診察で自分の状態をうまく伝えられないんです、という方へ

つらい気持ちと日々闘っている患者さんにとって、治療をしてくれる主治医の存在は大きいものです。そして、その主治医とお話できる診察時間はとても大切なものになります。

診察を通して主治医に自分の状態をしっかりと伝える事は、治療の精度を高めるためには欠かすことはできません。特に精神科の場合、治療の対象となる「こころの症状」は本人にしか感じることが出来ないものですので、患者さん自身から正確に症状を伝えて頂くことは、他の科よりも更に重要になってきます。

しかし、ただでさえ精神的に疲れてしまっている状態の中で、冷静に正確に分かりやすく症状を主治医に伝えるのは、かんたんなことではありません。

実際、

「診察で主治医に自分の気持ちをうまく伝えられないんです」
「診察になると緊張して何を言っていいのか分からなくなってしまうんです」

という相談は非常に多く頂きます。

自分の症状をうまく伝えられなかったり、主治医が症状を誤解して受け取ってしまうようだと、これはとてももったいないことで治療にも響いてしまうことがあります。

もちろん、患者さんの症状を正しく理解するためには、私たち精神科医が患者さんの言葉に真摯に耳を傾け、時間をかけてお話を聴くことが一番大切で、疲れている患者さんにこれ以上努力させるべきではありません。

しかし、それだけではなかなかうまくいかないケースもあるのが現状です。実際の現場では、患者さん側にも症状が正確に伝わりやすい様々な工夫をして頂いており、それによって治療もより良いものとなっています。

そこで今日は患者さん側として工夫できる「診察時に自分の状態を正しく伝える方法」について考えてみたいと思います。

1.医師が思っているほど患者さんは満足に話せていない

私たち医師は、つい「患者さんの話を十分聞いている」「患者さんの言いたいことは理解できている」と判断してしまいがちです。

しかし現実は必ずしもそうではないのです。

実際に患者さんにアンケートを取ってみると、

「先生に十分に話を聞いてもらえた」
「先生に自分の状態が正しく伝わったと思えた」

と満足のいく診察を受けられている患者さんばかりではないことが分かります。

「緊張してしまって聞かれたことを答えるだけで精一杯」
「自分の状態を先生がちゃんと理解しているか不安」

という声は必ずあがります。

診察後に受付にやってきて、「診察になると緊張して先生に伝えたいことをいつも伝えられないんです…」と受付さんに相談する患者さんもいらっしゃいます。

自分の症状や気持ちは自分にしか分かりません。なのでそれを自分から伝えないと相手には正しく理解してもらえません。自分なりに一生懸命伝えようと頑張ったのに、一番正確に伝えたい主治医に伝えられなかったというのはとても残念に感じると思います。

患者さんが自分の状態をしっかりと話せるようにするためには、私たち医師がしっかりと努力すべきで、これが一番重要です。

私たちが話しやすい雰囲気や誘導を適宜行うべきなのは当然だという上で、患者さん側でできる工夫というのもいくつかありますので、今日はそれを紹介したいと思います。

ちなみにここで紹介する方法は全て私の患者さんが実際にやっていた方法です。

2.事前に紙に書いてまとめておく

少し面倒ですが一番効果があるのは、やはり事前に経過や症状を紙にまとめて書いておくという方法です。

診察時にそれを読み上げてもいいですし、主治医にそのまま手渡してもいいでしょう。

この方法の利点は主に2つあります。

1つ目は、その場で慌てて考えなくてもいいという事です。診察で先生から「最近の調子はどうでしたか?」と聞かれて、そこで慌てて考え始めると、焦ってしまい、落ち着いて話すことができなくなってしまいます。

慌てて答えるため、あとになって「大事なことを言い忘れた!」「気になっている事を質問し忘れた!」という後悔も起こりやすくなってしまいます。

しかし事前に書いておけば、それを読み返すことで一週間の経過が分かるため、慌てずに答えることができます。また書いてあることを読めば、聞きたかったことを聞き忘れるということもなくなります。

2つ目は、書く過程で自分で経過や症状を整理できるという事です。書いてまとめていくと、頭の中で漠然と考えているよりもはっきりと自分の症状が見えてきます。書く事は自分の症状を客観的に見直すことができるという効果があるのです。

