暴露療法(エクスポージャー)とはどのような治療法なのか

暴露療法

こころの病気の治療法に「暴露療法(エクスポージャー)」というものがあります。

暴露療法は主に不安障害圏に属する疾患に効果を発揮します。不安障害圏というのは不安が根本にある疾患の事で、具体的にはパニック障害や社会不安障害、恐怖症などが該当します。またそれ以外にも強迫性障害(OCD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対しても暴露療法は有効です。

有効な治療法であることに間違いはありませんが、暴露療法には注意点もあります。特にやり方を間違えてしまうと不安を更に増悪させてしまう危険があるため、正しい理論や手順を知ってから行う必要があります。そのため必ず熟練した治療者に指導してもらいながら行うべき治療になります。

我流の間違った方法で暴露療法をやってしまう事で病気がかえって悪化させてしまうケースは多く、これは精神疾患を難治化させてしまう一因となっています。

ここでは我流の間違えたやり方でやってしまわないよう、暴露療法についての正しく知識を紹介します。

暴露療法について正しく知り、効率的に暴露療法を行っていきましょう。

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1.暴露療法とはどんな治療法なのか

まず暴露療法とはどのような治療法なのかを紹介します。

非常に簡単に言ってしまうと暴露療法とは、

苦手なものに少しずつ慣れていくこと

になります。

専門的にはかなり難しく書いてありますが、ざっくりと言ってしまえばただこれだけのことです。

例えば社会不安障害の方は、人前で注目されるような状況に非常に強い恐怖を感じており、これによって日常生活に大きな支障を来たすようになります。

人前で注目される状況としては、例えば「人前でのスピーチ」がありますが、この「人前でのスピーチ」を克服するために、人前であえてスピーチしていって慣れていきましょう、というのが暴露療法です。

もちろん難しく説明すれば、恐怖や不安が生じる心理はこうこうであるから、それを解決するためにこういった思考を・・・、といった理論があるのですが、そこまで詳しく理解する必要はあまりありません。

ざっくりと「暴露療法というのは苦手なものにあえて挑戦していくことで慣れていくこと」と考えて頂いて問題ありません。

私たち人間は、脅威を感じるような状況に晒されると、強い感情(恐怖など)が生じるように出来ています。そして脅威が去れば、通常はその感情は軽減していくものです。また脅威であっても、それが何度も繰り返されると私たちは次第にその脅威に慣れていき、強い感情が生じにくくなります(これを「馴化(じゅんか)」と呼びます)。

例えば誰でも試合やテストの直前は緊張するものです。特に人生を左右するような重要な試験(第一志望の大学受験など)の直前は、大きな緊張を感じるでしょう。しかし、試合やテストが終われば通常、その緊張は自然と消えていきます。

また緊張するような状況であっても、何度も繰り返されれば、緊張の度合いは次第に軽減していき、だんだんと緊張しなくなってきます。例えば新しい職場に出社する初日は大きな緊張を感じるのが普通ですが、毎日出社を続けていくと次第に緊張しなくなっていくものです。

これを「情動処理理論(emotional processing theory)」と呼びます。

この脅威と感情のバランスが崩してしまうのが不安障害です。このバランスが崩れると脅威でもない些細なことで強い感情が生じてしまったり、あるいは脅威のあとにいつまで経っても感情が軽減しなかったりといった問題が出てきます。また脅威に対する慣れも生じないため、同じ脅威に対して何度も強い感情が引き起こされてしまいます。

不安障害では「恐怖構造」に異変が生じていると考えられています。

例えば通常であれば「試験」という脅威が「緊張」という感情を引き起こします。また「落ちたらどうしよう」という「恐怖」を多少引き起こすかもしれません。

これは正常な恐怖構造であると言えます。

しかし「試験」という脅威に対して「とにかく怖い」と強い恐怖が生じてしまったり、「試験会場の机を見るのも怖い」「試験会場という空間にいるのも怖い」「試験官を見るのも怖い」となってしまうと、これは恐怖構造が歪んでしまっています。

