと感じて内科で検査をしたら喉にがんが見つかった。しかしすでに大分進行しており、有効な治療があまり行えない状態になっていた。
このようなことが起こるのは極々稀ではありますが、絶対に起きないとは言えません。こころの症状というのは個人差もあるため、どうしてもあいまいな症状の訴え方になってしまいます。そのため、時に原因特定を誤ってしまう事があるのです。
それが間違っても取返しのつくことであればいいのですが、取返しのつかないことである可能性がある場合は、面倒ではあっても確実に除外できる方法をとるべきです。