デパス服薬中の酒・アルコールは良いのか【医師が教える抗不安薬の全て】

デパスを服薬中、酒・アルコールなどは飲んでも大丈夫なのでしょうか。服薬治療中でもお酒を飲みたい方は少なくないようで、よく患者さんからこのような質問を頂きます。

結論から言ってしまうと

「抗不安薬の服用中は、極力飲酒すべきでない」

が答えになります。デパスも抗不安薬の1つですから、服薬中はできる限り酒・アルコールを飲まないようにすべきです。

デパスの内服中はなぜ酒・アルコールを飲んではいけないのか、また飲んだらどうなってしまうのか。酒・アルコールを我慢するためにどんな工夫があるのか。

今日はそんなお話をします。

1.デパスと酒・アルコールの併用はなぜダメなのか

デパスの添付文書を見てみましょう。酒・アルコールとの併用についてはこのように記載があります。

【アルコール(飲酒)】

臨床症状・措置方法 : 精神機能,知覚・運動機能の低下を起こすおそれがある。
機序・危険因子  :エタノールと本剤(デパス)は相加的な中枢抑制作用を示すことが考えられる。

デパスとアルコールを併用することは「禁忌(=絶対にダメ)」とまではなっていませんが、「併用注意」という扱いになっています。その理由は、お互いに中枢神経の働きを抑えるはたらきがあるため、両方を一緒に服薬するとその作用が相加され、眠気や注意力低下、判断力低下などが起きやすくなるためです。

デパスは抗不安薬に属し、不安を和らげるはたらきを持つ他、催眠作用(眠くする作用)や筋弛緩作用(筋肉の緊張を緩める作用)を持ちます。また、アルコールも鎮静作用を有し、眠気を引き起こしたり、ふらつき・歩行困難などを生じさせることは成人の方であれば経験からご存じでしょう。

どちらも、似たような作用を持っている一面があり、そのため抗不安薬とアルコールを併用すると、これらの作用が強く出てしまう可能性が高くなるのです。具体的には、脳を過剰に眠らせてしまったり、ふらつきや転倒の原因となったり、集中力低下・注意力低下の原因になったりします。眠気強くなったり、注意力・集中力低下が著しくなり過ぎれば、日常生活に大きな支障をきたすのは想像に難くありません。

また、抗不安薬とアルコールの併用で生じる問題はこれだけではありません。抗不安薬とアルコールを併用を続けていると、長期的にも大きな問題を引き起こすこととなります。

それは「耐性形成」「依存性形成」と呼ばれるものです。抗不安薬もアルコールも、どちらも耐性や依存性を持つ物質です。

耐性とは、ある物質を摂取し続けると次第に身体が慣れてきて、効かなくなってくる事です。アルコールは耐性形成を持っており、飲酒を続けているとだんだん少しの量では酔えなくなり、飲酒量がどんどん増えていくのはみなさんもご存じだと思います。抗不安薬もアルコールと同様に耐性形成を起こす物質です。

依存性とは、ある物質を摂取し続けていると次第にその物質なしではいられなくなる現象です。アルコールを大量に長期間摂取していると、次第にアルコールを常に求めるようになってしまいます。我が国のアルコール依存症患者は80万人、アルコール依存症予備軍は440万人と言われており、アルコール依存は社会的にも大きな問題となっています。そして抗不安薬も、アルコールと同様に依存性があります。

抗不安薬は、医師の指示のもとで用法を守って使用していれば、そこまで依存が問題となることはありません。同様にアルコールも節度を持った飲酒をしていれば、依存症になることは極めてまれです。しかし、抗不安薬とアルコールを併用してしまうと、お互いの作用が強まり合い、より急速に耐性や依存性が形成されてしまう危険があります。

アルコールと抗不安薬は交叉耐性を持っていることが指摘されています。これは片方の物質で依存が形成されると、もう一方の物質でも依存形成がされてしまうというものです。相互に作用する事でお互いの血中濃度に影響を与えてしまい、実際より多くの量を摂取したのと同じ状態にしてしまうため、急速な耐性・依存形成が起こるのです。つまり、抗不安薬とアルコールを一緒に飲んでいると、アルコール依存や薬物依存になりやすくなるということです。

