緊急措置入院とはどのような入院形態なのか

病気を治療する方法は大きく分けて「通院」による治療と「入院」による治療があります。

通院治療は外来に定期的に通いながらお薬などを処方してもらい治療をしていきます。一方で入院治療は病院内で数日~数週間(場合によっては数か月)ほど治療をしながら生活し、通院よりも密な治療が行われます。

一般的には通院治療は主に軽症例に行われる治療法で、入院治療は主に重症例に行われる治療法になります。

精神疾患においても同様で、通院治療でなかなか改善しなかったり、日常生活に支障をきたすほど重い精神症状を認める場合には、主治医から入院治療を提案される事があります。

しかし精神科の入院治療は他の科の入院治療とは異なった形態があります。

もちろん他の科と同じように行われる入院治療が基本なのですが、一方で他の科にはない特殊な入院形態があるのです。その1つが「緊急措置入院」です。

緊急措置入院のような特殊な入院形態は、本人が入院治療を拒否したとしても、人権を超えて強制的に入院させる事が出来てしまう入院制度の1つです。

患者さんを無理矢理入院させるわけですので、この入院を発動する際は極めて慎重な判断が求められ、安易に発動していい入院形態ではありません。

では緊急措置入院はどのような時に発動され、どのような人が対象となるのでしょうか。また同じような入院形態である「措置入院」とは何が違うのでしょうか。人権を超えた入院形態がなぜ必要で、無理矢理入院させられた患者さんは、異議・不服を申し立てる事は出来ないのでしょうか。

ここでは緊急措置入院という制度について詳しく説明させていただきます。

1.緊急措置入院が必要な理由とその概要

まずは緊急措置入院という特殊な入院形態の全体像を簡単に説明します。

緊急措置入院とは、

  • 自傷行為(自分を傷付ける行為)や他害行為(他者に危害を加える行為)を起こす可能性が高い精神疾患患者さんであり、
  • 本人が入院を拒否していて任意入院を行える状態ではない
  • 措置入院させるために必要な指定医の数が一時的に確保できないけども、入院させる必要性が高い

という入院です。

本来であれば「措置入院」の対象患者さんなんだけど、措置入院を発動するために必要な条件である「精神保健指定医2名の診察」が行えない場合に、一時的に発動できる入院形態になります。

自傷他害の恐れが高い患者さんをそのまま病院から帰してしまうと、患者さんが自分自身を傷付けてしまう(自傷行為や自殺行動など)リスクがある他、全く無関係の他者に危害を加えてしまうリスクもあります。本人と周囲の人々の事を考えた際にこれでは困るため、このような場合には「措置入院」という強制入院が発動されます。

しかし措置入院は患者さんが入院を拒否しているのに無理矢理入院させてしまう、人権を侵害する入院形態ですので、その発動には厳格な基準が設けられています。

その基準の1つに、「精神保健指定医」という資格を持った精神科医が2名、それぞれ「この患者さんは措置入院が必要である」と診断しなくてはいけない、という事が挙げられます。1人の医師の診断では不十分で、必ず2人の精神保健指定医が必要です。

しかし医師不足の地域であったり、夜間の人手が足りない時間帯だと、すぐに2人の精神保健指定医を確保できない事もあります。

本当は措置入院の必要があるのに、精神保健指定医がその場に2名いなかったがために、「指定医が1人しかいないから措置入院に出来ません」と帰宅させてしまうのはあまりに危険ですし、医療的にも正しい判断とは言えません。

そのため、このような場合に一時的に1人の精神保健指定医の診断のみで措置入院を発動する事ができるようにしたのが緊急措置入院です。

緊急措置入院は、止むを得ない場合に限り発動される一時的な措置入院ですので、有効時間に制限が設けられており、発動してから72時間までしか有効となりません。

つまり緊急措置入院となったら、72時間以内にもう1人の精神保健指定医を探し診察をしてもらい、措置入院に移行させなければいけないのです(これが出来なかった場合は緊急措置入院は解除となります)。

