喉に違和感・異物感がある、喉に何かが詰まっている感じがする・・・。
このような症状から内科・耳鼻科を受診し、内視鏡で喉を診てもらうも何の異常もなく、先生からは「身体的な異常は何もありませんよ」と言われてしまう。でも、確かに喉に何かが入っているような感覚があって苦しい。
これがヒステリー球(咽喉頭異常感症)と呼ばれる疾患の典型的な症状です。ヒステリー球は、喉の違和感・異物感を認めるにも関わらず検査では異常がないため、どうしたらいいのか分からなくなってしまいます。
なぜこのような事が起こるのでしょうか。
ヒステリー球がなぜ生じるのか、その原因についてお話します。
1.ヒステリー球とはどんな病気なのか
ヒステリー球は診断基準的には、転換性障害(DSM-5)に含まれます。
【転換性障害】
ストレスや葛藤などが、身体症状(ヒステリー球では喉の違和感)として転換される。その原因はあくまでもストレスや葛藤であるため、身体的な検査をしても異常は認められない。
典型的なヒステリー球の症状は、
・球状のものが胃の上部から咽頭部(喉)に上がってくる感覚
・咽頭部に球状のかたまりがある感覚
という訴えである事が多く、「アーモンドのようなものが喉に詰まっている」と表現されます。
これらの症状から、息苦しさ・飲み込みずらさなどが出現し、生活に支障を来たします。また、喉の違和感を抱えながらの生活が続くと、気持ちがふさぎ込んだり、「何か恐ろしい病気なのではないか」といった不安感・恐怖感をなども現れてくる事があります。
ヒステリー球は「咽喉頭異常感症」「咽頭神経症」などと呼ばれることもあります。主に内科や心療内科・精神科では「ヒステリー球」と呼ばれることが多く、耳鼻科では「咽喉頭異常感症」と呼ばれています。
その歴史は古く、4000年以上前のエジプトの文書にも記載があるとされています。
2.ヒステリー球はなぜ生じるのか
喉に何もないのに、喉の違和感・異物感を感じる。
これって不思議ですよね。何故このような事が起こるのでしょうか。
ヒステリー球は、
・不安時・緊張時
・落ち込んだ時
・精神的にショックを受けた時
・疲れている時
に起こりやすいと言われています。簡単に言ってしまうと、「ストレスを受けた時」「ストレスが溜まっている時」と言ってもいいかもしれません。
ヒステリー球は、ストレスで自律神経のバランスが崩れた結果、生じると考えられてます。
ストレスによって、食道の筋肉に分布する交感神経の過活動が生じ、それにより食道の筋肉が緊張して収縮します。すると食道が締め付けられるため、喉の異物感や違和感、詰まった感じや飲み込みにくさを感じるのです。
3.ヒステリー球を生じやすい要因
ヒステリー球は、どんな人であってもストレスが過剰になれば発症する可能性があります。
しかし同じようなストレスを受けても、ヒステリー球を発症しやすい人もいれば発症しない人もいます。
ヒステリー球を発症しやすい傾向がある方というのはどんな方でしょうか。
Ⅰ.女性に多い
ヒステリー球は転換性障害のひとつに属するとお話しましたが、転換性障害は男性と比べて女性に2~3倍発症しやすいと言われています。男性・女性どちらにも生じる疾患ではありますが、女性の方がヒステリー球を発症しやすいのです。
Ⅱ.若年者に多い
ヒステリー球はどの年代の人でも発症しえますが、中でも多いのは10代~20代といった若年者であると報告されています。
Ⅲ.心配症、不安が強い方
ヒステリー球を発症する原因として一番頻度が高いのが「不安・緊張」です。不安や緊張という感情は自律神経に影響を与えやすいため、ヒステリー球も発症しやすくなります。
普通の人でも、緊張や不安が高まれば動悸がしたり息苦しい感覚を感じる事がありますよね。また不安障害に属するパニック障害などではパニック発作として動悸やめまい、息苦しさといった自律神経症状が出ますが、ここからも不安が自律神経に影響しやすい事が分かるでしょう。
そのため、元々心配性であったり、不安が高い方というのはヒステリー球を起こしやすくなります。同様に不安障害を発症している方は、病気の症状として不安が高まっているため、ヒステリー球を起こす可能性も高まる事が予想されます。
Ⅳ.ストレスを溜めこみやすい
ストレスで生じる疾患ですから、ストレスを溜めこみやすい方には起きやすい疾患です。
こだわりが強かったり、柔軟性が乏しい傾向のある方は、そうでない方に比べてヒステリー球を発症しやすいようです。
また、適度な息抜きなどでストレスを上手に発散することができない方も要注意です。
4.内科的な原因を必ず除外すること
ストレスがあって、喉の違和感が出現すると、「これはヒステリー球だ!」と判断してしまいがちですが、一度は身体に異常がないかを調べる事が大切です。
というのも、もしかしたら喉に腫瘍が出来ていて、それで異物感を感じていたという事が、絶対にありえないわけではないからです。この場合は精神的な原因ではなく、実際に喉に異物があるのが原因であるため、治療法が全く異なってきます。
ヒステリー球だと診断するためには、身体的な検査を行っても異常がないことを確認しなくてはいけません。
それを怠って安易にヒステリー球だと診断してしまうと危険です。喉に腫瘍があるのに、それを放置してヒステリー球の治療を始めることになってしまえば、これは患者さんに大きな不利益をもたらしてしまうでしょう。