また、抗不安薬とアルコールがお互いの血中濃度を不安定にしてしまうという事は、抗不安薬を処方した医師が薬の効果を予測できなくなってしまう、という事でもあります。例えば、「この患者さんには、これくらい効く抗不安薬がちょうどいいはず」と医師が考えて、適切な抗不安薬を処方したのに、アルコールを併用してしまうと効果や作用時間が不安定になってしまい、予測した効果が得られなくなってしまいます。

これが治療に支障を来たすのは明らかでしょう。抗不安薬とアルコールを併用していると、お薬の効きを不安定にし、その結果として病気が治りにくくなり、治療により時間がかかるようになるのです。

抗不安薬と酒・アルコールを併用すると、互いの血中濃度を不安定にしてしまうすると、脳を過剰に鎮静させてしまったり、強い眠気・注意力低下の原因となる。長期的に見れば耐性・依存性がより急速に形成される事となり、アルコール依存・薬物依存になりやすくなる。また、効きが不安定になるため治療にも支障をきたし、疾患も治りにくくなる

という事です。

抗不安薬やアルコールの依存は、社会的にも大きな問題となっています。アルコールと抗不安薬を摂取するという事は、自らの手で自分を依存症にしてしまう行為なのです。これは極力避けるべきです。

2.デパスと酒・アルコールの併用実例

このように、抗不安薬とアルコールを併用するデメリットは大きいため、極力併用すべきではありません。私たちも「一緒には飲まないように!」といつも患者さんに指導しています。

しかし困ったことに、こっそりアルコールを摂取してしまう患者さんは後を絶ちません。

元々お酒が大好きで、どうしても我慢できなかったという人から、仕事の接待でどうしても飲まざるを得なかったという人まで理由は様々ですが、併用してしまうケースは少なくないのが現状です。

では抗不安薬とお酒を一緒に飲んでしまうと、実際どうなってしまうのでしょうか。

短期的な害でいうとお酒や抗不安薬の血中濃度が不安定になるため、変な効き方をしたり、効果が残りやすくなったりします。その結果、普通量のお酒を飲んだだけなのに二日酔いになったり、寝坊・遅刻してしまったり、普通量の抗不安薬の内服で、強い眠気や集中力低下が生じたりします。

長期的に見ると、耐性や依存性が形成されやすくなります。耐性が形成されると、効きが悪くなるため、抗不安薬やアルコールの量は更に増えていき、悪循環に入りやすくなります。

それでも併用を続けていると、次第にどの抗不安薬も効かなってしまう可能性もあります。効くお薬がなくなってしまうと、打つ手が無くなってしまい患者さんは非常に苦しむことになります。

一度、依存状態になると、そこから抜け出すのは非常に困難です。アルコール依存症、覚せい剤依存症などの人が、何度も同じ過ちを繰り返してしまうのはみなさんもニュースなどでご存じだと思います。それほど、依存状態から抜け出すのは難しいのです。依存状態になると、人生の大部分を棒に振ってしまいます。依存状態になる事は絶対に避けなければいけません。

そのためには、絶対に抗不安薬とアルコールを併用しない事です。

3.どうしても酒・アルコールを飲みたくなったら

抗不安薬の服用中にお酒を飲んではいけないことは分かった。

でも、どうしても飲みたい・・・
あるいは、職場で飲まなきゃいけない状況にある・・・

こんな場合、どう対処したらいいでしょうか?

対処法を考えてみましょう。

Ⅰ.我慢しよう

極めて当たり前の工夫になりますが、やはり「我慢」が基本です。お酒を我慢することで病気は早く治ります。

あなたの病気が治ることで喜んでくれる人がたくさんいるはずです。応援してくれる人たちのためにも、何よりも自分の将来のためにも、早く治したいですよね。この気持ちを忘れないでください。

お酒を飲みたくなった時は、「今お酒を我慢すれば、より早く治るんだ」「より早く治れば、みんなも喜んでくれるんだ」ということを思い出しましょう。

お酒を飲むということは、自分の手で病気の治りを遅らせているということです。お酒を我慢するという事は、お薬の効きを安定させ、治療経過を良くするという立派な治療行為のひとつなのです。

頑張って我慢しましょう!