この歪んだ恐怖構造を正常にバランス修正するのが暴露療法なのです。

暴露療法では、本来脅威でないものを脅威と感じている現状に対して、あえて脅威に晒していくことで、その脅威は本当は脅威ではないということに気付いていきます。

また「慣れる(馴化)」という現象を呼び起こすことにより、同じ脅威に何度も遭遇した時に、少しずつその脅威に慣れていくようなこころを取り戻します。

2.暴露は負荷と段階を間違えると悪化させる危険がある

暴露療法は不安が病的に高まっている疾患(不安障害など)の治療法として非常に有効です。

概念としても難しいものではなく、「苦手なものに接していくことで少しずつ慣れていこう」というものですので、誰でも簡単に取り組みやすいという利点もあります。

このような理由から暴露療法は、患者さんが自分一人の我流の方法で取り組んでしまう事が多いのですが、暴露療法はしっかりとした治療者の元で行わないと非常に危険な治療法になります。

概念が簡単だからといって、安易な気持ちで始めて良いものではないのです。ここを誤解すると、暴露療法は有効な治療であるどころか、症状をかえって悪化させてしまう治療になってしまいます。

暴露療法を行うに当たってポイントとなるのは、どのような状態の時にどのくらいの恐怖に暴露していくかという点です。このさじ加減をうまく取れるかどうかは治療の成否に大きく影響します。

そしてこの判断というのは、非常に難しいのです。

よく考えてみて下さい。

人前で発表することに恐怖を感じている社会不安障害の方が、「人前で発表することで病気を克服しよう!」と思い立ったとします。そこで、いきなり1000人もの大観衆の前で発表しようとしたらどうなるでしょうか。

不安と恐怖はより強まってしまい、「人前で発表すること」がより怖くなってしまうのではないでしょうか。

治療として「暴露」をしたはずなのに、これでは逆効果で「暴露」によって病気がより悪化しただけになってしまっています。

実際、多くの方がこのように間違った「暴露」によって病気をより悪化させています。

特に、

「人前で怖くなるなんて気合が足りないのだ」
「こんなことで恐怖を感じるようではダメだ」

と考えて、病院を受診せずに我流で治そうとする方にこれは多く見受けられる過ちです。病気に対する誤解と、「早く治したい」という焦りから負荷の選択を間違えてしまうのです。

本来、このような場合は専門家とよく相談して、

「まずはこのようなものから暴露していきましょう」
「これに慣れたら次はレベルを上げてこのようなものに暴露していきましょう」

といった専門家の指導の元、段階的に焦らずにやってくものです。

先ほどの例で言えば、いきなり1000人の前で発表しようとするのはあやまりで、まずは部屋で一人で発表の練習をしてみることくらいから始めるのが正解でしょう。それに慣れてきたら次は親や兄弟・親友など気兼ねなく接することが出来る人の前で発表してみる、といった負荷の低い事から段階的に始めていくことが大切になります。

暴露療法は有効な治療法である事に疑いの余地はありません。しかし間違った知識で行おうとしたり我流の方法に頼ってしまうと、症状をかえって悪化させるリスクのある治療法である事も同時に覚えておく必要があります。

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3.暴露を我流で行ってはいけない3つの理由

暴露療法は、「苦手なものにあえて挑戦することで慣れていく」治療法です。これだけ聞くと、特に専門的な知識もいらない簡単な治療法に感じるかもしれません。

しかしそれは非常に危険な誤解です。なぜならば先ほども説明した通り暴露療法は暴露の程度や時期を間違えてしまうと症状をかえって悪化させてしまうというリスクがあるためです。

多くの方が我流で暴露を試みて失敗し、病気をより悪化させてしまい、結果として難治性の不安障害を引き起こしてしまっています。

暴露療法は必ず経験豊富な精神科医の指導のもとで行う必要があります。ここでは暴露療法を我流で行うことが何故危険なのかを考えてみましょう。

Ⅰ.自分の不安を客観的に評価できない

暴露療法を我流で行うと失敗する理由として、不安障害の方は自分の不安を客観的に評価できないという事が挙げられます。

不安障害は「不安が病的に高まってしまっている」状態です。この状態の時に自分の不安を冷静に評価できるでしょうか。かなり難しいでしょう。

不安が異常に高まっている時に冷静でいられる人などいません。つまり自分の不安を誤って評価してしまい、その誤った評価を元に暴露を行えば当然失敗する可能性は高くなります。