書く事で自分の症状をしっかりと見つめ直すことができれば、診察時にもより正確な情報を主治医に伝えることができるでしょう。

3.伝えたいこと・聞きたいことを絞る

診察の時は、たくさんの事を聞きたいと思う方もいらっしゃいます。「次に先生に会えるのは2週間後だから、あれも聞きたいしこれも聞きたい」と。

私たちは、基本的には患者さんの悩みに答えるべきですので、たくさん質問することが全て問題だというわけではありません。

しかし中には、「あれも聞きたい」「これも聞きたい」と聞くこと自体が目的となってしまい、質問の優先順位がはっきりしていない方もいらっしゃいます。

この場合「大切な質問」と「あまり重要ではない質問」をごっちゃに質問してしまい、とりあえず全てを聞く事が目的になっているため、それぞれの回答を十分に理解し、その後の治療に生かすことができていない事が少なくありません。

治療中は不安に思う事も多いですし、専門家としての意見を聞きたいことはたくさんあるでしょう。

しかしその中でも聞きたい事に優先順位を付けてみることは重要です。

「これは絶対に聞きたい」
「これはもし時間がなかったら次回にしよう」

と伝えたい事・聞きたい事に優先順位をつけることは、時に大切なことになります。

4.おおよその話す順序を決めておく

診察中に慌てず話すためには、ある程度枠組みを決めておくことも有効です。

例えば人前で発表する時も、いきなり「何でもいいので今思うことを話してください」と言われたらパニックになってしまう人は多いでしょう。しかし、「まずは〇〇について話して、そのあと××について話してください」と枠組みをある程度指示されれば、それだけで話しやすくなるものです。

診察でも同じことが言えます。

診察は、毎回患者さんの症状によってやり方は多少異なっていますが、おおまかな枠組みというのは毎回そう劇的には変わりません。

そのため、

「まず最初は、全体的な1週間の調子を伝える」
「それから、仕事や食欲・睡眠について伝える」
「次に、特に落ち込んでしまったイベントについて伝える」
「最後に、現在の疑問点である〇〇について聞く」

とある程度自分の中で枠組みを作っておくと、「あのことを話し忘れてしまった!」という漏れが少なくなります。

ただし会話というのは一人で行うものではなく、相手あってのものです。診察も同様であり、主治医のペースもありますので、自分のペースだけで進めることはできません。そのため、事前に主治医に「自分は診察中にパニックになって、上手に現状を伝えられないから、こういう風な伝え方をしてみたい」と相談しておくとなお良いでしょう。

5.どうしても伝えたいことがある場合は別途時間を取ってもらう

どうしても治療上伝えた方がいい情報というのがあります。でもそれを伝えるのにある程度の時間がいる場合、診察時間内で伝えるのには無理があることがあります。

患者さんを多く持っている先生だと、どう頑張っても30分・1時間という時間を診察に避けないことがあります。しかし短い診察時間内で、無理矢理大切なことを伝えようとしてしまうと、その情報があやまって理解されてしまうリスクが高くなります。

例えば、「今の自分の症状の背景にはどうも幼少期のつらい体験が影響しているようだ」という場合があります。この場合、しっかりと治すためにはそのことついて一度主治医にしっかりと話さなければいけないこともあります。

しかし幼少期のつらい体験を5分で分かりやすく正確に話すなんて不可能でしょう。

その場合は、診察時間に無理して伝えようとするのではなく、「少し時間がかかるけどどうしても伝えたいことがある」というのを主治医に伝えるのも1つの手です。

その情報が治療をするに当たって重要なものである場合は、改めて時間を取ってくれる事もあります。今日の診察時間内では無理であったとしても、

「来週の午後なら予約があまり入ってないから、そこで話しましょうか」
「次回は一番最後の時間に来てくれれば、ある程度まとまった時間が取れますよ」

など、先生の都合に合わせて対応してくれることもあります。

6.どうしても話しにくい場合は先生を変えるのも手

どうしても「主治医と相性が悪い」「今の主治医には言いたい事を話せない」という事が続くようであれば、先生を変えてみるのも1つの方法です。あまりコロコロと主治医を変えてしまうのはオススメしませんが、やむを得ないこともあります。

精神科の診察において、主治医の「相性」「話しやすさ」というのはそれなりに重要です。

極端な話で言えば、男性恐怖が強い患者さんであれば、主治医は最初は女性の医師の方が望ましいでしょう。無理して男性の先生の診察を受け続けると、診察自体が大きなストレスになってしまうこともあります。