ちなみに精神科では、なぜこのような措置入院や緊急措置入院といった強制入院が必要なのでしょうか。

緊急措置入院の必要性を理解するために、まずは緊急措置入院の適応となる精神疾患患者さんの例を1つ挙げてみましょう。

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Aさんは20年前に統合失調症を発症し、以降は定期的に精神科に通院するようになりました。Aさんは今まで度々お薬の服用を自己判断でやめてしまい、症状増悪し入院となった既往が何度もあります。

そんなAさんですが、ここのところ仕事が忙しく、またお薬を飲み忘れる日が増えてきました。妻と子供はAさんが以前にお薬を飲まなくなってから病状が悪化して入院となったのを何度も間近で見ているため、「また再発したら困るからちゃんとお薬を飲んで!」と強くAさんに言い続けました。Aさんも「分かってるって」と答えてはいたのですが、飲み忘れの頻度は徐々に増えているようでした。

ある日、Aさんは「お薬を飲まなくなってから調子がいい」「むしろお薬があるせいで今まで体調が悪かったんだと分かった」と言い出し、それ以降は一切お薬を飲まなくなりました。

妻と子供が必死にお薬を飲むよう説得しますが、今までと様子が異なりAさんは全く聞く耳を持ちません。それどころが段々と言動はおかしくなっていき、「会社の上司のBは、実は私の事を狙っているスパイだと分かった」と言い出し仕事も休むようになってしまいました。

「スパイから身を隠すため」と言って自分の部屋に閉じこもり、一人でブツブツと何かをつぶやき、不敵な笑みを浮かべる事も多くなりました。

更に妻や子供に対しても、「家の外には一切出るな!いつBが狙ってくるか分からないんだぞ!」と家の中に軟禁するようになりました。子供が学校に行こうとしてもそれすらも認めてくれません。

困った妻はAさんの兄に電話で助けを求めました。事情を聴いたAさんの兄は、仕事が終わってからすぐにAさんの自宅に向かいました。何とか説得しようとしましたが、やはりAさんは聞く耳を持ちません。しまいには「お前は偽物の兄だろう!」と兄に殴りかかろうとしました。

危険を感じたAさんの兄は、すぐに警察に相談しました。事情を聴いた警察はすぐにAさんの自宅に向かいましたが、Aさんは警察に対しても同じように「お前らもBの仲間か!」と興奮して殴りかかろうとします。

Aさんに統合失調症の持病があると知った警察官は「Aさんは措置診察の必要がある」と判断し、24条通報にてAさんを精神科病院に搬送しました。

精神科病院で精神保健指定医が診察したところ、入院治療が必要な状態であったため、Aさんに入院を提案しましたが、Aさんは興奮して全く受け入れません。

医師が治療の必要性を説得しても、

「この病院もBにばれている。すぐに自宅に戻らなくては」
「お前らはBとグルだろう」

と全く聞く耳を持ってくれません。

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Aさんは、統合失調症の幻覚妄想状態を発症していると考えられます。統合失調症の急性期では陽性症状と呼ばれる派手な症状が認められます。

【陽性症状】
(具体的な症状)幻覚・妄想など

統合失調症の特徴的な症状群の1つで「本来はないものがあるように感じる」症状の総称。「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」妄想などある。

Aさんには「Bさんがスパイで自分を狙っている」という被害妄想が認められています。

そしてただ妄想を認めるだけでなく、妄想に基づいて仕事を休んでしまったりという行動が認められ、これは本人の将来に大きな不利益をきたす可能性があります。

更に家族を軟禁するという行為も認めており、これは「他害行為(他者に危害を加える行為)」に該当しますし、兄や警官を殴ろうとした事も「他害行為の恐れが高い」と判断する事が出来ます。

このケースでAさんは入院を拒否していますが、「本人が入院しないと言ってるんだから、本人の希望を尊重してこのまま様子を見ましょう」とAさんを自宅に帰してしまう事は本当に正しいのでしょうか。

確かにAさんには人権があり、入院するかしないかを自分で決める権利があります。そのため基本的には本人の希望を尊重すべきなのですが、このように自分の状態を正しく認識できなくなるような症状が発症している場合、本人の希望を尊重してしまうと、本人や周囲の将来がめちゃくちゃになってしまいます。