Ⅱ.自分だけだと改善しているかが分かりにくい

暴露療法は「苦手なものに暴露して慣れていく」という派手さを持つ治療法であるため、一見すると劇的な効果を発揮する治療法であるかのように考えられます。

しかし実際は劇的な効果がすぐに得られる治療法ではありません。苦手なものに慣れていくのは少しずつであるため、治療もある程度の時間がかかるのが普通です。

暴露療法は少しずつ症状が改善していくのが普通なのですが、ゆっくりゆっくり克服していくと自分では良くなっているのかどうかが分かりにくいものです。

我流だと、実は少しずつ良くなっているのに、「何か月も頑張っているのに一向に良くなっている気がしない」と感じてしまい、治療をそこで諦めてしまう事があります。

これは非常にもったいないことです。

一方で精神科医などの専門家と共に治療を行えば、専門家が客観的な目・専門的な目で症状の改善を評価してくれます。場合によっては心理検査などの客観的なツールを定期的に用いて、今の不安の強さを数値化してくれることもあります。

すると、一見すると分かりにくい症状の経過が分かりやすくなり、治療のモチベーションも保つことができるようになるのです。

Ⅲ.自分だけだと焦って失敗しやすい

暴露療法は、「細かく刻めば刻むほど成功率が上がる」「時間をかければかけるほど成功率が上がる」という特徴を持った治療法です(詳しくは後述します)。

これはつまり、ゆっくり地道にやればやるほど成功しやすいという事です。

しかしこれは理屈としては分かっていても多くの方はゆっくり少しずつ行うことが出来ません。

病気で療養中の方は、誰もが「一日でも早く治りたい」と考えています。療養中は苦しいものですからこれは当然の気持ちです。

しかし「早く治りたい」という焦りが、一歩一歩確実に行わなければいけない治療を荒削りにしてしまう事があります。その結果、土台がしっかりしないまま治療をどんどん進めてしまい、暴露療法に失敗してしまう事があるのです。

一方で専門家とともに治療を行えば、焦りで暴露が荒削りになりそうになっても、専門家が第三者の視点から、適切に治療を補正してくれます。

これにより暴露療法が失敗しそうになるのを防いでくれるのです。

4.暴露療法の正しい治療手順

暴露療法は経験豊富な精神科医の指導の元で行うべき治療法だとお話しました。

ここまで理解した皆さまは、暴露療法を自分だけで行おうとしてはいけません。必ず経験豊富な精神科医とともに行うようにしましょう。

では具体的に暴露療法はどのような手順で進められるのでしょうか。

詳しい治療手順は患者さんの症状によって異なってきますが、一般的な暴露療法の手順について紹介します。

Ⅰ.不安階層表を作成する

暴露療法の第一段階は、「どのような不安に、どのような順序で暴露していくと、一番治りやすいのか」といった最適な治療の道筋を立てることから始まります。

暴露療法の治療成功率を最大限に高めるためには、この治療の道筋を立てることが非常に大切です。

治療の道筋を適切に立てるために役立つのが「不安階層表」になります。

不安階層表とは、自分が不安に感じることを不安が強い順に書き並べた表になります。

不安階層表を作るためには、今の自分が「強い不安を感じる状況」にはどんなものがあるのかを考えてみて下さい。思いつく限り全ての状況を挙げましょう。

不安を感じる状況を全て挙げることが出来たら、次は「その時の不安は10点満点中何点くらいか」を考え、これも全て書き出して下さい。

最後にこれらを点数が高い順に並べます。

例えば社会不安障害の方であれば、

【不安を感じる状況】 【不安点数】
職場の朝の朝礼 9
職場の会議 7
職場の飲み会 6
近所付き合いの食事会 5
仕事の電話応対 4
友人との食事 2

このように不安階層表を作ります(実際はもっとたくさんの状況があると思いますが、これは説明ですので簡潔に記載しています)。

暴露療法を始めるに当たって、早く暴露していこうと暴露に焦る方が少なくありませんが、暴露の前にこの不安階層表をしっかりと作り込むことを行ってください。この不安階層表の作成が何よりも大切です。