Ⅱ.抗酒剤を使う

あまり知られていないのですが、抗酒剤というものがあります。これは、「お酒を飲めなくするお薬」です。アルコール依存症の治療に使われるお薬ですが、どうしても飲酒したくなってしまう方は、主治医と相談してこういったお薬を併用してみるのも方法の1つです。

抗酒剤にもいくつか種類があるので紹介します。

①.ジスルフィラム(ノックビン)、シアナミド(シアナマイド)

昔から使用されている抗酒剤です。

ノックビンやシアナマイドを飲んでからお酒を飲むと、少量の飲酒で顔面紅潮、血圧低下、心悸亢進、呼吸困難、頭痛、悪心、嘔吐、めまいなどの不快症状が生じるようになります。

これらのお薬はアルコールを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素を阻害することで、アルコールを分解しにくくし、少量のアルコールで体がまいってしまうようにするのです。懲罰的な方法ですが、飲酒する自分を自制したいんだけど、つい欲求に負けてしまう、という人には効果があります。

これらの薬を服用してしまえば、お酒を少し飲んだだけで不快症状が出現しますから、実質、お酒を飲めなくなります。

なお、これらのお薬とお酒は絶対に併用しないでください。危険です。たまに「一緒に飲むとどうなるのかな?」と試そうとする方がいるのですが、絶対にやめましょう。

②.アカンプロサート(レグテクト)

中枢神経のNMDA受容体を阻害したり、GABA-A受容体を刺激することで「飲酒欲求を抑える」と言われているお薬です。ノックビンやシアナマイドのように懲罰的に飲めなくするのではなく、「飲酒したい気持ちが少なくなる」というものです。

まだ発売されてから浅いため、データの蓄積が少ないお薬ですが、効果はあまり強くはないようです。「あともうひと押しがあれば、お酒を我慢できるんだけど・・・」といった方にはいい適応かもしれません。

Ⅲ.ドクターストップだと言う

お酒の席などで飲酒を勧められた時は、「医師から飲酒を止められている」と言ってしまいましょう。病名などは言いずらいかもしれませんが、医者のせいにすることであなたが責められる可能性を少なくできます。

残念なことに、お酒を飲まないというだけで「付き合いが悪いやつだ」と悪く評価する人は未だにいたりします。そんな時は、自分のせいではなく医者のせいで飲めないんだと責任を医師になすりつけちゃって構いません。

「次、お酒を飲んだら出勤停止です、って医師から脅されてるんです」「そうなったら誰がお酒を勧めてきたのか、産業医に報告しなきゃいけないんです」くらい言っちゃっても、私が主治医なら全然許可するでしょう。そして、ここまで言えば、たいていの人は無理には勧めてこないでしょう。

無理に飲ませられたら、あなたはその人のせいで出勤停止になります。お酒を無理矢理勧めた人は「治療を故意に妨害した」ことになり、会社や産業医からの警告や処罰を受ける可能性があります。

会社の産業医体制がしっかりしているのであれば、産業医にも事前に相談しておくと、より安心です。

Ⅳ.周囲の協力にしてもらう

飲酒を我慢するのは、自分の意志との戦いになります。でも、人間一人の意志というのは弱いものです。自分の意志だけで折れそうな時は、周囲にも協力してもらいましょう。

周囲の協力って、とても大きいですよ。

家族や恋人、友人などに「治療が終わるまで飲酒はしない!」と宣言して応援してもらえば、一人で頑張るよりもずっと成功する確率は高くなります。

Ⅴ.どうしても、という時は抗不安薬を飲まない事

どうしてもやむを得ない事情があってお酒を飲まなくてはいけない事もあるかもしれません。その際は、アルコールを摂取する前後には抗不安薬は内服しないでください。

その分、不安感が強くなるかもしれませんが、仕方ありません。お酒を飲むのであれば、その代わりその日の不安は悪化する事は了承した上で飲酒しましょう。

不安が増悪すれば、病気の治りがその分遅れてしまう可能性もありますが、それも覚悟の上で飲酒してください。仕方がありません。そうすれば、短期的にはつらいかもしれませんが、耐性や依存性形成、翌朝の倦怠感や過鎮静などのリスクは低くすることができます。