帰宅すればまた妻や子供を軟禁する可能性が高く、他害行為も続くでしょう。

このような場合、自傷他害の恐れがなくなるまでの期間のみ本人の人権を超えて強制的に入院してもらう事で適切な治療を施し、本人や他者の将来を守る必要があります。

これを措置入院と呼びます。

措置入院のような特殊な入院形態は、患者さんの人権を侵害する可能性のある行為であるため、誰でも出来るものではありません。精神科医の中でも「精神保健指定医」という国家資格を持った医師のみが行える入院形態になります。

更に措置入院は人権の侵害度が高い入院形態であるため、万が一にも悪用されないよう、精神保健指定医2名の診察が必要で、2人の精神保健指定医がそれぞれ「緊急措置入院が必要である」と判断した場合にのみ発動します。

しかしもし、この精神科病院が医師不足の地域にある病院で、その時間は精神保健指定医が1人しかいなかったとしたらどうでしょうか。

「精神保健指定医が1人しかいないから措置入院は無理なので、帰宅していいですよ」とする事が患者さんやその周囲の人々のためにはならない事は明らかです。

このような場合、一時的に1名の精神保健指定医の判断のみで措置入院させる事ができるのが緊急措置入院です。

緊急措置入院は応急処置的なものですので、その有効時間は有限で72時間しかありません。つまり72時間以内にもう1人の精神保健指定医に診察をしてもらい、1人目の精神保健指定医と同じように「Aさんは措置入院が必要である」という診断が必要となるのです。

2名の精神保健指定医の診断が得られれば、緊急措置入院から措置入院に切り替わります。

2.緊急措置入院とその他の特殊な入院

精神科における特殊な入院形態がなぜ必要なのかを理解していただけたでしょうか。

患者さんに「病識」がなく、本人の希望に沿ってしまうと患者さんや他者の将来に大きな不利益があると考えられる場合、このような入院形態が検討されます。

緊急措置入院以外にも特殊な入院形態はいくつかありますが、その中で緊急措置入院というのはどういった入院形態になるのでしょうか。

特殊な入院形態には、

  • 応急入院
  • 医療保護入院
  • 措置入院
  • 緊急措置入院

の4種類があります。これらは下に行くほど重症度が高くなります。

緊急措置入院を理解するにはこの4つの中での緊急措置入院の位置づけを知ると理解しやすくなります。

まず入院を検討する際は、原則として「任意入院」を試みる必要があります。任意入院とは普通の入院の事で、内科などでも一般的に行われている入院形態です。

医師が「あなたは今このような状態で、このような危険がありますので入院の必要があります」と患者さんに説明をして、患者さんがそれに同意する事で成立するのが任意入院です。

どのような患者さんでも、まずは任意入院に応じてくれるかを必ず確認しなければいけません。これをせずにいきなり措置入院や医療保護入院を行なう事は認められません。

患者さんが精神症状などによって病識が欠如してしまい、任意入院が行われる状態にない。しかし入院治療をしないと本人の将来や周囲に大きな不利益がある可能性が高いと考えられる時、医療保護入院や措置入院などが検討されるのです。

この4つの入院形態のうち、応急入院と医療保護入院が同じような重症度に用いるものであり、緊急措置入院と措置入院が同じような重症度に用いるものになります。

応急入院と医療保護入院は基本的には同じような入院形態なのですが、応急入院は「一時的な医療保護入院」になります。同様に緊急措置入院と措置入院も同じような入院形態であり、緊急措置入院は「一時的な措置入院」になります。

これら特殊な入院形態は、人権を侵害するものであるため、発動させるためには細かい条件があります。緊急時はその条件が全て満たせない事がありますが、それでも入院が必要だという場合に一時的に条件が足りなくても入院させる事が出来るのが応急入院と緊急措置入院なのです。

Ⅰ.応急入院と医療保護入院

応急入院と医療保護入院は、患者さんが精神疾患による症状を発病していて、任意入院を行える状態でなく、「医療と保護のために入院が必要である」と1名の精神保健指定医が判断した場合に適応されます。

医療と保護のためというのは、「医療行為(治療)を患者さんに施す必要がある」かつ「患者さんのためと患者さんの周囲のために患者さんを保護する必要がある」という事です。