不安階層表のない暴露療法は、道筋を立てていない旅に出かけるようなものです。行き当たりばったりの旅では目的地にたどり着くことなど出来るはずがありません。

不安階層表をしっかりと作り込んで下さい。ここをいかにしっかりと・正確に作れるかで治療の成功率は大きく変わってきます。

Ⅱ.不安の小さいものから、確実に克服していく

不安階層表を作ったら、次はその不安階層表を道しるべに暴露を始めていきます。

暴露は、「不安の小さいものから」行っていく事が鉄則です。

上記の例であれば、まずは「友人との食事」から暴露していくのが正しい手順になります。

更に言うと、この「友人との食事」も更に細かく分けていきましょう。例えば、同じ友人でも「この人は一緒に居ても何だか安心できる」「この人は一緒にいるとなんだか緊張してしまう」という差があると思います。

だとすると「一緒にいて安心できる友達」と「一緒にいて緊張する友達」でそれぞれ感じる不安の強さは同じではありません。

確実にやっていくなら、「一緒にいて安心できる」人からまずは食事をしてみるのが正解です。

また食事をする時間も細かく分けられるはずです。「30分程度の食事」と「2時間の食事」では感じる不安の大きさは全然異なるでしょう。もし友人に協力してもらえるのであれば事情を説明して、まずは短時間の食事にした方が成功率は高まります。

まずは、「一緒にいて安心できる友人との30分の食事」から開始します。

いきなりもっとも不安を感じる「職場の朝の朝礼」に自分を暴露してしまうと、かなりの確率で失敗してしまうでしょう。失敗すれば大きな不安に襲われてしまい、症状はより悪化してしまいます。また失敗したことで自信を失い、これがまた不安を増悪させます。

しかし、「一緒にいて安心できる友人との30分の食事」であれば成功できる可能性は大分高くなるのではないでしょうか。

暴露療法で大切なことは小さなことから「成功させること」、そして成功を着実に積み重ねていくことです。

なぜならば成功は自信を生むからです。「これは自分は出来ることなんだ」と自分に示してあげることにより「今まで恐怖だと思っていたことは、実は自分で制御できることなのだ」と実感できます。

自信は安心を生み、それだけで不安を和らげて病気を改善させていく効果があります。

つまり成功体験をするという事は、不安を和らげることにつながり、その後に待っているより不安の高い行動の成功率も高めてくれる作用が期待できるのです。

「一緒にいて安心できる友人との30分の食事」が達成できたら、次は「一緒にいて安心できる友人との60分の食事」にチャレンジしてもいいかもしれません。あるいは「一緒にいてちょっと緊張する友人との30分の食事」にチャレンジする方がいいかもしれません。

このどちらが良いかは状況によって異なってきますので、その都度治療者とよく相談して判断していきましょう。

このように確実に成功体験を積み上げていき、負荷を少しずつ上げていくのが暴露療法の基本になります。

Ⅲ.克服できない不安は助けを借りながら克服していく

段階的に暴露療法を行っていると、どうしても乗り越えられない不安状況が出てくることがあります。

この場合はどうすればいいでしょうか。

先ほども説明したように、不安をより細かく刻むことが出来ないかをまずは考えてみましょう。

例えば先ほどの例で考えてみると、順調に不安階層表を克服してきたのだけど、「職場の会議」の段階になってどうしても不安に感じてしまい、なかなか暴露できないという事があります。

この場合、「職場の会議に参加する」という事をより細分化して、成功しやすく出来ないかを考えてみます。

例えば職場と相談し、

  • 出口に一番近い席にしてもらい、いつでも退室できるようにする
  • 隣に信頼している人に座ってもらう
  • 定期的に休憩を入れてもらう

といった状況を補助的に作ることができれば、これはただの「職場の会議への参加」よりも負荷は大分下がるでしょう。

まずはこのように補助的に負荷を下げた上で暴露をしていってもいいでしょう。

あるいは補助的にお薬などを使うという手もあります。これも治療者と相談しながらになりますが、慣れるまでは会議前に抗不安薬(安定剤)を服用するという方法をまずは取り、自信がついてきたら、その次は抗不安薬なしでの会議という段階分けをしてもいいわけです。

とにかく、時間をかけてでも着実に成功体験を積み重ね、確実に自信を増やしていくことが克服の鍵になります。

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