何故だか分からないけど不安や心配が常に頭から離れない。「心配しすぎ」「そんなに不安になることではない」と頭では分かっているのに不安を自分でコントロールできずに苦しい。
もしこのような状態に当てはまるのであれば、それは「全般性不安障害」という疾患かもしれません。
全般性不安障害は、様々なことに対して過剰に不安・心配を感じてしまう疾患です。ただの心配症とは異なり、過剰な不安・心配によって本人は苦しさを感じてしまい、生活への支障を来たすこともあります。
全般性不安障害はどうして生じるのでしょうか。全般性不安障害の原因についてお話していきます。
1.全般性不安障害(GAD)とは?
全般性不安障害の原因について考える前に、まずは全般性不安障害という疾患がどのような疾患なのかをお話します。
全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder)は、様々な出来事や活動についての過剰な不安や心配が続く疾患です。単に不安や心配があるだけでなく、それによって生活に様々な弊害が出てしまうため、本人はとてもつらい思いをします。
例えば常に不安や心配が頭から離れないために、
・仕事に集中できない
・疲れが取れない
・眠れない
・イライラする・ソワソワする
など、人によって様々な生活上の支障が出現します。
症状は慢性的に続き、数か月以上持続することが一般的です。
「不安」という感情は人の生理的な感情ですので、不安を感じること自体は何もおかしいことではありません。人よりちょっと不安や心配が強いだけであれば、それは「心配性」という性格のひとつであり、別に病気ではありません。
しかし全般性不安障害は不安を契機として様々な障害をきたすため、病気として扱われます。全般性不安障害と心配性はよく混同されますが、全般性不安障害は不安・心配の程度が強く、また不安・心配によって日常生活に様々な弊害が出ている点が違いになります。
心配症というのは性格の一つであり、正常範囲内のものです。人よりも不安・心配は強めではありますが、それで生活に大きな支障を来たすことはありません。しかし全般性不安障害の場合は、先ほど書いたように過剰な不安・心配によって仕事が出来なくなったり、眠れなくなったりといった様々な支障が出現してしまうのです。
全般性不安障害は、様々なことに対して不安になってしまい、、それが原因で生活において様々な支障をきたす疾患だと言うことが出来ます。
2.全般性不安障害の原因は何か?
では、全般性不安障害の原因は何なのでしょうか。どうして全般性不安障害が発症するのでしょうか。
実は、発症の明確な原因というのは分かっていません。
しかし、ある特定の原因があってそれを満たすと必ず発症する、という単純なものではないようです。いくつかの要因が複雑に絡み合って発症するという考えが有力です。全般性不安障害が発症する原因として、考えられている因子を紹介します。
Ⅰ.不安を感じるようなストレッサー
全般性不安障害は、原因なく生じることも稀ではありませんが、原因として比較的多いものとして、なんらかの精神的ストレスが挙げられます。特に慢性的な精神的ストレスを受け続けていた場合、ある時点から全般性不安障害が発症してしまうことがあります。
精神的ストレスというと、本人がストレスと感じたものは全て原因となりうるため、その内容は多岐に渡ります。一例を挙げると
・仕事のストレス
・学校のストレス
・家庭のストレス
・自分の健康への心配
などがあります。
全般性不安障害の場合、何か大きいストレスがドカンとかかって発症するというよりも、これらのストレスが徐々に精神的ダメージを与え続け、少しずつ発症していくというパターンが多く認められます。
また精神的ストレスの内容も突飛なものではなく、誰もがある程度は納得できるようなものが主になります。
Ⅱ.性格傾向
全般性不安障害を発症しやすい性格傾向というものがあるわけではありません。しかし全般性不安障害は不安障害に属する疾患ですので、不安障害を発症しやすい性格傾向を持つ方は、やはり全般性不安障害も発症しやすいと考えることが出来ます。
具体的には
・心配症
・神経質
といった性格傾向の方は不安障害(全般性不安障害を含む)を発症しやすいことが考えられます。
Ⅲ.遺伝
全般性不安障害は遺伝要因もあると考えられています。
一卵性双生児で見た研究では80%程度の一致率がみられることも報告されています。性格としての神経症傾向が遺伝することによって全般性不安障害の発症も遺伝するのかもしれません。
ただし100%遺伝するわけではなく臨床の感覚としては、遺伝も多少は影響するよ、という程度のものです。親が全般性不安障害だからといって、子供に必ず全般性不安障害が発症するということにはなりません。
Ⅳ.環境要因
幼少期からの環境と全般性不安障害の発症は関連するとされていますが、「こういった環境であれば全般性不安障害を発症する」という特異的なものはありません。
親が過保護であったり、反対に機能不全家庭で育っていたりすると、慢性的に不安が高い状況で幼少期を過ごしたことが予測されるため、全般性不安障害をはじめとした不安障害を発症しやすくなるのでは、とは考えられています。
Ⅳ.年齢・性別
全般性不安障害は、どの年代にも発症する疾患ですが、強いて言えば20代に一番多いと言われています。性差としては、男性よりも女性に2倍多く発症します。
3.生物学的な全般性不安障害の原因
全般性不安障害が発症してしまったとき、私たちの脳内ではどのような異常が生じているのでしょうか。
全般性不安障害は、パニック障害などと比べると生物学的な研究は少なく、あまり明確に解明されているものはありません。生きている人間の脳を解剖して直接見るわけにはいきませんので、これからお話することは仮説に過ぎませんが、現時点における全般性不安障害の生物学的な原因について紹介します。
全般性不安障害の方の脳内では、GABA(ɤアミノ酪酸)やセロトニンのバランス異常が生じているのではと考えられています。その証拠として、GABAの作用を増強するベンゾジアゼピン系抗不安薬や脳のセロトニン量を増やすSSRIといったお薬が全般性不安障害に効果を示します。
全般性不安障害に限らず、不安障害の方では、脳の扁桃体と呼ばれる部位のはたらきが活性化されすぎていることが確認されています。そして薬物療法(抗うつ剤)や精神療法(認知行動療法など)で治療して不安が改善されると、それに伴い扁桃体のはたらきが正常化することも確認されています。
扁桃体は恐怖・不安という感情に深く関連している部位であるため、この説明は納得のいくものではあります。実際、動物実験において扁桃体を破壊したラットでは不安・恐怖が消失することが示されています。
つまり扁桃体の活動性が低いと恐怖・不安を感じにくくなり、高いと恐怖・不安を感じやすくなることが推測され、不安障害では扁桃体の活動性が高まってしまった結果、過剰に不安を感じるようになっていると考えられます。
これらのバランスが崩れた結果、不安障害が発症するのではないかと考えられており、全般性不安障害もある程度、この機序が生じていることが考えられます。