患者さんは入院を拒否しているが、入院しない事によって本人の将来がめちゃくちゃになる可能性が高いという場合は、医療と保護のために入院が必要であると考える事が出来ます。

医療保護入院は本人の同意が得られない時に発動する入院ですが、本人のかわりに家族等(配偶者、親権行使者、扶養義務者、後見人または保佐人のいずれか)に同意をもらわないといけません。家族等が全くいない方に対しては家族の代わりに居住地の市町村長に同意をもらう必要があります。

しかし医療保護入院の適応ではあるんだけど、家族等にすぐに連絡が取れない事もあります。この場合「家族と連絡がつかない」という理由で入院させずに帰してしまうと、患者さんに大きな不利益が生じる可能性があります。

このような時に一時的に家族等に連絡がつかなくても医療保護入院と同じ形態で入院させるための制度が「応急入院」です。

ただし応急入院はあくまでも「一時しのぎの医療保護入院」ですので、その効力は72時間しかありません。つまり応急入院としたら72時間以内に家族と何とか連絡を取り、同意をもらわないといけません。もし72時間以内にもらえなかった場合は効力を失い、患者さんは本人の意志で退院できるようになります。

Ⅱ.緊急措置入院と措置入院

緊急措置入院と措置入院は、患者さんが精神疾患による症状を発病していて「自傷他害の恐れがある」と2名の精神保健指定医が判断した場合に適応されます。

幻覚や妄想などの精神症状によって、自分を傷付けてしまったり、周囲の人を傷つける可能性が高いと判断される場合に適応となります。

例えば「自分は悪の組織に狙われている」という被害妄想にとらわれて、ずっと自室に引きこもっている患者さんが、「こんな隠れてばかりの生活が続くなら死んだほうがましだ」と自傷行動をしてしまったり、全く無関係の通行人を「お前も悪の組織の一員だろう」と攻撃したりしてしまったら、これは本人の将来に不利益があるだけでなく、全く関係のない第三者にも不利益が生じます。

この場合、本人が入院を拒んでいるからといって入院させなければ本人のみならず周囲の人間にも大きな害が生じる可能性があります。たとえ家族が「入院させなくてもいいです」と言ったとしても、そのまま帰してしまえば無関係な第三者に危険が及ぶ可能性があるでしょう。

このような場合は本人・家族の同意がなくても強制的に入院してもらう「措置入院」「緊急措置入院」が検討されます。

措置入院は「都道府県知事」の権限において入院させる形態になり、本人の同意や家族の同意も必要ありません。ただし人権を大きく侵害する行為であるため精神保健指定医2人が共に、「措置入院が必要である」と判断しないと発動はされません。

しかし病院によっては常に精神保健指定医が2人いるわけではありません。特に医師不足の地域などでは緊急時には精神保健指定医が1人しか確保できない事もあります。精神保健指定医が1人しかいないから措置入院の必要がある患者さんだけど帰そう、というのはあまりにも危険です。

このような場合に使えるのが緊急措置入院です。緊急措置入院は、2人の精神保健指定医が確保できない場合に、一時的に1人の精神保健指定医の判断にて措置入院と同等の入院を発動する事ができる入院です。

ただしその効力は72時間しかありません。引き続き措置入院の必要性がある場合は72時間以内にもう1人の精神保健指定医が診察し、1人目と同様に「措置入院の必要がある」と判断する必要があります。

3.緊急措置入院はいつまで有効なの?

緊急措置入院は患者さんの人権を強く拘束する入院形態になります。

そのため出来る限り使うべきものではなく、その使用は出来る限り短期間に留めるべきになります。

では緊急措置入院で入院中の方はいつまで人権を拘束されなければいけないのでしょうか。

緊急措置入院の効力は72時間以内になります。では「72時間経ったら自由になれるのか」というとそういう事ではありません。

緊急措置入院は「72時間で退院できる入院」ではなく「72時間以内にもう1名の精神保健指定医に診察してもらい、措置入院に移行しなくてはいけない入院」ですので、条件が整い次第、措置入院に変更されます。

また滅多にない事ですが、1人目の精神保健指定医が「措置入院が必要である」と判断したものの、それが正しくなく、2人目の精神保健指定医が「措置入院は必要ない」と判断すれば、措置入院に移行できませんので、72時間後には緊急措置入院は無効となります。

緊急措置入院から措置入院に移行した場合は、措置入院の基準からはずれる状態になれば措置入院の解除となります。

措置入院は、精神疾患の患者さんが「自傷他害の恐れが高い」が、入院治療を拒否している時に発動される入院です。

逆に言えば、このような状態を脱すれば措置入院は速やかに解除されるべきであり、医療保護入院や任意入院、あるいは退院に切り替えないといけません。

例えば患者さんに病識が生まれ、「自分は治療する必要があると思うから、入院を継続したい」と考えるようになれば措置入院を解除し、任意入院に切り替えなくてはいけません。

また病識はなく、本人を保護する必要はあるけども、自傷他害行為が消失したという場合は、医療保護入院に速やかに切り替える必要があります。

措置入院は人権を超えた入院であるため、その期間は必要最小限である必要があり、必要以上に長期化させる事は許されません。措置入院の基準を脱したら速やかに解除する必要があるのです。

4.緊急措置入院に納得いかなくても従うしかないの?

緊急措置入院は人権を拘束する入院形態であるため、悪用される心配がゼロではありません。

例えば悪い精神保健指定医が、自分にとって邪魔な人間を精神疾患患者に仕立て上げ、「お前は緊急措置入院が必要だ」と診断してしまえば、無理矢理入院させる事も出来てしまいますよね。

このような事が起こらないよう、緊急措置入院をはじめとした特殊な入院は、悪用できないような仕組みも整備されています。

緊急措置入院は一時的に人権を超える入院形態ではありますが、これは患者さんの人権が無くなるという事ではありません。

病気の症状に支配されているという状況であっても患者さんに人権はあり、「この入院は不当だ」と処遇の改善や退院を請求する権利は当然あります。

まず、患者さんが「自分は緊急措置入院の対象ではない。この入院は不当だ」と不満がある場合、各都道府県に設置されている精神医療審査会に「処遇改善請求」「退院請求」を行う事が出来ます。

この「処遇改善請求」「退院請求」は外出や電話などを制限されている患者さんであっても、決して制限されない権利であり、精神医療審査会への連絡先は病室内の目立つところに必ず張り出されている必要があります。

もし強制的な入院に納得がいかない場合は精神医療審査会に連絡し、「処遇改善請求」「退院請求」を伝えてください。

患者さんからの「処遇改善請求」「退院請求」を受け取ると、精神医療審査会の委員は本人や主治医・病院に調査に入ります。この精神医療審査会の委員は病院とは全く関係のない第三者機関であり、病院とグルになっているという事はありません。

審査には1カ月ほど要します。審査の結果「今の入院形態は妥当である」と判断されれば残念ながら基準を脱するまで今の状態が継続になりますが、「今の入院形態は不当である」と判断されれば、都道府県知事から病院に処遇の改善が指示されます。

またこれ以外にも措置入院が不当に長期化していないかをチェックする目的で、入院後3か月経った時点で定期病状報告をしなくてはいけません。これは「この患者さんはこのような症状があるためまだ措置入院の継続が必要です」と措置入院が続いている根拠を提出するもので、措置入院継続の正当な根拠がなければ継続は認められません。

定期病状報告は、その後も6か月毎に提出する必要があります。

このような様々な工夫により、強制的な入院でありながらも患者さんが不当に扱われないよう配慮されています。

私自身、いくつかの精神科病院を勤務してきた実感として、この制度はおおむね良好に機能していると感じます。

これらの入院を発動させる時、患者さんが入院したくないと言っているのに無理矢理病室に連れていくわけですから、私たち精神科医も心が痛まないわけではありません。

しかし精神疾患を治療するプロフェッショナルとして、患者さんの将来を守るため、社会の安全を確保するため、やむを得ず行っている行為なのです。

自分の希望に反して入院させられてしまうと患者さんはお怒りになるのも当然ですし、不満を感じるのも当然だとは思います。

病識を取り戻してからでも構いませんので、「あの時は分からなかったけど、先生は自分の将来を守るために入院させてくれたたんだな」と理解してもらえると、私たち精神科医も救われます。